第206話 二度目の“初めまして”
こつこつと上げてもらっていた(星兵カードとしての)レベルが10に達したので、私はランクアップした。
R4になった私は——それまでのレベルアップでも、少しずつは上がっていたけれど——一気にSTがアップした。
特に、“速度”と“射程”が増えたのが大きい。おかげで私の担当する方面の“盤上戦術”が一マス分広がって、私のTAC(ターン内行動数)も一つ増えた。
さらに、ランクが上がったことで、新しい“特技”も追加された。
それにより——どうやら“星兵化”の影響による、ある種の弱体化により——それまで使えなかった『鏡使い』の能力も使えるようになった。
と、いうよりも……
いや、まあ、“鏡面反射”とかは、確かに、すでに覚えていた技なんだけど……
でも、他の……“鏡影分身”とかいう、この辺りの技は……私も知らない謎の技なんですが……
——そもそも、私がすでに覚えている『鏡使い』の技は、“鏡体念動”と“鏡映鑑定”と“鏡面反射”の三つしかない。
と、いうか……『鏡使い』由来と思われる技以外にも、なんか……知らない技がめっちゃあるんですけど……??
えーっと、なに、“烈空進撃”……?
いや、まあ、これには思い当たるフシが一応はある。
これはアレだ、たぶん、先日の“巨人”戦で偶然にも発動した、あの音速を超えた突進攻撃のこと……なんだと思う。
どうもアレが、“盤上戦術”においては、私の技の一つとして認識されてる、ってコト、なの……かな?
いやでも、“無相纏勢”とか“逆流破”とか“裂空颯刃斬”とか……このへんはマジでぜんぜん知らねぇんだけど……っ?!
マジで——知らん、何これ、怖……なんだけど。
いやまあ、名前はなんだかカッコいいんだけどさ。
……いや、てかさ、なんか……
いやね、なんとなーく、なんだけど……
……これ、私がつけた名前じゃね?
……って感じがするのよ。
——たぶんだけれど……これっておそらく、アンタがこれから覚えていく技、ってことなんじゃない……?
カノさん……。
まあ……たぶん、そういうこと、なんだろうね。
感覚的にも……そうなのだ。わかるのだ。
今の私は、ジョブのランクでいうなら——『刀使い』『炎使い』『雷使い』『鏡使い』の四つともが——ランク4に相当するレベルにまで成長している。
つまり……星兵としてのランクが上がったことで、私が持つジョブのランクも、それ相応に上がっている——ということみたいなのだ。
要するに……マユリちゃんの“盤上戦術”の能力には、そういう側面もあったのだ。
TPというモノを使うことで、味方ユニットを根本的に強化することができる——という性質が。
それは本来、星兵カードに適応されるものなんだろうけれど……今は星兵(と同列の存在)として参加しているプレイヤーの私にも、ちゃんと効果があったわけだ。
なので、私の持つジョブの能力を——本来なら、コツコツと熟練度を上げていかないと、まだまだ到達しえない段階にまで——TPによる強化と進化により……まあ、ある意味では強制的に押し上げたのだ。
それによって私は、自分が現状ではまだ覚えていない技ですらを……なんか使えるようになったのである。
これは……なんというか、末恐ろしいくらいに強力な特性だ。
TPを稼ぐのはけっこう大変だけど——いや、それにしても……やばいっしょ、これ。
てかさ、マジで——これ、技名はさ、誰が考えたのよ……?
いや、本来は覚えた時に私が自分で考えているんだけれど……でも、今回はなんか、最初から決まってたし……
でも、そのすでに決まってる名前が……なんか、自分で考えたような気がするというか、まるっきりそんな感じにしか思えないというか……
……でもそれ、怖くね? どういうことなん?
だってさ、それってなんか……未来の私が命名した名前をそのまま持ってきたみたいな……でも、それだとマジでワケがわから——
——ああもう、そんなことはどーでもいいでしょ! いつまでもブチブチとうっとーしいわね……!
え、か、カノさん?
——今はっ、そんなくだらないことを考えている場合じゃないでしょっ……!
まあ、そうだけど……
うんまあ、そうだよね。
今や戦況もだいぶ佳境って感じだし、マユリちゃんからもなんか、私に期待してるからバリバリ活躍してください——みたいに言われたし……
つーか、なんだったっけ? 次の私のターンが来たら、まずは“迅雷加護”とかいう新技を使って“速度”を上げて、その次には確か、ぶんし——
——それよ! 一番重要なのは、それ! 他のことなんてもう、どうだっていいのよ!
か、カノさん……
い、いや、どうだってよくはないでしょ……ま、まあ、カノさんの気持ちも分かるけど——
——まさか……こんなに早くに見つかるなんてね……
……そうだね。
——……“鏡影分身”、ですって……。
ああ……うん。
——なるほど……答えは『鏡使い』だったのね。——『刀使い』ではなく。ワタシが一番に鍛えてランクを上げないといけないジョブは……
いやあの、カノさん——
——ついに……ついにっ、自分の体を得ることが……っ!
…………。
——……ちょっと、分かってるんでしょうね? 次、ワタシたちのターンが来たら、真っ先に使うのよ。
ま、まあ……マユリちゃんにも使うように言われてるから、使うけどさ……
——分身の操作は、ワタシが担当するからね……
う、うん、出来るなら、私としてもお願いしたいところだけ——
——ぜったい、ね。ワタシがやるからね。
お、オッケー。ま、任せたよ。
カノさん——彼女はどうやら、私が思っていたよりも、よっぽど自分の体というものに執着していたようだ……。
私から生まれたとはいえ、もはや彼女は、私とは別の人格といっていいほどに独立した存在なので……私にも分からなかった。
まあ、短い付き合いのようで、彼女にはすでに散々お世話になっている身である私としては、できる限り彼女の意向を尊重したいと思っている。
だからまあ、この戦いが終わったなら——その時は、可能な範囲で、まずは『鏡使い』を鍛えていってみようかな……。
なんて——次のターンがくるまでの間に、ぼんやりと考えていた私だったけれど……
私に余裕があったのは、このターンが最後だった。
【“隼鷹”を 《[−1][1′]》に召喚!】
そういって、私の目の前に現れたのは——私を乗せて軽々と飛べそうなくらいにデカい、鷹のような見た目の——星兵だった。
【隼鷹イーグル】
種類——「星兵」
等級——「2」
種別——「獣型」
戦技——「烈空突撃」「風切羽翔」
特性——「迅騎一体」
——ST——
LP——「1500」
AP——「700」
攻撃——「1700」
防御——「1100」
速度——「3」
射程——「1」
——FT——
【音を置き去りにするほどの速度で飛べる、隼のようで鷹のような鷲っぽい名前を持つ大型の猛禽類。訓練次第で人によく懐くので、鷹匠ならぬ大鷲駆りの騎鳥として、背に人を乗せ共に大空を超音速で飛び馳せる】
この——やたら紛らわしい名前の——鷹ちゃんを一目見た瞬間……私の中に、なにやらビビッと感じるものがあった。
その気持ちに突き動かされるように、やおら鷹ちゃんの瞳を見据えると……向こうも私に目を合わせてくると同時に、コクリと頷いてくる。
さらに鷹ちゃんは、フイッと後ろを向いたと思ったら、おもむろにその場にしゃがみこんでみせた。
それはまるで、この背に乗れと——無言のうちに、こちらに促しているようだった。
なので、私は導かれるままに、鷹ちゃんの大きな背中の上に乗り……二人は合体を果たす。
——ムッ……感じるぞっ、私と鷹ちゃんのSTまでもが、今や一体となって強化されていることを……!
鷹ちゃんとの間に“繋がり”を感じる——今や私と鷹ちゃんは、二人で一つ。私の意思一つで、鷹ちゃんの翼を自在に動かすことも可能になっている。
実際、鷹ちゃんの背に乗った状態で、お試しで空を少しばかり飛んでみたら……やっべぇこれすっげぇ楽しいゾ!
一つのプレートの中という、だいぶ狭い範囲限定だったけれど——私は、自分の背に翼が生えたかと錯覚するくらいに——己が意思一つで自在に宙を切り、空を飛ぶ……!
うひょっおおぉぉ〜〜! 楽しぃ〜〜!!
いやぁ〜、デッカい鳥の背中に乗って空を飛ぶの、小ちゃい頃からの夢だったんだよなぁ〜〜!
——ポケなモンスのゲームをやってたら、自分もいつかは鳥ポケに乗ってみてぇなぁ……! ってなるよね、誰しもね。
カノさんに先駆けて、私の夢も叶っちゃったな〜こりゃ、やはは。
なーんて——はしゃいでいられたのも束の間……
——マユリちゃんが私に鷹ちゃんをあてがったのは、別に私の夢を叶えるためでもなんでもなく、あくまでも私のST(なかでも特に“速度”)を上げることが目的であり……それはひとえに、私というユニットをさらに活躍(という名の酷使)させられるように、という思惑があったからなので……
それからの私は、ひたすらに動き続けることになった——。
空を飛んで遊んでたら、すぐに自分のターンが来たので——私は行動を開始する。
まずは“迅雷加護”を使って、自分の“速度”を上げる。
雷の力を我が身に宿したことで——鷹ちゃんと合体してすでに上がっていたところから、またさらに——自分の“速度”がグンと上がったことを実感する。
——しかし、これはスゴイ……単純に“速度”のSTが上がっただけじゃない、あらゆるスピードが向上している……!
——体を動かす速度はもちろん、神経伝達、反射神経、そして思考の速度すらも……!
これにより、私の“速度”は——鷹ちゃんとの合体による強化分も合わせて——「9」という驚愕の数値になったので、“迅雷加護”を使った分を引いても、最大であと七回行動できる。
間髪入れずに——なんせカノさんがやたらと急かすので——続いて私は“鏡影分身”を発動した。
すると、私のいるプレートのすぐ隣のプレートに、私の全身がまるごと映るほどに巨大な鏡が現れる。
そして、その鏡の中より——鏡面を通り抜けて——現実の世界に現れたのは……私そっくりだけど、私ではない、もう一人のワタシである……“彼女”。
——ふむ……ぶっつけ本番で“彼女”の意識を分身に移せるのか試してみたけれど……どうやら成功したようだ。
——今の私の中からはすでに、“彼女”の存在がいなくなっている……その空白を、強く感じる……。
その“彼女”の後ろからは、つい先ほど私と合体した相手である鷹ちゃんも——少し窮屈そうに身を縮めながら——鏡から出てくる。どうやら、合体した状態で使ったら、合体中のユニットもまとめて分身できるということらしい。
直線距離にして、ここからおよそ百メートルくらい離れた隣のプレートの中心付近にて——鏡の向こう側から現れた、“彼女”。
“彼女”は……しばらくの間、自分の体を——まるで確かめるように、各部をゆっくりと——動かしてみたり、周囲を見渡したり……かと思えば、おもむろに深呼吸をし始めたりしていた。
傍から見ていても、それらはなんら特別なところもない、まるっきり普通な動作で……ゆえに本来なら、何一つとして特筆することのない行動でしかなかった。
しかしそれは、“彼女”にとっては、生まれて初めて行う“動作”というものであり……今までの“彼女”は、そんな当たり前の行為すらをできない境遇にあった。
だからこそ……自分の意のままに動かせる体があるという、そんな当たり前のことを、“彼女”は熱望していたのだ。
そんな“彼女”が——おそらく、気持ちの上では、長年の悲願を叶えたくらいの感覚なのかもしれない彼女が——今いったい何を思い、どう感じているのか……
これまでの私たちなら、お互いに伝えようとする必要すらなく“知って”いたそれも……しかし、今の私には分からない。
だが、しかし。
それはまさしく、“彼女”が“彼女”として……つまりは、一人の独立した人間として、この世界に産声を上げた瞬間だった。
『……ある意味では、これも、“初めまして”——と言うべき状況なのかしらね』
「……そうだね、確かに」
念話とも、モノローグとも違う——肉声による通信——確かにそれは、初めて聞く声だった。
そう、私はこの時、長らく自分の頭の中にしか存在していなかった“彼女”——カノンさんと、初めて他者として相対することが叶ったのだった。
『じゃあ、改めてよろしくね、ワタシ——ではなく、ライカ』
「うん、よろしく。カノン……さん」
『……よろしい』
「……」
『ふん……何を考えているのか知らないけれど——でも、まあ、いいわ。アンタの考えていることが分からないというのも、案外、悪くないものね……初めて知ったわ』
「……まあ、その、オメデトウ」
『ふふ……ええ、ありがとう』
と、そんな、初めての“会話”をカノさんと交わしたりしつつも——
【カガミンを想う 友の気持ちが 彼女を癒す……】
【カガミンのAPが回復した!】
私のAPが無くなりかけていることを察した藤川さんが、私のAPを回復してくれたので——私は続いてもう一度、“鏡影分身”を発動した。
【カガミンの “鏡影分身”!】
【《[−1][0′]》に “分身体B”が現れた!】
さっき分身を出した方とは反対側に、私の二体目の分身(と、セットの鷹ちゃん)が、先ほど同様に鏡の中より現れる。
しかし、新たな分身は眠ったように目を瞑ったままで——目を瞑ったまま鏡から出てくると——そのままその場に立ち尽くしてしまい、それきり微動だにしなくなる。
そう、この分身は本来はそんな感じで、私が遠隔で操作しないと動かないのだ。
まあ、操作といっても、意識を乗り移らせて操るので、ほとんど自分の体と同じように操作できるのだけれど。
——ちなみに、分身の操作中は逆に、私の本体の方が休眠停止状態になるらしい。
とはいえ、分身を操作できるのは、基本的には分身のターンが来た時だけなので、今はまだ動かせない。——通常なら。
しかし……
【カガミンは 《[−1][0′]》の“分身体B”とLKした!】
【“分身体B”が 目覚める!】
LKを使ったことにより、私は分身体の体に意識を移して行動させられるようになった。
そう、分身体は別のユニットなのだが、しかし私の作り出したものでもあるので、LKを使うことで私のターンに動かすこともできるのだ。
——ちなみに、ここでいう“行動”とはTACを消費する行動のことなので、カノさんのようにただ分身体の体を動かしたりするのは“行動”には含まれない。
私は分身体の体を動かして——というか、一緒に分身した鷹ちゃんの背に乗って飛んで——そのまま隣接するマスに“移動”する。
【“分身体B”は 《[−1][0′]》から《[0][−1′]》に移動した!】
これでよし。
そこで私はLKを解除して、自分の体に意識を戻す。
【カガミンのターンが終了しました】
ふう……結局、ほぼ分身を作るだけでターンが終わったね。
とはいえ、これで——分身も含めると、私は味方のすべてのユニットと隣接したマスにいることになる。
なので以降は、すべての味方の“行動”に対してLKできるようになった——ということなのだろう。
まあ、このLKについては、私もついさっきランディから説明を受けただけなので、まだ完全には理解できていない感じなのだけれど……
でも、おぼろげながらも——彼女の言っていることが事実なら——とんでもないことになるだろうな、ということは分かった。
そして事実——私はそれからの進行によって、LKの凄まじさを実感することになった。
LKとは——簡単に言えば、隣接するマスにいる味方の“行動”に便乗して、自分も“行動”することができるようになる、というコマンドだ。
これの利点は、自分のターンが来ていなくても“行動”できるという点にあり、それは“盤上戦術”にとっては、極めて重要な意味を持つ。
なぜなら、LKを上手く使えば、味方の行動回数を圧倒的に増やすことができるということなので……それによる戦術的効果は計り知れない。
ただし当然、LKを使うことによる弊害も存在する。
LKによる“行動”は、通常より多くのAPを消費することになる。
本来ならAPを消費しない“行動”にもAPを消費するようになるし、APを使うものは必要なAPが増加する。
しかし、それを差し引いても、行動回数が増える恩恵は絶大だった。
さらに——これはもう、バグというかチート技か何かだと自分でも言わざるをえないのだけれど……私の場合は、LKによる“行動”を終えた後にも、なぜか“特性”の効果が発動することが判明した。しかも毎回。
これがどれだけとんでもないコトなのかは、きっと私以上にマユリちゃんが重々承知しているのであろう……。——シャイニー曰く、それを知った彼女の驚きようは、ちょっと尋常じゃないレベルだったらしいし……。
とはいえそのおかげで、私はLKによるAP消費増大にも対応することができた。
しかし、それ故に私は……これ以降は常に、自分のターン以外にも、味方のターンが来るたびに毎回LKして“行動”するハメになってしまい……
まあ、つまりは、休む暇なく死ぬほど働かされることになったのである……。




