第250話 いやホント、誰だよアンタ……?
——不覚にも、見惚れてしまった……。
『“刀輝解放”』
準備をする、と言ったその後に、いきなりシノブがお姉(の分身)に斬り掛かったと思ったら————
次の瞬間——首筋に斬り込まれた刃を弾き返しながら——偽お姉からとてつもない覇気が光と共に溢れ出た。
そして偽お姉は……銀お姉になっていた。
——驚愕と共に、絶句する……。
この私が一瞬息を呑んで、思わず圧倒されてしまうほどに——その姿は……ひたすらに力強く、研ぎ澄まされたかのように美しく、そしてなにより、溢れんばかりに光り輝いていた。
そう、白銀に。
全身から立ち昇る銀光に負けないくらいに煌びやかに輝く銀髪と、自ら発光するように強い眼光をたたえた、銀の瞳——。
そんな非現実的な白銀の輝きが、しかし不思議と似合ってしまっているくらいには……この姉は私同様、顔のつくりが良いものだから……この私としたことが——見慣れた顔のはずなのに——まるで惚けたように心が浮ついてしまうのを抑えられていないということを、自分でも自覚してしまう……。
「——っ!! こっ、かっ、カガミさん!? そ、じゃ、その姿が……——っ?!」
アタフタと慌てるシノブに応えるお姉の——その声は、まるで『特殊効果』がかかっているかのように強烈かつ冷徹な響きを帯びており、それによって、こちらにとても鮮烈な印象を与えてくる割には——返答はしかし、かなり端的で、どこまでも簡潔だった。
『シノブ、時間が無い、話は後だ。——風莉、準備はいいか?』
「——っ、あ、う、うん……」
『抱えるぞ』
「あっ——」
銀お姉は私を掬い上げるように持ち上げるのと同時に、あまりにも自然にその場から一歩を踏み出して——大鷹の背から空中へと、躊躇なくその身を踊らせる。
「——ッ……!」
『合図をしたら、風を振り撒いて霧を払え。領域の方は——私が対処する』
「……っ、ちゃ、着地はどうするのよっ」
『それも任せろ』
「……っ、分かったわよ」
心臓がバクバクいっている。
当然だ。いきなり何の準備も無しに、身一つでスカイダイビングなんてさせられたら、誰だってそうなる。
そう……だからこれは別に、普段とは様子が違う姉にドキドキさせられているとか、そういうのではない……決して。
——見た目もそうだけど、中身も雰囲気違い過ぎるんだけれど……っ!?
——言葉少なに、おふざけゼロで、高圧的な、シリアスお姉とか……誰だよそれ、もはや別人なんだよ……。
——それに、姉妹とはいえ、こんなに密着することなんてのも、中々ないから……もう……っ。
いわゆるお姫様だっこの形で抱えられた私は、普段とは色々と様子の違うお姉に調子を狂わされつつも——重力落下の浮遊感や、空気を突き抜けて進むことによる強風すらも意に介さず——すぐに気を取り直して、自分のやるべきことに集中する。
……大丈夫、すでに感覚は掴んでいる。
まるで生まれつき備わっていたかのように——私は「風を司る能力」を扱うことができた。
胸元に下げた〈風の紋章〉に魔力を通せば——それがすぐに、えも言われぬ力の奔流となって、我が身の内に溢れてくる……っ!
後はこれを、流れに逆らわずに、思うがままに解放してみせるだけ……っ!!
『——この辺りか。風莉、そろそろだ、準備しろ』
「っ、もう、出来てる……っ!」
『流石——そのまま待て、いま領域を張る……!』
するとお姉から、一気に力が溢れてきて……
『“空間装飾——略式展開——反転領域”』
瞬間——ぶわっ、と何かが広がっていくような感覚に包まれる。
『よし…………今だ、風を!』
「任せてっ!」
『“強風操作”』
私は力を解放し、自分を中心に、外へと吹き抜けてゆく強烈な風の渦を生み出し、操る……!
『いいぞ、そのまま……この“台風の目”を維持しろ!』
「りょう、かい……っ!」
『では——突入する!』
ズボッ——!!
まるで上空から地上へ襲いかかる竜巻そのものになったかのように……渦巻く風の奔流の中心にて——高速落下の空気抵抗による強烈な向かい風すら手なづけたことで——さらに速度を上げつつ垂直降下していった私たちが、そこで見えない何かにぶつかったことを感覚で理解した。
「ぐっ……!」
瞬間、風の操作に謎の抵抗が加わったように感じるのと同時に——私の力の支配下にある、中心から渦を巻くように外に向かって風が吹き抜けて“霧”を拭き払っている範囲の、その向こう——さっきまでは何もなかったはずの視界の先が、濃密な霧に閉ざされた〈領域〉内部の光景へと切り替わっていた。
『魔力残量は気にするな、全力でいけ』
「うん……っ」
すでにここは、例の〈霧の領域〉の中なのだ。
——あ、魔力が回復していく……使ってくれたんだ、回復アイテムを。
抵抗はあるけれど、能力は変わらず使えている……ということは、ちゃんと“相殺”できてるんだ……さすが。
『これから3カウントしたら、地上に着く。風の調整は任せる。備えろ』
「了解っ……」
『……3……2……1ッ——!』
地上が見えてきた——ッ!
——車の列だ、それに怪物もっ!
——くっ、地面に風が跳ねる! 抑えなきゃっ!
高速で間近に迫ってくる地面にも恐怖することなく——そこはお姉の采配を信じている——私は風を操り、車には被害がないように抑えつつも、霧はしっかりと吹き払っていく。
私はしっかりと自分の仕事をこなし、お姉もお姉で——どうにも、飛行能力か何かがあるらしく——落下速度の絶妙な調整にて、ほとんど衝撃もないままに地面に降りたってみせた。
『降ろすぞ』
言われて、地に足をつける私。
それを尻目に、お姉は軽くその場から浮き上がると——
『——邪魔だ』
そう一言こぼして、片手を振るいつつ、その場で一回転するに合わせて——
『“飛刀斬空乱舞”』
無数の刀や斬撃を周囲に飛ばして——“霧”と共に、すでにだいぶ風に流されつつも——辺りに群がっていた不気味な怪物どもの、そのことごとくを切り裂いて、たちまちのうちに一掃してしまった。
登場と同時に、割と危機的な状況に陥っていた土壇場らしき状況を片付けてしまった私たち。
私たち——というか、主にお姉一人の活躍によって……鉄火場から一転して、この場には平穏が訪れていた。
あまりの急展開についていけないとばかりに、止まった車たちの並んだこの場には、束の間、空白の時間が訪れる……のかと思いきや——今のお姉には、そんな余韻に浸る感傷などないとばかりに——気づいた時にはすでに、銀色に光る彼女はすたすたと、一つの車に近づいていくところだった。
すると、そんなお姉に応えるように、一つの車のドアが開いて……そこから出てきたのは——おそらくは、お姉がここに来た最大の目的であろう、彼女——真奈羽ちゃんだった。
「あっ、か、カガ——銀?!」
『真奈羽……無事?』
「え、ああ、うん……」
『そう……良かった』
「うん……ありがとう、カガミン。助けに来てくれて。……それにしてもアンタ、すごいね、それ。その——っ!」
不意に差し出された手が、言葉を止める。
そっと——とびきりの親愛を込めて、ひたすらに優しく、心から慈しむように——真奈羽ちゃんの頬に触れる、銀お姉。
そして……いっそ不気味なまでに、妖しくも艶めかしい光を放つ双眸をスッと細めると——見ているだけのこちらですら、たちまちゾクっとさせて——思わず背筋が痺れるような蠱惑的な微笑を浮かべて、一言……
『真奈羽——囚われの姫、慈愛の聖女様……私の、最も大切な人』
「っ——!!?」
『みんなを助けたいのは分かるけれど……あまり私を心配させないで』
「あっ、んっ……ご、ごめ——」
『いい、あなたはそれで……私が守護るから、これからも、ずっと……』
「っ……っ——」
『…………抱きしめるのは、すべてが終わってからにする』
「——っ……!」
そこでお姉は、少しだけ目を瞑り……
——なぜかそこで、ビクッと反応する真奈羽ちゃん。
そして、次に目蓋を開いた時には……もうさっきまでの——端から見ているだけで、まるで熱に浮かされていきそうな——見たものを蕩けさせるような危ない雰囲気は鳴りを潜めていた。
『……もう能力は使えるから——真奈羽は他のみんなと協力して、霧に対処して。領域には引き続き、私が対応する』
「ん……わ、分かった」
『時間が無い……私が領域を維持できなくなる——その前に、大元を叩く。すぐに移動を再開するから、準備して』
「う、うん……了解、です」
……おそらく、今のやり取りでも——今の“銀”お姉としては——十分に長く時間を取ったつもりなんだろう。
——にしても……さしもの真奈羽ちゃんも、“あの”お姉が相手だと、さすがに……あんな風に照れちゃうんだね……ん、可愛い。
なんて思って、ちょっとだけ口角を上げていた私の方へ——すでに先ほどの浮ついた空気の余韻など欠片も見当たらないほどに、当初の冷徹な雰囲気に戻っている——お姉が、踵を返して戻ってきた。
私は口元の形を誤魔化すかのように、慌ててお姉に話しかける。
「えっと、この後は……この霧を生み出している大元の怪物を倒しに行くんだったよね?」
『ああ——そうだ。能力が使えるなら、もはや大した敵じゃない。あとはただ、時間との勝負になる』
「りょーかい……」
『準備が整うまでは、霧への対処は引き続き風莉に任せる。さっきの怪物どもは、霧の無い場所には入ってこられないが、最後まで気を抜くな』
「うん、分かってる……」
喋りながらも歩みを止めないお姉は——行き交う途中で、なにやら地面に落ちていたカードのようなものを拾ったりなんかしつつも——私の目の前を通り過ぎて、そのまま別の車に近寄っていった。
それから——お姉の迅速な采配も相まって——私たちは即座に移動を再開するに至った。
その際には、マユリちゃんとかいう——よく分からないけれど、とんでもない能力を持っていそうなことは十分に理解した——女の子の活躍によって……私たち一行は、劇的な速度で目的地へと高速で空中を進んで向かっていくこととなった。
その移動の足——というか“翼”は、件のマユリちゃんという少女の能力によって呼び出された……星兵? とかいうものらしいんだけれど……
——ええと、なんと言ったかな、確か……【大翼鳥】、とかなんとかって言ってたような……。
とにかく、その超巨大な鳥である星兵何某さんの背に乗って飛んでいくことで、私たちは早々に、倒すべき敵が待ち構えるその場所に到着することができた。
道中については、私以外にも真奈羽ちゃんや星兵とかいう人(?)たちが協力してくれたので、霧を気にせずに飛んでいくことが出来た。
能力が解放されたことで、嬉々として持ち前の力を振るう彼女たちの姿は、見ているこちらとしても、とても頼もしいものであり……ゆえにこそ、こんな剥き出しの空の旅だろうとも——さらには、霧に触れたらその瞬間に(乗ってる巨大な鳥さんが消えて)地上に真っ逆さまに落ちるのだといっても——特に怖がるものではなかった。……まあ、私は。
——案の定というか、私以外の能力者でもない助けられた面々の方々は、やはりというか盛大にビビり散らしていたけれど……。
まあ、とにかく……能力者の面々も力を取り戻して戦線復帰したことだし——こうなってしまえば、つい先ほど覚醒したばかりの私の出番はすでに終わったものと言ってよかった。
実際、その後の元凶討伐についても、もはや特筆することもないような安定した戦い振りにて、アッサリと決着がついていた。
結局のところ、この〈霧の領域〉を生み出していたものの正体としては……「空を泳ぐ巨大な鯨のような怪物」——というのが、私の目で見た相手の全容だった。
この怪物——ひとまずの呼び名として——〈霧鯨〉は、その名の通りに、濃密な霧を噴き出して辺り一帯に漂わせるという能力を持っていた。
さらには、霧の中に——自分の姿をそのまま小さくして、追加で不気味な触手を無数に生やしたような——小型の怪物を無数に生み出すこともできた。
この小型の怪物——〈小鯨〉は、厄介なことに、霧と同じ性質をその身に宿していた。
——まあ、それに加えて、霧から出ることが出来ないという制限もまた、あるようだったけれど。
霧と同じ性質を持つ、ということは……つまりは、この〈小鯨〉に触れられてしまうだけでも、能力の効果が解除されてしまうということを意味していた。
——なので、今のお姉のような分身体や、星兵とかいうあの人たちも、コイツに触れられただけでアウトらしい。
しかも、それだけではなく……この〈小鯨〉はもう一つ、とても厄介な能力を持っていた。
それこそは、「触れた生き物の魂を抜き取ってしまう」という能力だ。
なのでまあ……どっちにしろ、触れられたらお終いってことだ。なにせ、私たちプレイヤーの守護の存在すらが、こいつらの前ではまったくの無力で、ぜんぜん効果が無いって話だったから……。
実際、すでにこの〈小鯨〉に襲われて「魂を抜かれた」被害者ってのが、この辺りには無数にいるらしく……それもまた一つの問題だった。
理由は不明だけれど——あるいは、連中にとっては食事のような当たり前の生態か何かなのかもしれないけれど……それはともかく——〈霧鯨〉と、それが使役する〈小鯨〉は、人を襲ってはそうやって魂を奪い取っているのだという。
ではそれで、襲われた人の魂がどうなってしまうのかというと——それらはすぐに失われるというわけではなく——〈小鯨〉によって運ばれて、一箇所に集められているのだと。
その集められる先こそが、大元の〈霧鯨〉のところだという話だった。
だからこそ、この〈霧鯨〉を倒す際には、少しだけ注意する必要があった。
なにせ、下手にそのまま倒したら——一応は、まだ無事(?)な——捕らわれた魂たちも、どうなるか分ったもんじゃないということらしいから……。
とはいえ、それについても、すでに対処法は判っているので、いまさら狼狽えたりすることも無かった。
何を隠そう、その辺の一切合切が——例の〈攻略本〉とかいう……ソレに載っていたから。
では、結局のところ、どうやって倒したのかというのは……まあ、そもそも、完全には倒さずに捕まえることで解決した。
そうすることで、囚われた魂を元に戻すことも可能になるってことらしい。
基本的に、“霧”にさえ対処してしまえば、あとは大した脅威ではない〈霧鯨〉の本体との決戦は……むしろ、下手に仕留めてしまわないように気をつける必要があるくらいには、余裕のある戦いだった。
というわけで……殺さずに弱らせるような技を使って、十分に相手を弱体化させたところで……最後のトドメを飾ったのが——私もすでに使ったことのある、お姉の持つ転移能力であるところの【鏡渡り】を使って呼び出されて——唐突にこの場に現れた、ルナちゃんとかいう女の子だった。
聞くところによると——この少女は、怪物を捕まえて支配下に置く能力を持っているらしい。
なんか、その……ボールをぶつけたら、その中に捕えることが出来るとかって……。
——いや、これってまんま例のポケモ……っんん、いや……やっぱり、なんでもない。
……どうも、巨大な怪物に対しては、それ用の巨大なボールを使うということらしく——もはや飛行も不可能になるほどに弱りきって、地面に横たわってなお——中々の巨体を誇る大鯨の威容を俯瞰的に眺められる上空より、取り出した巨大ボールを自由落下させてぶつけること、三回目にして……それは成った。
——いやまあ、一度目は普通に抵抗されて捕獲に失敗したので、すぐにもう一度挑戦したけれど、やはりまた失敗して……という結果を受けては、もうしょうがないので、そこから追加で念入りに痛めつけた後に再挑戦する運びになったという意味での三回目……なのだった。
三度目の正直とばかりに——ついには観念したのか、そこでようやく〈霧鯨〉を捕まえることに成功した。
そして……
それとほぼ同時に——限界を迎えた“その人物”が、力尽きて地面に倒れ伏したのだった。
『——もはや、ここまでか……でも、なんとか役目は最後まで果たせたから、良かっ、た、よ……」
「かっ、カガミンっ!?」
もはや——銀色の輝きや、特殊な声の響きも失い——普通に戻った元銀お姉……改め、ただのお姉の元へ、焦ったようにすぐさま走り寄る真奈羽ちゃん。
駆け寄るやいなや、地に伏したお姉の上半身を抱え上げる真奈羽ちゃん……そんな二人を傍から見ると、まさに死にかけの一人を看取るもう一人って感じで、それなりに絵になる光景になっていた。
まあ、だからというわけでもないだろうけれど——しかし、注目を集めたのは確かなようで。
真奈羽ちゃんに続いてやってきた、お姉のパーティーメンバーの人たちに続くようにして……やにわに他の人たちも、その場にゾロゾロと集まってくるのだった。
「カガミン、カガミンっ! そんな……しっかりして、カガミン……っ!」
「か、火神さん! ど、どうしよう……そんな——どうしてっ?! わ、私の能力が……効かない——!?」
「火神さん……! そんな……力尽きたのか?! くっ、彼女一人に無理をさせ過ぎたか……!」
「……カガミおねえさん……」
とてもシリアスかつ重たい雰囲気の、そんな光景に……しかし私は、まったく何の感情も抱いていなかった。
どころか——はぁ……ようやく銀ピカも終わったか、どうにもあれは苦手だったわ——とかなんとか、そんな感想くらいしか浮かばない。
もはや、そんな茶番を視界に収めているのも煩わしくなって、周囲を見渡してみたりなどしてみても……
仲睦まじく手を繋ぐ、高校生くらいのお姉さん二人を筆頭に——皆が皆、心配そうな深刻な顔をして、こちらを見ているだけだった。
はぁ……そんな顔することないってのに。
だってそもそも、ソイツは——
と、そこで、ある意味では待ちわびていたといえる“その人物”が——例によって、例のごとく——【鏡渡り】によって、その場に現れた。
『“鏡渡り”』
突然——倒れ伏す“お姉”のすぐそばに——現れた鏡に驚く面々の目の前で……
鏡の中から出てきたその人物が、口を開く。
「……長かった。本当に、長かった……。ようやく会えたね、マナハスぅっ……ぅぅぅ会いたかったよぉぉぉぉおお〜〜〜!!!」
「かっ、カガミン?! ——が、二人……!?」
「火神さんっ——!?」
「「——っ!?」」
「…………あ、なるほど、こっちが本物か。——ああ、そうか……こっちのカガミンは、確か分身とかっていう——」
「マナハスぅぅぅぅぅ——って、あれ、何この人、邪魔なんだけど……え、ごめん、その……どっかいって?」
「っ、このっ、クソ本体がっ……何だその言い草っ、いったい誰のおかげで、マナハスが助かったとっ、おも——」
「うんそれはまずはありがとうだけどお前のその位置そこめっちゃ邪魔いというか本来ならそこはすでに私が収まることが約束されているはずの理想郷なので早くそこ退け疾く退けぃ!」
「……やだねバーカ」
「こいつ……はぁ? 処すぞ?」
「カガミン……可哀想でしょ、カガミン、頑張ったのに……」
「いやそうなんよ、頑張ったんよカガミンは。はるばる異世界くんだりまで行ってさぁ——」
「お前じゃねぇ——私だ……!」
「いや、うん……今のはアンタじゃなくて、こっちの、ね?」
「どっちもカガミンだけど!?」
「……ややこしいなぁ」
「……カガミンは一人でいい、感動のお別れシーンの邪魔をするお前は……消えてなくなれッ……!」
「ちょっ、カガミン?!」
「私には——もう、時間が無いんだっ……!」
「カガミン……っ」
「ハァ? 知るかバーカ、ならとっとと消えちめぇよ。おい、そこは私の定位置だ、私の居場所だ、私の——特等席だっ……!」
「……ふっ、ざまあ、みろ……!」
「こ、コイツっ……!」
「こ、こらっ! 今際の際に自分とケンカするなカガミン——たち!」
……本当に、不覚だったわ……。
よっぽど凄まじい能力を使っていたとはいえ——あんなお姉なんかに、この私が、ほんの少しでも心を乱されてしまっただなんて……
ともかく、これにて——
我が愚姉が、この私を巻き込んで決行した、真奈羽ちゃんたちを助けに行くという試みについては……
——まあ、まだまだ事後処理が必要なことは色々と残っているのだけれど……それでも、ひとまずは。
こうして無事に、達成されたのだった。




