第20話 話は聞かせてもらったっ! 人類は滅亡するっ!
「とりあえず、私もさっきの恐竜くんの動画投稿するべきかな?」
「いや言ってる場合かよ」
まさかの世界規模のモンスターパニックが、今まさに始まっている模様。
いやいや、ヤバいじゃんこれ。世界の終わりか?
つーか、そう考えたら、むしろ怪獣倒したこの街が一番安全なのでは? いや、同じところにまた現れないとしたらだけど……。
「えーと、これは、マジで、どうしよう……?」
「どうするって……どうしようも無くない?」
まあ、マナハスの言う通りか。とりあえず一旦、落ち着こう。
「まあ少なくとも、怪獣が出たのはここだけじゃないってことは分かったね」
「あー、何の救いにもならない情報だけどね」
うーん、すでに世界規模で怪獣大パニックが始まっているのか……? 信じられないなぁ。だって今んとこ、ここはまだ平和なんだもん。いやまあそれは、あの恐竜くんがいないからなんだろうけど。
「つーかゾンビは? ゾンビの方はどうなんだろ」
それっぽい情報もあった気がする。
もう一度動画を漁ってみたら、やっぱり、あの不気味な人影が映っている動画もいくつもあった。
「ゾンビも各地に出没してるみたいだな……」
何それ、怪獣だけじゃなくてゾンビも世界規模で発生してるってこと?
怪獣が暴れまわって人がたくさん死んで、んで、死んだ人がゾンビになって、生き残りの人を襲い始めると。
いや人類滅ぶんじゃねーの?
「え、これ人類終わったんじゃないの?」
「うーん、ちょっとヤバいでしょ……」
「これは、世界が滅亡するということでしょうか? 最後の審判が始まってしまったということなのですか……?」
マジか、ラグナロク始まったな。
しかしそうなると俄然、気になってくるのが、私に突然もたらされた“力”についてなんだけど……。
それっぽいワードがヒットしないか検索しまくる。しかし、私と同じように“力”に覚醒したという情報は、すぐには見つからない。
正直なところ、この“力”が私一人だけに現れたとは考えづらい。だって、この力は明らかに戦うための力で、この事態に対応するのに都合がいいのだから。
それが本当に事態に対処するためのモノだとしたら、いくらなんでも私一人だけじゃ足りないだろう。他にもたくさんいないと足りるわけない。
そう思いながら、私は検索を続けた。すると、とあるワードに関する発言をしたアカウントがヒットした。
そのワードは、“頭の中に声”である。それで調べると、「なんか頭の中に突然声が聞こえだしたんだけどっ! いやマジで! これガチだから! え、これ俺だけ? 俺だけのやつなのっ!?」とか投稿している人がいる。似たような投稿が、他にもチラホラと見つかる。
やっぱり居たのか、私以外にも。
「これは朗報と言っていいのか分からないけど、どうやら私以外にも、頭の中に声が聞こえてから力が発現した人達がいるみたいだよ」
「マジでっ?!」
「なんとっ、火神さんだけでは無かったんですか!?」
「私一人ではないと思ってたよ。だって怪獣が出たその日に力が発現したんだから、何か関連があるじゃん。んで、世界中に怪獣が出てるんなら、世界中にそういう人たちが居てもおかしくないわけで」
「んんー、となると結局、その力はなんなんだ?」
「さぁ? モンスターバスター的なやつだろうとは思うけど」
「ということは、この辺りで力が発現したのは火神さんだけなんでしょうか?」
「どうなんだろう。でもそれだと、私一人であの恐竜倒させるつもりってことなのかね?」
「実際一人で倒してるんだよなー」
「まあ、そうだけど」
「いや、普通に考えて、いくら強くなってても一人じゃ無理でしょアレは。他にもいるんじゃないのかなぁ? ヒーロー的なのは、やっぱチームで動くもんじゃん。だからこれは、アンタが先走って倒しちゃったってことじゃないの?」
「えー、他の人が来るのとか、いちいち待ってられないし……」
——そもそも他の人が来たとして、あの恐竜と戦おうと思ったかどうかは正直、微妙でしょう。
フツーは思わないよね。私も何もなかったら挑んでないし。
——でも、そうなるとチュートリアルが進まないのかしら?
いや、それはどうかな? 恐竜じゃなくてゾンビ(仮)たちもマップには赤で敵として表示されてた。つまり、恐竜じゃなくてもコッチを倒してたらよかったってことじゃない? 恐竜は、ゾンビとか倒してレベル上げてから挑む系のボスでしょ多分。
——アンタは無理やり倒しちゃったけど。
しゃーないやん。出てきた場所が悪いねん。他のとこだったら無視してよかったのに。
そういえば、アレからチュートリアルの続報は無いけど、アレで終わったってことなのかな。終わりってアナウンスあったっけ?
——どうだったかしらね。でも、なんかあったらまたアナウンスが来るんでしょ。
そうだね。まあ、また何かやらされるにしても、今は少し休ませて欲しいところだけど。
——別に、チュートリアルは強制ではないっぽいし、無視してもいいんじゃない?
でも一応、アイテムとか貰えるし、出来るヤツはやっておきたいんだけどなー。
次か。これからどうするのか。うーん。
「だとしたら、これからは仲間を探していくってことになるのか?」
そう発言したのはマナハス。なるほど、そういう方針もあるのか。
私って基本的にゲームはソロプレイ派だから、そういう発想はなかった。誰かと組むとしても、よっぽど仲のいい人じゃないと無理だし、私にとって、そういう相手といえばマナハス、ということになる。なので、もっぱら普段も一緒にゲームする仲間といえばマナハスだ。
そのマナハスが仲間になるならともかく、誰か知らん人といきなりチームプレイとか言われてもなー。
「仲間集めかぁ。定番だけど、ソロプレイ派には辛いなぁ」
「言ってる場合かよ。こんな状況なら、戦力は少しでも多い方がいいでしょ」
「でも私、知らん人と協力プレイとか無理なんだけど……」
「世界の危機っぽい状況で言うことかぁ?」
「マナハスが仲間になってくれたらいいのに」
「いや私は変な声とか聞いてないし……。まあ、私にもそんな力があったら、アンタに協力してやりたいけどさ……」
「私も火神さんのお役に立ちたいですけど、お仲間になるのはやっぱり、神の啓示を受けた真の仲間だけですかね……」
うーん、私としては、こんな状況だし行動の主導権は自分で持ちたいから、むしろ、私と同じようなヤツらとは、あんま一緒に行動したくないんだけど。
「そうなると私は、火神さんとここでお別れですか……足手まといは英雄の旅には不要ですもんね……」
「私も足手まといだよな……。いやー、怪獣のいる世界とか、これから自力で生き残れる気がしないなー」
「いやいや、マナハスは私と一緒にいてよ」
「え、足手まといじゃない?」
「そんなの関係無いし。せっかく会えたのにまた離れたら、今度こそその辺で死んじゃいそうだし」
「ひどい言われようじゃん」
「それじゃあ私は……」
「藤川さんも、私と来る?」
「いいんですか……?」
「もちろんいいよ。藤川さんが良ければ」
ラッキーガールの透ちゃんは、なんやかんや生き残りそうな気がするのよね。そんな藤川さんと一緒にいれば、私の運も上がるかもしれない。
この子、真っ暗な地下について来たり、意外と根性あるし、案外これからの状況でもやっていけるんじゃないかと思う。
さて、とりあえず三人パーティーが結成されたけども、結局これからの行動はどうするべきだろう。
これまでは状況に流されて来たけど、今はとりあえず落ち着いてるし、自分から行動できはすると思うのだが。
——でも、何かをする前に、自分の力について出来るだけ確認した方がいいと思うのだけど。
そうなのよね。まだ全然確認出来てないし。やっぱここは、一旦、ここで落ち着くべきでしょう。
ふと、外を見てみたら、だいぶ薄暗くなっている。そろそろ日も落ちてくるな。そういえば、今日の夜はどこで過ごすか。
今から泊まるところ探すのもダルいから、出来ればもうここから動きたくないんだけどなぁ……。
「だいぶ日が暮れてきたね」
「そうですね。今日は怒涛の一日でしたね」
「マジ疲れたわー。もうすでにかなり眠い」
「そういえば、お二人は今日泊まるところはどうするんですか? たしか、こちらのお住まいでは無いんでしたよね?」
「そうなんだよね。予定では、適当なホテルでも探すつもりだったんだけど……」
「……よかったら、このまま家に泊まりませんか?」
「え、いいの? 私も?」
「もちろん、等路木さんもどうぞ」
「あ、真奈羽でいいよ。名前の方が呼びやすいだろうし」
「分かりました、マナハさん」
「突然言い出して大丈夫かな、お家の人の許可とか」
「大丈夫だと思いますよ。ウチのお母さん、そういうの歓迎する人なんで。でも一応、聞いてきますね」
そう言って、藤川さんは部屋を出て一階に降りていった。
「いやぁ、正直、もう動きたくなかったから助かったわ〜」
「私も。やっぱり藤川さんはお助けガールだった」
「何だそれ〜」
「藤川さんは私たちの恩人だからね。あの地下を脱出出来たのは、藤川さんがついて来てくれて、灯りで道を示してくれたお陰だから」
「マジか。そうだったんだな。うわー、藤川さんにも感謝しとかないと」
「今回のヤツで、今んとこ一番活躍してないのマナハスだから」
「しょうがないだろっ! 私は最初から駅に埋まってたんだからよー」
「まあ、私が来るまで自力で生き延びていたことは評価してやる」
「めっちゃ上から目線だな……」
そんな話をしていたら、藤川さんが戻ってきた。
「お泊まりオーケーしてもらいました」
「おっ、よかった」
「ありがとね、藤川さん」
「いえいえ、お二人の役に立つなら良かったです。それに、家でお泊まりって久しぶりなので、こんな時だけど、私も楽しみだなぁって」
「分かる。お泊まり会いいよね〜」
「それで夕飯なんですけど、ウチで食べますか?」
「出来ればそうしたいところなんだけど、大丈夫かな?」
「はい。それならお母さんにそう言ってきますね」
「あ、待って、もしかして、買い物とか行くのかな?」
「どうでしょう。材料が無かったら、買いに行くと思いますけど……?」
「いや、いま外に出ても大丈夫なんかなーって」
「あ、そうですよね……。いつも行くスーパーは近くなんですけど」
「一応、私もついて行こうかな……? いやでも、泊まり客の私が買い物についていくってのもおかしいかな」
「どうでしょう、買いたいものがあるから一緒に行くとか言えば……」
「そうだね。それで伝えてもらえる?」
「分かりました!」
「真奈羽も行くよね? てか家で一人にしとくのもアレだから、行こうよ」
「そうだな、私もついて行くかー」
「分かりました。買い物に行く場合は、お二人も一緒に行くって言ってきますね」
「お願いするね」
そうしてまた藤川さんは下に降りて行った。
「外の状況か……。とりあえず、ここの窓から見える範囲は、異常なさそうっぽいけど……」
「警戒し過ぎるってことはないんじゃないかなと」
「まー確かに、一応、ついて行った方がいいんじゃないの? この家に来てからは今んとこ何も起こってないからアレだけど、これまでにあったことを思えばねー」
「でもさすがに、また怪獣とは戦いたくないよ」
「そりゃそーでしょ」
「来るにしても明日にしてほしい」
「明日ならいーのかよ……」
どうやら材料が足りなかったようで、その後戻ってきた藤川さんに呼ばれて、私たちは買い物に行くために、藤川ママンの車に一緒に乗り込むのだった。