第22話 うそはうそであると見抜ける人でないと(ネットで情報を得るのは)難しい
今夜の寝床が決まった。
そして私は今は一人、ベッドに乗らせてもらっている。ベッドの方をボーって見てたら、なんかベッドで寝れないのを残念がってると思われて、今だけでもどうそ、みたいに言われたのだ。見てたのはベッドではなくて、そこに置いてあった時計だったんだけど。
なぜかやたらと藤川さんがベッドを推してくるので、お言葉に甘えてベッドに寝っ転がっている。あの人はたまに何かを猛烈にプッシュする気がするね。
そう、私の今夜の寝床はベッドではない。一人寂しく布団で寝ることになった。
——自分でそう決めたんじゃん。
そうだけど。別に何か不満があるわけじゃないよ。
——なら一人寂しくとか言うなし。
そうだね。私にはアンタがいるもんね。
——それ客観的に見てメッチャキモくない? つーか実質一人なんだが?
夜は私もアンタに用があるんだよ。
——ワタシに?
そう。私の能力について、色々調べてみようと思ってね。だからアンタにも手伝って欲しいってこと。
——ぐっすり眠りたいんじゃ無かったの?
そうだけど、さすがにこの状況で呑気に寝てられないでしょ。とりあえず自分の能力を把握して、状況を確認して、と出来ることをやっておかなきゃ。寝るのはその後。いや、今日は寝れないかな。
——休息を取ることも大切だと思うけど。
寝てる間に襲われないならね。今現在は、残念ながら、その保証は無いと言わざるを得ないんじゃない?
何かあった時にすぐ反応出来るように、起きて見張ってた方がいいと思う。いわゆる、不寝番ってやつ?
——それって、普通、二人組とかでするんじゃなかったっけ?
いや別に、細かいことはどうでもいいんだよ。何かあった時に爆睡してたらダメだってこと。
それに、私は早く自分の能力について確認もしなきゃだから、それなら、今夜は寝ずに確認してしまえばいいかなってこと。
——まあ、身の安全の為にはそれがベストか。二人には、その事は言わないの?
言わなくていいでしょ。怖くて眠れないくらいなんだから、本当に眠らないでいる必要なんてないよ。二人はぐっすり眠ってくれればいい。明日もどうなるか分からないんだから。
——それはアンタも同じでしょ。
そう、だから出来ることをやるんだよ。……本当に、何事も無ければいいんだけどね。
——本気でそう思ってる? むしろ、こんな状況にもワクワクしてるんじゃないの?
まあ、それは否定出来ないね。正直、めちゃくちゃドキドキしてるよ。これからどうなるんだろうってね。
実際、私がいつもの、いや、昨日までの私だったら、さっきの二人みたいに普通に寝るのも怖がってたかもね。
でも、今は違う。今日の私は、昨日とは明確に違う私になってる。
——謎の力、か……。
そう、それがあるから、私は恐怖を感じない。むしろ、こんな状況にワクワクしている。
私の能力が、一体どんなものなのか。これから先の状況が、どうなっていくのか。想像が止まらないんだよ。
——元々、妄想癖なのに、さらに悪化しちゃうわね。
お陰でアンタも顕在化しているんでしょ。まあ、これは私なりの思考法でもある。あえて色々と難癖つけてくるヤツを対話相手に据えて脳内で議論を交わすことで、考えを整理していくっていう。
まあ、癖みたいなもんだよね。そうして対話方式にした方が、考えやすいんだよねー、なんかねー。
——まあ、ただの妄想癖の末の産物とも言えるけど。正直、自分でもたまに行きすぎてるって自覚あるんじゃない?
いわゆる二重人格みたいな? そこまではないでしょ。妄想くらい誰だってするよ。
それに、二重人格だとしたら、もう少しアンタのキャラ強くないとじゃない?
——それはそれで面倒なことになるわよ。
あー、そうかも。なら今のままでいい。
私がベッドに寝転んでボーッとしているように見えて、その実、いろいろと考えている間にも、藤川さんとマナハスの二人は、スマホでネットを見て情報を探っているようだった。
私もさっきまで色々見てたが、結局、よく分からないというのが結論だ。
一体何が、どれだけの規模で、いつから始まったのか。ネットの断片的な情報では、部分部分が見えるだけだ。
しかし、それまでで得た情報だけでも、何かが起こっているのはこの街だけではなく——日本各地、というのも飛び越えて——どうやら、世界のあちこちでも色々起こってるみたいだ、というのが何となく分かった。
今や誰もがネットで情報を発信出来る時代だ。もしも現実に怪獣やゾンビなんてのが出てきたら、すぐさま付近の人間が動画をネット上に投稿するだろう。
まあ普段なら、そんな動画はフェイクかムービーのコマーシャルかというところだが、実際に自分の目で見た後だと、本物じゃないのかと思わざるを得ない。
「あー、分かんねー。結局ー、今ー、何が起きてるのよー?」
マナハスが、スマホを投げ出してぼやく。
「どうにも、断片的な情報しかありませんね」
「まあ、今まさに始まったばかりってことなんじゃない? 分かんないけど。全体像が見えるまでは、まだかかるんじゃないかな」
「少なくとも、この辺りだけの出来事ってわけじゃなさそーだよな」
「日本はおろか、世界中で起きてるっぽくない?」
「でも、公式のニュースとかあんまり出てないんだよなー。個人の動画とかばかりで。何でだろ?」
「それはー、まあ、怪獣が出たとか、事実でも真面目なニュースじゃやりにくくない?」
「そんな理由なのか?」
「さあ? 事実確認に時間がかかってるとか? 事が荒唐無稽すぎるからね」
「確かにー。真面目なニュース番組で、怪獣が〜とか言ってるのはヤバいな」
「その点、ネットはユーザーが投稿するだけだしね。リアルタイムの情報がすぐ発信される」
「だけど、ネットの情報だけじゃさー、なんかホントのことなのかどうか、イマイチ実感できないんだよねー」
「確かに、そんな感覚ありますよね。テレビのニュースでやってた方が、まだ信じられるかもしれません」
まあ、そういうとこあるよね。ネットの情報って、結構、デマとかウソも多いし。
「つーかこれ、私の実家の方は大丈夫なんだろうか……」
突然、マナハスがそんなこと言い出した。
私もマナハスも地元から遠征してここまで来たので、こんなことになっては、家の方が心配にもなるよね。
「電話しとくか……、電話してもいいかな?」
「あ、はい。どうぞ」
「あー、私も一応、電話しとこうかな。真奈羽がここでするなら、私はちょっと廊下に出とくよ」
そう言って、私は部屋から廊下に出る。そしてスマホを取り出す。
今の時間くらいだと、母さんは出かけてるかなぁ。よし、それなら風莉にかけるか。アイツなら多分出れるでしょ。
私の妹の風莉は、現在、中学二年生。思春期真っ盛りで、姉のことを大して敬っていない生意気な妹である。
私たちは、あまりお互いで電話とかしないので、突然、私から電話が来たら風莉は驚くかもしれない。
連絡先の風莉を選んで電話をかける。長話をしたいわけではないので、簡潔に連絡事項を確認する。つまり、あっちの状況を聞いて、こっちのことを報告する。
とはいえ、こちらで今日あったことを話したら簡潔どころではないので、そこは飛ばして、単に今日は友達の家に泊まることになったから、みたいな報告だけをしておく。
元々、泊まりの予定とは言っていたので、別にわざわざ言わなくてもいいっちゃいいのだけど。
電話は手短に終了した。元々、私と風莉は電話で長話をするような間柄ではないので、通常通りだ。つまり、向こうは特に何も無かった。
それとなく確認してみたけど、普段となんら変わらない様子のようだった。どうやら、私の実家付近では何も起きていないらしい。とりあえずはホッとした。
一応、風莉には気をつけなよーみたいな事を言っておいたが、今のところ何も起きていないなら私が何か力説したところで無駄だろう。案の定、向こうも——何が? って感じの反応だった。
しかし、どうするかな。このまま事態が広がっていくようなら、そこそこ田舎といえる私の実家も無事ではなくなるかもしれない。そうなると、やはりすぐにでも戻るべきか。
しかし、戻ろうにも交通手段が無い。電車で来た私は、その一番近い駅が吹き飛んで壊滅しているんだが……うーん、どうしよう。
まあ、先のことはおいおい考えていこう。そもそも、まだこの事態がどういう感じに進んでいくのかも分からないし。
案外、大事にならずに、そのまま日常が続く可能性だって……
——すでに大事が起こってると思うけどね。
そうなんだけど。でも、災害とかだって、いずれは復興して元に戻っていくじゃん。
——それは、続けてその後に何も起こらない場合じゃない? 地震や台風は確かに恐ろしいけど、常にあるわけじゃない。でも、今回の事態はどうでしょうね。怪獣は一回だけとしても、ゾンビのこともあるし、というか、怪獣だって一回とは限らないわよ。
もしも、怪獣発生が今後も連続的に起こるなら、正直、人類滅亡待ったなしって感じじゃない?
——人類が何の抵抗も出来なければね。
軍隊とかで勝てるのかなぁ。恐竜くんは、戦車とかもお構いなしって感じだったけどなぁ。
まあ、遠距離からひたすら撃ちまくれば、あるいは。
——他のところに現れた怪獣は、どうなっているのかしらね。今も暴れ続けてるのかしら。
探してみた限りじゃ、怪獣を倒した——みたいな情報は見つからなかったなー。
——案外、倒されてるの、アンタがやった恐竜だけだったりして。
それは……ヤバいな。なんかそれって、私みたいな力に覚醒した人しか怪獣は倒せない、みたいな。そんなこと、あったりするのかな、なんて、今思ってみたりして。
——可能性はあるわよね。あの恐竜も、謎のバリア的なモノを持ってたみたいだし。普通の武器は効かないとかありそうだわ。
そんな感じの設定って結構あったりするけど、実際そうだったらヤバいよなー。
なんて考えながら、私は部屋に戻った。