第212話 おねーちゃんは、魔法使い?!
しっかし、とんだ春休みになったもんだね……マジで。
いやー、最初は正直、いうて短い春休みに——わざわざ上に“超”と“ド”が両方付くくらいの——田舎にあるじいちゃん家に帰省する意味が分からなかったよ。
詳しく聞いてみたら、どうもこれは、マー姉が言い出したことらしい。
なんでも——普段は会えない友達に会うために、その友達の住んでるトコに近いからって、じいちゃん家にまで行きたいんだと。一人で行くのもアレだから、家族そろって行くのはどう? みたいなね……。
あー、はいはい、なるほど。ライカちゃんね。彼女に会いに行きたいから、ってことか。
マー姉は——普段は家のことを率先して手伝うし、あたしらにとっては、もはや第二の母親かってくらいに世話を焼いてくれるんだけど……たまにこーして、とんでもないワガママを言い出す時があんのよねー。
いや、まあ、それも普段の行いの反動というか、そういうアレなのかもしれないけれど……
まあ、うん。あたしらはもちろん、父さんや母さんだって、大家族の長女のマー姉にはいっつも世話になってるもんだから……その分、本当にたまにしかないマー姉からの要望が出た時には、基本的には断るという選択肢は存在しないのよね。
そんなわけで、あたしらは家族全員そろって、このじいちゃん家にやってきた。
こっちに着いたらさっそく、マー姉は一人でライカちゃんに会いに隣の県にまで行ってしまった。
残されたあたしたちは——マジで周りに何もない、クッソ田舎のじいちゃん家にいるのも暇だったから——近くに住んでる国仁彦おじさんの家に、みんなそろって行くことになった。
いやー、とんでもねー人数で押しかけたあたしたちを快く受け入れてくれた四季島家には、本当に感謝。
こっちはじいちゃん家に比べたらまだ街中にあるから、色々と行けるとこもあるからね。
それに、久しぶりに従姉妹のみんなと会うのも、なんやかんや言って、それはそれで楽しいもんだし。
まあ、ウチもそーだけど、四季島家も姉弟の数が多いもんだから……親戚が集まる時はいっつも、人口密度がヤバいことになるんだけどね。でもまあ、いうてそれはいつものことだし、もはやお約束ってゆーか。
そうは言っても、迷惑になるのに変わりはないから、あたしらも長居はせずに撤収した。
だからあとはまあ、戻ってきたじいちゃん家で、マー姉の帰りを待つだけだったんだけど……。
それがまさか、こんなことになるなんて……
そのことに最初に気がついたのは、家族の中ではあたしが最初だった。
下の妹弟たち——小学生組は、こんな何もないトコロでも適当に外に出て遊べるみたいだったけれど、あたしはもうそんな歳でもないから(なんせ来月からは、もう中学二年生だかんね)、家の中で暇を持て余していた。
そうなると自然と——大した荷物も持ってきてないあたしがやれることなんて、スマホをいじるくらいしかないわけで……。
あたしは、電波も届いているのか怪しいくらいの——この辺境の片田舎から、スマホを介して世界中から集まる情報へとアクセスした。
すると、SNSや動画サイトに、気になる情報がバンバンと出てきていることに気がついた。——それも、マジかよウソだろって思うような、信じられないようなネタが。
さすがに驚いたあたしは——来月からは高校生になるっていうのに、あたしとは違って妹弟たちからの誘いを断ることなく、一緒に外に出て遊んであげていた——ユキ姉を呼び戻して、それらのネタを一緒に観ていった。
なんやかんや、戻るユキ姉と一緒になってついてきた妹弟たちも一緒になって、あたしたちはそれを観た。
——街を破壊する、巨大な怪物……
——ふらふらと徘徊する、怪しげな人影……
——人間離れした力を発揮して、それらと戦っている人物……
そんな、現実とは思えない光景を流していく映像の数々を……
そう……世界はあたしの知らないところで、その姿を大きく変えようとしていたのだ……。
だけど、けっきょくのところ、このド田舎にいるあたしたちが、そのことを実感したのは……それから数日経った——今日になってからだった。
ただ、今より二日前にはすでに——本来なら、その日に帰ってくる予定だったマー姉から、まだ戻れないという連絡と共に、そのことについて聞かされた。
こことは違い、マー姉の行っている都市部では、例のヤツら——ゾンビや怪獣たちが、マジで出現しているんだと。
こちらの様子を聞いて——普通になんともないってことを知ったマー姉は、すごく安心していた。
その真に迫る様子からは、さすがにただごとじゃないってこっちにも伝わってきたけれど……それでもまだ、あたしは半信半疑だった。
それから、丸一日以上が経って……今日になって突然、マー姉が帰ってきた。
いや、まったく、その時の様子ときたら……ぶったまげたよ、ほんとに。
いやぁ……しばらく見ないうちに、マー姉ってば……マジでとんでもないことになってたみたい。
……いやまず、ここまで来るのに使ったとかいう、そのやたらデッケェUFOみたいな空飛ぶ謎の乗り物、マジでナニ?
…………で、え? マー姉、自分のこと、『魔法使い』になったって——今、そう言ったの……??
………………えっーと、それで、この画面の中で繰り広げられている戦い(?)が、現実で起こっているって……いやいや、それはさすがにありえないっしょ……???
——いやでも、この人って確かに、どう見てもライカちゃん、だよね……?
……マジで? じゃあ、本当に……マジのマジなの?
この家に帰ってきて早々、あたしたちに色々と説明するのもそこそこに、他のことはぜんぶ後回しだとばかりに、マー姉はその画面を食い入るように見つめ続ける。
その画面——なんか、マユリちゃんっていう、向こうで知り合った仲間だとかいう、ウチの咲久良と同じくらいの歳の女の子が、何もない空中に映し出した——なにかのゲームのプレイ動画のような映像を。
それこそ、まるで本当の人間の生き死にがかかっているとばかりに、必死な様子で。
後から聞いてみれば——それは確かに、人の生き死にがかかっていた……リアルなデスゲームなのだった。
しかも、その生き死にがかかった人というのが、他でもない、マー姉の大親友であるライカちゃんその人だったのだ。
そりゃあ、マー姉も必死になって祈るように観るのも納得だ。
あたしたちと合流した頃には、すでにその(謎のゲームのような)戦いも、始まってからだいぶ経っていたみたいで……ウチに来てからほどなくして、戦いはラストステージに突入していた。
なんかいきなり、ゲームジャンルがガッツリ変わってた。それまでのシミュレーションゲームみたいなヤツが、三種類の別のゲームになった。
でもそれによって——さっきまでのゲームよりも分かりやすくなったから——妹弟たちは、それまでよりも楽しそうに観戦しながら応援するようになった。
まあ、その応援のおかげってワケでもないだろうけど……なんやかんや、画面の中の戦いは、無事にこちらの勝利で終わったみたいだった。
“向こう”の戦いが一段落ついたことで、初めてマー姉も安心できたようで……あたしたちも、そこでようやくマー姉から詳しく話を聞くことができた。
まあ、そっから聞かせてもらった話も、信じられないような内容だったけどねー……。
でも、マー姉本人やマユリちゃんが、実際にその“能力”を使ってみせてくれたから……あたしとしても、信じないワケにはいかなかった。
にしても、マジで……マー姉ってば、マジのガチで“魔法使い”になってるんですけど……。
いやぁ、正直……スゴいと思う。
てか普通に……それ……めっちゃ、すっごく、マッジで、くっっっそ……羨ましぃぃぃぃぃんだけどっっ!!!??
だって特殊能力だよ!? 魔法使いなんだよ?!
なんか謎の杖と本みたいなので——炎を出したり水を出したり、宙に浮いたり物を浮かせたり、汚れを落としたり傷を治したり……うんたりかんたり、なんじゃらほんじゃら——
ってえ! このっ……!
マー姉さぁ……! それぇっ、ゼッタイ面白がってるよねっ!?
——見事なドヤ顔しやがってぇ……なんっかムカつくっ!?
……でもやっぱ、そりゃあ驚くし、食い入るように見つめてしまって、期待通りの反応をしてしまうって。
それこそ妹弟たちなんて、アホみたいにはしゃいじゃってるしぃ……
あたしだって——表面上は平静を装っているけど……内心は妹弟と大差ないわ。——おうとも、おおはしゃぎさ! そりゃあね……!
まあでも、マー姉がそうやって天下を取っていたのも……いうて最初だけだった。
マー姉の次に、マユリちゃんって女の子が色々と——光の魔法少女とか、赤髪の女騎士とか、ウサギの狩人さんとか、くのいち忍者ちゃんとか、喋るメカくんとか、小さな妖精さんとか、あとなんか……畑? とか——呼び出してみせたりしてからは、みんなマー姉の時以上に驚いて、もはやそっちに釘付けになってたけどね。
いやマジで、この子もこの子でとんでもないわ……
てか、能力はもちろんだけど、このマユリちゃんって子、本人もなんかスゴいわ……
下の妹弟が三人もいるあたしに言わせりゃ——この子って、歳のわりには落ち着きすぎてるというか、そつがなさすぎるっていうか……同い年なのにウチの咲久良とは大違いだわ……
いやまあ、それを言うなら咲久良がそもそも、歳のわりにぽやぽやし過ぎているのかもしれないけれど。
とまあ、そうやって一通り色々と見せられた後には、あたしらとしてもマー姉の言うことを信じるしかなくなった。
つまり——今のこの世界には、マー姉みたいに謎の力に目覚めた人が現れ出しているし……ネットに上がっていた動画に出てきた怪獣やゾンビも、現実に実在しているんだってことを。
とはいえ……いきなりそんなことを言われたって、じゃあそれで、こらからどうしろっての? ってなもんだけど……。
マー姉としては、ひとまず自分の家族であるあたしらと合流して、安全を確保するのが第一目標だったらしい。
なのでまあ、それについてはなんとか無事に達成できたので、ひとまずはよかったよねってことみたいなんだけど。
だけど、マー姉の言うように、今の世界にはそこら中に怪物やゾンビなんて危険な存在がウヨウヨいるんだとしたら……今後についても色々と心配になってくる。
あたしだけじゃなくて、この場のみんなもそう思っているみたいだった。——少なくとも、あたしより年上の人は、みんな。
だから、それからは自然と、今後のことについて、みんなで話し合う感じになった。
まあ、みんなとは言っても、あたしより年下の妹弟たちはさすがに参加しなかったけど。——あと、その子どもらを大人しくさせとくために、ユキ姉も不参加だった。
いつもなら、こういう時にはマー姉が率先して下の子たちの世話をしてくれていたんだけど……今回はそのマー姉が当事者みたいな感じだったからね。繰り下がって、次女のユキ姉に出番が回ってきたって感じ?
なのであたしは、ちゃっかり参加することができた。——まあ、あたしはほとんど話を聞いているだけで、自分が発言することはぜんぜんなかったけどね。
ただ、なんかマユリちゃんってあの子は普通に参加していたし、しかも、わりとガッツリ自分の意見を言っていた……。
そんな話し合いの結果……マー姉たち——マー姉と、マユリちゃんと、藤川さんって人と、越前っておじさんと、それから、アンジーって呼ばれてる女騎士みたいな人(?)と、ウサミンって呼ばれてるウサギの狩人らしい小人さん(??)の——六人は、すぐにまた、この家から出発することになった。
その行き先は、ウチの父さんの姉の摩都衣おばさんのいる——あたしもついこないだお世話になった——四季島の家だ。
ド田舎のここはともかく、四季島家のある辺りは街中だし——でも、こっからはけっこう近いからすぐに様子を見に行けるし——だから、無事かどうか確認しに、そして、合流したらそのまま安全な場所に避難させるために、マー姉たちがこれから迎えに行くことになったのだ。
せっかく帰ってきたのに、またすぐにでも出発しようとしているマー姉を見ていたら——気づけばあたしは声をかけていた。
「マー姉……気をつけてね」
「うん……それじゃ私、行ってくるから……美沙希も、大人しくここで待っててよね」
「ちょっと、お子ちゃまの紅花音や瑛理王じゃないんだから……あたし相手に、なんの心配してんのー?」
「だって、美沙希ももう中二になるし……そういうお年頃なのかなって、ね?」
「はぁ、もう、マジで余計なお世話……あたしもそこまでバカじゃないからっ」
「ごめんごめん」
「……まあ、後でいっぱい話、聞かせてよね」
「……オッケー、任せといて」
その時のマー姉は、いつも通りのように見えて——でも、やっぱりどこか、普段よりも緊張した様子みたいというか、どことなく張り詰めたような空気をさせているような気がした。
なんとなく、そんな雰囲気に当てられたのか——別に、今生のお別れの見送りでもなかろうに——あたしの心の内にも、いまさらのように不安な気持ちが湧き上がってくる……
すると、そんなあたしを気づかうように、横から優しい声をかけてくれる人が——
「大丈夫ですよ、美沙希さん。あなたのお姉さんには、強力な味方がたくさんついていますから。そもそも、その真奈羽さん自身が、強力な魔法使いなのですからね。戦力としては、すでに十分過ぎるほどです。
それに、場合によっては、この私自身も加勢に向かえますので。——ああでも、ご心配なく。それでこちらの安全が脅かされることもありません。なんせこちらには、私だけじゃなく、マドカも残ってくれていますからね。彼女がいれば、なんの心配もありませんよ」
「あ、えっと……輝咲さん、でしたよね」
「ええ、そうです。この姿の時は輝咲で。魔法少女の時には、シャイニーとお呼びください」
「そう、ですか……」
ぱっと見は普通に——いや、なんかちょっとハーフっぽいし、すっごい美少女ではあるけど——ただの高校生にしか見えない輝咲さんは、これでも魔法少女なんだという。
マー姉やマユリちゃんも信頼しているみたいだし……たぶん、それだけの実力はあるんだろう。
それにしても……ついさっきまで見ていた、例のゲームっぽい画面に出てきていた人が、今はあたしの目の前にいるってのは——どうにも不思議な感覚だ。
あの映像の中では——この輝咲さんって人は、ずっと指示を出す役だったみたいだから——直接戦うところは見てないんだよね……だからというか、まあ、ぶっちゃけ、あんまり強そうには見えないっていうか……
まあでも、最後らへんにガラッと方向性が変わってから始まったレースゲームの方では、ブッチギリの性能のマシンをさっそうと乗りこなして、キレッキレのコーナーリングを披露しながら爆走して——って感じに、めっちゃ活躍していたんだけどね。だからそこは、すっごい印象に残ってるんだけれど……。
いやまあ、あの高度な運転技術を見るだけでも、完全に只者じゃないってのは確かだけどね。
ならやっぱ、この輝咲さんも、本当に正体は魔法少女で、実はすごい実力を秘めている——ってのは、嘘じゃないんだろーなぁ……。
じゃあ……もう一人の——マユリちゃんや咲久良と同い年くらいの——いうて普通の小学生にしか見えない、あのマドカって子も……実はすごい実力があるってこと……? なんだろうか。
このマドカって子は、ちょっとファッションが独特ってくらいで、あとはなんの変哲もない普通の女の子だったし——画面の中で戦っているところや、光と共に現れたところを見た他の人たちとは違って——マー姉がここに来た当初から一緒だったから、てっきり最初は、ただの女の子なのかと思っていたんだけれど……
でも、あのマユリちゃんって子にも匹敵するくらいにすごい力を持ってるらしいし……やっぱりスゴい子なんだろうな。
当のマドカちゃん本人は、さっそく咲久良や紅花音にまとわりつかれて、さっきからずっと質問攻めにあってるんだけど……。
あ、見かねた輝咲さんが、助け舟を出しにいった。
したら——ああ、やっぱり……今度は輝咲さんに標的が変わっちゃったわ。
まあ、そりゃそうだ。さっきまで見てた映像に出てきてた——いわば有名人が——目の前にいるんだから……
しかも、その人は、特別な力を持っているヒーローというか、魔法少女だっていうんだから……
そりゃあ、ガキんちょにとっては、これ以上ない興奮材料なんだし、はしゃぐなってほうがムリってもんだわなー……。
まったく……お子様はお気楽でいいわね。
……まあ、とはいえ、年上のあたしが、やたらに不安がっててもしょーがないか。
んじゃー、そうね……
あたしも……さすがに今は落ち着いてられないし、それに、どうにも心のうちに、なんだかモヤモヤと存在しているような不安を紛らわすためにも——それからもちろん、あたしとしても、ぶっちゃけフツーにスッゲー気になるから……
マー姉が無事に帰ってくるまで——上手いことガキんちょたちをセーブさせつつ、でも、あたしもあたしで——輝咲さんやマドカちゃんに、色々聞いてみるとしようかなー?




