第242話 ケッチャク×ト×ラクチャク
【リザレクト】
初っ端にやられてしまった不憫な子——チアキの、復活の時……きたる。
「……『“喜べ、千明鬼、お前を今から復活させる”』……」
『“……えっ、マジ? え、てか、アタシッて復活できンの?”』
「……『“……出来ないと思ってたのか? いや、お前のそれは、そもそも死んでいるわけじゃないから、わりと簡単に復活させることができる——とはいえ、失敗するのは避けたいから、焦らずに最後まで待っとけよ”』……」
『“お、おう……?”』
“戦闘不能”を解除する魔法はちゃんと発動し、誰もいない(ように見える)場所——チアキの立ち位置だった——そこには確かに、徐々に進行していく復活ゲージが現れていた。
復活のタイミングは任意に決めることができて……一応、あのゲージが半分くらいまで溜まった時点で、すぐに(成功確率の低い)復活にチャレンジすることが出来る。
でも、最大まで溜まってからチャレンジした方が成功率が高くなるので——失敗したら元も子もないし——チアキにはちゃんと、最後まで“待て”してから復活にチャレンジしてほしいところなんだけれど……復活のタイミングは復活者自身が決めることなので、こちらでどうこうすることはできない。
まあ、チアキの性格上、言っても聞かない可能性が高いような気がするとはいえ——一応はそのへん、ちゃんと注意しておきたいのだけれど……しかし、今のチアキは、そもそも言葉が伝えられない状態になってしまっている。
……のだけれど、さっきから約一名、そんなチアキに意味深にちょくちょく視線を向けてるヤツがいるんだよねぇ。
で、さっきもチラチラ見てたけど……そこんとこどーなんよ、おい。
「ねぇ、てかさ、マリィ」
「ん?」
「アンタさ、チアキのこと、見えてる? というか——もしかして、話も出来てたりするんじゃない?」
「そうだな、見えてるし話せるぞ」
「やっぱり……じゃあさ、チアキに——ゲージが全部溜まるまで待っておくように、アンタから言っておいてよ」
「大丈夫、もう言っておいた」
「さいですか……」
ピコンッ——!
「さあて……それじゃ、さしずめ、あと二十発——ってところか……ぶちかましてやるぜ」
おま、マリィ——アンタもしかして……超技だけで敵機体の残りのHPぜんぶ削って倒そうとしている……?
【ドロー】
するとマリィは、自分に対してドローを使い、ただでさえ少ないHPを——ドローによってさらに減らし——マジで限界まで削った。
おいおい……もはや危険域を通り越して真っ赤になっちゃったよ。まさに臨死域だわ……
「ちょいちょいちょい……大丈夫なんか、それ」
「問題ない……これでさらに、やりやすくなった……そら——きた」
トゥインッ——!
【強襲突貫連撃】
「いくぜおい——っ!」
そしてマリィは——これから何度も見ることになる、その“超技”を使い——巨大な人型機体に、勇ましくも襲いかかっていく……——
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「はぁ、はぁ……いよいよか」
「ああ……終わりが見えてきたな」
「おうよ、アタシを殺した落とし前ェ、きッちりつけさせてやンぜェッ……!」
「油断は禁物だよ、最後まで気を抜かないようにね……!」
「なァなァ、せッかくだから、最後のトドメはアタシに任してくンねェ?」
「言ったそばから……ダメよ、このままマリィの超技で仕留める。まあ、残りのHPによっては、ちょうどチアキがトドメを刺せる可能性もあるかもだけど——タイミングによっては。でも、わざわざその場を整えたりはしないよ」
「ちぇっ……そうかよ。まあいいや。マッドアイのあの派手な必殺技で倒した方が、スッキリするかもだしな。——や、まァ、すでに見飽きたほど見たといえば、そーなンだが……」
「まあね。でも何やかんや、一度も失敗してないから……やっぱそこははさすがだね、マリィ」
「ん、まあな……」
「え、アレって失敗とかある技だッたン?」
「失敗というか……ミスるとダメージ減るんだよね?」
「ああ……ま、やるからには、ちゃんと成功させないとだからな」
ボス級の敵、人型機体——人機との戦いも、終わりが近づいていた。
開戦直後から全体に大ダメージを喰らい、チアキなんて初っ端から“戦闘不能”にされて始まった……この戦い。
序盤は毎回のように回復を行いつつ、守護技を使ったり、相手に行動遅延をかけてと……なんとかやられないように、綱渡りのようなギリギリで切り抜けていくような状況だった。
しかし、そんな苦しい戦況の中で、なんとかチアキも早めに復活させて、バフやデバフを切らさないように気をつけつつ、大技にも警戒して、その都度いい感じに対処していき——何度か危ない場面がありながらも——乗り切った中盤戦。
いよいよ自分の負けが見えてきたようで、明らかに動揺を露わにした相手を、今度はこちらから逃げられないように追い詰めていく形になった終盤戦。
そして、その終盤戦もいよいよ、今まさに大詰めを迎えようとしていた。
この戦いにおける私の役割は、一に回復、二に回復、三四にちょろっと他のことをして、五にはやっぱり回復、と……完全に回復役そのものだった。
意外というか……このメンツの中では、STの傾向的に——回復力に直結する魔力や、素早くターンが回ってくる速力の高さなんかが、まさに——一番ヒーラーに向いているのが私だったので……結局、最初から最後まで私が一手に回復を担っていた。
異世界に入る前の準備の際に——用意していた回復魔法のスフィアを惜しみなく使い、常にメンバーのHPを万全の状態に保つ。
敵の人機の攻撃力もさるものだったけれど、さすがに守護技を積んだ私たちを一撃で倒せるほどでは無かったので、それでなんとか持ちこたえることができた。
いやまあ……実のところ、それでも中にはこちらを——守護技の上からでも——一撃で葬れるくらいに強力な攻撃も、ありそうな感じだったのだけれど……
でも、そういう大技には、すべからく“溜め”の動作が必要だったので……毎回どうにか妨害して不発に終わらせることで、なんとか切り抜けることができた——という感じだった。
相手の大技はそうやって妨害しつつも、逆にこちらからは強力な攻撃——超限技を相当な回数お見舞いしてやった。
そう、私が回復だとしたら、メインの攻撃役になっていたのがマリィだった。
隙を見つけてはガンガン超限技を発動していき、確実にダメージを稼いでいった。
G.S.を召喚している間は、受けるダメージを肩代わりしてもらえるとはいえ……一撃でも喰らったら即敗北なHPで終始戦ってるんだから、見てるこっちとしては、ちょっとヒヤヒヤさせられたけど。
まあ一応、このATBFの仕様とか、諸々を考慮すれば——最悪、負けても死なない安全マージンは取れていたから、そこはマリィの覚悟を尊重したけれど。
——いやまあ、マリィ本人は別に、恐怖とかそんなんぜんぜん感じてないんだろうなって気はするけれど。元々そういうヤツだし。
何にせよ……状況的に、マリィの超技で削るのが一番効率が良かったから、この危険人物にはそのままレッドゾーンを突っ走って——最後まで突っ切ってもらった。
レッドゾーンというなら、チアキなんて敵の最初の一撃で、そんなトコロすらぶっちぎったところに行ってしまっていたけれど……。
とはいえ、そんなチアキも私の魔法によって無事に復活を果たしてからは、自分の役割をしっかりとこなして、ここまでの戦闘に貢献してきていた。
それも、派手な活躍ではなく、あくまでサポート役として——まあ、当の本人であるチアキは不服そうだったけれど——敵の妨害や味方の支援などを主に担当してくれた。
地味な活躍といえば、確かにそうかもしれないけれど——いやでも、敵の“溜め攻撃”の妨害とかは、これは事実としてチアキ(というかクロコ)が一番の適役だったし、これが上手くいかないと普通に負ける可能性が高かったので、実際のところ彼女の功績はかなり大きい。
とはいえ、それを実感するには——敵のその、“必殺級の一撃”を実際に喰らってみないと分からない部分があるといえばそうだし……しかし我々は、結局は一度もその発動を許すことなく、すべて妨害に成功していたので……それゆえ、チアキ自身、自分の行動の重要性を理解していないフシはあったけれど。
それでも——基本的には自分勝手な性格をしている——あのチアキが、自分では地味な役割だと思っている、そんな地道な活動を、ちゃんとこちらの指示通りにこなしていたのは……これはおそらく、指示を出していたのがマリィだったから、なんだろうか。
——なんか知らんけどチアキって、マリィの言うことには文句も言わずに素直に従うフシがあるんよね……。
まあそもそも、このATBF自体、マリィの能力だし……だからって部分もあるのかな?
「……おいこれ、もうイケんだろ。次のアタシのターンに倒せるよな?」
「んー、そうね」
「じゃあいいよな? ——アタシにやらしてくれるよな? トドメの一撃をよォ!」
「とか言ってるけど……」
「ま、いいんじゃねーの」
「サンキュー、マッド! 悪いな、トドメだけ譲ッてもらっちまって」
「いいさ、別に。それに——やられた分は、ちゃんとやり返さねぇとだからな」
「さすが……分かッてンじゃん」
「ふーん……だったら最後だし、“終幕技”使えば? まあ、アレなら万が一にもHPが残ることはないだろうから、確実だし」
「お、いいねェ、じゃ、それでいくわ」
「でもあれ、わりと発動遅いぞ」
「え゙ッ、じゃあダメなン?」
「あ、そうやん、どうしよ」
「お前の“溜め”渡してやれよ。ちょうど千明鬼の後——敵より先——に、お前の手番来るし」
「あ、そうだね、それがあったか。うん、最後だし、これもあげるよ」
「おう、なンか知らんがサンキュー」
てなわけで結局、最後のトドメはチアキのG.S.による終幕技により、文字通り幕引きとなった。
【灼熱煉獄砂嵐】
私が渡した“溜め”により、無事に相手より先行して発動したクロコの終幕技は、膨大な熱を孕んだ巨大な竜巻のような砂嵐を顕現させるという大技だった。
クロコはまず、一つずつ小規模の竜巻のような熱砂嵐を次々と発生させる。すると、その熱砂嵐は、敵人機の周囲を取り巻くようにグルグルと回りながら徐々に合体していき……
すべてが合体した時には——天を衝くほどに巨大で、かつ、大規模な湖すら干からびさせるほどの莫大な熱量を内包する——まさに地上に地獄が顕現したかのような、異様なる威容が完成していた。
その真っ赤な煉獄に囚われた人機は——自慢のその巨体も、さらに巨大な熱砂嵐の前ではなす術もなく、やおら全身をすっぽりと飲み込まれてしまい——猛る灼熱に焦がされ、唸る砂塵に砕かれる……。
そして……巨大竜巻型熱砂嵐が過ぎ去った後には——HPをすべて削られた人機の姿は光と化して消えてしまい、すでに影も形も無くなっており——もはや何も残ってはいなかった。
というわけで……見事、クロコの終幕技が文字通りトドメを刺し、私たちは強敵だった人型機体を撃破することに成功したのだった。
うんうん、クロコの終幕技は初めて見たけれど、ビジュアルとしてもかなり派手だし、とても素晴らしいワザマエでしたわ。
まあ、見た目はホントに大満足の大迫力だったんだけれど……でも、これだけの規模の攻撃でも、敵の受けたダメージはいうて「3468」だった。
うーん、なんだろう……それこそ、マリィの超技と比べると——ダメージが低すぎるというか——どうにも、ビジュアルと威力があまり噛み合ってない気がするんだケド……。
まあいうて、終幕技はピンチにならなくても普通に放てるし、一回使ってもまたその都度G.S.を召喚しなおせば別に何度でも撃てるわけだから……そうね、こんなもんといえば、こんなもんなんかもしれんね。
ともかくこれで、大激戦になったボス機体との戦いは、無事に私たちの勝利で終えることができた……
ふぅ——と一つ、息を吐く。
ヘリだけが進んでいく荒野の上空にて、ただ終幕の凱旋曲の華々しい旋律だけが鳴り響いている中……
リザルトでドロップアイテムを獲得したり、消費した分のリソースに対してのスフィアの支払いの精算なんかをしっかり済ませたところで……
まるで幕を引くように、ATBFの解除と共に、視界が暗転していく——。
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相変わらずのヘリの中だけれど——現実空間に戻ってきた私たちは、強敵を無事に排除できたことを改めて実感して、いまさらながらに胸を撫でおろした。
しかし、いつまでもボス討伐の余韻に浸っているわけにもいけないので……残りの仕事をさっさと終わらせる。
まずはD・Gを運んでいる残り数機の機械獣をまとめて排除する。
なんかコイツらは複数まとめて一つのグループ扱いらしく、一体に攻撃したら複数まとめてATBF入りした。
とはいえ案の定、全機そろってフリーズしていたので、問題なく排除する。
敵を倒しきって再び現実空間に戻った時には——“鏡の窓”を通して——私の見ている目の前で、今まさにD・Gが真っ逆さまに地上へと落下していくところだった。
……まあ、吊り下げて飛行していたヤツを消し飛ばしたんだから、トーゼンそーなりますわ。
あー、やべーなあれ、どーしよ。
いやそりゃ、出来ることなら落とさないように空中でキャッチしてやりたいところなんだけれども……
しかしあいにくと、そう上手いこと事を運べそうな方法などには、なにも思い当たるフシがなかった。
——まあ、そもそも今の私たちってば、色々と能力に制限があるもんだからなぁ……。
とはいえ、そのまま放置して落下するに任せるのはさすがに不憫だし、結構な耐久力はあるとはいえ、このまま地面に激突させてしまうのはいささか不安だったので……私は一肌脱ぐことにした。
「あー、まァ、そりゃそーなンだが……落ちてンな」
「うん、だからちょっと行ってくるね」
「は?」
「ああ、気をつけろよ」
そう言うなり、おもむろに私はバッと——現実世界に繋いだままの“鏡の窓”に飛び込みつつ、同時に——ヘリから飛び出す。
「おっ、オイィィッッ——?!」
『What's?!(ええっ!?)、キャガミンっ!?』
という——“鏡の窓”越しに聞こえる——チアキとランディの叫び声(という名のツッコミ)から遠ざかるように、どんどん私は落下していく。
……のだけれど、すでに落下を開始しているD・Gには、そのまま自由落下していくのでは追いつかない……
なので私は、現在の防具形態である「環闘装束」に搭載している新機構である「噴進機構」を使用して——体の各所に搭載されているブースターから、勢いよくブーストすることで——自由落下からさらに加速していき……
——うぉぉぉぉ、いっっけぇぇぇぇぇッッ!!!
程なくして、D・Gに追いつくことに成功する。
そのまま、これまた新機構の「吸着機構」を使用して——両手の指先と両足つま先の四点で——落下するD・Gにしっかり取り付く。
なんとかD・Gに取り付くことができた私は、間髪入れずにD・Gに対して【軽化】のスキルを使用する。
幸い、〈O.J.〉は使ったままなので、STには余裕がある。
とはいえ、モノがわりかしデカいので、スキルの効果を十分に発揮させるには、それなりに時間がかかりそうだ……
しかし、今まさに高速で落下中の私たちには時間の余裕は無い。はたして間に合うだろうか——?
そんな不安を抱えた私を取り付けたD・Gは——
そのまま、なんの忖度もなく速度を上げながら地上に向けて落下していき……そして、その勢いのまま地面に激突して、派手な音と響き渡る衝撃を周囲に盛大にぶちまけた。




