第208話 刮目せよ! 驚天動地の大戦略!
……嫌な予感がする。
わたしの場合——これまでの『サモドラ』のゲームにおける経験から言って——こういう直感はかなり当たる。
その直感が告げている。すぐに手を打て——と。
さっき見かけた、あのユニコーン……
あれを見た瞬間から、嫌な予感が止まらない……
アイツはとんでもない強さの強敵だ、それはきっと間違いない……
では、どうする……?
……どうもこうもない。
相手がどれだけ強くても、工夫しだいで勝つことができる。それが『サモドラ』というゲームだし、それが、わたしが『サモドラ』をもっとも好きな理由でもあるのだから……
相手がどれほどの強敵だとしても、それに勝てる戦略を立てる、それだけ……
とはいえ……今はゲームではなく現実の戦いだし、相手はまったくもって未知なる敵……
プレートに入ってくれば、大体の強さは判明するけれど——たぶん、そうなってからじゃ遅い……
現時点でも分かっている範囲で、対策を打つとしたら……
……やっぱり、特設の地形カード、かな。
あのユニコーンがどれだけ強くても、地上を移動する戦力である以上、地形効果は有効なはず……
とはいえ、現状では自陣の周辺地形をいじるほどのよゆうはないから……ここは、自陣の地形を変化させて籠城戦をするしかない。
では、現状において、もっとも有効な地形カードはどれだろうか。
すでに【簡易塹壕陣地】は使っているから、遠距離攻撃に対する備えはできている。
でも、接近してくる敵への対策は、まだまだ不十分だ。——“塹壕”は、敵の侵入を防ぐ効果まではないし……。
だとすると——今のわたしの手持ちのカードの中から選ぶとしたら……あのカードかな。
【そそり立つ高台】
このカードの、地形効果の詳細は……
・優位効果——「範囲内の戦力の“射程”を〈+1〉する」
・妨害効果——『対象——地上戦力』——「対象の侵入を阻止する」「隣接するプレートにいる対象からの(範囲内の戦力等への)攻撃を無効化する」「範囲外にいる対象からの攻撃の“射程”を〈−1〉する」
という、こんな感じ。
重要なのは、妨害効果の「侵入を防ぐ」と「隣接するマスからの攻撃を無効化する」という二つ。
このカードを使って、自陣を高台の上に押し上げたら——これらの効果によって、敵の地上戦力からの侵入を防ぐことができ、さらには、自陣に隣接するマスまで接近されても、そこからの攻撃が無効化される。
なので、これと塹壕の効果を組み合わせれば——自陣への侵入はもちろん、近距離攻撃も遠距離攻撃も両方とも無効化できるので——地上戦力に対しては、ほとんど無敵になることができる。
まあ、だからといって……これさえ使えば、敵の地上戦力はこちらに手も足も出なくなるから楽勝——とは、残念ながらならない。事実、地形カードについても、攻略する方法はいくつかある。
まず、敵が同じ(サモドラ)プレイヤーだった場合は、対応する特設カードを使うことにより、地形を攻略——または相殺することができる。
今回の敵は、プレイヤーではなくモンスターだから、そんな手は使ってこないだろうけれど……それでも、モンスターにも攻略の手段がないわけじゃない。
隣接するマスまでくれば、専用のコマンドを使用することで、(数ターンかかるけれど)どんなユニットでも地形を“攻略”することができるし……。——まあ、その“攻略”を妨害する方法というのも、またあるのだけれど……。
あるいは、もっと直接的に、地形カードそのものを破壊する——なんてことも、やろうと思えばできる。
特設の地形カードは召喚にかかるターンが特に長いぶん、LPもかなり高い。だけど、LPが設定されているということは……それは——攻撃を喰らい続ければ、地形カードといえども、いずれは破壊されてしまう可能性もあるということを意味している。
もちろん、地形カードのLPを回復する手段というのもある。あるけれど……敵の攻撃の規模と威力によっては、回復が間に合わずに破壊されてしまう場合もないとはいえない。
それこそ、地形が変わるほどの攻撃力を持つ敵が相手なら……地形カードも万全の守りにはならないのだ……。
それでも、地形カードによる守りがあるのとないのでは、守備力に圧倒的な違いがでてくるので……使わない手はない。
発動するまでに時間がかなりかかるけれど……もしも、間に合いそうになければ——その時は、短縮するなり手を打とう……。
あとはもう、ユニコーンの強さをじっさいに確認してみてから、対策を考えるしかないかな……。
。
。
。
なんとか地形カードの発動が間に合った。
【そそり立つ高台】の効果により、現在のわたしたちの自陣(3マス×3マスの正方形の範囲)は、地上より五十メートル以上の高さに持ち上がっていた。
その結果として——ただ物理的に高所になっただけではなく……地形カードの特殊効果により、敵の侵入を防ぐことが出来たり、味方の“射程”が延長されたりするようになる。
これは“盤上戦術”におけるルール上の効果なので、物理法則を越えて適応されている……はず。
なので——本来なら、そんな数十メートルくらいの障害なんて、あっさりと飛び越えられるくらいの機動力が相手にあったとしても……そんなことは関係なく、地上戦力なら問答無用で侵入できなくなる。
そういうわけなので——飛行能力でも持っていない限りは——あのユニコーンがどれだけ強かったとしても、今のわたしたちの陣地に侵入することはできない。
なんてやっているうちに……ユニコーンに動きがあった。
すでにユニコーンは、だいぶ前から“盤上戦術”の近くまで来てはいたのだけれど——慎重なのか、なんなのか……すぐに入ってくることはなかった。
おかげで、こちら側の準備が間に合ったので、それは助かったのだけれど……
しかし今、ついにユニコーンが、プレートに向かって進み始めていた。
ユニコーンは、プレートに侵入する前に、ちょっと試しに——といった感じに、内部に向かって攻撃を放ってきた。
角を振る動作に合わせて飛んできた——そんな軽いそぶりに見合わない、強烈な威力を持ってそうな——雷撃は……しかし、一番端のプレートより先には進まず、二つ目のプレートとの境界で阻まれる。
その様子を見てとったユニコーンは、ゆっくりとプレートの中へと歩みを進めていった。
プレートの中へと入ってきた時点で、ユニコーンのターンは終わる。
【指揮官のターン!】
ちょうど自分のターンがきたので、わたしはさっそく“DT”のTCを使い、ユニコーンの詳細なSTを表示させてみる。
【聖白銀雷光一角獣ライキリン】
格付——「王級」
等級——「6(相当)」
種別——「聖獣種」
属性——「雷/聖」
戦技——「雷光天閃」「雷光天駆」「雷光天衝」「聖光結界」「聖光結晶」「聖光結雷」
特性——「覇者風格」
——ST(推定)——
LP——「330000」
AP——「450000」
攻撃——「41000」
防御——「12500」
速度——「10」
射程——「6」
——FT——
【覇者たる風格をたたえる、美しき聖獣。礼節には礼節を、不敬には極刑を——それは、傲慢ではなく裁定である。己の振る舞いには気をつけよ、まだ死にたくないのならば】
——つ、強い……っ!!
R6相当の王級……まごうことなき強敵、大ボスだ。
今までの怪獣たちとは、文字通り、格が違う……
というか、“攻撃”と“速度”の値が——とんでもないことになってる……!
R6だとしても、この数値はヤバい……
——それに、この“特性”の効果って……?
ううぅむ……これは正直、普通にやったらまず勝ち目がないレベル……。
R6……か。
TPを使ったランクアップで上げられるランクは、元のランクから+2まで……つまり、元がR3の今のメンバーたちは、R5までしか上げられない。
——最大まで上げても……届かない。
R6以上のランクに上げるには、進化先のR6カードが必要だけれど……現状では、そもそもR6以上のカードは一枚もないから、本来なら進化させることは出来ない。
——それに、カガミおねえさんやチアキさんは星兵ではないから、そもそも進化先のカードが存在しない……。
ただ、わたしの山札の中には特殊カードの【進化】があるから、一人——いや、アレとアレを使えば——最大で三人までなら、ランク6にすることも、できなくはない……けれど。
とはいえそれも、本来の手段での進化ではないから、一時的な——それも、本来よりもいくらか性能の落ちる——進化にしかならない。
だけど、それでも……それくらいやらないと、勝ち目がない。
……いや、そこまでやっても、はたして勝てるかどうか——というところだろう、じっさいは。
……まあ、それも、正面から挑んだ場合の話だ。
あくまでもこれは、『サモドラ』の——“盤上戦術”での戦いなのだから。
格上だって、戦術しだいでいくらでも倒せるというのが、このゲームのいいところなのだ……
このユニコーン——ライキリンだって、やってやれないことはない……
できる……はず、わたしなら。
幸い、ライキリンに飛行能力はないみたい。
これなら、籠城しながら時間を稼げる。
まずはとにかく、みんなを最大まで強化する。R5のLv10まで上げれば、R6に限りなく近づく。
とはいえ、相手はR6の……それも王級だ。根本的に、地力に差がある。
だからこそ、強化と並行して相手を削って、少しでも弱らせておかないと……。
自分のターンが終わってからも、わたしはライキリンの対策を考え続ける……けれど。
【“ライキリン”のターン!】
たいして考える時間もないままに、すぐにまた、ライキリンのターンがやってきてしまう。
——なにせ相手の“速度”は「10」……ターンが来るのも、とにかく早い……。
白銀に美しく輝く一角獣……ライキリンは、真っ先にわたしたちの陣地のある場所——その中心部を狙って攻撃してきた。
【ライキリンの “雷光天閃”!!】
ライキリンが角を振ると——一筋の雷撃がほとばしる。
それは“盤上戦術”の一番端から中心部までゆうに届く“射程”を持っており——宙を切り裂く閃光が、放物線を描くような軌跡で高台の上まで向かってきて——気がついた時には、すでにこちらへ到達していた。
一瞬、ヒヤッとしたけれど……案の定、ライキリンの攻撃はこちらの誰にも当たることなく素通りしていく。
ふぅ……セーフ。
ちゃんと“塹壕”の効果によって、攻撃は防げている。
たとえ、どれほどの攻撃力があったとしても……当たらなければ問題ない。
攻撃が不発に終わったライキリンは、しかし、特にそのことについて反応することもなく、すぐに次なる行動に移る。
優雅かつ身軽に——しかし飛ぶような速さで一気に数マスを駆けて移動すると、またもや同じ攻撃を、今度は別の対象に向けて放った。
【ライキリンの “雷光天閃”!!】
【《[4][0′]》のムカデ型機械獣に 272651のダメージを与えた!】
【《[4][1′]》のサソリ型機械獣に 251972のダメージを与えた!】
【《[4][2′]》の大猿型機械獣に 294123のダメージを与えた!】
【《[4][3′]》のキリン型機械獣に 315571のダメージを与えた!】
【《[4][4′]》の海亀型機械獣に 240752のダメージを与えた!】
【機械獣を一掃した!!】
一直線に五つのプレートを突き抜けた雷撃が、五体の機械獣をまとめて粉砕してしまった……。
……ヤバすぎる。
——最大ダメージ30万越え……!?
これは……想定以上、かも……
このダメージ量なら、地形カードですら、あっさりと破壊されかねないんじゃ……?!
……これは、新たな対策が必要だ。
正直、あの威力をまともに受けていては、どうやっても耐えられるものではない。
なら……当たらないようにするしかない。
ユニットは大丈夫。“塹壕”の陣地効果で守られる。
だけど、陣地や地形そのものを狙われたら危ない……
数発ならたぶん、なんとか耐えられる……だから、連続しなければなんとかなる……
では、完全に防ぐというよりも、攻撃の命中率を下げる——あのカードだ。
【吹き荒れる砂嵐】
あるいは、こっちでもいい。
【立ちこめる濃霧】
というより、この二つを交互に使っていけばいい。
天候カードは持続ターンに限りがあるし、一度使うとクールタイムが必要になる……けれど、二つをサイクルさせれば常に発動し続けられる。
二つのカードの効果はどちらもほぼ同じで、攻撃の命中率を下げる効果と、あと、まあ、他にもいくつか効果があるけれど……とにかく、いま一番重要なのはその効果だ。
これを陣地を取り巻くように発動させれば、外からの攻撃の命中率がかなり下がる。
ただ、同時に、こちらから外に攻撃する際も命中率が下がってしまうのだけれど……これはもうしょうがない。
どっちにしろ、しばらくは強化に専念するつもりだから、こちらから攻撃することもないし、問題ない。
わたしはさっそく、【立ちこめる濃霧】を発動する準備をする。
特設だから時間がかかる……しょうがない、短縮させよう。
ここで手を抜くべきじゃない……最速で召喚する。
——ええと、どっちがいいかな……TPを使うか、それともDPを使って“即時召喚”を引いて使うか……
……“即時召喚”かな。
『“特設展開——立ちこめる濃霧”——効果接続——“特殊効果——即時召喚”』




