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第24話 寝る時は下着しか付けない派の人なので

 


 ガシャァァァァン!!!


 甲高い音が鳴り響いて、私は突然眠りから覚醒させられる。


 はっ?! 何っ? ……なんだぁ……?


 寝ぼけた頭はなかなか覚醒しない。なんだかやけに寝起きが悪かった。いきなりでかい音で目が覚めたからか……?

 つーかここどこ? 私の部屋じゃ無いぞ? なんだこれ、布団? いつものベッドは……?


 しばらくボーッとして頭が覚めるのに任せていると、ようやく少しずつ思い出してきた。

 あ、そーか、藤川さんの家に泊まったんだ。それで私は一人布団で寝ることになって……、そうだ、マナハスと藤川さんがベッドに寝ているんだった。


 それからしばらくして、ようやく私は布団から体を起こした。そしてまた、その状態でしばらく止まる。普段からあまり寝起きは良くないが、今日は特に悪い。なかなか目が覚めないな……。


 ベッドの方を向く。するとモゾモゾと掛け布団が動いていた。カーテンの外は明るい。んーっと、今何時だ?


 すると、階下から階段を登ってくる音がした。まだうつらうつらしながらその音を聞いていたら、突然、ドガガガガッ! みたいな音がしてびっくりする。


 なに今の、絶対転んだっしょ。オイオイ、大丈夫かぁ……?

 いや待てよ。誰が転んだんだ?


 横のベッドを見る。まだ二人とも起き出してはいない、はず。仕方なく私は立ち上がる。うう、目が眩む。立ち上がったから立ちくらみが……。

 それが収まる頃に、ようやくベッドを見下ろす。二人分の頭が布団からはみ出ている。ということは、今階段をすっころんだのはこの二人ではない。

 考えられるとしたら、あー、誰だ? あー、頭が働かねぇー。まずは顔でも洗うかぁ。えーっと、洗面所どこだったっけ?


 すると、また階段を上がる音が聞こえる。ああ、藤川ママンが来たのかな。藤川さんはまだ起きてないし、しょうがないから朝の挨拶を……

 や、待て、私いま下着姿だった。なぜなら私は、寝る時はいつも下着だから。なんなら全裸でもいいけど、さすがに人ん()で全裸で寝るのはどうかと思って。でもパジャマを借りるのもアレなんで、下着で寝たと言うわけよ。


 階段を登る音は終わり、足音は私のいる部屋の方へ……。

 ……いや待てよ、最初にしたあの大きな音はなんやねん。


 それに気がついたのと同時に、ドアに到達した外の人物がノックする。

 ドン、ドン、ドン……ドン!!!


 突然、ノックというには大きすぎる音に変わる。その時点で、ガバッと後ろの二人が起きる。

 私はドアと二人の間に立って、ドアの方を凝視する。

 こいつはドアの開け方を知らないのか? 鍵などかかってないのでノブを回せばすぐに開くわけだが、そんなこと知らんとばかりに、ドアをめちゃくちゃに叩いているようなんだが。

 不意にドアが歪んだ、と思ったら、次の一撃でドアは根本から吹っ飛んだ。飛んできたドアを、とっさに腕をクロスしてガードする。


 ぐっ!


 衝撃はきたが、痛みは無かった。ドアは床に落ちて派手な音を立てる。

 ドアのなくなった入り口の向こうにいたのは、青白い顔の——誰やコイツは?


「誰?」


 聞いてみるがもちろん返事はない。一瞬、まだ会ってない藤川さんのお父さんかと思ったが、どっちにしろ顔色がすでに色々とヤバいし、後ろの藤川さんも特に反応しない。

 と、その誰だか分からんおっさん(またおっさんか)が、いきなり私に向かって襲いかかってくる。


「ッ!!」


 とっさに床のドアを蹴り上げて私とおっさんの間に立てる。おっさんはそのドアに当たってなお、こちらに突進してくる。

 私はドアを押さえておっさんと張り合う、そしてドアごとおっさんを蹴り飛ばした。もちろんスタミナパワーを使ってだ。

 おっさんは部屋の外まで吹っ飛んだ。ドアは入り口にぶつかって、その場に落ちる。


 私は吹き飛んだおっさんがゆっくり起き上がるのを見ながら、手の中に刀を出現させる。

 そして、しばしの逡巡の後、刀に意識を向けると——その刀身が発光し、軽くバチバチと紫電を発し出す。

 うん、どうやら昨日やった操作はちゃんと反映されていたらしい。

 さあ、新しいコイツの力をアンタで試してやろう。


 おっさんが突っ込んでくる。

 私はそれにカウンターを打ち込むつもりで待ち構え——おっさんがドアに(つまず)いてすっ転ぶ。


 ……オイオイ。——ってあぶねぇ!


 おっさんは転んだ後もすぐに私に掴みかかってきた。私はそれを危うくジャンプで(かわ)して、おっさんの横に回り込む、そして着地と同時に刀をおっさんの頭に振り下ろした。


 バチッ!


 と、鋭い音がして刀が頭部に激突する。しかし、おっさんの頭が割れて血が噴き出したりすることはない。

 おっさんはしばらくビクビクと全身を痙攣(けいれん)させていたが、やがて動かなくなった。


 成功……か?


 私は注意深くおっさんを観察しながら、部屋の奥のベッドの方へ少しばかり移動する。

 そこには、ベッドの上でお互いに寄り添いながら、一部始終を見ていたマナハスと藤川さんが居た。

 二人に視線をやると、目があったマナハスが問いかけてくる。


「や、やったのか?」


 それは殺したという意味だろうか。それとも倒したという意味か。まあ、どちらも大して変わりはないか。


 私はドアに乗っかっているおっさんの体を、そのままドアごと部屋から運び出す。そして隣の部屋を確認し、おっさんをその中に突っ込んだあと、ドアを閉める。さらに、そのドアに外れた藤川さんの部屋のドアを突っかけて、とりあえず開かないようにしておく。

 それから藤川さんの部屋に戻った私は、ようやく目が覚めてきたのを自覚しながら、素早く頭を回転させ、とりあえずやるべき事を決定した。


「ちょっと家の中を見てくる。二人は、何かあったら……窓から屋根の上にでも逃げておいて。さっきのやつは隣の部屋に突っ込んだから、近寄らないようにね」

「あ、ちょっ、カガミン——」


 マナハスの言葉を最後まで聞く事なく、私は部屋を出る。そして、まずは二階の部屋を見て回る。そうしながらも、常にマナハス達のいる部屋に意識を向けておく。何かあった時にすぐ行けるように。


 二階を見終わって、倒したゾンビ以外には誰もいない事を確認した私は、一階に降りていく。階段には、ところどころに血のようなものがついていたので、それを避けながら降りる。

 刀を右手にぶら下げたまま、一階も捜索する。すると、窓の割れている部屋を見つける。——最初の音はこれか。

 見ると、窓の外には人影。今まさに、窓に足をかけて入ってこようとしている。

 その顔色は青白く、目は濁っており、動きはぎこちなくて、口からは意味不明な唸り声を発している。

 私は手短に警告を発する。


「止まって。それ以上動いたら攻撃します」


 相手は私の言葉などまるで意に介していないようで動きを止めない。そのまま一切止まらず家の中に侵入してくる。

 私は無言で刀を発光させる。バチバチと(うな)る電光を刀が(まと)う。


「——ッ」


 踏み込みからの突き一閃、狙い(あやま)たず頭部に命中、そのまま外に突き飛ばした。

 仰向けに倒れたソイツはやはり、しばらくビクビクした後動かなくなった。


 対象が動かなくなったのを見届けて、私は(きびす)を返す。そして、一階もすべて見て回って、他には誰もいない事を確認すると、二階へと戻る。

 その途中で玄関を通った時に、ふと思い立ったので、二人のを含めた全員分の靴を回収する。当然、その方法はアイテム欄への収納だ。


 その後、またも血を避けて階段を登り、二人の待つ部屋へ戻った。

 私が部屋へ入ったと同時にマナハスが声をかけてくるが、それは状況を尋ねるものではなく、


「アンタ、その格好で見て回ったんかよ」


 だった。

 あ、そういえば下着姿のままだった。……ま、まあいいじゃん、家の中なんだから。……人ん()だけど。

 私は、さもそれは気にしていませんよ、という風に平静を装いながら、見てきた事を報告する。


「家の中には他に誰もいなかったよ。一階の部屋の窓ガラスが割れていたから、さっきのおっさんは多分そっから入ってきたんだと思う。それと、探索している間にも一人、入ってこようとしてたけど、コイツで突きっ返したよ」


 そういって私は、右手の刀を示す。


「つまり、倒したってこと? その、入ってこようとしたヤツってのは、ゾンビ的なあのヤツラなんだよね? ……死んだの?」

「死んでるのかどうかは分からない。下のやつもゾンビだったと思う。少なくとも、明らかに普通の人間ではなかった」

「まあ、ゾンビの時点で、生きてるのか死んでるのか分からないよな……」

「あ、いや、そうじゃなくて」

「ん?」

「たぶん殺してはいないと思うよ。まあ、それは後で説明する。でもまずは……着替えて安全な場所に行こう」

「着替えるのはいいけど……」


 と言って、私の格好を見るマナハス。ええい、そこには触れるな。


「安全な場所ってどこよ?」

「とりあえずは、上」

「上、ですか……?」

「そう、屋根の上」


 それから私たちは、最低限の支度をして、着替えて、そして靴を履いて部屋の外の屋根の上に立った。


「ここなら安全かー?」

「いや、ここじゃなくて、もう一つ上だよ」

「え、じゃあ二階の屋根まで登るってことか?」

「そうだよ」


 今、私たちがいるのは、一階部分の屋根だ。二階の窓からならすぐに乗れる。しかし、それは言い換えたら、二階に来たゾンビもここに来れるということだ。それでは落ち着いて話など出来まい。

 話をするなら、最低限ゾンビがこないところでやる必要がある。それで二階の屋根、つまりこの家で一番高いところに登るわけである。そこならゾンビも到達できないはずだ。


「二階の屋根まではゾンビもこれないと思うしさ」

「そうかもしれませんが……私、上手く登れるかどうか、自信が無いです……」

「いや、私もちょっと難しいと思う……」


 藤川さんは、落ち込んだような調子だし、マナハスも屋根を見上げて——これはちょっと……という顔をしている。

 安心しな。私がやってやるさ。


「大丈夫。私が運んだげるから」

「え、どうやって……?」

「抱えて跳ぶ」

「えーっ、出来んの!? 大丈夫かよ?」

「大丈夫、大丈夫。任せなさい」

「私は自力では無理ですので……お願いしますっ!」

「うん、じゃあまず、藤川さんからね」


 私は一旦、(かたな)をしまってから、藤川さんをお姫様抱っこする。


「しっかり掴まっててね」

「え、えと、こうですか……?」

「もっと、首に抱きつくみたいに」

「え、えっ……こ、こうですか?」

「うん、そんな感じ」

「はわわ……ち、近い……」

「んじゃ、行くよ」


 耳に藤川さんの若干荒い吐息をくすぐったく感じながら、私は視界の端、黄色いゲージに意識を向ける。

 全身に巡らせ、特に脚に溜めていく。そして息を吸い、吐くと同時に跳ぶ。


「——フッ!」


 私は力強く屋根を蹴り上げ、舞い上がる。跳んだ瞬間、藤川さんの抱きつく手に力が入るのを感じた。

 私は藤川さんを抱えたまま、悠々と二階の屋根に到達し、軽やかに着地する。

 着地後もしばらくギュッとしがみついていた藤川さんが、ようやく恐る恐る力を抜いたので、そのまま下に降ろす。


「よし、上手くいったね」

「す、すごいですっ! 私を抱えたまま軽々とあんなに跳べるなんて!」

「ま、これくらいはね。恐竜とのバトルに比べたらなんて事ないよ」


 そんな軽口を叩きつつ、私は振り返って下にいるマナハスを見る。

 マナハスは、「すげっ、マジで跳びやがった……」とかなんとか言ってる。


 さて、それじゃ、次はキミの番だよ、お姫様。



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え、藤川ママもしかして死んだ??
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