第241話 これがATBフィールドでの(ちゃんとした“動く敵”との)バトルだっ!!
クロコが【砂状鎧纏】を使ってほどなく……
ピコンッ——!
人型機体にターンが回ってきた。
【グレイトスラッシュ】
すると人機は、その巨大な機体で扱うに相応しい大きさの(メカメカしい)大剣を背中の辺りから引き抜くと、大きく振りかぶり……クロコに向かって突進しながら斬りかかった。
ザシュッ——!!
ぐぬぅッ!! マジか、「4328」ダメージだと?! 守護技使ってんのに、そんなに喰らうんか……っ!?
この一撃でクロコのHPは一気に危険域に突入してしまった……ヤバいな、迅速に回復させなくては。
まあでも、順番的に次は私のターンだし……
そもそも、クロコに直接攻撃した人機はというと——“砂状鎧纏”の持つ特性により——今まさに、その大剣を砂に絡めとられて動き(とATBゲージの進行)を止められているので……(さっきの全体回復で、ちょっとATBゲージの進行が遅いとはいえ)私の出番が間に合わないってことはないだろうけれどね。
ピコンッ——!
案の定、いまだ動きを封じられている人機に先んじて——私のターンがきた。
——ここでようやく、人機は大剣を砂から引き抜くことに成功し、元の位置に慌てて引き返すと同時に、ATBゲージの進行が再開し始める。
さて、私はクロコを回復させるとして……ルコアには何を使わせるかね。
「……えっと、『エム・エルリカバー』でいいかな、クロコ」
「そうだな。ま、足りないよりは足りすぎるくらいでいいだろ」
「うん。じゃあ、ルコアの方は……『電磁障壁』で?」
「ああ——お前には己がさっきつけた“氷盾装纏”があるから、次はそれをG.S.につけてやれ」
「いいの? また私——というか、ルコアで。アンタは?」
「己はいいよ、元から守備力高いし。まあそれに……出来るなら、なるべく自分の属性の守護技を使った方が相性いいからな」
「なるほど……そういうことなら、りょーかいでーす」
【エム・エルリカバー】
まずは私が回復魔法でクロコのHPを——数値にして四千そこそこ——回復させる。
【電磁障壁】
続いてルコアが、雷属性の守護技を自分自身に発動する。
ピコンッ——!
マリィのターンだ。
【氷盾装纏】
まずはダルシに指示を出し、自分に守護技を使わせる。
「受けに徹してるだけじゃ、いつまで経っても倒せないからな……攻めるぞ」
そしてマリィ自身は、何やら気迫もあらわに集中していく……
むっ、マリィのヤツ——アレをやるつもりだな……!?
あの集中の仕方……間違いない。
——おそらく今のマリィは、心の中で△ボタンを連打しまくっているのだろう……。
やるんだな……今ここで——ッ!?
確かに、このまま守ってばかりではジリ貧だし、少しずつでも攻撃していきたいところではある。
とはいえ、敵もかなりの強者、攻撃の威力も相当であり、回復無しではマジで2ターンも持たないというギリギリな状況が最初から続いている以上、まるで余裕はない。
だとすれば、こちらも通常攻撃やらでチマチマとダメージを与えている場合じゃない。なるべく“強力な攻撃”をぶちかまして、出来るだけ一気に削るべきだろう。
……ああそうか、マリィはハナからそのつもりだったから、自分のことは回復しなくていいって言ってたのね。
今のマリィのHPは、全体の二割ほどしか残っておらず、通常とは色も変化して危険域に突入している……
となれば、“あの技”を発動するための条件としても、申し分ないということで……
と、その時——
トゥインッ——!
一瞬——すでに間近に迫っていた——敵の人機のターンが来たのかと思ったが、違う。
この音色こそは——マリィの覚醒の象徴ッ!
マリィの【アタック】のコマンドが——自身の危機に呼応して——【超限技】に変化したことを表す……それはまさに、福音。
ピコ——
【強襲突貫連撃】
人機のターンを告げる通知音に被せるように——マリィは自分の武器の超限技を発動した。
ガンブレードを構えたマリィが、勢いよく人機に飛びかかる。
そして瞬く間に人機の眼前に迫ると、その場で豪快に——かつ連続して、ガンブレードを振る、振る、振る……ッ!!
ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!! ドォォンンッッ!!
そして、斬りつけるたびに——斬撃の音とはとうてい思えないような爆裂する重低音を発しながら、その爆音に相応しい衝撃をぶち撒けていく……ッ!
まるで花火大会のような——その派手な連撃の最後、締めの一撃は……
【全弾炸裂】
ドドドドドドォォォォンンッッッ——!!
ひときわ派手な——そして、幾重にも連なる——爆裂音を響かせながら多段ヒットする強烈な一撃だった。
『“うおぉぉぉッ!? スッッゲェな、なンだコレッ?! 必殺技かッ!? おいおいヤベェな……やるじゃねェかマッドアイィッ——!”』
す、すごい……っ!
見た目もキマってるけど——これはどう見ても『連続剣』です本当にありがとうございます——ダメージも相当出てたぞっ!
次々にダメージ表示が出るから、正確な値は分からんかったけど——でも、最後のフィニッシュも含めた合計値は、おそらく一万五千を超えるくらいのダメージになっていたハズ。
ふむ、たいていの機械獣なら、この一撃で倒せてもおかしくないくらいのダメージだけれど……
しかし、マリィの“超技”を受けた人機は——攻撃を終え、飛び退いてヘリに戻ったマリィを追撃するように——特に痛痒を感じさせずに、即座に次の行動を開始した。
【チャージブラスター】
人機は何やら、おもむろに銃のような武器を構えると——それをマリィにピタリと照準を合わせて停止させる。
そして、その巨大な砲口からは——今まさに、溢れんばかりのエネルギーが溜まっていっているのだと……そう主張せんばかりの、激しい光が漏れだしていき……
おいおい——見た目や技名からも分かるけど——お前それ、まんまチャージして強力な一撃をぶっ放す系のヤツじゃん……!
ついさっき、マリィからあんな強力な攻撃を受けたというのに……まさかその直後に、そんな隙のデカそうな攻撃をあえて選ぶだなんて……
それはなんだか——あれだけのダメージでも、てんで大したことなかったと……まるで、そうとでも言わんばかりの自信が透けて見えてくる。
実際のところ、さっきの攻撃でも大した痛手になっていないのだとしたら、ヤツの強さ(というか最大HP)はどれほどだというのか……
というか、そもそも……そのチャージ攻撃、喰らって耐えられるもんなのか、私らは?
「あれは……まずいな、喰らったらたぶん、HPが最大でも死ねるぞ」
「だよね……じゃ、どーする」
「それは、もちろん……撃たせないようにするんだよ」
そこでマリィは、チアキのいた方に視線を向ける。
「……『“千明鬼、お前——というか、G.S.の出番だ。鰐蜥蜴の限定技——「充填撃破」で、あの攻撃を阻止しろ”』……」
『“へへっ……嫌がらせすンのは得意だぜェ——任せなッ”』
ピコンッ——!
クロコのターンが来た。
——人機のATBゲージは、まだ溜まっていない……
しかし、私やマリィのターンが来るよりは、人機のターンがくる方が早そうだ。
人機のあの攻撃が、“溜め攻撃”なんだとしたら……ヤツのATBゲージが溜まった時、あの攻撃は実行される。
それまでに、私たちに出来る対策は——
【充填撃破】
クロコが、まるで振り子のように勢いをつけてヘリから飛び出すと、人機に向かって突っ込んでいき——そのまま人機に取りつく。
人機に張りついたクロコは、そのまま人機をグワングワンと勢いよく揺さぶっていく。
そうして、ひとしきり揺さぶり終わったところで……クロコは満足したかように——別れの挨拶とばかりに、最後に盛大に人機を蹴りつけてから——再び大きく跳んでヘリに戻ってきた。
それで、クロコに散々振り回された人機の方はといえば……揺さぶられるたびに(すでに溜まっていた)ATBゲージが削られていっており——最終的にゲージはゼロになり、どころかチャージ動作自体もキャンセルさせられていた。
おお、上手くいった……!
良かった……一番の対抗策である技が成功してくれて。
タイミング的に、クロコのターンがここで来たのは幸運だった。
しかし、さっきからクロコが適切な選択を外していないのは……やはり、マリィが何か指示をしているからなんだろうか。
——さっきも何やら、意味深に視線を向けていたし……
つっても、今のクロコに真の意味で命令してコマンドを実行させられるのはチアキだけだし、だけどその肝心のチアキは“戦闘不能”だし……
まあ、戦闘不能とはいえ、厳密には死んでいるわけではないので、今のチアキでもクロコに命令することはできるのだけれど。
とはいえ、“戦闘不能”になった味方は“非実体化”するから——敵の攻撃からは安全になるとはいえ——マジで私にも視えなくなってるし、マリィも視えないハズなんだけど……さて、一体どうやって今のチアキとコンタクトしてんのやら。
ピコンッ——!
っと、私のターンだ。
現状、HPが減っている味方はいないし、守護技もすでにほとんど行き渡ってる——と、なると……
「自分、“スキャン”いっていいスか……?」
「まあ、そうだな……確かに、早めに使っておいた方がいいかもな」
「っす、じゃ、いくっス」
ぶっちゃけ、ずっと気になってたかんね……
では、この人機が、はたしてどれくらいの強さなのか……いざ、ご開帳じゃ!
【スキャン】
“スキャン”はちゃんと発動し——その効果により、人型機体の戦力が判明する。
【搭載式飛行型戦機種統率機フロントライダー】
HP——「307164/324500」
DP——「160350/172600」
種類——「機械」
属性——「光」
弱点——「雷」
おっほ……!
HP30万超え——?!
マジかこりゃ……だいぶ強ぇぞ。
んでも、コイツ——人機ではなく——人型機体も機械獣の例に漏れず、弱点は「雷」か……
なら、ルコアには、さっそく攻撃させる……?
……いや、長期戦は避けられないんだ、ここは慎重になるべき……
なら、余裕のあるうちに、保険をかけておくか。
「……なかなかの強さだな。超技を使って一割も削れねぇか」
「これは長期戦もやむなしだろうね。今のうちに『充填行動』使っておくよ」
「ああ、それがいいかもな」
【充填行動】
というわけで私は、ルコアの限定技である“充填行動”を彼女に使わせる。
するとたちまち、チャージ体勢に入るルコア。
「せっかくの“溜め”が失敗するのもあれだし、己も協力してやるよ」
そう言ったマリィは、自分のターンがくると——自分の行動分を譲り、先にダルシに自分に対して“氷盾装纏”を使わせてから——ルコアに続いて、ダルシにも限定技を使わせる。
【隣辺警護】
ピコンッ——!
ちょうどその時——ダルシの技の発動がギリギリ間に合ったタイミングで——人機のターンがやってきた。
【ブレイズインパクト】
間髪入れず、人機は勢いよくルコアに迫り、至近距離から銃のような武器をぶっ放そうとする、が——
そこに颯爽と現れて、ルコアを守護るように人機の前に割り込んだのが、他でもないダルシだった。
ズドォォンッッ!!
強烈な人機の攻撃を、翼を盾にするように構えて受けたダルシ。
強い衝撃に大きくよろめかされていたが、それでもしっかりと攻撃を受け止めており、ルコアのことを守り切っていた。
いいぞダルシ! おかげでルコアは無事だ。
チャージ中に攻撃を喰らうと、チャージを中断させられることもあるからね……助かった。
ダルシのダメージも——アイスシールドのおかげか——そこまで深刻じゃない。とはいえ、次の私のターンには回復させるけれどね。
ピコンッ——!
クロコのターンがきた。
マリィを見ると、やはりチアキ(が今やいない地点)を見つめている……
『“きたな——マッドアイ、次は?”』
「……『“そうだな……「流砂地縛」だ”』……」
『“あいあい”』
というか、チアキも早めに復活させたいんだけれど……次あたり、どうやろか、いけるかな。
【流砂地縛】
クロコの発動した技により、人機の足元に砂の地面のようなものが発生し、ヤツの動きを鈍らせる。
——行動阻害技……具体的には、これで人機のATBゲージの進行が遅くなる。
これで少し、時間に余裕ができるかな……?
ともかく、チアキを復活させるにも時間がかかることだし、やっぱり早めに取り掛かっておくべきか。
うーん、でも余裕というなら、それこそ“電光加速”とかも使っておきたいんだけれど……
ま、その辺はおいおい、機会を窺いながら、かな。
ピコンッ——!
私のターン。
まずはダルシを回復だ。
【エス・ラ・エムリカバー】
エスリカバーを一つ、エムリカバーを二つ使い、さっき受けていたダメージと同じくらいでキッチリ回復させる。
さて、では、もう一つの行動分は……
「そろそろチアキを復活させようかと思うんだけれど……どう?」
「まあ、早い方がいいか。おう、やってやれよ」
「りょーかい。では……蘇れ——ジャイアキ!」
【リザレクト】
私は満を持して——視えないけど、たぶんそこにいるハズのチアキをターゲットにして、“戦闘不能”から復活させる魔法を使用した。




