第207話 はじけよドラゴン!
ハァ……ハァ……
マジで……忙しすぎる……
APが、もう無い……
藤川さんに回復してもら——いや、さすがにちょっと休むべきじゃ……
だよね……さすがにちょっと、いったん休もうや……
『“もしもし……えっと、藤川さん——”』
『“あっ、ご、ごめんなさいっ、火神さん……ちょ、ちょっと、回復がっ、間に合いません……”』
『“あ、いや、無理しないで、藤川さん……私もちょっと、休憩が必要だから……そっちも休んで”』
『“あ——そ、そうなんですね……分かりました。すみません……では、少しだけ、休ませてもらいます……”』
そりゃそうだ、仕方ないよ、あんだけ連続して回復してれば、さすがに限界もくるよね……。
「あの、火神さん、大丈夫ですか……?」
と、その時——私に声をかけてくる人が。
今の私は、少しだけ休もうと思い、“黄金の実がなっている大樹”の幹に、もたれかかるように座り込んでいたのだけれど……
——相棒の鷹ちゃんは、そっちの方が落ち着くのか、今は木の上にいる。
そんな私たちのすぐ近くにまで——なにやら、『エフゼロ』に出てきそうな見た目のマシンに乗ったまま——やってきたシャイニーが、心配そうに話しかけてくる。——いや、なんなんだこの絵面は……。
現在の私は、シャイニーがいる司令部であるところの、《[0][0′]》地点にいた。
——ここは、元から特別に“容量”の多いプレートで、しかも今はさらに強化されているらしいので、本来は一つのプレートに一人しかいられないユニット(や生産装置)が複数滞在することも可能だったりする。
——事実、シャイニーと私以外にも、ここには他にも妖精ちゃんやヘビオとかもいる。
四方のすべてに対応するならここがベストなので、ここのところの私は、ずっとこの場から全方位に攻撃しまくっていたのだった。
その奮闘により、戦況はなんとかなっているとはいえ……私の負担は実際かなりのものなので、ぶっちゃけすげぇキツい。
私は疲労を押し殺して、シャイニーに返事をする。
「ええ、まあ、なんとか……ダイジョウブデス」
「……だいぶお疲れのようですね。では、次のターン——というか、次のLKでは、燃料棒を使用してAPを回復させてください」
「は、はい——ああ、なるほど、LKで回復もできるわけですか……了解です」
「その、キツいようなら、無理に毎回LKをしなくてもいいですから」
「でも、敵もけっこう増えてきてますし……私が加勢しないとマズくないですか?」
「確かに、そうなんですけどね……でもまあ、少しくらいは休んでもらっても大丈夫——だと、思います。ええ、そのくらいの余裕は……たぶん、ありますから」
「……いえ、大丈夫です、やれます。APが足りないならともかく、そうでないなら……休む理由にはなりませんから……」
「そうですか……ありがとうございます。それでは、どうか、お願いします」
そう言って、律儀に私に対して頭を下げるシャイニー。
彼女だって、ずっと休まずに指揮をとり続けている。
彼女だけではない、他のみんなだって、この戦局を乗り切るために、各々、自分にできる限りのことをしているんだ……
そんな中で、私一人が休むわけにはいかない……。
『ちょっと、アンタ、大丈夫? なんだかお疲れみたいだけれど』
「あ、カノさん……」
『あまり根を詰めすぎないようにしなさいよ。どうせ、APが無いとなにも出来ないんだから。回復中くらいは休んでおいたら?』
「うん、そうだね……ありがとう」
『ふん、別に……本体に倒れられたら困るからね、礼を言われるようなことじゃないわ』
「おお……なんかカノさんがツンデレみたいなこと言ってる」
『はぁ……バカなこと言ってる暇があるなら、やっぱりもっとLKして働きなさい』
「ごめんなさい、もうバカなことは言わないんで、どうかそれだけは勘弁してください……」
元々私がいた場所を、今は分身によって代わりに担当してくれているカノさんが、私に励ましの言葉をかけてくれる。
やっぱり、元は“私”なだけあって、彼女は離れていても私のことによく気がついてくれる。
……なんならこのまま、彼女にすべてを任せてしまいたくなる……けれど、それはできない。本体の私を動かせるのは私だけなのだ。
私がやらないといけない……
『Oh……キャガミン、Are you okay……?(大丈夫……?)さっきからLKLK援護援護——って、大変だよねー』
「ランディ……。うん、まあ、私は大丈夫だから……」
『んー、これさぁ……ちょっとの間なら、アタシが代わってあげられないかな〜? ——どうかな? シャイニー。その位置なら、アタシでもみんなとLK出来るし、いけるんじゃない?』
「ん、そうですね……ランディさんなら、“射程”的にも問題はないですし……確かに、少しの間なら火神さんの代わりをできるかもしれません」
『だよねっ? じゃあ決まり! それならさっそく、次のターンに位置を入れ替えようか! キャガミン!』
「あ、うん、分かったよ。……その、ありがとう、ランディ」
『Anitime!(いいってことよ!)。仲間なんだから、助け合わないとね!』
というわけで、ランディが少しの間、私と役割を変わってくれることになった。——ありがてぇ……
なので次のターンにはさっそく、私はランディと配置を入れ替える。
そのおかげで、私にも一息入れられる時間が生まれたのだった。
休憩の間に、私は改めて、戦場の状態やみんなの様子を確認していく。
【“ランディ”のターン!】
『Here we go!(いっくよ〜!)。——キャガミンがたっぷり休めるよーに、アタシがオマエらをぶっ飛ばす!』
威勢のいい声を上げながら、ランディが骸骨の一団に向けて攻撃する。
彼女の乗っている【強化機動兵装】——人一人がちょうど乗り込めるサイズの操縦席のある胴体部に、手足が付属したようなデザインのそれ——大きさにして全長四メートルちょいくらいの、大きすぎはしないが小さくもない機体が握っている、その大きさのロボが使うにちょうどいいサイズの銃が、光弾を撃ち出す。
撃ち出された光弾は放物線を描いて飛んでいき、距離にしておよそ三百メートル以上先にいた骸骨集団に命中し、盛大に爆発する。
【《[−4][3′]》の“骸骨団”に 3936のダメージを与えた!】
【“骸骨団”——[LP 864/4800]】
ふむ……一撃で倒せはしなかったが、それなりのダメージは与えているね。
まあ、ここまで減らせば、あとは分身のカノさんの攻撃でも倒せるから、十分といえば十分だ。
ランディの武器である【可変式の熱線銃】は、様々な射撃モードを搭載している。さっきみたいな砲撃以外にも、貫通ビームとか、連射ビームとか、色々できるみたいだ。
どの攻撃も射程が長いので、遠くからバンバン撃ちまくれるのが彼女の強みだ。だけどランディは“速度”があまり高くないので、攻撃回数が少ないのがネックといえばネックだった。
敵がザコのゾンビとかだった序盤はともかく、骸骨やら怪獣やらが出てくるようになってからは、なかなか苦戦するようになっていた。なので、そうなってからは私が、ちょくちょくランディの方にも加勢する必要があった。
『Ugh……(ぐぬぬ……)、さすがに倒しきれなかったか。まあ、これだけ削れれば上出来ね。よーし、そんじゃ、じゃんじゃんいくよー、次だー次!』
そう言って彼女は機体を操作すると、次なる標的を狙いやすい位置へと移動していく。
ズシン、ズシン……と、地面を踏み締めながら進むロボが、手頃な高さのビルの前で、やおらバンっと飛び上がってブースターをひと吹きしたら——一気に屋上まで到達する。
うーん、いいなぁ、楽しそう。私もああいうロボを操縦してみたいわぁ。
やっぱ乗り込み型のロボはロマンだよねぇ……。
【“チアキ”のターン!】
『——っ、キタキタァ! 出番だぞオメーら! かましたれェァ!』
と、今度はチアキの率いる戦車のターンがやってきた。
『おい馬! あそこだ! あのデケェビルの上な、あそこに登れ!』
『ヒヒーン!』
あの戦車って、浮遊式とかいって、なんか地面から浮き上がって進んでるんだよねぇ。
だからか知らないけどさぁ、なんか普通に、登れるんだよね……ビルも。
チアキの指示通りに、戦車はビルの垂直な壁もスイスイと登っていき、その頂上——つまりは屋上に到達した。
『よしきた! 出番だぞウサ公、おら——撃てェッ!!』
『——ッ!(ガチン)』
ドォォォォッッ——バッッカァァァァァンンッッッ!!!
チアキの号令に合わせて発射された砲弾が、敵個体に命中する。
【《[4][2′]》の“イノシシ型機械獣”に 3274のダメージを与えた!】
【“イノシシ型機械獣”——[LP 2541/17200]】
『おし、あと一撃で倒せるなァ……うらッ、もう一発だ! ヤロウを粉砕してやれッ!』
その後のダメ押しで撃ち込まれた砲撃により、その機械獣は見事に討ち取られたのだった。
ふむ……せやね、戦車ってのもいいよね、やっぱり。ロマンだよね。
てか、なんやかんや、チアキも戦車組のリーダーとして上手くやってるみたいだね。
戦車チームの役割分担としては、チアキが戦車長で、ウサミンが砲手、そして、馬ちゃんが操縦手みたいだ。
……まあ、色々とつっこみドコロがあるけれど——特に馬、お前さんは一体、どうやって操縦しているんだい……?——まあでも、なんかそれで上手くいっているみたいだから、あえて触れるまい。
このチームは人数が多いので、それぞれのターンに毎回行動できる。しかも、それだけでなく、お互いにLKを使うことで、さらに行動回数を増やせるみたいなので、それだけ火力も増える。
そうやって地道に、かつ確実に敵を減らしていってくれているので、実際かなり助かっている。
戦車か……私も一度は乗ってみたいものだ。そして撃ってみたい、主砲を。
アレで敵をブッ飛ばせれば……それは実際、最高に気持ちがいいだろうな……。
【“アンジー”のターン!】
ん、次はアンジーのターンだ。
『アンジーさん、次のターンでランディさんとLKしたいので、いったんこちらに戻っていただけますか? まずは《[1][1′]》へ移動してください。それから《[3][4′]》の相手に【通常砲撃】、最後のTACは……【反撃の構え】でお願いします』
『了解した』
シャイニーの指示を受けたアンジーは、バイクを走らせて自陣の内部に戻っていく。
その姿は……なんというか、アレだ、なんかちょっと、仮面なライダーの人みたい、っていうか……
だってなんか、スポーツタイプのバイクに、全身鎧の騎士が乗ってんだもん。しかも、その手には土をまとった大剣モードの“地重震剣”を持ってるし、付近には浮遊する砲台が浮かんでいる……
いや、もはや仮面のライダーどころか、マジで謎の……騎士ライダーだわ。
しかし、そんな謎の騎士ライダーの“騎乗技術”は素晴らしく、特大剣持ちで片手での運転もなんのその、見事な運転で颯爽と指示された地点までやってくる。
さらにそのまま、プレート内をバイクで移動していくと、驚くほどに軽々とした調子で、適当なビルの壁面を走行して最上部まで登っていき——ついには屋上にあるフェンスの上(そのいかにも細い、数センチくらいの部分)に降り立った。
なにをどうやったらそんな芸当ができるのかは、私にはぜんぜん分からないのだけれど……アンジーにかかれば、アレくらいは軽くこなせるということみたいです。
——実際のところ、住宅やらビルやらが点在している戦場で遠くを狙おうとしたら、高い建物に登るのか一番手っ取り早いってのは、確かにそうなんだけれど……にしてもだよね(笑)。
私も鷹ちゃんに乗る前は、上から狙うために、わざわざその場で飛び上がったりしていたのだけれど……アンジーはバイクがあるからこそ、あんな曲芸をするはめになっている。
とはいえ、アンジーの運転技術にかかれば……その程度のことは、さっきみたいに力ずくで解決できるみたいだけれど。
高所に来たことで射角も十分に取れたので、アンジーは攻撃を開始した。
狙いをつけて、およそ三百メートル先の目標に向けて、浮遊する砲台から砲撃する。
ドンドンドンッ——と発射された砲弾は、狙い通りに対象に命中して炸裂した。
【“トカゲ型機械獣”に 3918のダメージを与えた!】
【“トカゲ型機械獣”——[LP 2352/16800]】
【LK! ランディが攻撃に便乗する——】
ふむ、戦車と比べても遜色ない——どころか、こっちのが若干強いみたいだね。
——お、ランディもきた……彼女の攻撃が入れば、あのメカトカゲも倒せるかな。
とはいえ、複数で操る戦車と違い、アンジーは自分一人だけ。ゆえに行動回数も少なく、全体的な火力はそれなりに収まってしまう……
と、思いきや——彼女の真価は別にある。
【アンジーは “反撃の構え”を取った!】
そう、これ。
一言で言えば、アンジーはカウンタータイプなのだ。
“反撃の構え”という技は、敵の攻撃を防御しつつ、受けた攻撃に対してこちらからも“反撃”できるというもの。
元々、“盤上戦術”においては、敵から攻撃を受けた時には、“反応”というコマンドを発動できるのだけれど——
“反応”では、APを消費して防御や回避系の“行動”を取れるほか、カウンター系の技を持っていれば、同時に“反撃”することも可能になる。
ただ、事前に自分のターン(の最後)にカウンター系の技を使っておけば、次に自分のターンが来るまでの間に攻撃される度に、自動的にカウンターが発動して“反撃”できるようになる(しかも、この場合はAPを消費しない)。
なので今のアンジーは、敵から攻撃を受ければ受けるほど、“反撃”により相手にダメージを与えることができるのだ。——ちなみに、“反撃”に対してさらに“反応”を取ることは、普通はできないようだ。
だからこそ彼女は、ああして敵からも——そして、“反撃”するこちらからも——狙いやすいように高所に陣取っているのである……。
防御力と胆力に定評のあるアンジーだからこそ、とれる戦法だといえるだろう……いやはや、天晴れだ。
【カガミンのターン!】
ん……ついに私のターンが来たか。
さて……みんなも活躍しているし、私も休んでばかりはいられない……やりますか。
『火神さん、どうですか、いけそうですか?』
「ええ、問題ありません。いけます」
『分かりました……それでは、大技を使ってもらってもいいですか?』
「! もちろんです。大技というと……TPAですか?」
『ええ、そうです。——もはやTPよりも、APの方が不足している感じなので……使ってしまいましょう』
「いいですねぇ……!」
いよっしゃぁっ! TPAだ!
ブチかましてやるぜ……!
指揮官からの号令に従い——事前に何マスか移動して、対象を射程に収めてから——私はその奥義を発動する。
【カガミンは “TPA”を発動した!】
すると、豪豪とばかりに唸りを上げる——莫大なる雷の大奔流が、私から吹き上がる。
まるで、ドラゴンボールから神龍が飛び出すかのように——私から放出される途方もない雷のエネルギーが、上空でとぐろを巻き……それは次第に、巨大な雷龍の姿を成していった。
——これぞジイちゃんの“龍星群”!!
ではなく、これぞランク4の私のTPAである……
【“豪 雷 奔 龍”!!!】
全長にして数十メートルはある、大型トラックすらもひと飲みに出来そうな大口を開ける、あまりにも巨大な雷龍が——現出する。
私は大きく手を広げ、天に振り上げ——そして振り下ろす。
『“豪雷奔龍”』
私の動きに合わせて、雷の大龍が宙を奔り抜けてゆき……そして——敵を飲み込んでゆく……!!
【《[4][1′]》の“ヒョウ型機械獣”に 31411のダメージを与えた!】
【《[5][2′]》の“クロコダイル系怪獣”に 28623のダメージを与えた!】
【《[5][3′]》の“翼竜型機械獣”に 29580のダメージを与えた!】
【《[4][4′]》の“シカ型機械獣”に 33912のダメージを与えた!】
【《[4][5′]》の“イカ型機械獣”に 34231のダメージを与えた!】
【“ヒョウ型機械獣”——[LP 0/21400]】
【“クロコダイル系怪獣”——[LP 0/26000]】
【“翼竜型機械獣”——[LP 0/24600]】
【“シカ型機械獣”——[LP 0/15700]】
【“イカ型機械獣”——[LP 0/14800]】
【敵を一掃した!! 合わせて30742TPを獲得——】




