第243話 〈攻略本〉×「裏(世界を通る)ワザ」×「最強潜入キャラ」=RTA(最速攻略)
よし、んじゃ、〈D・G〉も無事に回収できたんで……いったんまた休憩しよっかね。
上空から地面にけっこうな勢いで激突した私(とD・G)だったけれど……まあなんとか、普通に無事だった。
いうて、ちゃんと【軽化】の効果はそれなりには効いていたので、受けた衝撃もそこまでではなかったのでね。
なので私はそれからすぐに、〈D・G〉を装備欄の「乗り物枠」に回収してから——実は、〈D・G〉もそれ自体が自走できる機能を持った、れっきとした乗り物なので、「乗り物枠」で回収できるのだ——すぐに私は、適当に生成した鏡を介して〈裏界〉にとって返した。
そして、迎えに来てくれたヘリと合流したところで……いったんまた〈鏡の家〉に戻って、とりあえず少し休憩することにした。
いやー、快適な拠点にいつでも帰って休めるとなると、ついつい一区切りついたところで休憩したくなっちゃうね……
ま、まあ、今回は(フリーズするカカシではなく)ちゃんとした“動く”ボスとの戦いとかもあったし……
それに、その戦いで回復魔法のスフィアとかめっちゃ消費しちゃったから、これも補充しておく必要もあるしさ。
まあ、その辺りの作業をこなすにしても、どうせなら、ちゃんと落ち着ける安全な拠点でやった方がいいしさ……
とかなんとか、言い訳のようなことをつらつらと考えつつ——案の定、タイムシンクを切ったので時間を気にしなくていいのもあり——けっきょく私は、軽く一日くらいをだらだらっと〈鏡の家〉で過ごしてしまった。
いやまあ一応、その間にちゃんと使ったスフィアの補充とかもしてたから、うん。
——ちな、この減ったスフィアの補充方法については、(敵などから直接ドローするのを除けば)ルコアのアビリティである【スフィア化】を使用するのが一番簡単なやり方となる。
——この【スフィア化】のアビリティは、特定のアイテムや素材などからスフィアを精製することができるという能力で……これを使えば、既存のST回復アイテム(プレイヤーならショップで買えるヤツ)から回復魔法のスフィアを生産することができるのである。
——それこそ、先の戦闘でも使った、“戦闘不能”を解除する【リザレクト】の魔法も、この【スフィア化】のアビリティで(ショップで購入できる)〈HPリターナー〉から精製できる魔法の一つだ。
とはいえ、今は能力やSTに色々と制限がかかっているせいで、素材と方法はあっても作るのにいちいち時間がかかってしまって……いうてそれで、そのまま一日が潰れてしまったってカンジだったワケよ。
本来なら、そんな悠長に時間を使っている場合ではないので、補給する時間を惜しんで先に進むかどうかを迷うところだったけれど……
タイムシンクを切った〈鏡の家〉なら時間を気にする必要はないので、むしろじっくり休みつつのんびりと作業を進めた。
とまあ、そんなこんなと色々な作業をしつつ……(案の定、時間の基準が曖昧なので)適当な時間になったら、その都度ご飯を食べて、寝る前にはちゃんとお風呂にも入って、ぐっすり一晩くらい寝て、と——
ガッツリ一日くらい過ごしてから……きたる翌日。
現実世界では、あれからほとんど時間は経っていないことになるのだけれど……こちらは異空間にて十分に英気を養えたので、万全の状態で次なる行動を開始できる。
さて、では、次なる目標としては……いよいよ、〈魔境界穴〉のある場所を目指そうと思う。
上手くいけば、ここが——このダンジョン攻略における最終目的地になるかもしれないけれど、はたして……。
先日の〈D・G〉捜索時の移動分で、〈攻略本〉の地図との照らし合わせも十分に行えたので、肝心のワームホールの位置座標の特定については、すでに完了している。
なのでこちとら、その場所を目指して一気にヘリを飛ばすだけだ。
なんせ、〈裏界〉を通れば、あらゆる障害を気にせずビュンビュン進むことができるので……
私たちは実にアッサリと、その場所にたどり着いたのだった。
さて、では……いってらっしゃい、シノブ。
(シノブを除く)私たちは——まるで隠されるように地下深くに渡って存在している——巨大な構造物(のあるらしき場所)を目前にして……〈鏡の家〉の中で待機していた。
ここからは、シノブに一人で潜入してもらうつもりだ。なぜなら、それが一番安全かつ確実だから。
なんといってもシノブは忍者、すなわち潜入に関してはその道のプロの達人でありエキスパート。
そんな彼女に比べたら、私たちなど文字通りの足手まといだ。いない方がマジでマシなレベル。
なので、この施設の攻略に関しては——最初から最後近くまで——シノブに一任する。
というわけで……諸々の準備を終えて出発したシノブを見送ってから、私たちは観戦モードに入る。
場所は〈鏡の家〉の「鏡の間」だ。
今現在、この部屋にある三百六十度全方面の鏡には、シノブの周囲の景色がまるまる映されている。そしてそれは、今まさに高速で移り変わっていっているのだった。
そも、〈鏡の家〉というのは、現実世界——“現界”からは切り離された別次元に存在している。
そういう意味では、現界のどこにも〈鏡の家〉は存在していないといえるのだけれど……しかし、ある意味においては、現界の中の“とある位置”に存在していると言えなくもない——ともいえる。
それというのは、〈鏡の家〉と現界を繋ぐ出入り口が存在する場所、その位置座標についての仕様が関係してくる。
〈鏡の家〉——もしくは、そこに繋がる出入り口が存在する、現界における位置座標……それはそのまま、〈鏡の扉〉のある場所(または、〈鏡の扉〉が元々あった地点——というか、〈鏡の扉〉を〈鏡の家〉の中に引っ込めた場所)がそれにあたる。
つまり、〈鏡の家〉から現界に出る場合は、〈鏡の扉〉がある場所——または、あった場所——にしか出られない。
しかし、それは逆に言えば、現界にて〈鏡の扉〉を移動させれば、その移動させた場所から出られる、ということでもある。
まあ、その辺は当たり前と言えば当たり前の話なんだけれど……
でもまあ、これを利用することで、私たちは〈鏡の家〉の中でのんびり待っているだけでも、〈鏡の扉〉を持たせたシノブが移動した分だけ、実質的に一緒になって移動したも同然の結果を得られるということなのだ。
実際、今まさにこの「鏡の間」の鏡に映る景色が高速で移り変わっているのは……つまりはそれだけ、この〈鏡の家〉の出入り口の座標が移動していっている、ということなのだ。
ちなみに、この鏡に映っている景色は、現界の方の景色だ。
しかし、シノブが実際に移動しているのは〈裏界〉であり、そちらの景色に関しても(まあ、ほとんど現界の景色と同じというか、むしろ〈裏界〉の方が映るものが少ないくらいなんだけれど)一応、見えるように映し出すこともできる。
というのも、シノブには〈鏡の扉〉以外にも色々と——それこそ、例のプレイヤーの基本能力を使えるようになる〈腕輪〉も貸し出して装備してもらっているので……これにより、シノブとも通信を繋いだり、シノブの視界や付近の映像を表示したり、プレイヤーのマップ機能を同期したりなんてことが可能になっている。
おかげでシノブも迷うことなく、(〈攻略本〉によって、すでに判明している)施設の内部構造マップを見ながら一直線に、目指すべき司令塔に向けて、破竹の勢いで進行していくことができている。
そんな様子を私たちは——持ってきたソファに座って、時折り軽食やらお菓子やらジュースやらをつまみつつ——みんな揃って雑談しながら眺めているというのが、今の状況だった。
いやー……自分で言うのもなんだけれど、こんなダンジョン攻略があっていいんですかね?
とはいえ、現状ではこれが確かにベストかつグッドな攻略法なんだから……これでいいんだよ、うん。
実際——このダンジョンに入る前に——フィールドを攻略したあの時に比べても、かなり楽だし、マジでいいわーこれ。
あの時もまあ、同じようなやり方をやったんだけどね。
潜入の実働部分は全面的にシノブに任せて、私たちは待機って感じで。
だけど、あの時は私の『鏡使い』の能力がR3だったから……まだ【鏡界潜入】も覚えていなければ、“鏡の家”もなかったので、今のように(楽に)はいかなかった。
そう……あの時はシノブの【影潜りの術】を使って、私たちは影の中にて待機していた。
でも、その“影の中”ってやつは——〈鏡の家〉を知った今となっては、もはや考えられないくらいに——“鏡の中”に比べたら、居住性に雲泥の差があったんだよねぇ……
なんせ、影の中ときたら——真っ暗だし、狭いし、身動きほとんど取れないし……極めつきは、そもそも空気がないから普通に呼吸も出来ないという……(なので、酸素ボンベ的なアイテムを事前に用意しておく必要がある)極めて過酷な環境だった。
それに比べて、この〈鏡の家〉を見てくれよって……まさに月とスッポン、天国と地獄ですわ、ほんとに。
特に、外の様子が分かるってのがいいよね。
いやうん、影の中からは外の様子、一切分からなかったから。—— いやマジで、今思うと……暗くて何も見えない閉鎖空間に数時間に渡って閉じ込められるとか、こんなん普通に拷問ですわ。
だからまあ、以前のフィールドの攻略における、シノブの潜入中の活躍については……ぶっちゃけ、私もほとんど知らないんだよね。だって、影の中からじゃ何も観測できなかったから……。
そういう意味では、むしろ今回は前回のリベンジマッチというか……ちゃんとシノブの活躍をこの目で確認できるいい機会なのかも。
なんて考えつつも——事実として私の目の前では、シノブによる快進撃が繰り広げられていた。
まあでも、この成果に関しては、すべてがシノブの手柄というわけではないけれどね。
実際、幾分かは私の手柄というか、活躍している部分もあるんじゃないかと思う。
——いやまあ、現在進行形でぬくぬくと観戦している様子からすると、まるでそうは見えないというのは、確かにそうなんだけれど……
でも、それこそ——主に自分の快適さのためでもあるけれど——待機メンバーを悠々と(間接的に)運べるようにしている部分とか、そもそも敵のいない〈裏界〉を進めるようにしている部分だとかは……これは事実として私の手腕(というか、能力)によるものだし。
てかマジで、シノブも凄いけど、〈裏界〉もマジでヤバいんよ。
これってなんか、もはやアレだね、完全に“裏ワザ”だよね。
だって実際、敵のまったく出ない裏世界に入って、そこを進んでいくとか……ゲームだとしたら完全に裏ワザ使った攻略法じゃんね。
まあ、それを言うなら、シノブの使う能力もなかなか裏ワザっぽいけどね。
それこそ、【壁抜けの術】とかいって、障害物とか壁とか床とかすり抜けてガチの最短ルートで進んでいく——さっきからちょくちょくやっている——それ……もはや挙動が「バグや裏ワザありのRTAゲーム動画の画面」そのままなんよ。
おかげで、進行速度はマジで神がかっているんだけれど、その分、見ているこっちは——画面の動きは速いし挙動が意味不明すぎて——何が何やらなんだけどね。
せっかく今回は、シノブの活躍とか——あとはそう、機械獣の作った施設がどんな風になっているのかとか、じっくり観察できるなって思っていたのに……結局、ほとんど分からんのやけど、お陰様で。次々にビュンビュン切り替わっていくから……。
まあでも一応、映像以外にもマップもあるから……それを見るだけでも、この——「機械獣の異世界」においては、初めて見る——建造物の異様さってのが、伝わってくるけどね。
事実——なんかもはや、人間が使うことを想定した設計になってねぇもん、ここ。
だってまず、こんだけデカくて地下深くまで続いているのに、階段が一切ないのよ。——エレベーターっぽいのは一応あるみたいだけれど。
んで、上下移動においてむしろメインになるのは、この縦に通った通路なんだろうなって思うと……なるほど、空を飛べる機械が普通にあるような、この世界ならではの構造というわけか、なんて納得するというかね。
つーかまあ、そういう意味でも、一番反則級の活躍してるのは、このマップだろうけどね。
だって、自分たちで一から埋めるまでもなく……最初から全部埋まってんだもん。
それもこれも、〈攻略本〉とかいう激レアチートアイテムのおかげだよ。……うん、やっぱコイツが一番の戦犯(いい意味で)だったね。
だってもう、着いちゃってるもん、シノブ……目標地点として設定していた場所に。
マジかよ……結局、速すぎてロクに観戦すら出来なかった。
——いや、本当はさ、異世界の建造物ってことだし、この謎のメカメカしい施設についても、それなりには確認してみたりとかもしたかったのだけれど……そんな暇もなく終わったわ。
まあ、敵は出ないとはいえ、一部の罠とか迎撃装置は〈裏界〉でも機能するみたいなので——この施設に関しては外とは違って、内部を進む間にいくらかの障害が待ち受けているはずだった。
だからこそ私は、さすがのシノブもそれなりに時間がかかるかと思っていたのだけれど……
しかし、そんなものは私の侮りだったとばかりに……シノブは一切の遅滞なく——事実、一度もそんな妨害には引っかかることなく、もはやそんなものが本当にあったのかと疑わしくなるくらいに——実にアッサリと目的地にたどり着いてみせていた。
結局、観戦すらロクに出来ずに、謎のRTA動画を観ながらダベってたら、あっという間にステージがクリアされていた件について——って感じだ。
んー……これはいよいよ、なんか思ってたようなダンジョン攻略と違うけれど……まあいいや。
——そもそも今回のダンジョン攻略については、攫われた人たちの救出こそがその第一目標なんだから……過程なんて気にするものではないし、早ければ早いほどいい。
今回ばかりは、効率と成功率とを重視する。——お遊びはナシ、だ。
さて……とはいえ、ここまではあくまで前哨戦に過ぎない。
本番はここからだ。
いよいよ私たちの出番が、くる。
これからするのは、以前のフィールド攻略の時にやったのと同じ。
カシコマによるハッキングで、この施設を掌握する。
そのためにこそ、シノブにはこの施設の司令塔があるこの場所まで、敵に発見されずに到達してもらったのだから。
しかしここからは、さすがに隠密行動は不可能だ。
ハッキングを開始したら、さすがに敵側にも私たちの存在がバレてしまう。
だからこそ、ここからが正念場となる。
カシコマがハッキングを終えるまで、ここで防衛線を敷き、彼を守りつつ、襲いくる敵と戦う。
ここは敵の重要施設の一つ……の、はず。であれば当然、激しい戦いになることが予想される。
しかし、一度始めたら最後、途中で退くことはできない。
——そんなことをすれば、以降は敵が防衛体制を強化してしまい、もはや二度目のチャンスはやってこないだろうから。
最初で最後のこの機会に、絶対に成功させなければいけない……。
私は決意を固めつつ、出来る限りの準備を終わらせると、〈鏡の家〉から出て、現界に降り立った。
さっそくカシコマが、司令塔に接続し、ハッキングを開始する。
そんな彼を守るように並び立つのは、こちら側の全戦力だ。
非戦闘員のポエみんを除く、五人。私と、マリィと、チアキと、ランディと、シノブ。
その全員が、私の手により、すでに【O.J.】を使用していた。
——私たちプレイヤーは、すでにお馴染みの例の三体を。そしてランディとシノブも(実はあの三体以外にも、まだ他のG.S.をマリィは所持していたので)それぞれ新たなG.S.を一体ずつ、その身に宿している。
出し惜しみはしない……ここが一番の難所なのだから、すべてを出し切るつもりで臨む。
そして、カシコマがハッキングを開始して、ほどなく——
にわかに施設内が騒がしくなっていき、そして……マップには敵の反応が次々に現れていく。
来る……!
それからすぐに——激しい戦いの幕が上がった。




