第26話 絶対に笑ってはいけないゾンビパンデミック
「ちゃっちゃかちゃっちゃっちゃ〜ちゃ〜ちゃ〜♪」(例の猫型ロボットのアレ)
「あのさぁ、今は真面目なアレでやってるからさぁ、そういうのはさぁ……。——てかなんで旧版?」
「あ、ごめん。場を和ませようと思って……。——いや、新しい方はマネしづらくて……」
「え、えっと、それは一体……??」
「ああ、藤川さんは知らないのかな。——アレだよ、テッテレ〜〜〜!! ってやつ」
「ああ! アレですね! あのいつもアニメやっているドラ——」
「あ、いや、皆まで言わなくていいよ」
まあ、これはやっておかなければいけないかなと、ある種の使命感とすら思えるような強制力が働いているレベルのアレだよね。
——なに言ってんの? いいからとっととアレ出しなさいよ。昨日、途中まで徹夜して見つけたヤツ。
そう、昨日、寝落ちするまで、私はちゃんと確認作業をやっていた。それでまず一番最初に優先して行ったのが、マナハスと藤川さんの身の安全を高めるために使えそうなものを探すことだった。私としては、自分の安全や能力の向上よりも、そちらを優先するのは当然だ。
なので、レベルアップなどは後回しにして、マナハス達のために使えそうなものを探した。それで、ポイントで交換出来るアイテムの欄を探したのだ。
そこには、これまでにチュートリアルの報酬で手に入れた回復アイテムもあった。——緑ポーションも、怪我を治す治療薬も。
この治療薬については、私以外の人間、つまりマナハスや藤川さんにも使えた。なので、他にも何か使えそうなアイテムを探せば、それでマナハス達の生存率が高まるのではないか、と私は考えたわけだ。
本来なら、ポイントは消耗品よりもレベルアップなどの自身の強化に使うべきかな、とも思ったが、そこは効率よりも二人の安全を重視した。
それに確認していて気がついたが、どうも恐竜くんを倒した分のポイントも既にゲットしていたみたいだった。
それっぽいアナウンスが無かったので、その時は気がつかなかったが、明らかにポイントが増えていたので、多分そうなのだろう。というか、かなりの量のポイントが入っていた。やっぱりあの恐竜くんはボスキャラだったようだ。
というわけで、ポイントには余裕があるのだ。なので、いくらかはアイテムに使っても問題なかろう。
そうやってアイテムを探してみたら、結構、色々なアイテムがあった。中々たくさん種類があって、全部は見れていない。中には、かなりとんでもないアイテムもあったりした。
そんな中から、私は二人に使えそうなやつを探して、見つけておいた。
二人にプレゼントするアイテム、まず一つ目は、コレだ!
「じゃじゃーん」
「え、何それ?」
「シール、ですか?」
そう、私が取り出したのは、手の中に収まる程度の大きさの、一見するとただのシールのような物体。
しかし、もちろんただのシールではない。
「——さて、お立ち会い。昨日、私と恐竜くんのバトルを見たから、私の体が謎のバリア的なもので守られていることは知っているよね?」
「ああ、あの恐竜の攻撃すら防いでたやつね。最後は壊れたみたいだけど」
「天の加護ですね」
「天の加護! いいですねーその表現。ではこのシールですよ! このシールはですね、貼ることによって、その私の体にあるようなバリアと同じバリアをですね、発生させることが出来ると、なんかそういうアイテムなんですよねコレはね! これは凄い! それじゃあ、お値段いきましょうか。ズバリ、税込一万っ九千っ八っっ百円っ!!」
「なんであの社長風の紹介の仕方なんだよ……。これ、本当にそんな効果あるのか? てか、私たちにも使えるのか?」
「そこなんだよね。そればっかりは試してみないと分からない。なので——」
「社長……? 火神さん、今のは一体?」
「ごめんね藤川さん、なんでもないんだよ。発作みたいなものでね、ゴホン。……なので、実際に使ってもらって、試してみようと思います」
「試すって、どうやって?」
「使うのは簡単だよ。本当に貼るだけみたいだから。服の上からでもいいと思うけど、一応、素肌に貼っておこうか?」
「いや、それはいいんだけど。バリアとやらがちゃんと機能しているって、どうやって確かめんの?」
「それはもちろん、攻撃するんだよ」
「は?」
「じゃないと確かめられないでしょ」
「いやいや……マジで?」
「それは……試練ですね」
「すでにバリアがある私が使っても試すことは出来ないから、心苦しいんだけど……ここは、二人のどちらかにやってもらうしかないんだよね」
「なっ」
「えっ」
「なのでまあ、どっちが試すか、恨みっこなしジャンケン一回勝負とかで、パッと決めちゃって、時間もないからね」
「ま、待ってよ! どっちかが実際に貼るとして、攻撃って何すんの? まさか、アンタがやるんじゃないよねっ!?」
「私がやるのは、なんか二人とも怖いんじゃない? もちろん、やるとしたら加減はするつもりだけどさ。……だから、それはジャンケンで勝ったもう一人が試せばいいんじゃないかな?」
「つまり、負けた方がシールを貼って、勝った方がバリアを試す役をする、ということですか?」
「そうだね。それで、実際どれくらいの衝撃でバリアが発動するのかも分からないから、発動しなかった時のことも考えて、怪我しないくらいで、かつ、それなりの衝撃を与えるって感じで」
「それはそれで難しそうなんだが……。ていうか、実際にどんな方法で衝撃を与えるんだよ?」
「それはまあ、コレかな」
と言って私が取り出したのは、刀の鞘。要は棒である。
「シンプルにこれでぶっ叩く。位置は……安全を考えると、やっぱお尻とかかな」
「なんで尻なんだよ」
「でも他に無くない?」
「まあ……」
「だから、ジャンケンで負けた方は、アウトだよ」
「大晦日の特番じゃねーか」
デデーーン。ってね。
——どうして、こんな状況なのに、ケツバットをすることになっているのかしら。
何でだろうね。私も不思議でならないよ。
でも、二人の安全のためには、ケツバットしないといけないんだよねぇ。何でかねぇ。
「というわけで、ジャンケン、どうぞ」
「マジかよ……」
マナハスが、なんとも言えない表情で藤川さんと目を合わせる。
すると、藤川さんはこんなことを言い出す。
「分かりました。それなら私がシールの役をやります。真奈羽さん。バットの方を、どうぞやってください」
「いや、それは……」
「ダメだよ藤川さん。ここは公平にジャンケンしないと。どっちかが犠牲になるようなやり方は、お互いのためにも良くないと思う。だからここは、恨みっこ無しのジャンケンで決めよう」
「ならそもそも、こんな方法以外に無いのかを考えない?」
「それは出来ないっ」
「何でだよ」
「ケツバットすることは、すでに決まったことなんだ。これを覆すことは出来ないんだよ」
「なんでこんなケツバットに拘ってるのコイツは?!」
「そんな、私をお尻がぶっ叩かれるのを見たいヤツみたいに言わないでよ」
「じゃあ、なんでケツバット以外はダメなんだよ」
「私がジャンケンの敗者に対して『デデーーン、◯◯、アウト』って言いたいからだけど?」
「クソふざけた理由だった。まずはアンタをケツバットさせろっつーの」
「いいけど、私を笑わせたらね」
「そこも踏襲すんのね」
はぁ、とマナハスはため息を吐いて、諦めたように首を振ると、藤川さんに向き直った。
「まあ、他の方法を探すのも時間の無駄になるし、これでいこうか。でも藤川さん、ジャンケンはやろう。そのかわり、どちらに決まっても恨みっこなしね」
「……分かりました。私がバットになっても、恨みっこなし、ですね」
「そもそも、ダメージ無しの場合もあるんだからね。そのためにやってんだからね」
「コレだけ振っておいて、そのオチってのもどうかと思うよな」
「いや、だからといって、熱くもないおでんを熱いとか言うリアクション芸人みたいなことしないでよ」
「しないから」
「フリじゃないからね? やめてね?」
「だからしないって! いいから始めるぞ、もう!」
そして、藤川さんとマナハスは向かい合った。
「一発勝負だからね……」
「はいっ……」
「最初は、グー!」
「「ジャンケン、ポン!」」
結果は——藤川さん、グー。マナハス、チョキ。
「デデーーーン!! マナハスゥ、ゥアウトォ!!」
「めっちゃ楽しそうに言うんじゃねー!」
「信じてたよマナハス……それじゃ、勲章、どうぞ」
「何を信じてたってぇ……?」
私はまるで勲章を授与するように、マナハスの元にシールを持っていく。
「くそっ、ニヤニヤしてんじゃねぇよ……」
至近距離でマナハスがこちらを見ながらボヤく。その首筋に、私はシールを貼ってあげる。そして、シールに意識を向けて『使用』する。——多分、これで発動したはず。見た目はまったく変化は無いけど。
シールを貼ったら、私はマナハスから離れて、藤川さんに鞘を渡す。
「割と思い切ってやっていいからね、じゃないと意味ないから」
「わ、分かりました……!」
「最悪アレしちゃっても、あの怪我治すヤツがあるから、心配しないでね」
「アレしちゃうってナニ!? 治せばいいって問題じゃないから!」
「さ、サクッとやっちゃって」
なんやかんや言いつつ、マナハスもお尻を突き出すポーズで待機している。
藤川さんはその前に立って、野球のバッターのように鞘を構える。割と堂に入った構えだ。
「いきます!」
その宣言と共に、振り抜かれるスイング。
スパァァン! といい音がした。中々の思い切りのいいスイングだった。
「けっこーガッツリいくねー」
「えぇっ! ダメでしたか?!」
「いや、いいよいいよ。これくらいでないとね」
さて、マナハスの反応は。
当たった瞬間は「いっ!」とか言ってたけど、果たして……。
「どうよ、マナハス」
「……イタクナイ」
「なんでカタコトなの。つか、その間は何? もしかして、リアクション芸するか迷ってた?」
「うるせー! 感触はあったのに痛みはないという、よく分かんない事態に驚いたんだよ!」
「ああ、あの当たったことは感じるけど、ダメージはない感じでしょ。私の時もそうだった」
「……つまり、これは成功——ってことか」
「みたいだね……チェッ。まあ良かったね。これで格段に安全になると思うよ」
「アンタいま舌打ちしなかった? え?」
欲を言えば、マナハスがお尻を痛がってのたうつ様子も見たかったかもしれないけど。アイテムの効果がちゃんと発揮されたのは本当に良かったよ。これで、二人の安全性が格段に高まったのは確かだ。
——まったく、本当は一刻も早く出発するべきなんだけどね。
だけど準備は大切だよ。私にとって、マナハスの安全は何より大切な要素だからね。
——ならもう少し本人を労ってやったら?
それはそれ、これはこれってね。
さて、それでは藤川さんの分のシールも渡さないとね。
そして私は、藤川さんにもシールを渡して、効果を発動させる。——コレでよし。
「そっちも機能してるの? 見ただけじゃ分からないよね」
「そうなんだよね。見た目はなんの変化もないから」
「……一応、確認した方がいいんじゃないの。ほれ、その棒貸してくれたら、私がやってやるからさ」
「いや、何を仕返ししようとしてるの」
「効果が発揮することは分かったんだから、もう怖がる事もないし、それなら別に私にもやらせてくれてもいいじゃん。それで完全にイーブンになるでしょ」
「私は構いませんよ! 真奈羽さん、やって下さい!」
「まあ、本人がいいならいいけどさ」
そうして今度は、マナハスが藤川さんのオケツをバッティングする。
「うっ! ……あれ、本当に痛くないです! 不思議な感覚ですね〜」
「だよね〜。なんか特殊なゴムかなんかに包まれてるみたいな感じ」
「もう、遊んでる暇はないんだけどな」
「元はと言えば、アンタの発案でしょ。ってか、アンタも一回ケツバットしなきゃじゃないの? みんなやったんだからさー」
「それなら私を笑わせてくれないと。一発芸でもする?」
「今はやらないっつの」
「それじゃ、笑わせた時までお預けだね」
「言ったね、約束だからね?」
「ちゃんとマナハスが私を笑わせたらだからね」
「そのうちね」
ふ、新しい約束か。
アレだね。こういう約束って、忘れるくらい後になって達成して、周りの人には分からないけど、本人達の間では重要なんだ、みたいな感じのヤツだよね。あのヒソカとゴンの間であったやつみたいな。
——いやこんな下らない約束をアレと一緒にするなし。
下らないようでも、本人達には大事ってやつだよね。
——いや、フツーにただただ下らないでしょ……。




