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第215話 作戦名「みんな違って、みんないい……そんな——鳥になってこい」



 もはや、(あり)()い出る(すき)も無い——との例えが相応(ふさわ)しいほどに、厳重な機械獣の警戒網なのだけれど……実際のところは、蟻なら普通に通れる。素通りだ。

 ……いやこれは別に、ふざけているわけではなく——そのままの意味である。


 それというのも——機械獣は確かに索敵力が異常に高い上に組織立(そしきだ)って動くため、その警戒の目をすべて(かわ)すのは極めて困難であり……事実として、マジで蟻のような矮小な存在すら感知しているレベルらしいのだけれど……

 では実際のところ、そこに蟻がいるからと、機械獣たちがいちいち反応しているのかというと……もちろんのこと、そんなことはない。

 すなわち、いかに厳重な警戒網といえども、そもそも警戒対象外になっている存在というのはいくらでもある、ということなのである。——ここで言いたいのは。

 なので……それらの「非警戒対象」を利用することで——機械獣の警戒の目に触れながらも——堂々と行動しても問題ない状態になることができるのだ。

 

 ここでいう、「非警戒対象」というのが……つまりは「人間以外の生物全般」のことであり——

 ここで脚光を浴びるのが、「変化(へんげ)の術」なのである。

 

 つまり……

 シノブが「変化の術」で適当な動物に変身すれば、それだけで警戒網のほとんどを突破できるのだ。

 なので、鳥にでも変身して空を飛べば——マジで簡単かつ迅速に、目的地である機械獣たちの司令部のあるフィールドの中心地点まで、アッサリとたどり着くことができる……っていうね。


 というわけで……この「動物なりきり作戦」こそが、攻略本に載っていた裏ワザならぬ秘策なのだった。

 これを使えば、広大な“領域(フィールド)”の中を、最短で目的地(中心部)まで到達することができる。

 なにせ、今回の潜入ミッションに関しては、むしろこの中心部に着いてからが本番ということらしいので……そこに至るまでの過程を大幅に省略できるのならば、この攻略法を使わない手はない。


 そう……機械獣たちはすでに、あのフィールドの中心部にある——元は神社が存在していた——地点において、自分たちの本拠点となる基地の建造を着々と進めているところなのだという。

 本拠点というだけあり、ここの内部の攻略難易度は、外との比ではない。

 なのでさすがに、この基地の中では、もはや「動物なりきり作戦」では通用しない。ゆえに、ここから先がむしろシノブが本領発揮する部分だと言えた。

 とはいえ、そこまでの道中を大いにショートカットできるというだけでも、この「機械獣は動物はスルーする」という情報(と、シノブの“変化の術”)には値千金(あたいせんきん)の価値がある。


 まあ、そんなこんなで、シノブが無事に司令部基地の——その最深部にたどり着いたら、いよいよ作戦も大詰めだ。

 ここでようやく出番となるのが、今回のキーパーソン(あるいは、キーマシーン?)のカシコマだ。

 カシコマの任務はただ一つ、この最深部にある敵の司令塔(メインコンピュータ)を介して——「機械獣の命令系統(ネットワーク)侵入(ハッキング)して、指揮権の最上位を奪うこと」である。

 これを達成できれば——機械獣に対する最上位の命令権が得られるので——すべての機械獣を一斉に無力化する……どころか、こちらの戦力にしてしまうことができる。

 そうなれば作戦は大成功! これにてフィールドの攻略は完了! さっそく次のミッションに取り掛かろう! ってな感じである。

 ——うん、そう……フィールドを攻略できても、まだまだやることは山積みなんだよね……。

 とはいえ、カシコマがいてくれなかったら、結局は機械獣どもと正面切って全面戦争するしかなかったわけだから……それを考えると、やはりカシコマこそが今回の作戦の一番の(かなめ)といえるだろう。


 ……というところまでがまあ、今回、()()()()()()()()()()()()()()()()、機械獣の司令部を叩く作戦の概要である。


 そう……ここまで話した作戦は、あくまで今回の()()()()()()()()()()に過ぎない。


 これと並行して——具体的にはあと四つ——それぞれ別の目標に向けて、同時に取りかかる。

 というのも——それぞれを救出するにあたって、邪魔な機械獣を排除するのも確かに重要な目標なのだけれど——あくまでも、私の最重要の目標は、自分の大切な人たちを助け出すことなので。

 実際のところ、機械獣を打倒し終わってから取りかかっては遅いのだ。マリィと風莉(ふうり)の窮地を救うのには。

 二人は何やら同時期に、私の助けが必要な状況に(おちい)るらしく——そこに駆けつけて間に合わせるためには、他に使う時間やモタモタしている暇はなく、なるだけ早くに向かう必要があるのだと。

 “攻略本”にそう書かれている以上、二人を優先する以外の選択肢など、私にはない。


 しかし……そもそも、本来なら()優先できるのは一つしかないのだから、マリィと風莉のどちらを優先するのかと——私は“究極の選択”をするハメになるところだったのだけれど……

 この究極の選択を回避して、かつすべての目標(それも、ちょっとしたサブクエも含めた)を同時にすべて優先することが出来る方法が、攻略本には載っていた。

 というより……それを成し得る能力を、私は持っていた。


 そう……それこそが——『鏡使い』の(ランク)2で覚えた、『“鏡映投射(ミラープリント)”』と『“鏡映変化(ミラージュアート)”』という——「分身能力」と「変身能力」なのだった。

 ——なんというか……私の『鏡使い』の能力って「分身」とか「変身」とか、ニンジャが持ってそうな能力をけっこう取り揃えているんだよね。

 “盤上戦術(プレートタクティクス)”での戦いを終え、『鏡使い』のランクが上がった私は——分身能力については、あの戦いでもすでに使っていたけれど——今となっては正式に、これらの能力を覚えて使えるようになっているので……

 マリィと風莉の二人の元へ——どちらを優先するのか迷う必要もなく——()()()助けに行くことができる。

 ——()になって、一直線に。

 それどころか、二人の救助と並行して、他にも複数の作戦行動を同時に進めることも可能になる。


 というわけで……分身能力を使って、(本体も含めると)五人に分身することで、私は五つの目標をすべて優先して同時並行的に進めていくつもりだ。


 具体的な部隊の構成としては——シノブと私が分身を使い——次の五班を編成する。

 

 A班——「私(の本体)、チアキ、ランディ、カシコマ、シノブ(の本体)」……の五名。

 B・C・D班——「私(の分身)、シノブ(分身)」……の二名×三班(さんはん)

 E班——「カノさん、シノブ(分身)」……の二名。

 

 という感じで、五つの班からなる総勢13名にて、五つの目標を同時に攻略する。

 A班の目標は、敵司令部の攻略による、機械獣の打倒。

 B班とC班が、それぞれマリィと風莉の元に向かう。

 D班は——“盤上戦術(プレートタクティクス)”の戦いの前後で救助していた——生存者たちの保護と護衛の継続。

 そしてE班には、フィールドの中で細々とした用事(サブクエ)をこなしてもらう。


 分身は本体に比べるといくらかST(ステータス)が下がるのだけれど……マリィと風莉の二人を助けたり、生存者たちの護衛をしたり、サブクエという名の雑務をこなすくらいなら問題ないので、そちらは分身たちに任せる。

 やはり最大の難関は敵の司令部への潜入なので、そちらは本体を含むフルメンバーで挑むのだ。


 ちなみに、分身の仕様についてなのだけれど——“盤上戦術(プレートタクティクス)”の時に使ったやつとは違い——今回は、自律行動が可能なタイプの分身を作成する。

 ——分身の仕様にも色々あるようだったけれど、今回は一番性能がいい(現状では)最上位の分身体を作成する。

 なので、カノさん以外の——B・C・D班の三人についても、それぞれ自分の意思で自律的に行動できる。


 というわけで——すでに呼び出しているカノさんに追加して——新たに三人、この場に呼び出してみるとする。


『“現創造形(アニマテリアライズ)——現創分身(クローンボディ)”』


 能力を発動させると……私の目の前に、全身が映るほどに大きな鏡が出現する。

 すると、そこに映る私の姿が——()()()()()()()()()()()()()()()()()——こちらに向かって歩いてくると……そのまま()()()()()()、こちら側へと現れる。

 それは見た目も、装備も、思考形態も、そして、使える能力すらも——ST(ステータス)値以外は——私とまったく変わらない、もう一人の“私”。


「…………やぁやぁやぁ、ここで——」

「ああごめん、すぐに二人目も出すから、ちょっとそこどいてくれる? 私」

「ちょ……おいおい私〜、私の初登場の初ゼリフを雑に流すなよ〜。せっかく私が——こんな機会なんてそうそうないんだし——めっちゃ張り切って渾身のネタを披露しようとしてたってのに」


 とか言いつつも、“私”は素直に私と鏡の前から退()いてくれる。

 なので私はもう一度——藤川さんに頼んで、減ったMPを素早く回復させてから——続いて二人目の分身を呼び出す。

 (ふたた)び鏡の中から現れる、もう一人——というか二人? なんならカノさんも入れたら三人?——の私。


「……私と私とカノさんと私。みんな違って、みんな私。——どうも、初めまして、私、火神(かがみ)(エイ)カです」

「おい待て私、普通に考えて(エイ)カは先に出てきた私でしょ。それで言うなら、お前は(ビイ)カだ」

「いいや、言い出しっぺの私が(エイ)カ。そしてアンタが(ビイ)カ。本体は普通にライカで、カノさんはカノさん。これで(まぎ)らわしくない」

「いやいや、私が(エイ)カだって。そうじゃない方が余計に紛らわしいって。普通に考えて、先に出てきた方が(エイ)カに決まってんじゃん」

「こらこら、自分同士でケンカするなって、私たち。二人はそれぞれ、“火神・言い出しっぺは私・(エイ)カ”と、“火神・出遅れたるは一生の不覚・(ビイ)カ”でいいね?」

「ちょっとライカ、勝手に変なミドルネームを入れないでよ、それならアンタは“火神・本体だからって調子に乗ってる・ライカ”にするけど?」

「この世はサバンナ、こちとら生まれた時から下剋上狙ってんだよね。お前を“火神・調子に乗ってすみませんでした・(シイ)カ”にしてやろうか?」

「アンタたち……見てるこっちが恥ずかしいからやめて」

「「「あ、はい。ごめん、カノさん」」」


 うーん、なるほど……私が増えるとこうなるのか。……ヤバいな。

 確かに、これは……ひとまとめにしておくべきじゃないやつだわ。別行動させるべきだね。一緒にしとくとヤバいって、自分のことながら理解した。

 ……んで、なに? こっからさらに、もう一人増えるの? ……いや、もうすでにお腹いっぱいなんだけど。

 ……とりあえず、三人目に関しては——MPの回復も、二回連続はキツいだろうし——少し間をおくとしよう……。


 まあ、とりあえずは、こんな感じで……この二人の人格は、まるっきり私本人のコピーだ。

 それはつまり、私がそのまま増えたようなものだってことで……我ながら、それってなかなか大変そうだなって思う。

 相手も自分だからこそ、やりやすい部分もあるだろうけれど……逆に自分だからこそ、やりにくい部分もありそうだ。

 それこそ、まったく同じのが二人——あるいは私含めて三人、カノさんも含めると四人、あるいは残る一人も入れたら五人——もいるってだけで、相当に紛らわしくてやりにくい。

 そうね……この辺りの上手いやり方についても、余裕が出来た時にでも、分身の使い手としては先輩にあたるシノブから聞いておいた方が良さそうだ……。


 まあとにかく、そうして分身体たちも呼び出したことで、いよいよ救出作戦に必要なメンバーは出揃った。

 しかしそれでも、まだいくつか準備することがある。“領域(フィールド)”の中では様々な制限を受けることを(かんが)みれば、どれだけ事前準備をしておけるかが鍵になるので、手は抜けない。

 とはいえ、何を準備するべきなのかは“攻略本”にバッチリ書かれているので、私は一切の遅滞なく迅速に準備を終わらせていく。

 ——攻略に必要となる道具(アイテム)能力(スキル)を、PP(ポイント)を使用したり、方々(ほうぼう)に掛け合って用意していく……

 本当は、新しく覚えたスキルなんかに関しても、もっとじっくり確認しておきたいところなのだけれど……残念ながらそんな時間は無いので、やるべきことは必要最低限に絞って行う。



 そしてついに——残りの分身も呼び出したり——すべての準備を終わらせた私は、いよいよこれから“領域(フィールド)”に突入し作戦を実行するというところまできた。


 その頃には——準備を進めながらも、随時、連絡を取り合っていた——今や遠く彼方の地にいるマナハスも、今から自分の親戚家族の救出に向かうという段階になっていた。

 当然、すでに私は彼女にも“攻略本”の情報を共有している。不安はあるが、“攻略本”に従えば問題ないはずだし、いざとなれば私には『待っててマナハス』の能力がある。だからきっと、マナハスの方も大丈夫だろう……。

 そう……なぜかは分からないけれど、『待っててマナハス』に関連する能力——“君の危機”や、“指輪(ペアリング)”での通信など——に関しては、“領域(フィールド)”による通信遮断の影響を無視して発動することができるので、そういう意味での“大丈夫”ってことだ。

 ——まあ、でなければ、そもそも事の発端になった、“領域(フィールド)”内にいるマリィと風莉の危機も感じ取れていないはずなので……これに関しては、すでに検証済みで実証されている仕様だといえる。

 

 実際のところ、“領域(フィールド)”の通信阻害効果により『待っててマナハス』の能力が封じられていたらと思うと……ゾッとするところだ。

 このジョブの能力さえあれば、マナハスと離れても大丈夫だと思っていたけれど……場合によっては、この『待っててマナハス』の能力が使えなくなることだってないとはいえない……これさえあれば絶対安心、とは言えないのだ……。

 今回はなんとか使えるみたいだけれど……今後は不測の事態に対してもっと警戒しておかないと……。


 今後の課題や、マナハスへの心配についても尽きないけれど……今はまず、目の前の作戦を確実に成功させることに集中しなければ。

 では……よし、いくとしよう。


 いざ——作戦開始だ。


 

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