第219話 ビリビリお仕置きしちゃうぞ♡
ぬぅ……“流転”で弾いているだけじゃ、埒が明かないな……。
水島くんが飛ばしてくる水弾を、新たに覚えた受け流しの“刀技”——“流転”にて防いでいる私だったが……今のところは防御に徹しており、攻めに転じる契機を窺っているところだった。
なんとなく、周囲に人がいるからとっさに防御したけれど……それに関しては、事前にシノブに頼んで観客たちを守るように結界を張ってもらったし、気にしなくてもいいっちゃいいんだけれど。
「あれあれぇ? おねーさん、防御するだけ? それじゃあ、おれには勝てないよ〜?」
なんか向こう、スゲェ煽ってくるし……うん、そろそろこちらからも攻めるか。
しかし、どうしようか。周りはもう気にしないようにするにしても、ST的には私の方が明らかに劣勢なのは確かだし……
——地味にカノさんがいないのも痛いな……【並列思考】自体は使えるけど、カノさんがいないと、これがどうにもやりにくい……。
まあ、ないものばかりを考えても仕方がない。
それになにも、すべてが向こうに負けているわけじゃない。私が向こうに勝っているものもある。
それは一つ挙げるなら、手札の多さだ。あちらのジョブは『水使い』だけだから、水を操るだけ。
対する私のジョブは七つもある。手数の多さでは圧倒している。
その優位をどう活かすか……それは私が自分で考えて実行する必要がある。
“攻略本”には、水島くんとの一対一に持ち込めば、あとは適当にやっても勝てるって感じで、具体的にどうしろとは書いていなかった。
これは事実そうだから、そう書いてあるのか……もしくは、戦い方についてまで詳しく書かないよという、書き手の方針なのか……
まあ、自分のことだから分かるのだ。そこにまで口を出してはさすがにつまらんから、そこは“その時の私”に任せる——とかって考えていそうだな、というのは。
まあどっちにしろ、“攻略本”に指定がない以上は、私も好きにやらせてもらうとしよう。
……なんなら、いっそのこと、試したい技を片っ端から試してやろうかな。
いやなんせ、“盤上戦術”の戦いが終わってからこっち、能力が一気に増えたけれど、いまだにろくに試せていないので……本心では、早く色々と試したくてウズウズしているところなのだ。
さて、では、そうだな……
案外、近接戦の方が危険なんだよね。あの水による拘束を喰らっては、実際のところ私もかなりマズいんで……
とすると、遠距離戦でそのまま仕留めたいところなんだけれど……カノさんもいない今だと、防御しつつ攻撃ってのもなかなか、難しいのよね……
となると……アレだな。防御と同時に攻撃できる——というか、防御をそのまま攻撃にする——あの技だ。
ぶっつけ本番だけど……まあ、やってやろう。
そうと決めるや、私は“流転”による防御をやめて、水弾を回避していく。
そうしながら——反撃の布石、その第一弾を発動する。
『“鏡面刃装”』
すると、私の持つ刀の刀身が、キラキラと光を反射してきらめく鏡面に変化する。
——これで、この刀は鏡と同等の性質を持つようになった……。
今なら、この刀を介して“鏡技”を使える。
使うのは、あの技だ。
『“鏡面反射”』
私は飛んでくる水弾に向けて、刀を——刀身の側面が向くようにして——構えると、その技を使い、刀に当たった水弾をそのまま弾き返した。
「——っ!?」
弾き返した水弾は、驚く水島くんに見事に命中——せずに、その体からおよそ数メートルくらい横を突き抜けていった。
むぅ……さすがに最初から完璧にコントロールするのは無理か。
まあいい。それならそれで、当たるまでやるまでよ。
私が水弾を反射したのを見た後も——その場から動き回りつつ攻撃するように変化しつつも——水島くんは変わらず水弾を飛ばしてくる。
動いていれば、どうせ弾き返しても当たらないと高を括っているのか、一発でも私に当てるまでは終われないと意地になっているのか……
向こうの思惑はともかく、そちらがそのつもりなら、こちらも最後まで付き合ってやるさ……!
飛んでくる水弾を時に躱し、そして良さげなコースに来たものは積極的に打ち返していき……
そんな攻防をしばらく続けたところで慣れてきたのか、私たちはお互いに狙いが正確になっていく。
しかし私は、ついぞ水弾をその身に喰らうことはなく……そしてついには、私の打ち返した水弾が水島くんに命中した。
「ぐえっ——!」
なんて、カエルが潰れたような無様な声を上げて、水島くんがぶっ飛ばされる。
よしっ、ついにクリーンヒットだ! ざまあみやがれ!
ふぅ……途中からは私もだいぶ意地になってしまった。
でも、この勝負は私の勝ちだ。だからもう、これ以上は続ける必要もないし……次なる展開に進もうか。
ぶっ飛ばされた水島くんは、悔しげな表情を浮かべながらも立ち上がり、リベンジとばかりに懲りずにまた私に水弾を飛ばそうとするが——その時にはすでに、私の方の準備は終わっていた。
『“爆炎鳥舞”』
生み出したるは、炎によって鳥の姿を象った、まさに“火の鳥”といった存在。
コイツは、私の意思一つで自在に飛行し、敵に突撃して炸裂・炎上するという、なかなかにエゲツない性能を有している。
「なっ、なん……燃える、鳥……?!」
轟々と燃え盛る炎がそのまま鳥の形を成して、羽ばたきながら私のそばに浮いている様を見ては——驚愕して停止する水島くん。
その隙を逃さず、私はさらなる一手を披露する。
“火の鳥”のそばに向けて、刀を一振りすると……
『“鏡映投射”』
それに合わせて、“火の鳥”が一匹、新たに出現する。
続けて、さらに一振り——
『“鏡映複射”』
すると、さらにまた一匹、“火の鳥”が増える。
その後も何度か刀を振り——その度に“火の鳥”が増えてゆき……最終的には、二桁に届こうかという数の“火の鳥”の集団がその場に出現する。
轟々と燃え盛り、ボウボウと羽ばたく“火の鳥”の、十羽からなる群れ——その、まったくもって壮観とでもいう他にないまでの威容を作り出したところで……
満を持して、私は——まるで照準を定めるように——水島くんへと刀の切先を向けて、狙いをつけた。
そして言い放つ。
「——いけ」
「っ、ちょおっひえぁっ!?」
豪快に羽ばたきながら上下左右に散開し、それぞれが四方八方に展開したところで——そこから一気に、一斉に襲いかかる“火の鳥”の群れ。
それを受ける水島くんは——盛大に慌てて口からは意味不明な叫びを上げながらも——なんとか水を操作し、自分の周囲に水による壁を張り巡らせてガードする。
ボッボボッボボボッ——!!
バッババシュッ、バシュゥゥゥッ——!!
炎と水が激突し——豪快な破裂音と共に盛大に水蒸気が噴出し、水島くんの周りは一瞬で白い煙に撒かれて何も見えなくなる。
ふむ……さすがは防御に優れる水属性か。属性相性の悪い炎では、やはり突破は無理か……
まあ、さっきの“火の鳥”の半分は見せかけだけの幻影だし、そもそもこの攻撃すらも、あくまで次の一手への布石に過ぎない……
そう、目的はあの水蒸気——による撹乱、要は時間稼ぎだ。
なにせ、次なる攻撃には……私もそれなりの時間と集中を必要とするからね。
私は手持ちの刀を右腰の鞘に納めると、今度は別の刀——“雷斬”を引き抜く。
——分身時に一緒に複製された複製品だけれど……それでも、あるのとないのじゃ大違いだ。それこそ、雷属性を使う時なんかには、特に、ね。
そう、私の持つ属性は炎だけではない。もう一つある。
炎は水に弱いが……雷はむしろ、水に強い。
さあ……これで決めてやろう——!
『“雷電龍舞”』
ヴァチバチバチッ——と、私の持つ“雷斬”の切先から、雷が迸る。
それは次第に集結していくと、太く長くと伸びながら、形を成していき——
そうして現れたるは、まさに、雷でできた龍——“雷龍”であった。
私が“雷龍”を完成させるのと同時に——
水島くんは、周囲に漂う水蒸気による霧を集めていき……そうして霧を晴らすのと同時に、集めた水分により巨大な水球を形成していく。
すると、いよいよ視界も晴れて——お互いに相手を見据える私と水島くん。
しかし、その両者の表情には天地の差があった。
かたや、驚愕と警戒の色を濃く浮かべる水島くんに対して……一方で、勝利を確信した不敵な笑みを浮かべる私。
「かっ、雷!? ……の、ヘビ?!」
「ぁ、いえ、龍です。……一応」
小声で訂正しておく。
まあ、蛇も龍も似たようなものだけれど……でもそこは——なんとなく、龍の方がいいかな、やっぱカッコいいし、そっちのが強そうだし。
いやまあ、ただ強そうだからってんで、私もこんな派手な技を使ってるんじゃないんだけれどね。
というか、強さでいうなら、そもそも雷属性ってやつは本当に強力なので……いや、だからこそか——だからこそ、雷属性を使う時はひと工夫必要になるのだ。
正直、ただ勝つだけなら簡単だった。
雷属性の——中でも、すでに使い慣れた技である“雷刃波”でも使えばいい。そうすれば、いかに防御が得意な水属性といえども——元より属性的に有利であり、さらに攻撃の威力としても飛び抜けている雷属性ならば、普通に真っ向勝負で打ち破れる。
ただし……その場合は、加減が出来ないという欠点があった。さすがの私も人間が相手ならば、出来れば殺すことなく——もっと言えば、怪我さえもさせることなく倒せるなら、それに越したことはないと思うし。特に、相手が私よりはるかに年下の子供なら、なおさら。
だが“雷刃波”を使えば、最悪の場合はアッサリと相手を殺してしまう可能性がある。子供相手にそれは、さすがに避けたいところだった。
他にも、“雷刃波”だと万一狙いを外した場合にヤバいことになる、というのもある。
——一応、今のこの体育館内には、観客に被害が出ないように結界を張った他にも、外にいる機械にバレないようにするための仕込みなんかもしている。
そんな感じで、この体育館にはすでに、ある程度は暴れても問題がないように事前に色々と手を施してはいるのだけれど……
しかし、威力がクソ高い分、“雷刃波”は、その“ある程度”には含まれないのである。
まあ、そういう諸々の問題が雷属性にはある……だからこその、この技だった。
“雷刃波”と違い、この技——“雷電龍舞”は、完全にその機動(あるいは軌道)を操作できるので、万が一にも誤射ることがない。
さらに、攻撃の威力に関しても、ある程度は操作できるので、うっかり相手を即死させたりする恐れも(たぶん)ない。
雷属性は圧倒的に強いのが特徴な分、コントロールが難しいという欠点があった。以前の——それこそ『雷使い』のランクが1だった頃の私では、そもそも単純な発動自体が困難だったくらいだ。
しかし、R4になった今となっては……その威力を完全に手懐けて、こうして自在に操れるまでに私は成長していた。
なので、今の私にとっては、ジョブ持ちとはいえまだジョブR1のお子ちゃまが相手なら、もはや勝って当たり前なのだ。
それに——どこまでも勝ちという結果と、そこに至る効率にこだわるというのなら——そもそも正面戦闘すらせずに最初から不意打ちでもしておけば、もっとアッサリと決着をつけることだって出来るわけだし……
それこそ、シノブと組んだら——いや、なんなら私一人でだって、水島くんに気取られずに近寄って、登場と同時に不意打ち喰らわせて、即時決着、はい終わり……なんてことも、普通に可能だし。
ただ、それでは——不意打ちなんてあまりにも卑怯というか、二人がかりとか子供相手に大人気ないというか、いざ勝っても周りの反応が微妙になりそうとか……色々と懸念する点もあったし。
何やかんや——観客の存在もあるし——正々堂々、真っ向から戦って勝てるなら、それに越したことはないし。普通に戦っても勝てるなら、わざわざそんな卑怯なマネをして周囲からの心象を悪くする必要もない。
相手の力量が未知数ならともかく——すでに分かっているとなれば、なおさらね。
事実、私がそんな風に取り留めのないことを考えている間にも——それこそ、そんな余裕があるくらいに——眼前の水島くんは、私の“雷龍”の威容に飲まれたように……しばしの間、凍りついたかのようにその動きを停止してしまっていた。
——それはまるっきり、彼我の間にある実力差を如実に表した反応だった。
しかし、私がそろそろ攻撃しようと動いたのを受けては——いよいよ覚悟を決めたかのように、向こうも水を操り攻撃の準備を開始した。
水島くんが、霧を集めて作った巨大水球の形を変えていくと——まるで、私の“雷龍”に対抗するかのように——なかなかの太さで水がウニュニュニュっと伸びていき、こちらもまさに“水龍”って感じの形を作り出す。
ほう……これはまたなかなか、壮観な眺めだ。
うむ、見た目だけなら互角だが……
完成とほぼ同時に、水島くんが水龍をけしかけてくる——それに合わせて、私も雷龍を突撃させる。
バッッチィィィィィッッ——!
水龍と雷龍——確かに大きさ的には互角だったけれど……しかし、それぞれの宿している威力、属性的な相性の差、そして何より、双方の操作性——とりわけ、彼我のスピードの差については……もはや天地の差があった。
目にも止まらぬ速さで駆動した私の雷龍に比べると、水島くんの水龍などは、もはや、ほとんどその場から動くこともままならず——瞬く間に接近した私の雷龍が触れただけで、盛大に弾け飛んでしまった。
「うそっ——!?」
驚愕、焦り、そして……恐怖。水島くんの表情は、私の操る雷龍が水龍を容易く撃破し、そのまま水島くんに急速接近し、その周囲をとぐろを巻くように取り巻くにつれて——瞬時にそう変化していく。
体のすぐそばを、バチバチと恐ろしい音を立てながらビカビカと派手に光る雷龍に取り囲まれて、もはやなす術のない水島くんに向けて——ゆっくりと歩み寄りつつ……私はにっこりと微笑を浮かべながら口を開く。
「降参、してくれますね?」
「……」
むっつりと——いかにも不服そうに黙り込む水島くん。
そこで私は、おもむろに雷龍を操ると、子供など丸呑みに出来そうな大口を開けさせて水島くんに向けつつ——同時に、顔に浮かべていた微笑を消して真顔になると——再び問う。
「降参——」
「しますしますしますからっぃい命だけは助げでぐだざい゙ぃ゙お゙願い゙じま゙ずぅぅ……っ!!」
先ほどの態度から一転して——今度は素直に勢いよく、なんなら、後半はもはや半泣きになって声を震わせながら……
ようやくのこと、彼女、水島ミナトちゃんは、年相応に——あるいは性別相応に、可愛らしく私に向けて懇願してくるのだった。
。
。
。
生意気なメスガキを、実力でわからせた後(なんちゃって)——
私は風莉と改めて、落ち着いて色々なことを話した。
これまでのことや、現在の状況について……
風莉が真っ先に気にしていたのは、やはりというか、私たちの両親についてだった。
なので私は風莉に——連れ去られた二人については、すでに私の仲間たちが救出に向けて動いているから、大丈夫だからね——と言って、ひとまずは宥めておいた。
心配だった両親に関しても、すでに手は打ってあると知って、風莉も少しは落ち着いたかな——と思ったら、一転して今度は「来るのが遅い」と妹様から文句を言われる私。
助けに来たのに文句を言われるとは何事か——と、普通なら思うところかもだけれど、私は風莉がそういうヤツだと最初から知っているし……それに、これはこれで——極限状態を一人で乗り切った反動から——風莉なりに私に甘えてきているようなものだと思えば、むしろ微笑ましくなってくるくらいだし。
まあ、それに……実際はもっと早く来てたのに、色々な都合から、ギリギリまでスタンバッってたのは事実だし……
そのことは隠しておくつもりだったのだけれど……風莉はすでに、シノブから聞き出して知っていた——ので、それも含めて文句を言われる。
ああ……シノブェ——忍者のクセに普通にバラすやん……。
いやまあ、秘密にしておいてほしい——とか、わざわざ事前に言い含めてはいなかったけれど……口下手なシノブにそこまで期待した私の失敗なのか、これは。
“攻略本”にも特に記載が無かったし——そんな細かいことまで書かないということなのか……あるいは、書いたところで無駄だから書いてないのか——たぶん、事前に言っていても、シノブは聞き出されてしまっていたんだろう。
——私に似て口の上手い風莉のことだから、シノブから聞き出すくらい簡単だったハズだ。
だとしたらもう、こうして文句を言われるのは、もはや避けられない運命だった——ってことなんだろうな……。
そう諦めた私は——結局は何も言い訳せずに素直に謝るのだった。
平謝りに謝り倒して——風莉の機嫌も持ち直してきたところで……改めて私は、次なる話題を持ち出す。
重要な話として、私が次に話題に上げたのは、風莉のこれからについての提案だった。
私としては、風莉には能力者として覚醒してほしいと思っている。
それは、彼女自身の安全のためでもあるし、風莉がプレイヤーとして覚醒したならば、新たな戦力としても大いに期待できるという考えからでもある。
それで、力に覚醒させる方法についてだけれど……これについては実際、いくらでもやりようはある。
中でも一番簡単なのは、私自身のサーヴァントにするという方法なんだけれど……しかし、それについては、ちょっと問題があった。
というのも、私の現在空いているサーヴァント枠は一つだけで、これはマリィ相手に使うと決めているので、風莉には使えない。
レベルを20まで上げれば、またひと枠増えるけれど、それはもう少し先の話になるだろうし……
なのでまあ、風莉をサーヴァントとして覚醒させるなら、誰か他のプレイヤーの手を借りる方が手っ取り早くはある。
それについても、一応、候補は何人かいるっちゃいる。
それこそ、つい今しがた倒した水島ちゃんと、すでに彼女に従属していた男子二名とかは、その最たる例だ。
この三人は——水島ちゃんに負けた二人は、水島ちゃんが私に負けたことで、そのまま私に従属先が移っているので——すでに私にほとんど従属している状態になっている。
いやまあ、細かいことを言うと、今の私が分身であることとか、この“領域”では通信制限がかかることなんかが理由で、まだ正式には従属状態になっていないんだけれどね。
だからまあ、今すぐには無理なんだけれど——でも、私の本体と合流すれば、すぐに従属処理も完了するので——その辺は時間の問題でしかない。
実際、この三人は、まだ誰もサーヴァント枠は使っていないようなので、やろうと思えば私は、そのサーヴァント枠を好きに利用することができるわけだ。
まあ、そうは言っても……大事な妹を——私に従属しているプレイヤーとはいえ——他人のサーヴァントにするのは、何だか心配な部分もある。
それに何より……私の知る限りにおいて、風莉という人物は——まさに天上天下唯我独尊を地でいっている、とでも言うべきヤツであり——とにかく他者の下につくことを良しとしない性質を持っているのだ。
なんなら、実の姉である私が相手ですら、下につくとなればサーヴァント化を拒否してきそうなヤツなので……そもそもの話、サーヴァントとして力に覚醒することへの適性が無いといえる。
とはいえ私としては、風莉は是非ともプレイヤーにしておきたいし——おそらくは風莉本人にしても、プレイヤーとしての力に目覚めることが出来るなら、是非もなしと思っているはずなので……本人の性格的にも。
ただ、それと同時に、誰かの下につくことが絶対に許容できない性格でもあるという、それが問題なだけで。
むしろ、諸人の上に立つに相応しい力を得られるのだとしたら、一も二もなく歓迎するのが風莉なのだ。
だから私は、風莉に力を与えるのだとしたら、契約者ではなく契約主として——つまりは、誰かに従う側ではなく、むしろ自分が従わせる側として……それすなわち、自然に覚醒した私と同じ立場として——覚醒させるつもりだった。
その方法については——“攻略本”にも載っていたので——すでに知っている。
なのであとは、本人の意思次第なのだけれど……
「——というわけでさ、風莉。アンタにもし、その気があるなら……私は風莉にも、私と同じ力を持たせてやりたいと思っているんだよね。まあ本来は、“謎の声”を聞いて自然に覚醒しなかったなら、すでにそうやって覚醒した人によって覚醒させるしか、一般人を力に目覚めさせる方法は無いんだけれど……。でも、それじゃ風莉は嫌がるだろうなってのは、私も分かってるから……だから風莉には、誰かの配下としてではなく、自然に覚醒したヤツと同じ立場として——つまりは、自分が従わせる側として、覚醒させるつもり。いやね、実は私、そうする方法については知っているから、アンタが望むなら、特別な力の担い手に——つまりは“プレイヤー”に——なれるように、手配しようと思うんだけれど……どう? その気はある?」
「そんなこと……聞かれるまでもないんだけど。答えは『イエス』だよ、お姉ちゃん」
そう言いながら、上目遣いで天使のような微笑みをこちらに向けてくる、我が妹——風莉。
……まあ、そう言うと思ってたよ。
——ホント、こーゆう時だけ素直なんだから……。
てか、素直な風莉って——久しぶりに見たけど……マジで、姉の私から見ても可愛すぎて困るってくらいに可愛いな……
こりゃあ、あの三人も——是非とも自分のサーヴァントに! ってなるのも、ちょっと納得……
ほんと——我が妹ながら——罪な女だわ、コイツ……。




