第205話 ランクアップ!(ドン!) 新技!(ドン!) ニューバディ!(ドン!) ニューエネミー!(ドン!!)
さすがカガミおねえさん……やっぱりすごい。
攻撃範囲の広い炎と、威力が高い雷の合わせ技が、本当に——凶悪なまでに強い。
アンジーが苦戦していた機械獣や怪獣を、たった一発で一掃しちゃった。
〈TPA〉は、元より“戦略級の超強力な決め技”という扱いだけれど……カガミおねえさんのさっきの技は、中でも上位の強さに入る威力だった。
というか……敵だけじゃなくて、そこにあった建物とかも、きれいさっぱり全部まとめて吹き飛ばしてしまったから——もはや、ほとんど更地というか、焼け野原になってしまっている。
うん……生存者の人たちを、ちゃんと事前に回収しておいてよかった。
——建物に対する被害なんかは、必要最小限の犠牲として受け入れるしかないよね……
さすがに、そんなところまで気にしていられない。
元からその場にあった建物が壊されたところで——これはどうせ、背景のような扱いなので——“盤上戦術”には特になんの影響もないから、気にする必要はない。
まあ、そうはいっても……匿っている生存者の人たちがいる建物が狙われたりした場合なんかを考えると、まったく気にしないでいいというわけでもない。
とはいえ……それについては、すでに対策済みだから大丈夫なんだけれど。
“盤面推進”を使うにあたって——そのままだと、その場から動かない建物の中に置き去りになってしまうから——生存者の人たちには、司令部のプレートに設置した“秘密の地下室”の中に、すでに避難してもらっているから。
それに、“盤面推進”のことを抜きにしても……戦いが過激になったら、司令部も攻撃を受けないとも限らないし——ユニットならともかく——一般人が流れ弾など受けようものなら、甚大な被害が出ることは確実……
当初からそんな風に心配していたわたしは、早いうちからどうにかしたいと思っていたのだけれど——運良くそのカードが早めにきてくれたので、これ幸いと使っておいた。
そのお陰で、以降は生存者の人たちの安全について心配しなくてよくなったので——早い段階からこのランクの“特設”カードを運用するのは、コスト的に少しキツいとはいえ——これくらいは必要経費と割り切っておく。
まあ、一般人はユニットには含まれないので、いざという時にはユニットのみんなも“地下室”を利用できるし……じっさい、無駄にはならないはず。
まあ、使う機会がないなら、それに越したことはないのだけれど……でも、機械獣の強さを実感した今となっては、あまり楽観視はできないかも……なんだよね。
さて……それで、その機械獣についてだけれど——さっきのようすをみるに、どうやらあのメカたちは、メカらしく雷属性が弱点みたい。
機械獣は、のきなみ防御力が高いみたいで、なかなかダメージが入らないのだけれど……でも、雷属性だと、かなりダメージが出る。
となると……機械獣はカガミおねえさんに任せたい——のだけれど……
アンジーを前衛にして、カガミおねえさんを後衛にする……?
だけど、そうなるとカガミおねえさんが元々いた方面をどうしようか……
【指揮官のターン!】
わたしのターンだ。
カードをドローしながら……わたしは考える——
いまさら新規カードを出すのはなぁ……って思うんだけど、やっぱりこの人数じゃ、さすがに少ないかなぁ……
せめて、あと一人か二人は入れておくべきだろうか……?
だけど、星兵を出せば出すほど、維持コストもその分だけ増えるし……
なら……陣地とか?
【簡易塹壕陣地】
ちょうど今回、このカードがきたし……そうだね、そろそろ陣地カードを使っておいてもいいかな。
陣地カードを使えば、その効果範囲内は無条件で自陣扱いになるから……戦力の配置にも、ある程度は融通が利くようになる。
それに、そろそろ敵にも、“射程”の長い攻撃を使えるようなのが現れ始めているし……
“簡易塹壕陣地”の陣地効果——陣地外からの遠距離攻撃の無効化——が、あった方がいいかも……
どちらにしろ、カガミおねえさんはこれからもメイン火力として活躍してもらうから……もうランクアップしておこう。
というか……カガミおねえさんって、ちゃんとランクアップできるんだろうか——ふつうの星兵じゃないから、もしかしたら……
でも、レベルアップはふつうにできてるから、ランクアップもできるよね……?
まあ、やってみれば分かるか。
【30000TPを使用して カガミンをランクアップさせますか?】
イエス。
【カガミンは ランクアップした!】
お、ちゃんとできた。
じゃあ、ランクアップしたおねえさんのSTを、さっそく確認——
【終末を斬り閃く刃カガミン】
種類——「星兵(扱い)」
等級——「4(相当)」
種別——「人型」
特技——「刀闘武技」「炎熱能力」「雷電能力」「鏡性能力」
特性——「親愛友絆」
——ST——
LP——「4800」
AP——「4300」
攻撃——「5700(+3000)」
防御——「4200」
速度——「3(+1)」
射程——「4(+1)」
——FT——
【力に目覚めてまだ日の浅い身ながらも、すでにいくつもの修羅場を潜り抜け、相当な経験を詰み相応の実力を身につけた若き俊英。高き素質は七つもの能力基盤を芽生えさせるほどであり、それらを組み合わせて使いこなすことが出来た暁には、きっと目覚ましい活躍を期待できることだろう。友情に篤い彼女は、常に友の想いと共にある。それは彼女の力の源であり、また彼女を助ける守護となるのである。※この戦力には、一部のTCが使用できない】
おお、“速度”と“射程”が両方上がってる……! ——さすがカガミおねえさん、すごい……!
増えた特技は……鏡の能力?
……なるほど。
えっと、どんな感じなのか……増えた技も見てみよう。
【終末を斬り閃く刃カガミン】
〈NAA〉
【烈空進撃】——「威力250」「射程2」「範囲2(直線)」「AC1」
【無相纏勢】——「CTR」「AC1」
【逆流破】——「CTR」「AC1」
【裂空颯刃斬】——「威力300」「射程3」「範囲2(連続)」「AC2」
【被害転送】——「CTR」「AC1」「※前提条件——“鏡影分身”を使用していること」
〈APA〉
【雷斬雷刃波】——「2500AP」「威力500」「射程5」「範囲4(直線)」「AC3」
【鏡面反射】——「1000AP」「CTR」「AC1」
【緋炎守護】——「1500AP」「GP1500」「KT2」「AC2」
【迅雷加護】——「2000AP」「速度+2」「KT2」「AC2」
【鏡影分身】——「2000AP」「射程1」「範囲1」「AC3」「KT5」
【鏡界門——鏡越転移】——「300AP——1000AP」「AP300」「AC1——AC1」
〈TPA〉
【焔 炎 奔 龍】——「4000TP」「威力550」「射程5」「範囲4(連続)」「AC4」
【豪 雷 奔 龍】——「5000TP」「威力630」「射程5」「範囲5(連続)」「AC4」
【鏡 界 封 印】——「6000TP」「射程1」「範囲1」「CT1」「KT5」「AC4」
◆——◆——◆
これは……!
見たことない技がたくさん……
なんか、カウンター系の技が多い……?
それに、新しく覚えた鏡の技、これって……
…………………………なるほど。
これは、かなり……やばい。
“迅雷加護”……これ、“速度”が「2」も上がるとか……めっちゃ有能だ。
使ったターンから効果があるなら、実質的に発動に使ったTACもペイできるし……
2ターン後まで効果が続くなら、もはや常に使っておくべきやつだ……
まあ、APもだいぶ使うけど……でも、カガミおねえさんはAPもほとんど自動的に回復する感じだし……
なにより、“速度”が合計で「6」になるのはマジでやばいから、これは使うしかないね……。
あとは、“鏡影分身”っていう、これも面白い……
分身を作る能力、か……
作成した分身は——“射程”だけは本体と同じだけれど、他はぜんぶ——本体の三分の一くらいのSTになるみたい……だけど、ふつうのユニットと同じように行動できる。
そもそも、ユニットと同格というのは、それだけで価値がある。
カガミおねえさんのSTなら、三分の一でもそこそこの強さになる、かな……?
三分の一だとAPもかなり減るから、APAはほとんど使えなさそうだけれど……
いや、でも……あれはふつうに使えるね。
“鏡界門——鏡越転移”……そう、これ。これの設置の方なら、分身にもできる。
鏡を設置した場所に、転移する……条件付きの転移能力、かぁ。
まあ、プレートの移動に使うTACを節約できるんだから、かなり便利な能力といえばそうなんだけれど……でも今回は、そんなに広域には展開していないから、あんまり使いどころはなさそうかも……
いや——ちょっとまって、あれ、これ……設置した鏡を介してLKが使える——?!
——本当だ、LK可になってる……!
と、いうことは……
——え、うそ、なにこれ……
え、まって、これって、もしかして……やばい能力なんじゃ……?
……だよね、これ、つまりはLKで鏡を使って転移できるんだ。
でも、こういうヤツって『サモドラ』では……LKを可能にする技以外も、なんか使えたから……
だとすると、カガミおねえさん……とんでもないことになるんじゃ……?
こ、これはぜひとも試してみないと……!
もしも——もしも、これがわたしの考えているとおりの技で、わたしの考えているとおりに運用できたのだとしたら……
カガミおねえさんの“行動力”が、倍増——どころか、何倍にもなる……かも。
というか、分身もユニット扱いなんだから、これともLKできるってことだよね?
分身と鏡を出しまくったら、まじでとんでもないことになりそう……
いやまあ、AP消費のことを考えたら、さすがにそこまでむちゃくちゃはできないか……
とはいえ、分身も鏡もかなり使えそうなのはたしか。
でもそうなると……惜しいな。カガミおねえさんの“速度”があと「+2」あれば——三分の一に減るとしても——分身の“速度”が「2」になるのに……
基本的に、『サモドラ』ではこういうのは端数切り捨てだったから——このままならたぶん、分身の“速度”は「1」になるんだよね……
……どうにかして増やそう。
分身の速度が「1」か「2」かはじっさい、すごい大きな違いになるはずだから……
でも、どうやって増やそうか……
——武装カードは、すでに装備してるし……
——一時的にSTをアップさせる技とかアイテムとか、あるいは魔法カードを使って増えた分は、こういうのには反映されないから……
やっぱり、乗り物カードか、あるいは、合体系の星兵カードか……。
次のおねえさんのターンから、もう分身を使ってもらうとしたら、今やるしかない……
……星兵だ。あの子を試そう。
——合体には相性があるから、成功するかは試してみないと分からないけれど……やってみよう。
よし、なら、ここで使っちゃうか……“C・D”を。
【指揮官は “C・D”のDCを使用した!】
【デッキから 任意の一枚を選択してドロー!】
【選ばれたのは……“隼鷹”でした!】
さっそく召喚だ。
【“隼鷹”を 《[−1][1′]》に召喚!】
【おや? カガミンの様子が……】
【カガミンは隼鷹を 乗りたそうに見ている……】
【隼鷹が……頷いた!】
【——マッチング成功!】
【カガミンと隼鷹は——合体した!】
よし、成功だ! ……よかった。
これで、二人のSTが合計されるから……けっこう強くなる。
速度は「+3」……これだけでも、かなり違う。
合計すると「7」——さらに、“迅雷加護”って技を使えば……ここからさらに「+2」されて、まさかの速度「9」……!
——なにそれ……やば……
大技だって二回撃てちゃう……よゆうで二回撃てちゃうよ……
……こうなったらもう、カガミおねえさんを前面に押し出していった方が良さそう。
たぶん、そうした方が、きっと上手くいく……。
今まで通り、カガミおねえさんを最優先で強化しつつ……並行して、陣地や生産カード——特に、“黄金のなる樹”を強化していく。
他の星兵の強化はあと回し。——まあ、“金樹”が成長すれば、もうほぼTPの心配はしなくてよくなる……
それまでは、カガミおねえさんにバリバリ活躍してもらって、なんとかしのぐ……
最初はダンタリオンを使って、そんな風にしようかと思っていたのだけれど——思ったよりもよっぽどカガミおねえさんが強かったから、もうおねえさんに任せることにしよう。
【指揮官のターンが終了した!】
さて、わたしのターンも終わりか……
さて——それじゃあ、“盤外戦術”の方も進めていかないと……
わたしはマドカを介して、“盤上戦術”の外を飛んでいる“偵察鳥”の視界を共有することで、周辺を偵察していく。
ゾンビは——相変わらず……少しずつ増えて、強化されていっている……
これは……まずいな、ほっといたらどんどん増えていきそう……やっぱり、少しずつでも、機をみてどんどんこっちから侵攻していかないと……
とりあえず……次のターンになったら、また“盤面推進”を使おう。
機械獣は——こっちも、少しずつ増えてきてる……?
これって、もしかして……あの景色が歪んでる変な場所から、新手が出現してるっぽい……?
うーん、かもしれない……。
もっと詳しく確認したいけど……でも、機械獣は下手に近寄ると、気付かれてやられるからなぁ……
——すでに分体が一騎、やられちゃったし……。
まあ、どっちにしろ……こっちはゾンビの後に、かな。
では、怪獣の方は、と……
あちこちにいるから、なかなか把握しづらいんだけれど……
でも、なんか——全体的にプレートに近寄ってきてるような……? なんだろ……ん?
あれ、あんな怪獣、今までいたっけ……?
——初めて見る?
確認しよう。
『“……マドカ、あの怪獣に、【鷹の目】でズームを——”』
目が合った。
バチィッ!!
『“——っきゃっ!?”』
「っつぐぅッ——!!」
「っ! お館様!? マドカさん?!」
「——わ、え、ま、マユリちゃん? なっ、なに……?!」
「ま、マユリ、どうした!? 大丈夫か?!」
「ま、マユリちゃん……?!」
「……う、だ、大丈夫——わたしは平気……」
「いや、でも——」
「平気……ちょっと反動がきただけ、だから……」
「反動、って……それ、味方がやられたらくるってやつじゃあ——なかったか? お、おい……だ、大丈夫なのか?」
「……ごめんなさい、おじさん。でも——ちょっと、集中するから……」
「あ、ああ……」
……シノブ以外は、マドカが受けた衝撃には気がつかなかったみたい。
『“……マドカ、大丈夫?”』
『“う、うん……わたしも平気だよ。ちょっとクラっときただけ”』
『“そう……”』
『“うん……ごめんね、偵察鳥がまた一騎、やられちゃったみたい……”』
『“気にしないで……まだ三騎は残ってるし、さっきのは……どうしようもない”』
そうだ……今のは何?
いや、“同調”していた“偵察鳥”の一騎が攻撃を受けて、やられたんだ……それは分かる。だけど……
気づいたの? あの距離で?
というか、気づかれた瞬間にやられたってこと……?
そんなの……
分からない……もう一度、確認してみる?
いや——またやられたら、やばい……すでに三騎もやられてしまっているのに、これ以上やられるわけには……。
『“マユリちゃん、さっきのって……”』
『“分からない……マドカは、なにか分かった?”』
『“いや、わたしにも、ぜんぜん——攻撃を受けたってこと以外は、なにも……”』
『“……もう一度、確認してみよう”』
『“……分かった。じゃあ、今度はさっきよりも、もっと遠くから確認してみるね”』
するとマドカは再び、今度は別の“偵察鳥”と“同調”する。——そしてわたしも、そんなマドカと“シンクロ”する。
すると、シンクロした瞬間——その一騎の意識が、一瞬、フラッシュバックして……
『“っ! この子、さっきの一部始終を見てたみたい!”』
マドカはすぐに、その子の記憶と深くシンクロしていく。
すると——
これは……光? いや、雷……?
と、そこで、シンクロしている一騎が唐突に旋回すると、急降下して木の中に隠れた。
そして、枝葉の隙間から、一点を見据える……と。
——っ、いた……!
なっ、あれは……!?
な、なんて……美しさ……。
道路の上を悠然と歩いてくる、その一体のモンスターは……とても美しい魔獣だった。
大きさとしては、そんなに大きくない。ふつうの馬より、一回りか二回りほど大きいくらいかな、というサイズ……。
見た目もほとんど馬そのものだった。でも、はっきりと違うところもあって……中でも一番大きな違いは——その額に、プラチナに光る一本のきれいな角が生えていることだった。
そして……角もだけれど、銀色にかがやく全身の毛なんかも——それこそ、光をキラキラ反射して、優雅にたなびくたてがみなんかは特に——ただの馬とは比べ物にならないくらい、すっごく幻想的に……美しい。
白銀のユニコーン。
とても美しい、幻想のいきもの……
だけど、美しいだけじゃない。
一目で分かる——いや、肌で感じる……
あれだけの美しさでも、まるで隠しきれていない——圧倒的な強さからくる、とんでもない威圧感を……
それはまるで、王者の風格——。
いつの間にやら……“偵察鳥”は地面に降り立つと、うつむいて地面の方をじっと見つめていた。——それはまるで、頭を下げてお辞儀をしているかのようで……。
すると、すぐに視線を感じた。
一瞬だったけれど……あのユニコーンが、確かにこちらを見た。
しかし、それだけ……今度は何もされなかった。
『“…………”』
『“…………”』
お互いに見つめ合い、無言の念話を送り合う……わたしとマドカ。
それくらい——念話ですら、言葉を発することをためらうくらいに……とてつもなく大きな衝撃を受けていた。
本当に……なにやら、とんでもないのが現れたみたいだ……。
——あ、そうか……他のモンスターがこっちに来てたのは、あのユニコーンから逃げてきていたからか……
そう、あのユニコーンは、こっちに向かってきているんだ……
…………ど、どうしよう……。




