第211話 考えるな、感じろ……行間を、読み取るのだッ……!(無茶振り)
実際のところ——勝てる敵ばかりが出てくるとは限らないのだ。
まあ、それはそう、当たり前だ。
なにせ、ここは現実なのだから。まごうことなきリアルワールドであり、ゲームの中の世界などではないのだ。
自分がプレイヤーという、不思議な力を使える特別な存在になったのだとしても……ゲームの主人公になったわけではない。
これは、最終的には必ずクリアできるように保証されているゲームなどではない。
元から難易度が調整されていて、必ず勝てるように設計されていたりだとか……負けてもロードして、また一からやり直せるだとか……攻略サイトを見て、確実に勝てる方法を知ることができるだなんて……そんなことはないのだ。
私はすでに、だいぶ参ってしまっていた。
敵の圧倒的な強さに、己に降りかかった理不尽な結末に——怒り、嘆き、憤り……しかしもはや、ほとんど打ちのめされて、そして受け入れてしまっていた。
それほどまでに……敵の強大さ——そして、デスネルとかいうクソ不死者のマジモンの不死身とかいう理不尽さ——は圧倒的だった。
だから……シャイニーから久々に待機以外の指示が来た時にも、ほとんど投げやりにその指示に従った。
そして私は、【彼が未来か 視ら在りす】とかいうTPAを発動させることになった。
前提条件を満たすために、なんかいろいろな技を使ったりする必要があったけれど——それも、だいぶへんちくりんな工程を踏む必要があったけれど——どうせ他にやることもなかったから、言われた通りにやって……
そして……
その結果——
準備を終えたわたくしは……確かに、これからすごい技が使えそうですわね——っていう感じの状態になっていたのです。
それにより、少しだけテンションが回復したわたくしは、いよいよ本命の【彼が未来か 視ら在りす】を発動させました。
すると、わたくしが呼び出した鏡の中に、未来の光景が映し出されていきます——
わたくしは手に持つ鏡を通して、それらの未来視を——まるで走馬灯のごとく、一瞬のうちに高密度の情報が、直接的に脳内において再生されていくかのように——垣間見ていきました。
そしてわたくしは……すべてを解決する、「たった一つの冴えたやり方」を知ることになったのです。
——それは同時に、私の長年の夢が叶う、素晴らしい体験となるだろうものだった……。
鍵となるのは、【戦闘形態転換領域】という“領域”カードでした。
このカードを使えば、この長きに渡った壮絶なる戦いに、ついに決着をつけることができる……と。
そう悟ったわたくしは、すぐにマユリちゃんに進言しました。
わたくし——というより、私の熱く振るわれる弁舌を受けては……マユリちゃんも納得してくれたようでした。
なので、それからすぐに、【戦闘形態転換領域】が使われることになったのです。
【“領域装色——戦闘形態転換領域”】
すると場面が、切り替わっていって————……
◆
◆
◆
気がつくと私は——本来の私単身に戻り——謎の空間にいた。
【ゲームモードを 選択してください】
未来視によって、この状況をすでに一度体験している私は、慌てることも迷うこともなく——やるべきことは、すでに分かっていた。
目の前には、いくつもの選択肢があった。
【戦闘形態転換領域】を使うことで、“盤上戦術”は一度終了し、その姿——というより仕様——を変える。
簡単に言えば、別の形式に変わるのだ。
それまでの——TCGとSRPGとTD的な要素が悪魔合体したような『サモドラ』本来のゲームシステムとは打って変わって……他の様々なゲームシステムの中から、戦う舞台を選べるようになる。
その選べる種類は、まさに千差万別。古今東西、あらゆるシステムのゲームが存在している。
古き良きターン制RPGから、リアルタイムのアクションバトル、FPS、狩りゲー、格ゲー——などなど……中には、音ゲーやノベルゲーなど、どうやって戦うのかよく分からんようなものまで……。
しかし私はすでに、その無数の選択肢の中から選ぶべきものすらを了解している。
ここではゲームモードの選択だけではなく、どの敵をどのゲームに“招待”するのかも選べるのだけれど——
一ユニットにつき、“招待”できる敵ユニットは一つ。それらの最適な組み合わせについても、私はすでに知っている。
さらに、戦闘開始前に、難易度調整や勝敗条件なども細かく設定できるのだけれど……それについても抜かりない。
なので私は、未来視の導きに従い、それぞれが選ぶべきものを指示する。
【ランディと戦車チームは メガロッドを“招待”して 〈2D横スクロールシューティングゲーム——“超時空”フィールド〉に移動しました】
【アンジーと指揮官は デスネルを“招待”して 〈3Dアクションレースゲーム——“超音速”フィールド〉に移動しました】
最後は私だ。
【カガミンと隼鷹は ライキリンを“招待”して 〈2D対戦アクションゲーム——“大乱闘”フィールド〉に移動しました】
そして私は、再びの場面転換を経験する——
◆ ◆ ◆
◆ ◆
◆
気がつくとそこは——何度も見たことのある、お馴染みの画面になっていた。
私はレッドチームになっている。ライキリンはブルーチームだ。
他に追加で、機械獣のペアからなるイエローチーム、アンデッドのペアからなるブラックチーム、そして、ゴリラっぽい怪獣らのペアからなるホワイトチームも参戦しており——これら合わせて五つのチーム、計10体のユニットによって、我々はこれから“大乱闘”するのだ。
私はマスターハンドのような白い手を動かして、自分自身とペアを組むキャラを選びにかかる。
ライキリンも同様に選択し——ヤツが早々に選び——ブルーチームの枠のライキリンの隣に現れたのは、一人の人間の女性だった。
——出たな、見た目はまんま麗しの女騎士って感じだけど、ライキリンなみの強敵である、エルフリージア……さん。
彼女のキャラ性能としては、FE勢が近いだろうか……。
この人は言うなれば、氷属性のロイって感じの人だ。さらには、遠距離戦もわりとこなせる技を持ってる万能タイプのロイだ。——いや、それはもうロイではないな……?
まあいい……どちらにしろ、私の選ぶペアは決まっている。
——隼鷹ちゃんには悪いけれど……ここは“アイツ”とチェンジさせてもらう。
私の知る限りにおいて、“大乱闘”が最も上手いのは、お前だ……
私はソイツにカーソルを合わせて……選択した。
さあ、いくぞっ、マリィ……!
いざ、私たちのコンビネーション、見せつけてやろうぜ……っ!
\バトォゥルォイヤルゥ!/
そしてゲームが、始まった——————
\レディ……ゴォ!!/
。
。
。
\プレイヤー4 ディフィーテッド/
\ゲィム セッツ/
。
。
。
\ザ ウィナァイズ……レッチーム!!/
\ワァァァァァァァァァァァァァアアアア!!!/
。
。
。
そして——戦いは終わり……
◆
◆ ◆
◆ ◆ ◆
盤面も終了して……
◆
◆
◆
私は——現実の世界に戻ってきていた。
ふぅぅ〜〜……
わぁぁ〜〜……
楽しかっったぁ〜〜……!!
にしても、まさかだよね。
まさか、この私が、自分自身が戦うキャラになって、『大乱闘』に“参戦”することになろうとは……
——自分で言うのもなんだけど、なかなかぶっ飛んだ性能のキャラになってたな〜……。
まあそれは、ライキリンとかにも言えるけど。やっぱバカ強かったな、アイツ。ある程度は調整入ってたけど、それでも基本性能が飛び抜けてんだよなー。
ただまあ、あまりに強いもんだから、みんなに狙われてたせいで、けっきょくは優勝できなかったって感じだったね。
そうさ、“大乱闘”はただキャラ性能が強ければ勝てるってワケじゃねーんだ。そんなんよりむしろ、重要なのはプレイヤーの操作テクニックと、下手に狙われないように姑息に立ち回るヘイトコントロールだかんな。
そこに関しては、私とマリィに一日の長があったわけだ……。
それにしても、夢のような時間だった……というか、マジで夢だった。私にとっては。“大乱闘”の舞台で戦うということは。
まさか、それが本当に叶うことがあるとは……
まさに、人生とは何が起こるか分からないものよ……。
まあともかく、これにて長かった“盤上戦術”における戦いも終わりだ。
最後はよく分からない方法で決着したけれど、最終的には、こちらは誰も死ぬことなく、すべての敵を撃退できたのだから……終わり良ければすべてよし、だ。
ライキリンと戦った私だけでなく、メガロッドと戦ったランディたちや、デスネルと戦ったアンジーとシャイニーも、どうにか勝利を収めることができたようだ。
これにより、事前に取り決めておいた“条件”が、契約となって効力を発揮するようになった。
なので、三体のボスを含む、“盤上戦術”の最後の盤面にいた敵連中は、ひとまずは全部が無力化されたと考えていい。
結局のところ……さすがに相手との実力差が大きかったので、【戦闘形態転換領域】によって切り替わった戦場での勝負結果において——勝利したとはいえ——それにより、そのまま相手を亡き者にすることはできなかった。
なので、撃退に成功した三体のボスは、いまだに健在だ。ヤツらはまだ、死んではいない。
それぞれのゲームにおいて勝利することができれば——とりあえずは敗北を認めさせて、決着後はこの場からどこか遠くに強制的に転送した上で、しばらくの間はこちらに手出しできなくなる……と、そんな感じの条件を設定した上で戦った。
——まあこれは、殺しても死なないデスネルとかいうマジクソボスに対するアンサーでもあった。
この“戦闘形態転換領域”というカードを使って行うバトルでは、どうもそんな風に、戦いが終わった後の行動に影響を与える“戦後契約”のようなものを相手と結ぶことができるという仕様があったので、それを利用した。
この“領域”カードの一番の特徴というか、強みはまさにそれだった。
一言でいえば、「戦う相手と、戦う状況や、条件や、相手の強さそのものに対して、こちらで難易度調整を入れられる」という仕様——それこそが、“戦闘形態転換領域”の最大の利点だった。
もちろん、一方的に敵を弱くすることはできない。敵を弱体化させたり、こちら側が有利になる調整をしたなら、その分、他の部分でなんらかの譲歩が必要になる。
それこそが、ボスたちを完全に倒さずに見逃した——そうせざるをえなかった——理由でもある。
“戦後契約”の内容が生ぬるいのは——あれは、こちらが有利な戦場や条件で戦うことに対する反動なのだ。
——まあそれでも、調整はわりとギリギリだった。有利というか、それでようやく五分五分ってところだ。
当然、私たちの方が負けていたら……その時は、こちらに対して不利益をもたらす契約が結ばれることになっていた。
それくらいのリスクは飲み込んだ上で、これだけの条件をそろえて戦って勝利したことで、ようやくヤツらを撃退できた。
逆に言えば、そこまでしないとアイツらを退けることはできなかった。
ぶっちゃけ、一番難しかったのは、その事前調整の部分だ。こちらが勝てるように——それも、ギリギリで勝てるように調整することにより、最大限に有利な“戦後契約”を相手から引き出せるように——敵の強さや戦場の条件を調整するのは、まさに至難の技だった。
むろん、初めての行いなのだから、本来ならそんなに上手くいくはずがない。
しかし、それでも完璧な調整を行えたのは……それは偏に、私の【彼が未来か 視ら在りす】の効果によるものだった。
この未来視的能力により、私には事前に“最善の条件に設定する調整加減の塩梅”が分かっていたからこそ、【戦闘形態転換領域】を最大級に効果的に使うことが出来たのであり——いわば、この二つの“領域カード”と“TPA”のシナジー効果によって、奇跡的な成功率での運用が可能になったので——それによってかろうじて、あのふざけた強敵どもを退けることができたというわけなのだ。
まあ、はっきり言って、今の私たちに勝てる相手じゃなかったし。ゲームでいうならマジで負けイベだった。一体だけでもそうなのに、それが三体もだからね。マジふざけんなっての。
まあいい……その戦いも、こうしてなんとか切り抜けられたんだから。
——まったく……主目的から外れたサブイベみたいな戦闘で、マジで、どんだけ激しい戦いになってんだよって……勘弁してほしいわ、ほんと。
……まあでも、無事に終わった今だからこそ言えるけれど——今回の戦いも、別に悪いことばかりではなかった。この戦いから得られたものもある。この戦いも、無駄ではなかった。
いや、それどころか……激戦だっただけあって、得たものもかなりのものだった。
このたび、“盤上戦術”による初めての戦いを終えて……最後の最後に、この能力における特大の独自仕様が明らかになった。
それはあるいは——後から考えれば、これだけ大規模かつ革新的な能力を発動するために、ソレは必要となる代償なのだと言われたら、「まあ、確かに……」と、自分でも納得してしまうところではあったけれど……。
なんと、この“盤上戦術”での戦いでは……「倒した敵から得られるPP(敵を倒した時などにプレイヤーが獲得する例のポイント)が、大幅に減ってしまう」という仕様があったのだ。
というか、減るどころか、もうほぼゼロじゃんこれってくらいに獲得PPが少なかった。
本来だったら……アレだけたくさんの敵を倒したんだから、もうこれ一気にレベル20くらいにまで上げられるくらいに大量のPPを獲得していてもおかしくない——ハズだったのに……
しかし、実際のところは……1レベルだって上げられるか微妙なくらいに少ないPPしか獲得できなかった。
マジで……あれだけたくさんの敵を倒したんだから——まあ、一番の強敵だったボスたちは、倒しきれずに追い払っただけとはいえ——さぞや大量のPPが獲得できたんだろうなと思って、ワクワクしながら確認してみれば……実際に手に入ったPPは、まるで倒した数に見合わないカスPPしかなかった時の、落胆具合といったら……
正直、それだけだったらマジで——確かに……最後は最高に楽しい体験になった特別な“戦場”でのバトルを経験できたのはよかったにしても……しかしながら、ゆうてあれだけの激戦だったのだから——ショックのあまりに、しばらく立ち直れなくなるほどに落ち込んでしまっていてもおかしくなかったと思う。
だけど、実際には言うほど落ち込まずに済んだ。——いや、そりゃまあ、少しは残念に思ったけどね。
でも、PPが獲得できなかった代わりに獲得できたモノを考えれば……ぜんぜん納得できるというか、むしろ、こうなって良かったとすら思えるというか。
私が、大量のPPを得られなくても平気なくらいに……むしろ、PPよりもなお得難いモノだと認識している——“盤上戦術”による戦闘において、戦闘終了後、PPの代わりに入手できたものというのは……
それは他でもない、「熟練度」なのだった。
いやもう、それはそれは——大量のPPと引き換えだとばかりに——これまた大量の「熟練度」を、戦いが終わってから、私は一気に獲得したのだった。
思えば……“盤上戦術”での戦いにおいて、私はTPによりランクを上げるという形で、一気呵成に成長していた。
あるいは、あの“経験”があったからこその、この大量の「熟練度」なのかもしれない。
実際、特殊な状況下とはいえ——私は本来なら、だいぶ先の未来にようやく到達するはずの領域に、途中の段階を色々とすっ飛ばしてかなり強引に到達してしまっていたワケで……
実践(あるいは、実戦)に勝る経験なし——とは言うけれど……ならば、これから先の未来において成長した自分自身というものを実践した私の得る経験というのは……
なるほど、普通では考えられないくらいに——これ以上ないくらいに——上質なものだといえるだろう。
まあ、とはいえ——星兵としてのランクが上がるのに合わせて——そうやって一時的に上がっていたプレイヤーとしてのレベルやジョブのランクも、“盤上戦術”が終了したのと同時に、やはりというか、普通に(“盤上戦術”で戦う以前の)元のレベルやランクに戻っていたのだけれど……。
——当然といえば、当然なのだろうけれど……“盤上戦術”の中でTPを使ってランクアップした分は、能力が解除されるのと同時に元に戻ってしまうようだった。
まるで夢から覚めるように——以前の強さに戻った私は……本来なら、それが仮初の力だったとはいえ、大いなる力を失ったことに大きなショックを受けていた……だろうと思う。
それだけ、“盤上戦術”の終盤の私——最大まで強化された私は強かった。だからこそ、一度あの状態を味わってしまえば、元の弱い自分には戻りがたいというもの……
しかし、実際は……私はそこまでのショックは受けなかった。
なぜなら……獲得した熟練度によって——さすがに、“盤上戦術”で最大まで強化された時の私と同等のレベルにまで、とはいかなかったけれど——複数のジョブが、一気に数段階もランクアップできる状態になっていたから。
要は——一旦は、元の強さに戻ってしまったんだけれど……でも——ジョブのランクアップ処理をすれば、再び一気に強くなれるような状態になっていた、というかね。
それで……具体的に、どのジョブをどれくらい上げることが出来たのかというと——
まず最初に、中でも一番上がったといえるのが『刀使い』のジョブで、R2→R5に。
次に、かなり上がったといえる『炎使い』と『雷使い』が、R1→ R4に。
その次に、だいぶ上がったといえる『鏡使い』が、R1→ R3に。
最後に、少しだけ上がった感じの『大物殺し』と『待っててマナハス』が、R1→ R2に……それぞれ上げられる状態になっていた。
そして私は——当然のように、すぐにすべてのジョブのランクを上げられる分だけ上げてしまった。
なので、今の私はもう……“盤上戦術”で戦う以前の——まだまだランクが低くて弱っちかった頃の——自分とは、すでに一線を画する実力の存在になっているといえるのであった。
それこそ、『刀使い』のジョブなんて、すでに習熟完了しちゃってるからね。
そう……ジョブのランクは1〜5まであり、5が最大なので、R5になったのなら——それはすなわち、ジョブのすべての能力を習得したことを意味する。
——まあ、R5になった後も、覚えたスキルを使いこなせるようにするためには、そこからまた訓練する必要はあるのだけれどね。
つまり私は……これにて一応、『刀使い』のジョブの育成を完遂したことになる。
いやぁ……長いようで短かった。
なんせジョブを獲得したの、二日前だし、たった二日で最大まで成長しちゃった。
まあそれもこれも、“盤上戦術”の——ひいてはマユリちゃんのおかげだ。
いやはや……『刀使い』だけじゃなくて、他のジョブでも一気にいくつものスキルを覚えたから、確認するのが大変だ。
とはいえ、それだけ強くなったということでもあるのだから……これはまさに、嬉しい悲鳴といったところだろう。
ともかく、『刀使い』の育成を早々に完遂してしまったので……これ以降は、普段使いのジョブは別のものに変更しておくべきだろう。
本来なら、次にどのジョブを選ぶべきなのか、迷いそうなところだけれど……それについては、実はもう決まっているのだった。
この『攻略本』にも、そう書かれていることであるし——コイツのR4で覚える技がマジで有能ってか重要で、これからまさに必要になるし——一刻も早くランクアップさせたいので、次のジョブとして選ぶのは、もはや『鏡使い』一択だ。
そう……此度の“盤上戦術”戦において、“戦利品”として獲得したのは、なにも大量の“熟練度”だけではない。
他にも手に入ったものがある。
中でも一番の戦後獲得品と言っていいのが、コレだ。
これから先の目標——私の大切な人たちの救出を達成するために、どうすればいいのか。
目標とする対象がどこにいて、そこに行けば何が起こるのか、そして、その時に私はどう対処すればいいのか……
それらすべてが記されている、とても貴重な情報源——それこそ、まさに『攻略本』とでも呼ぶべき激レアアイテムを……私は入手していた。
これを私にくれたのは、マリィだ。
現時点からすれば、とある未来からやってきていたアイツが……ヤツにとっては過去となる——しかし、今の私にとっては未来にあたる出来事を記した記録媒体を、未来に帰る別れ際の時に、私に渡してきた。
それはまさに“攻略本”であり……ともすれば、“預言書”とすら呼ぶべきほどの代物であった。
いやまさか……まさかだよ。
ほんの少し前まで——現実はゲームのようにはいかないなぁ、なんてボヤいていたと思ったら……
ゲームみたく調整入れて強敵に勝ったり、攻略wikiも真っ青のお手製の攻略本を手に入れたりするんだもんね……
ほんと、今や「現実はゲームより奇なり」だよ。
——いや、「リアルがゲームになりにけり」……かな?
ねぇ、どう思う? ハムたろ——じゃなくて、カノさん?
——……アンタのそのマジでしょーもないボケとかホントどうでもいいし、それよりも今は、なによりもまず真っ先にやるべきことがあるんじゃないの?
えっ?
——『鏡使い』がランク3になったことで、正式に“分身技”を覚えて使えるようになったんだから……きっと、すぐに使ってくれると思っていたのだけれどね。
あっ、あ、あー……っとぉ……
——こちとら、いつになったら使ってくれるのかと、さっきからずっと待っていたのだけれど??
あ、ハイ……すんません。
ご、ごめん……気が利かなくて。
えと、その、す、すぐやりますんで……。
そら——いでよ、カノさん……!
『“現創造形——現創分身”』
——ふん……コレでなら、いくらでも相談に乗ってやるわよ……
。
。
。
「……ええ、こうして直接、面と向かった“話し合い”でね——」




