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ゲームオブザデッド 〜現実にゾンビや巨大怪獣が出現したけど、なんか謎の能力に目覚めたので、とりあえず両方ともぶっ殺していきます〜  作者: 空夜風あきら
第五章 Day5——終わりの始まり 〜新世界の夜明け〜

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第253話 ……続きはWEBで(……ここがWEBでは??)



「……マナハス、お願い、泣かないで——とは、言わないから……顔を上げて。ね……それで、私のことを見て」

「……カガミン」


 マナハスの泣き顔……そんなの、一体いつぶりだろうか。

 これほど心にくる光景なんて、他にない。

 これは……私の罪だ。


「マナハス……まずは——謝らせて。私の浅慮(せんりょ)が、あなたを追い詰めてしまった……そのことを深く反省するとともに、心からお詫び申し上げます。本当に、ごめんなさい……」

「え……?」

「その、聖女のことはまさに、その筆頭なんだろうけれど……それ以外にも、無意識に私は、あなたに期待という名の負担をかけていたんじゃないかと思う」

「それは……」

「……それに対して、言い訳をさせてもらえるなら——これは私にとっては、マナハスを一番に信頼しているからこその、采配だったというか……。それゆえに、本人の適性ではなく、私が一番に信頼しているという——その理由だけで、あなたに重大な責任を負わせてしまった……それは完全に、私の(おか)した(あやま)ちだった」

「カガミン……」

「実際のところは、私は別に——その、言い方がアレだから、変な意味には誤解しないで欲しいんだけれど——私は何も、マナハスに期待していることなんてないの。

 本当はね、マナハス……私はマナハスに、好きなようにやってほしい。心から望むのは、ただそれだけ……。だから別に、聖女がどうこうっていうのも——そもそも、マナハスのことを巻き込んだのは、私だから……ぜんぶ、私のせいだから。だから、もしも嫌になったのなら、すぐに言ってね。そしたらもう、聖女だって、いつでも辞めていいから……」

「……いいの? でもそれって、前に言ってたことと違うじゃん……?」

「あ、あれは冗談だよ……ごめん。その……私は、マナハスのことを利用するつもりも、束縛するつもりもないし……むしろ、マナハスがしたいようにしてほしいと思ってる。だから、そう——もしも、私のそばにいるのが(つら)いというのなら……それでもいい」

「——っ?!」

「もちろん、私はマナハスと離れ離れになんて、絶対になりたくないけれど……。でも、そんな自分のワガママよりも、私はマナハスの気持ちを優先するから……そうしたいから。だから、マナハスが私を拒絶するなら————私は、それに従う」

「!? カガミン?! なんで……っ、そんな、私は——っ!」

「あ、いやっ……これはあくまでも(たと)え話だからね。ただの例え話……。だけど——私の本心でもあるから。

 私は——本当に相手のことを想うなら、優先すべきは自分ではなく、相手の気持ちだと思っているから……。愛さえあれば——相手を想う気持ちさえあれば、何をしてもいいってのは……それは独りよがりの独善(エゴ)だし、加害者側(ストーカー)の言い訳でしかないと思ってる。

 どんなに純粋に、本心から相手を好きなんだとしても……相手がそれを望んでいないなら、それはただの迷惑でしかない。本当に相手を想うなら、相手の気持ちにこそ寄り添わないといけない。……相手が自分を拒絶するのなら、そこでキッパリと身を引くのが——本当の愛なんだと、私はそう思う」

「カガミン……」

「私は自分の幸せよりも、マナハスの幸せを優先すると決めているから……マナハスが望まないことを()いるつもりはないし、マナハスが(つら)くなるような状況に立たせるつもりもない。

 だから——今ここで、改めて宣言するよ。私はマナハスが嫌がることはしない。……そのつもりだけれど、知らないうちにそういうことをしてしまうかもしれない。——というか、すでにしてしまっているのかもしれない。すでに……」


 揺れる内心を表すように(うる)んだ瞳を、こちらに向けるマナハス。

 その心の内は、いまだショックに沈んでいるようだけれど……

 しかし、少なくとも泣き出した当初に比べたら——話を聞けないほどに憔悴(しょうすい)しているという状態からは、すでに脱していると見てよさそうだった。

 ——すでに重度のショック状態なら、あえてさらにショックを与えるようなことを言えば、むしろ逆に気持ちを持ち直すかもしれないとの(こころ)みは……なんとか上手くいってくれたらしい。

 なので私は——ここからは一転して——(はげ)ましの言葉をかけるようにシフトする。


「だから……マナハス、いや——真奈羽(まなは)。私がもし、あなたが嫌がるようなことをしてしまっているんだったら……その時は、一切我慢しないで、遠慮なくそう言って。私の言動の何を否定されたって、そのことで私があなたに対して失望したり、あなたを嫌いになったりすることなんて、絶対にないから」

「っ……」

「それでもし、何か私にしてほしいことがあるなら、それもなんでも言って。本当に、なんでも……。だってね、真奈羽……私が思うに——これから先、この世界で生きていく限りは、きっといくつも困難なことが降りかかってくるのだと思う。この先は、それらの困難を跳ね除けようと努力すればするほど、さらに大きな困難が降りかかってくるような……そんな世界になる」

「……」

「だけど私は、そんな世界でも自分のやりたいことをやるし、自分の信念を貫くつもりでいる。だから、そんな私と一緒の道を歩むってことは……実際のところ、とても大変なことなんじゃないかと、自分でも思う。だからこそ、それに真奈羽を付き合わせていいのか……そもそも、私と違って心の底から優しい真奈羽が、それについてこられるのか……それは私にも分からない。

 だけど……だけど私は、これからもあなたと一緒にいたい。そのために出来ることは、なんでもする——その覚悟はある。

 だから真奈羽も……そんな私を信じてほしい。

 絶対にあなたを裏切らないし、苦しめないと。

 自分よりも、何よりも——すべてにおいて、あなたを優先すると。

 何を犠牲にしてでも、この誓いを守り抜く覚悟があると。

 その上で、真奈羽には何にも——それこそ、私にも縛られずに、自由にしていてほしいと、本気で思っているんだと。

 あなたの幸せが私の幸せであると、私が本気で、心の底から、そう思っているんだってことを……どうか、信じてほしい」

「…………ライカ」

「うん、だから……だから、言ってほしい。私にして欲しいことが、何かあるなら……なんでも、遠慮なく言って。それがたとえ、どんな望みでも……それこそ——戦いたくない、聖女なんて嫌だ、平和で穏やかな暮らしがしたい——なんでもいい、どんな望みでも、私は全力でそれを叶える。そのために、持てる限りの、すべての力を尽くすから……」

「……どうして、そこまで——」

「どうして——か。うん、それはね……」


 問いかける真奈羽の顔が、近い。

 いつの間にか——私たちは一つのベッドの上で、かなり接近した位置に座り合っていた。

 

「私の——これは、予感みたいなものなんだけれど……これから先は、何かを迷っていたら、きっと何も上手くいかないんじゃないかって……揺るぎない確固たる信念を持って行動していかないと、いずれどこかで行き詰まってしまうんじゃないかって……どうにも、そんな気がするの。

 でもね、たとえ、どんな道を選んでも、真奈羽が隣にいてくれるなら、私はきっと大丈夫……だから。

 だから真奈羽のことだけは、私は失うわけにはいかない。——いや、仮に、たとえ離れ離れになるんだとしても……あるいは、一緒の道を歩めないんだとしても……それでもいい。二人の絆が切れずに続いているなら、どんな形であれ、繋がっているなら……いつか再び、また一つになれる日が来ると信じられるなら、それでいい。

 でも、そうじゃなくて……たとえ、触れられるほど近くにいるのだとしても、常に片時も離れず共に行動していたのだとしても……一緒にいる二人の心が通じ合っていないのなら——お互いを理解せずに、すれ違っているだけなのだとしたら……それじゃ意味がない。どころか、そんな関係は、いずれ必ず破綻する時がくる。いつか終わりがくる。それでは決して、永遠にはなれない……」


 真奈羽は無言で——しかし、その瞳は真っ直ぐに私を見据えている。

 

「一緒にいることがすべてじゃない。どちらかに合わせることが正しいんじゃない。お互いに好きなことをやって——それで気が合うなら最高だけれど……そうじゃなくても、それでも二人で寄り添うことはできる。相手を尊重することはできる。認め合い、受け入れることはできる。——と、私は思う」


 いつのまにか……ベッドの上に寄り添う二人の距離はさらに近づき、もはや手を伸ばさずとも触れ合えるほどに近くになっていた。


「つまり、その——結局、何が言いたいのかと言うと……私は、真奈羽を尊重するから、決して無理はさせないから……できればこれからも、一緒にいてほしいなってことで。……そのために出来ることは、なんだってするから……だから、これから先に何があっても、決して一人で抱え込んだりしないで、まずはなんでも相談してほしい——って、いうか……」

「……やっぱり私、ライカを色々と悩ませるようなことをしちゃってたんだね……」

「いいや、いいや違うよ。これは単に、私が……うん、私の——心の問題だから。

 たぶん私も、いくらかは不安になってる……のかも。——いや、あるいは……安心してるのかも。色々と——まあ、今のところは——上手くいってるから。いや、まあ……だから逆に、これからのことを思うと、不安になるのかもしれない、というか……。

 正直、先々のことを考えると、私だって上手くやれる自信なんて、まったくないからね……。でも、だからこそ、私も何か、心の()り所になるものが欲しいって思う。絶対に、これだけは失えない……これさえあれば、大丈夫だって思えるような——そんな、心の拠り所が……」

「じゃあ、それが……つまりは——私、ってこと……?」


 不安気に聞いてくる真奈羽に、私は大きく(うなず)いて(こた)える。

 それに合わせて、すでに触れ合えるほどに近い身体を——さらに近づけるように、いっそう身を乗り出す。

 そして私は、ありったけの想いを込めて——至近距離にある、その口から——言葉を(つむ)ぐ。

 

「そう……そうだよ。真奈羽がいれば、それだけですべてが満たされるの。でも……真奈羽がいないと、他のすべてが足りていても、なんの意味もないの」

「……ライカ」

「だってあなたは、私の“すべて”だから」

「——っ……!」

「失うことなんて、考えられないくらい……」


 口に出したことで想像してしまい、思わず目を伏せた私……の、その手に触れる、感触——。

 ハッ——と、視線を上げて映る真奈羽の顔には、もう先ほどまでの絶望の色は残っていない。

 いや、それどころか、その顔には何やら、強い決意のようなものが浮かんでいるような——?

 

「……ねぇ、ライカ、私のお願い、聞いてくれるんだよね……?」

「え、うん……もちろん、なんでも言ってよ」

「なんでも……今、なんでもって言った?」

「うん、そうだよ、なんでもだよ」

「だったら……ライカ、私のことも信じて」

「えっ……」

「私も……私も同じだから。あなたと、まったく同じ。私も……あなたが——ライカがいないと、他に何があっても、きっと足りない。どころか、もう何もかもが無意味になる。だってあなたは、私の世界のすべてだから。それを失うのは、何もかも失うのと同じ」

「……真奈羽」

「だけど私は、あなたほどに強い心は持っていないし……たぶん、あなたよりも強い欲を持っているから……きっと、離れ離れになったら耐えられないかもしれないし、自分よりもあなたの気持ちを優先することは……出来ないかもしれない」

「……」

「でもそれは、私があなたのことを強く想っていないからじゃない。むしろ、その逆で……あまりにも強く想うからこそ、離れたくないし、自分の気持ちを——あなたを想う気持ちを優先して、あなたの気持ちを無視してでも、一緒にいたいと思う自分の心に従ってしまう。

 ——それがいずれ、二人の仲を引き裂いて、破滅を(まね)くのだとしても……」

「……」

「だから……だからライカには——何があっても、私が決して——あなたを諦めるつもりはないんだってことを、信じてほしい」

「っ——!?」

「きっとライカの方が、正しい選択ができる。だから私は、あなたの意見に従う。——もちろん、何にでも従うわけじゃないし、自分の意見も、ちゃんと言うつもりだけれど……それでも、決定的に意見が対立した時は、あなたに従う。それがきっと、最善の道なんだと思うから……。

 そして、その結果がどうなろうと、私はライカを責めたりしない。ライカが決めたことなら、それは私が望んだことでもあるのだから……私もその責任を一緒に背負う。決して目を(そむ)けたりせずに、共にすべてを受け入れる。

 それで何があっても、どんなに酷い結末を迎えようと……私はそれを誰かのせいには——ましてや、ライカのせいにはしない。私はね、ライカ……あなたと一緒なら、たとえ破滅しようとも構わない。それくらいの覚悟は、私にだってある」

「……ま、真奈羽……」

「だからライカも、私を諦めるようなことは言わないで……お願い。どんな状況だろうと、私はライカと一緒にいたいし、何があっても、一緒についていくから……置いていくなんて言わないで。

 たとえ、私たちがそろっているからこそ間違って、失敗して、これ以上ないほど酷くて最悪な結末に向かって突き進んでいってしまうのだとしても——だからもはや、お互いに別々の道を歩んだ方が、もっといい結末を迎えられるのだと、運命か何かにそう突きつけられたとしても——それでも私は、ライカと離れたいとはまったく思わない。

 それでも私は、最後までライカと共にいることを選ぶ。

 そのことを……どうか、信じてほしい。嘘じゃないって、本気だって——お願い、信じて…………」


 ……真奈羽。

 

「……信じるよ」

「ライカ……!」

「私……私はどうやら、あなたに謝らないといけないみたい——ごめん、真奈羽……私、真奈羽のことを見くびっていた……」

「ううん、いいの……謝らないで」

「なら——ありがとう……真奈羽」

「こちらこそ……色々と、本当にありがとうね、ライカ……」


 いつの間にか——無意識のうちに、指を絡め合うように——固く手を繋ぎあっていた私たちの間に、しばしの沈黙が流れる。

 

 ……ただ、見つめ合う。

 ……吐息すら、触れ合う。

 ……火照(ほて)った肌の熱までもが、伝わり合う。

 

 ……目が離せない、手も離せない……離したくない。


 どうしよう——ベッドの上なのに——もう、まるで眠れる気がしない。


 ……なんだかすごく胸が熱い——と、いうか、心臓がうるさい……。


 いまだかつてない状況に、私も完全に思考が止まってしまってる。

 だというのに……黙っているのにも、なぜか耐えられなくて、まるで何かを誤魔化すように、何か言わねばと思う口から出たのは——この期に及んで往生際悪く、精一杯に冗談めかそうとする——こんな言葉だった。


「あ、その……や、今のってなんだか、愛の告白かなにかみたいだったよね」

「……今さらなに言ってるの? それに、みたいもなにも——」


 スッ、と顔を寄せてくる真奈羽。

 すでに近いのに、さらに近寄るもんだから——彼女は私の顔を通り越して、耳元にまで口を寄せてくる。


「——っッ!!??」

「というか……私にここまで言わせたんだから、分かってるよね?」

「あぇっ? あ、そ、それは、もう……」


 顔が見えない真奈羽の、その発言の持つ意味や、はたしてそれが、本気で言っているものなのかどうかについては……

 長い付き合いの私にすら、もはや判別が難しくて……


 ただ、それでも——

 この後の返答や、事の次第によっては——

 私と彼女の——これまで長い間、ずっと変わらずに続いてきた、その——関係性が、この夜を(さかい)に、大きく変わってしまうんじゃないかという……


 そんな確信めいた予感ばかりが胸に()ぎって、殊更(ことさら)に私の心臓を——これ以上ないくらいに——早めていくのだった。


 

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