第249話 親友を救うため……いまこそ——〝輝け〟カガミン!
上空を風を切って進んできた私は、そろそろマナハスのいる場所へと間近に迫ってきているのを感じていた。
そして、いよいよこの真下辺りにいるはずだ——というところまで来たところで、私は隼鷹にスピードを落とすように指示する。
そうして超音速飛行から通常飛行に移ったところで、ここらをぐるっと大きく旋回するように隼鷹ちゃんを操る。
するとやっぱり、この付近にマナハスがいることは間違いない——ということが、〈指輪〉を通して伝わってくる感覚からも確かだと分かった。
そうと分かるや——すぐにでもマナハスの元に突っ込んで行きたい衝動をなんとか抑えて——私は高度を保ったまま旋回する鷹ちゃんの背の上から身を乗り出すと、まずは地上の様子を探る。
『“鏡瞳魔眼——望遠鏡眼”』
私は自身の両眼を介して、その能力を発動する。
——『鏡使い』のランクが上がったことで、自らの瞳を鏡に見立てて能力を使えるようになったので、早速とばかりに試してみるとする。
——瞳を鏡とする、これら一連の技については一応、「魔眼」と名付けて呼んでいるけれど……本物の魔眼に比べたら、こんなものはお遊びのようなものだ。
——とはいえ、いちいち鏡を取り出して構える必要がないという点だけを取ってもかなり有用な能力だし……何より、瞳を介して発動する能力とかやっぱりめっちゃカッコいいから、呼び名としてもカッコよさ優先で【魔眼】にさせていただいた次第である。
すると、【望遠鏡眼】の効果により、私の視界はどんどんズームされていき——遥かな上空に居ながらにして——すぐに地上の様子が間近に迫ってきた。
しかし——もしも、その場にいたとするならば——地表をうごめく小さな蟻の姿すらを鮮明に捕捉できるほどに拡大してもなお……私は、本来そこにいるはずのマナハスの姿を見つけることができない……。
実際、地面にある砂粒を一つ一つ数えられるほどに、今の私の視力はとんでもないことになっていたけれど……やはり、そこには何も、動くものは何一つとして見つけることができなかった。
ぐぬぬ、これが〈霧の領域〉の効果か……。マジか……マジで外から見ると、何も起きてないように見えるじゃん……。
『“八相魔眼——双天魔瞳——白明千里眼”』
と、その時——
「カガミさん……どうやら、ここで間違いないようです」
私の後ろに乗っていたシノブの声に、私は振り返る。
ぬ、これは——例の能力を使っているのか……
——これこそは、ホンモノの魔眼の力……
長い前髪の向こう側で、何やら——両眼をそれぞれ別々に——目の色を変えて地上に視線を向けているシノブに、私は訊ねる。
「シノブ……どう? 何か判った?」
「あ、はいっ……この下にある、隠された〈領域〉の内部——その霧の中に、マスターやマナハさんたちの姿があることを確認できました……です」
「ふぅむ……じゃあ本当に、この下には〈霧の領域〉があるってことなんだね……。一見するとマジで、何の変哲もない街中の風景にしか見えないのに」
「そうですね……どうやら、そういう偽装効果を持っているようです。あの〈領域〉は」
「いやホント——マジでこれ、罠だとしてもエゲツなさすぎるっしょ……」
「それに……その〈領域〉自体が、内部のマスターたちの動きに合わせて移動しています。なので、現状のマスターたちの移動速度では、あの〈霧の領域〉から脱出することは、難しいかと……」
「……ならやっぱり、私たちが助けに向かうしかないわけだ」
「はい……ですが、内部にいるマスターたちの様子を見るに、どうにも、その……普通の霧ではないようなんです、あの霧は。……あ、いえ、あの霧が普通じゃないなんてことは——そもそも、その霧自体、普通は外から視認できないわけですし——いまさら言うまでもないことなのですが……で、でも、ですね、どうも、それだけではないようでして……っ」
「ああ、うん、分かってるよ。シノブの言いたいことは。たぶん、内部のマナハスたちが能力をほとんど使ってないみたいだから、それがどうもおかしい——ってことなんじゃない? シノブの感じた違和感は」
「あ、はい、そうです、そう——ですね。言われてみれば……違和感の正体は、まさにそれでした」
「うん……ごめんね、シノブ。急いでたから後回しにしてたけど、実は私、あの霧についてはすでに——〈攻略本〉に載っているから——それがどういうものなのか、分かっているんだよね」
「は、はぁ……なるほど?」
「そうだね……どっちにしろ、風莉が来るまでは突入できないし……。だからまあ、今のうちにシノブにもその辺をちゃんと説明しておくよ」
「あ、はい、お願いします」
ということで私は、マナハスたちの置かれている状況について——中でも、あの〈霧の領域〉の特性について——シノブに語っていく。
さて……マナハスたちが囚われている、あの霧について——現時点で分かっている概要は……〈攻略本〉によると、こんなところだった。
まず、あの霧自体に「触れた対象の特殊能力効果を解除する」——という性質がある。
そして同時に、霧が立ち込めている範囲は〈領域〉になっており、ここでは「特殊能力の発動を封じる」という【領域効果】が発生している。
この二つの効果により……霧の内部では能力が発動できなくなり、また、すでに発動している能力の類いに関しても、霧に触れた時点で解除されてしまうことになっている。
これの何がヤバいかというと、「霧に触れると解除される能力」の中に「今の私自身」が含まれている——ということだった。
いや、今の私って、分身能力によって生み出された〝分身体〟だから——いわば、その存在自体が能力による産物なので——あの霧に触れただけで、能力が解除されて消滅してしまうんだよね……。
これは分身の私だけにとどまらず、実は召喚された存在である星兵にも当てはまる。
星兵も召喚能力によって現界している(能力の産物的な)存在なので、能力が解除されたら召喚も解除されてしまい、たちまち消滅して(というか、カードに戻って)しまうのだ。
つまり……今ここにいる三名——私(分身体)、シノブ(星兵かつ分身体)、隼鷹(星兵)——については、みんながみんな、〈霧の領域〉に侵入した時点で、たちまちのうちに消滅してしまうという……
ぶっちゃけ——なんで君らここに来たん? ってくらい、相性最悪のメンバーだったりするのだ……。
いやマジで……分身の作成や星兵の召喚は、極めて強力かつ便利な能力である反面、「能力無効化」にめっぽう弱いという、特大の弱点もまた存在するという——ある意味では、すごくバランスの取れた能力と言えるのかもしれなかった。……なんて。
いやまあ……実際のところ、分身や星兵って便利すぎるし、強力すぎる能力だといえば、マジでそうだからね……。なのでまあ、これくらいの弱点があって当然と言われても、むしろ納得しかないくらいだけれど。
しかし——特殊能力における、その辺りのバランスについてはともかく——マナハスを助けに行こうとしている私にとっては、これは極めて厄介な状況でしかなかった。
なんせ、領域の中に入ろうと霧に触れただけで、今の私は消滅してしまうのだから……そのままでは助けに行くどころではない。
とはいえ……もちろんのこと、私だってそのことを分かった上で、何の対抗策もなくこの場にやってきたりはしない。
というか、その辺の諸々についても〈攻略本〉に載っているので……どうやって攻略すればいいのかも、私はすでに知っている。
そして、ここで登場するのが、他でもない——我が自慢の妹であるところの——風莉その人なのであった。
実際のところ……不定形かつ、周辺一帯に満遍なく展開している〝霧〟という形態は、なかなかに対処が難しい存在だった。
なんせ——すでにだいぶ色々な能力を持っている私や、忍者として実に様々な忍術を使えるシノブをもってしても、この霧に上手く対処できるだけの能力を持ち合わせていなかったくらいなので。
——というか、「能力を解除してしまう」という特性を持っている霧に対して、能力で対処しようとしていること自体が、そもそもナンセンスだよね、っていう……。
まあ、ただの霧でもわりと大変なのに、例の霧は「触れた能力を解除する」という特性があるわけで……そうなるともはや、触れずに対処するしかないわけだけど。
でも、そんなこと言われたって、ぶっちゃけそんな都合のいい能力なんてそうそうないわけでね……
そう……それこそ、『風使い』の「風を操る能力」くらいしか。
能力で触れたら、触れた能力は解除される……
しかし、能力で起こした風は——あくまでも、そこに元からある空気を動かしているだけなので——霧に触れたからといって、その動きを打ち消されたりすることはないらしい。
というわけなので、『風使い』である風莉さえ来てくれたら——彼女の『風を操る能力』で霧を吹き払ってもらえば——霧の影響は無効化できる。
そうなると、後の問題は「霧の領域内部では、能力が発動できなくなる」という、いわゆる【能力封印】の効果の方だ。
そう……ややこしいんだけれど、霧を打ち払ったからといって、それでこの【能力封印】の効果の方まで払拭できるのかといえば、実はそうではなく……普通にそっちの効果は健在のままらしい。なので、そっちに関しては別途、対策を講ずる必要がある。
——これに関しては、マジでややこしい話なのだけれど……どうやら、あの〈霧の領域〉というのは、「霧のある場所が〈領域〉になっている」のではなく、「元々、〈領域〉がある範囲に、霧が立ち込めている」という感じみたいなので……霧の有無に関わらず、その辺りの一定の範囲が、そもそも「【能力封印】の効果をもつ〈領域〉」なのだという。
なので——こっちの【能力封印】に関しては、霧そのものとは別の対処が必要となるので——こちらの【領域効果】に関しては、私が対処する。
領域効果は領域効果で相殺できる。
今回はその性質を利用して、霧の領域の【能力封印】の効果を相殺する領域を私が展開する。
とはいえ、〈領域〉と〈領域〉がぶつかったら、お互いの領域効果が問答無用で相殺されるのかというと……そう単純な話ではなかったりする。
それぞれの〈領域〉の規模や出力、あるいは〈領域〉に働いている効果の相性などにより——〈領域〉同士の間にも力関係が生まれるので、場合によっては相殺できないこともある。
それで……現状の私が使える【領域技】についてなんだけれど。
いや、技というか……そもそも、今の私はまだ領域技を覚えていないので、自前の領域技は持っていない。
だけど一応、使える領域系能力に心当たりはあった。
それというのが、プレイヤーなら誰でもLv20で使えるようになる新機能であるところの【領域制覇】の能力を使うやり方だ。
一応、この【領域制覇】も領域技の一種ではあるので、これを使えば領域を展開できなくはない……のだけれど、そのままでは色々と問題があった。
領域技の相殺を狙う場合、重要なのは「相性」と「出力差」になる。
前提条件として……まずもって、相殺しようとしている領域に働いている効果と真っ向から相反する効果——すなわち、「相性」のいい(というか、むしろ悪い?)効果を持つ領域技であることが一つ。
それに加えて、相手の領域技の「出力」と張り合えるだけの出力をこちらも有していることが、相殺のために必要となる条件だった。
一つ目の「相性」については……『鏡使い』の能力を使うことで解決できる。
その技の名はズバリ、【反転領域】。
この技は——『鏡使い』の「コピー」と「反転」の能力を使い、相手の領域の効果をコピーした上で反転させることで、正反対の領域効果を持った領域を展開させるという感じの技であり……もはや領域の相殺に使う専用の能力というか、それ用に特化した領域技なのだった。
実際のところ、この技はマジで有用っていうか……これさえ使っておけば、どんな効果を持つ領域でも相殺できるという、めっちゃ使い勝手のいい能力だったりする。
Lv20で【領域制覇】の能力を解放した今の私なら、すでに最低限、領域技を使うための下地は獲得できているので、この【反転領域】も使おうと思えば使える。
それに加えて、〈攻略本〉に詳細な使い方も載っていたから、今の私でも十分に扱えるだけの知識も備わっているので、「相性」についてはこれで問題ない。
となると問題は、もう一つの条件である「出力」についてだ。
ハッキリ言って……これに関しては、完全に相手に上をいかれている。——それも、遥か上を。
なにせ、相対する〈霧の領域〉は(見えていないけれど)相当に広い範囲に広がっているくらいに大規模な領域なので……その規模から測れる相手の領域の出力は推して知るべし。万全の状態でも普通に敵わないのに、今の私はSTが弱体化している〝分身体〟なのだ。なおさら勝ち目などない。
そう、普通のやり方では……逆立ちしたって到底、太刀打ちできやしない。
なら、どうするか——逆立ちしてダメなら……?
そう、首断ちだね(?)。
〈攻略本〉には載っていた……今の私でも、あの〈霧の領域〉に対抗できる「出力」を発揮できるようになる方法が。
ただ、その方法というのは……ぶっちゃけかなり、〝危険が危ない〟方法だったのだけれど……
マナハスを助けるためなら……いくらでも懸けよう、自分の命くらい。
そんな風に、ほぼノータイムにてアッサリと覚悟完了した私は——〝その方法〟に協力してもらう必要のあるシノブに対して——具体的に何をしてほしいのかを説明していく。
説明をしながらも私は、同時並行でアイテム欄を確認して——ちょうど少し前に、本体の〝私〟から送られてきていた——そのアイテムを『装備』しておく。
そう、ここで装備した、このアイテムこそは——
霧自体に対処する風莉と並んで、今回の〈霧の領域〉の攻略に不可欠な、言ってみれば二人のキーパーソンならぬ「二つのピース」のうちの一つである——〝その方法〟を実行するのに必要不可欠なキーアイテムであり……
今や特別な能力を宿している〈真想品〉でもある——羊のふわもこ抱き枕の「マナシィ」(の複製品)だった。
私の話を聞いたシノブは——最初こそ、戸惑いや躊躇いを見せていたけれど……さすがはプロの忍者というか、最終的には納得して、私の無茶振りな頼みを了承してくれた。
そうして、シノブと段取りの確認も終わらせたところで……タイミングよく、必要なピースの〝もう一つ〟の方もこの場に到着した。
旋回しながら飛行中の鷹ちゃんの背の上(正直、だいぶ狭い)に——『風使い』の風莉が、私の出した【鏡界門】を通り、この場に現れる。
「……お待たせ、お姉」
「来たね——、風莉」
「——って、うわ……ほんとにここ、空の上じゃん……」
「怖い? でも大丈夫。すぐに飛び降りることになるから」
「……何が〝大丈夫〟なのか、まったく分からないけれど……。——別に、これくらい、ぜんぜん怖くないし」
「そう、なら良かった。それで、風莉の準備はどう? 『風使い』の能力は、使えそう?」
「……うん、大丈夫——だと、思う」
「オッケー、それじゃ……後は、私の準備だけだね。——待ってて、すぐに終わらせるから」
そこで私は、シノブの方を向くと——自分の意思で、システム上の操作を行い、HPの守護を解除した上で——彼女に一言だけ命令する。
「じゃあ、シノブ……『やって』」
「……『御意』」
応じる掛け声と同時に、シノブが目にも止まらぬ速さで動き——
その手に持っていた短刀を閃かせ——
私の首筋に向けて、致命的な一撃を放ち————ッ!
『“君の危機”』
その鋭い一閃が、HPが消えている私の首をアッサリと斬り飛ばす直前に——そのスキルが発動し、私のSTが一気に限界を超えて強化され、思考速度が極限まで加速する。
そう……足りない出力を補う方法——その第一段階が、これだ。
これだけの強化状態なら確かに、〈霧の領域〉ともある程度は渡り合える。しかし、この強化はあくまでも一時的なものであるため長くは保たないし……なにより、これでもまだ少しばかり足りない。
なので、ここからさらに、この強化状態を足がかりとして——現状の私では、この強化状態が前提として必要になるほど強力無比かつ発動困難な——「もう一つの超強化スキル」である【とある能力】を使うことで、必要なSTを十分な時間的余裕を持って発揮できる状態にまで仕上げる。
そう、今なら——発動できる。
秘技とも呼ばれる——『刀使い』のR5、すなわち最終ランクで覚えた、奥義的位置付けの技である……
その技——【刀輝解放】を。
間近に迫る死に、触発されたように——
マナハスを助けるため、必要となるその〝輝き〟を——
私はその身に——
『“刀輝解放”』
体現する——。




