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第29話 今日の天気は、晴れ時々……

 


 いまや静寂に支配された街中を、私たちはスーパー目指して進んでいく。


 そんな道中、ふと、ゾンビの唸り声以外の音が聞こえたと思ってそちらを見上げたら、電線の上にカラスが止まっていた。そこからさらに視線を下に移すと、そこにあったのはゴミ捨て場。

 ——ああ、だからカラスが集まってるのか。

 カラスって、なんかやたら集まってる時あるよね。あれってなんなんだろう。電線にビッチリと大量のカラスが止まっているのを見ると、なんとなく不吉な気分になってしまうような気がする。

 このカラスたちも、なんか不吉の前触れとかじゃないといいけど。スーパーに行っても間に合わなかったとか、そういう……。


 ——不吉な考えはやめましょう。……行けば分かるわ。


 そうだね。行けば分かる。それまでに色々考えてもムダか。


 そろそろ、カラスのゾーンに差し掛かってきた。

 あー、こいつらフンとか落とさないよねー? あ、今の私なら、あのバリアで防げるか? そう考えると、マジ便利だなバリア。

 なんて考えてカラスの方を見上げていたら——そのうちの一匹が、電線から飛び立つと急降下して襲ってきた。


 はっ!?


 とっさに抜刀——そのまま迫るカラスを打ち返すように振り抜く。

 (かたな)は外れることなくカラスに命中。しかし、その(やいば)はカラスを打ち返すことなく、突っ込んできた勢いのまま、その胴体を真っ二つに切り裂いた。


 あ、スタンモードしてなかった。


 切り飛ばしたカラスの肉片やら血やらが降りかかってくるが、それらはバリアの前に弾かれて、私に当たることはなかった。

 突然のカラスの襲撃に呆然とする間もなく、上からは新たなカラスたちが次々と襲いかかってきていた。


 ウソッ!? ってヤバい!


「二人とも、伏せてっ!」


 私は短く警告を発する。

 後ろの二人を確認する余裕は無い。電線に止まっていた大量のカラスが、一斉にこちらに降下してくる。

 私はとっさに左手で鞘を抜く。そして、右手に刀、左手に鞘の二刀流で、飛んでくるカラスたち相手に、両手をやたらめったら振り回して迎撃する。


 うおりぁああああああ!! 鬼神乱舞じゃあああああああ!!!


 スタミナの使用は全開、とにかく腕の速度を速く動かすことに注力。減りゆくスタミナは、まさにモンハンの双剣の乱舞が(ごと)し。

 カラス共は弱い。弾くのに力は要らない。——ただし多い。数が多すぎる。

 私は飛んでくるカラスの動きを見極めながら、出来る限り効率的にカラスを弾くように軌道を描いて、両手を振る。振る。振りまくる——

 右手の刀に当たったカラスが刻まれる。左手の鞘に当たったカラスの骨が砕け、弾け飛ぶ。


 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッオッッラァァァッッ!!!!


 それは時間にして、一分にも()たない攻防だった。

 カラスたちは一斉に襲いかかってきて——そして、一斉に散っていった。

 私はすべてのカラスを撃ち落とした。撃ち漏らしの攻撃を多少食らっていたが、HPのバリアによって無傷だった。HP自体も、ほとんど減っていない。

 打ち落とされ、地面に散らばる大量のカラスたちを見て、私は独り()ちる。


 ふっ、やれやれだぜ……。


 まったく、“「世界(ザ・ワールド)」”までは必要なかったね。

 さて、後ろの二人は大丈夫かな。


 私は振り返って、後ろの二人を確認する。

 するとそこには、地面にしゃがむように丸まった状態で、カラスたちにやたらに(つつ)かれている二人の姿が……!

 すぐに私は二人の元へ駆けつけ、二人を突っつきまくっているカラス共をソッコーで蹴散らした。


「ちょっ、二人とも、大丈夫!?」


 すべてのカラスを打ちのめして、私は二人に声をかける。


「と、鳥は、もう居ないのか……?」

「あ、うん。蹴散らしたよ。もう起きても大丈夫だから」


 すると二人は、恐る恐る起き上がった。


「怪我は無い?」

「あ、ああ。大丈夫みたい。バリアのおかげかな」

「私も……散々(つつ)かれたんですが、怪我は無いみたいです。あのシールのおかげですね」

「いや、ごめん。全部のカラスは防げなかった」


 そこで二人は、周囲に散らばるカラス達を見て——その数に驚いた表情を見せる。


「うわー、なんだこの数は……これ全部防ぐのは無理でしょー。つーか、アンタの方めっちゃいるじゃん。全部倒したんか。そっちこそ大丈夫?」

「うん、私は平気。コイツら、耐久力はてんで(たい)したことなかったから」

「それにしても、一体どうして、カラスが突然襲ってきたのでしょう……」


 それだよね。まさかカラスまで襲ってくるとは。これも、ゾンビの一種なのかね?


 ——その可能性は高そうね。見てよ、あれ。


 そうして見るのは、私の刀にやられて二つに分かれたカラス。しかし、そのカラスはまだジタバタもがいていた。

 明らかに致命傷だろうに。それでも翼をバタバタやって、カァカァ(わめ)いていた。

 後ろの二人も、その様子に気がついたようで、ギョッと身を震わせる。


「これ、まだ動いてる……」

「まさか、このカラスもゾンビ……?」

「どうも、人間だけじゃなくて、動物にもゾンビはいるみたいだね」


 そう言いつつ、私はカラスに近寄っていく。

 そして、まだもがいているカラスの頭に刀を突き刺す。

 すると、それまで動いていたのが嘘のように、ゾンビカラスの動きはピタリと止まった。


 ふむ、やはり頭を潰さないとダメなのか。でも、頭部を破壊したら倒せるみたいで、そこは良かった。不死身では無いようだ。

 となると、人間のゾンビの方も頭を潰せば死ぬのかね。


 それからも、付近のまだ動いているカラスの頭に、順番に刀を突き刺していく。すると私は、カラスを仕留めることでポイントが加算されていることに気が付いた。

 ほう、やっぱり倒すとポイント入手出来るのか。

 それに、どうやらカラスの死体についても、回収が可能のようだった。これを回収して、どういうメリットがあるのかは分からんけど。

 しかし、カラスゾンビでもポイントが入るとなると、人間の方でポイントが出ないのは……これは、仕留めてないからなのかな。

 となると、人間ゾンビの方も始末してしまいたいところだけど、さて、どうしたものか……。


 考えるべきは他にもある。カラス相手にごちゃごちゃやっている間に——どうやら、ゾンビどもがこの場に集まってきているようなのだ。

 現在地点は三叉路のような道路なのだが、マップによると、この先の二つの道路から、それなりの数のゾンビがこちらへ来ている。なのでこのまま下手に進むと、挟み撃ちになりかねなかった。

 来た道を戻っては遠回りになるし、どうやら、そっちからもゾンビが来ているようだった。まあ、ここまでの道中にいたゾンビも、そのすべてを倒したわけではないので、そっちから来ることもあるだろうけど。

 私一人なら囲まれようが問題はないが、二人のことを考えると、それはマズい。それに、いくら銃があるとはいえ、二人に戦わせること自体、なるべくなら避けたい。

 となると、取るべき方法は……


「二人とも、どうやらカラスが騒いだことでゾンビが集まってきているみたい。このままじゃ囲まれちゃうかも」

「え゙っ!? ヤバいじゃん、どーすんのよ?」


 マナハスが焦った声を出す。


 さて、どうしようかね。

 うーん、こうなったら、ゾンビゲーに限らずゲームではよくある、()()方法を使うか。

 秘技——【高低差を利用して安全地帯に逃げる作戦】コイツでいこう。


「そのまま進むのは危ないから、片付けてから進むよ。それで、二人は……私が戦っている間は、安全なところに避難してて欲しいんだけど」

「安全なところ、……って、どこですか?」

「まあ、例によって、上だね」

「また屋根の上か?」

「そうだね。——あの家の屋根を貸してもらおう」

「まあ、しょうがないか。私らは邪魔になるもんな」

「勝手に屋根に登って、怒られないでしょうか……?」

「そこはまあ、許してもらうしかないね」

緊急時(きんきゅーじ)だし、それくらい許してくれるでしょー。つーか、家の人居ないんじゃないのー」

「どうだろうね」


 だいぶ騒々(そうぞう)しかったと思うけど、誰かが出てくる気配は無い。

 まあ、チャイム鳴らして出てくるの待って、屋根を借りる交渉して……なんてしている時間は無い。無断で使わせてもらう。


「それじゃ、運ぶね」


 私は、前回のように一人ずつ抱えて、屋根の上に跳ぶ。——まあ、今回は一階の屋根の部分で構わないでしょう。

 ひょいひょいと跳んで二人を屋根に運び終わったら、私はすぐに道路上に戻ろうとした。

 しかし、そこで突然後ろの窓が開いたので、私の動きも止まった。


 窓の向こうにいたのは、三十代くらいのおじさんだった。——顔色は普通。つまり、ゾンビではない普通の人間だ。

 この人はまあ、この家の住人の方なんだろう。


 おじさんは、しばらく無言で私たちを眺めていた。

 こちらも、なんと言ったらいいものか分からず、無言で見つめ返す。

 なんだかよく分からない種類の沈黙が、私たちの間に生まれた。


 ……突然で驚いたが、いつまでも黙っているわけにはいかないだろう。まずは、屋根の上に失敬していることに対して、一言断りを入れねばなるまい。

 そう思って、私が口を開こうとしたら、おじさんが先に口を開いた。


「な、何をしているんだ……?」


 一言で言えば、ゾンビから避難しているわけだけど、それで自分の家の屋根を使われるのって、かなり迷惑だよね。

 しかし、嘘を言うわけにもいかないので、正直に言うしかない。


「えっと、その、避難してます」

「避難……この家の屋根で?」

「まあ、そうなります」

「うぅん……」

「すみません。ちょっと囲まれそうになったんで、ここしか逃げる場所が無くて。でも大丈夫です。すぐに去りますんで。どうか、少しの間だけ置いていただけませんか」


 下手に何か言われる前に、先にこっちの言い分を言ってしまうことにした。後はもう、何か言われても強引に押し切ろう、そうしよう。


「——確かに、連中が集まって来ているな……君たちが連れて来たのか?」

「そうでないとは言えないところですね」

「すみません……他に逃げ場が無くて。どうか、ここに置いて貰えませんか?」


 私が若干はぐらかしたようなことを言った後に続いて、マナハスもそんな風に懇願する。


「そう言われても……そこじゃ、連中に丸見えだろう。君らを見た連中が、家の前に集まってくるのは……」

「それは大丈夫です。そうなる前に倒しますんで」

「……えっ、倒す? 君が?」

「はい」

「どうやって……いや、その腰のやつは、刀か? どうしてそんなものを……」

「すみません。話している時間はなさそうです。どうか、二人のことはお願いします。それじゃあ——」


 そう言って、私は屋根から飛び降りる。


「——あ、ちょっと君っ!?」


 おじさんが驚いた声を上げるが、それには答えずに、私は刀を抜き放つ。

 すでにゾンビ達は、だいぶ近づいて来ていた。


 あんまり密集されると、流石に私でもキツそうなので、全員が合流する前に排除しよう。

 そういうわけで、私は一番近くに来ていたゾンビから順にやっていくことにした。

 ——と、その前に、青いゲージを確認して、MPの回復アイテムを使用する。すると、ゲージが少しずつ回復していく。

 ……仕方がない。人目もあることだし、やはりまだスタンは使っておこう。——まあ、戦うのは私一人だし、庇護対象は避難済みだ。

 それなら、数が多くても、スタンでも全然問題ない。


 さて、それでは……ビリビリ棒でゾンビをしばき倒すとしますか。



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