第202話 半分以上なに言ってるのか分からない
さて……皆さんご覧ください、この武器ですよ。
【雷を斬りし伝説の刀——“雷斬”】……ですってよ、奥さん!
伝説の刀だよ、伝説の刀!
私はマユリちゃんから譲り受けた“雷斬”を、ゆっくりと鞘から引き抜いてみる……
ゾッとするほどに美しい刀身……しかし、そこに内包されているエネルギーは——
なるほど、こいつは……!
確かに……並の者には扱えるはずがない……
凄まじいまでの威圧——いや、“雷圧”を感じる……!
それこそ、普通の人なら、これを握っただけで感電して気絶するか——下手すりゃ、そのまま死んでしまうかもね……
誇張ではなく、実際にそれくらいの“雷流”が、常に流れている……
私がこれを扱えるのも、『刀使い』と『雷使い』の能力があるからだ。それがなければ、まさしく、手に取ることすらままならないのだろう……
しかし……これだけの強強武器があるなら——俄然、これから挑む超過酷な戦場すらも、なんとか乗り越えられそうって気もしてくるってもんよ……!
さーて、それじゃ、っと……
ランディから、ざっくりとした説明は聞けたけれど——
まずは、この——『サモドラ』のゲームシステムそのものだという——“盤上戦術”の仕様に慣れるところから、始めるとしようか……。
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『火神さん! 次のターンでは《[−3][4′]》の“ゾンビ群”に対して【斬空波】を! それから続いて、《[1][4′]》の“怪鼠群”も【斬空波】で殲滅してください。この“怪鼠群”が生き残った場合は、最後のTACはもう一度この“怪鼠群”相手に【斬空波】で、倒し切れたなら——その時はこちらで【SS】の“TC”を出しますので、何もしないで大丈夫です』
「あ……はい、了解しました」
いやぁ……まあ、ね。
ある意味では、楽と言えば楽——なのかもしれない。
なんせ私のやることは、基本的にはシャイニーから出る——それは、元を辿ればマユリちゃんからの——指示に従うだけでいいのだから。
今のところは、敵も私に攻撃が届く範囲まで近寄ってきてないから、マジでこちらから一方的に攻撃するだけだし——それも指揮官の指示通りに。
まあ確かに、その攻撃にしたって、やり方が普通とは若干違うものだから、最初はけっこう戸惑ったんだけどね……
だってこの“盤上戦術”って、基本的にはターン制バトルみたいに戦闘が進行していくんだもん。
いや、それって、どういうことなん……? ってなるよね。
私も最初は、マジで全然分からなかったんだけど……でも、どうにかこうにか指揮官の指示通りにやっていくことで——次で5ターン目になるところまで進行した今となっては——なんとか少しずつ、どんなもんか掴めてきているところだった。
先ほどのシャイニーの指示についても、今の私ならほとんどの意味を理解できる。
まずゾンビの群れのいる位置——《[−3][4′]》というこれは、プレートの座標を表している。
そもそもここら一帯は今、“盤上戦術”を発動したことで、プレートと呼ばれるマス目によって碁盤の目状にきれいに分割されて管理されているのだけれど……
その戦場の地図を上から見た場合——指揮官であるシャイニーがいる中心のプレートを《[0][0′]》地点として、東西に渡る「横軸」において東に向かう方が正の数字で、西に向かうのが「−」付きの数字になる。
そして、南北に渡る「縦軸」において北に向かうのが「′」付きの正の数字で、南に向かうのがダッシュ付きのマイナスの数字となる。
私が現在いるプレートは、シャイニーのいる中心から北西の地点なので——座標で表すと《[−1][1′]》となる。
この《[−1][1′]》は——中心地点からみて、ちょうど西と北にそれぞれ1マスずつ進んだ場所の座標を表している。
——ちなみに、この座標は横軸を先に言うのが慣例らしい。
なので、ゾンビのいる《[−3][4′]》というのは、私よりさらに北西の位置にあるプレートのことであり、《[1][4′]》という怪鼠の場所は、私より北東(あるいは北北東)の方角にあるプレートのことだ。
正直、そんな座標とかいうので言われても意味が分からんって感じだけれど——マイナスとかダッシュがついてるのが、マジで余計に解りづらい——しかし、何かしらの指標がなければ指揮にも支障が出るだろうので、まあ仕方ないのかな……と思うところだ。
というのも、マユリちゃんの発動した“盤上戦術”の及ぶ範囲というのが……改めて確認してみても、とにかく広大なので。
この“盤上戦術”というスキルがどんな能力なのかを一言で表せば——それは、『一定の範囲内を、独自のルールが支配する領域に変える』という感じだ。
——まあ、要は、色々な作品に登場する、特殊な空間を展開する系の技みたいなやつだということね。ほら、“領域展開”とか、“固有結界”とか……そーゆうやつ。
ここで特筆すべきは、この“盤上戦術”の全体的な規模——すなわち、能力の及ぶ範囲の広さであろう。
そもそも、プレートの一つ一つというのが、一辺が約100mの正方形なので、面積でいうと、それこそ10,000㎡もあるのだけれど——
現在の“盤上戦術”は、そのプレートが縦横に11個ずつ並ぶ長さの正方形だというのが、その全容であるので……
全体としては——プレートの数は11×11=121となり、広さとしては121×10,000㎡となるので——余裕で1㎢を超える広さにも及ぶのである。
面積1㎢というと……実際のところ、相当に広いんよ、マジで。
ぶっちゃけ、どれくらいの広さかパッと実感できないくらいには……マジでデカい。
いやホント……ジョブを獲得したてで、これだけ大規模な能力を使えるようになるのだから……やはり、マユリちゃんは色々と規格外だ。
にしても、これほどまでに広大な範囲に渡る領域とか……もはや驚くを通り越して呆れるレベル……
しかもこれ、これでゆうて最低規模らしいからね。その気になれば、さらにもっと広範囲に拡張させていくことができるらしいから……
いやはや、さすがはマユリちゃん……そのうち世界を征服しちゃいそうだ。まだ11歳なのに。
なーんてことを考えながらも、私は忠実に指揮官からの命令を遂行するための行動を開始している。
プレート内を移動して良さげな位置までくると、《[−3][4′]》の座標にいるゾンビに攻撃するために、その場で大きくジャンプすると、指示通りにその攻撃を放った。
【カガミンは “斬空波”を放った!】
同時に、そんなシステムメッセージが脳内に再生される。
私が上方から放った飛ぶ斬撃は、狙い通りに——北西の方角、直線距離にしておよそ三百メートルくらいの地点にいる——ゾンビの群れ(およそ50〜60体くらい)に、外れることなく命中する。
【《[−3][4′]》の“ゾンビ群”に命中! 9864のダメージを与えた!】
とはいえ、当たったのはせいぜい数体のゾンビだけだ。しかし——斬空波が直撃して砕け散ったゾンビはもちろん、当たっていない周りのゾンビも、なぜか連鎖的にバタバタと倒れていって……ついには、すべてのゾンビがその場に倒れ伏した。
【“ゾンビ群”——[LP 0/500]】
【“ゾンビ群”は全滅した! 156TPを獲得——】
そのメッセージに連動するように……倒れたゾンビは今まさに、淡い光に変わって消えていくのだった——
おうおう、相変わらずゾンビはザコでカスだな……
——ダメージがヤバイ、めっちゃオーバーキルしてる……(笑)
まあ、獲得TPに関しても、その分ショボショボなんだけど……
とはいえ、“斬空波”一発で五十体以上のゾンビの群れを倒せるのだから、そこはやっぱり“盤上戦術”の大きな利点の一つと言える。
“盤上戦術”においては、ゾンビのような数の多いザコ敵は複数体で一つのユニットになる。
それによりゾンビは、本来なら一つのプレートに一体のユニットしか入れないところを、大勢でゾロゾロと入れることになる。
しかしその代わりに、ユニット全体でダメージも一律で入ることになるので——さっきみたいに群れの一体に攻撃すれば、そのダメージが全員に及ぶのだ。
ゾンビでは全員分を集めても、LPの値はゆうてカスなので、私の——攻撃力7000を超える、“雷斬”によってデフォルトで雷属性になっている——斬空波を受けたら、一撃で全滅するというわけ。
とまあ、そんな感じで……まずもって戦闘を行うフィールドの状況からして、なかなかややこしいことになっている。
加えて、この“盤上戦術”においては、私の使う攻撃技すら普段とはちょっと変わるのだ。
まあ、それも今んとこは、ほとんど“斬空波”しか使ってないんだけど……
まあ、なんやかんや、この技が一番使い勝手がいいんだよね。
つーわけで、ゾンビに続いて指示通りに、次は怪鼠の集団にもぶち込んでやるとするか。
——さーて、一撃で倒せればいいんだけれど……どうかなー。
実際、ヤツらの数だと、確かに微妙なところだと思う。これまでの経験則からいっても、一撃で倒し切れる可能性もあるし、耐えてわずかに残る可能性もある……
“斬空波”ではなく他のもっと“威力”の高い技を使えば一撃で確実に倒せるんだろうけど、指揮官の指示はあくまで“斬空波”を使えとのことだ。——まあ、それには私も同意する。
私の持つ“斬空波”以外の技だと、あの位置の怪鼠に届くのは、あとはAPなりを消費する技しかない。
私はプレート内を移動しながら、怪鼠に攻撃をぶち込むにいい角度を探りつつ——自分の技について改めて思い返してみる。
【終末を斬り閃く刃カガミン】
〈NAA〉
【直接攻撃】——「射程1」「範囲1」「AC1」
【進攻撃騎】——「射程4」「範囲1」「AC1」
【飛刀】——「威力150」「射程1」「範囲1」「AC1」
【斬空波】——「威力180」「射程3」「範囲1」「AC1」
【溜気】——「CT1」「AC1」
【防御】——「CTR」「AC1」
【回避】——「CTR」「AC1」
〈APA〉
【火炎放射】——「400AP」「威力210」「射程2」「範囲2(連続)」「AC1」
【雷撃放射】——「1500AP」「威力360」「射程3」「範囲3(直線)」「AC2」
【炎月輪】——「300AP」「威力240」「射程3」「範囲1」「AC1」
【雷刃波】——「900AP」「威力310」「射程4」「範囲1」「AC1」
〈TPA〉
【焼き穿て 火雷の太刀】——「1800TP」「威力470」「射程4」「範囲3(連続)」「AC3」
【震え轟け 雷斬の太刀】——「2500TP」「威力530」「射程4」「範囲4(直線)」「AC3」
◆——◆——◆
……と、こんな感じで、使える技の性能がキッチリと決まっているのだ。
私はそれぞれの項目について理解したことを——復習を兼ねて——軽く確認していく。
まず、“AP”や“TP”とあるのは——プレイヤーが敵を倒した時とかに獲得する例のPとは無関係の、“盤上戦術”における特有のPで——技を放つ際に、それぞれ消費するPのことだ。
そして“威力”に関しては、読んでそのまま、技の威力、強さのことだ。
その次の“射程”は、私のいるプレートからどれだけ離れたマスまで届くのかであり、“範囲”というのは、技の効果が何マスにまで及ぶかを表している。
“火炎放射”を例にとってみると——この技は「射程2」「範囲2(連続)」なので、私から2マスまでの距離で2マス分攻撃できる……ということになる。——ちなみに、“範囲”に「(連続)」とついている通り、狙えるのは連続している2マス分になる。これが「(直線)」になると、自分から見て直線的に連続しているマスを指すようだ(ちなみに、斜めに“直線”でもOK)。
そして、“AC”というのは、技を使った際に消費される“TAC”のことだ。
そもそも、1ターンの間に行動できる数は“速度”のSTによって決まり、基本的には“速度”の数だけ行動できる。
つまり、“速度”が3なら“TAC”も3で、ターン内に三回行動できるということになる。
しかしこれが、ACが2以上の技を使うと話が変わってくる。TACが3のユニットが、ACが2の技を使うと、残りのTACは1なので、あとACが1の技しか使えなくなるし、二回の行動でターンが終わる——ということになる……。
——あと、CTとかいうのも、このTACとかに関係するヤツみたいなんだけれど……これについては、私もまだ使ったことないし、よく分かってないんだよね……。
まあ、最初はなんか難しそうに見えたけれど、一度理解することができればそんなに難しい話ではなかった。
とはいえ、最初はACとかTACとかややこしい語句が並ぶから、マジで意味不明だったよ……
つーかそもそも、アルファベットの頭文字で表す語句が多いんだよ、このゲーム……
技にしたってさー、NAAだとかAPAだとか——なによもう、ペンパイナッポーアッポーペンかよお前はって……。
それで、その“NAA”ってのは、これは普通に、なんのPも消費せずに使える技のことで……ま、要は通常技ってところだね。
“APA”はAPを使う技。だからまあ、特殊技って感じ。
そして“TPA”なんだけど……これはTPを使う技らしい。
これについては、実際にはまだ一回も使ったことないから、私にもよく分からないんだけれど……かなり強力な技みたい。
【カガミンは “斬空波”を放った!】
でもこれ、めっちゃ使ってみたいんだよなぁ。やっぱ強そうだしさぁ、どんな感じになるんだろうなぁ〜って、気になるし。
【《[1][4′]》の“怪鼠群”に命中! 4121のダメージを与えた!】
でもまぁ、勝手に使うわけにはいかないし、そもそもTPを消費する技である“TPA”は、指揮官からの命令がないと使えないんだよね。
【“怪鼠群”——[LP 0/3800]】
【“怪鼠群”は全滅した! 1043TPを獲得——】
っと、考えごとしながら放った一発で倒せた。
ふむふむ、これなら残りのTACは温存というか、“SS”に回せるね。
『ナイスです、火神さん!』
「あ、はい、どうも」
『では、怪鼠は倒せたので、最後のTACは“SS”でお願いしますね』
「了解です」
【指揮官は カガミンに“SS”のTCを発令した!】
【この指令に従いますか? 「Y/N」】
「いえすー」
【カガミンは指令を承諾! “SS”を発動!】
【TACを消費し 257TPを獲得——】
【カガミンのターンが終了しました】
うっし、これでこのターンも終了だ。
私の方面の敵は倒しきったから、今のところは敵影無し。
TPも順調に貯まっている感じかなー?
そう、TP——TPという、これ。“盤上戦術”においては、どうもこれが一番重要なヤツみたいなんだよね。
ていうか、そもそもTPってなんなんだよって話なんだけど……これはなんか、敵を倒したりしたら獲得できるPらしい。
このTPというのは、基本的には指揮官にしか使えないPで、用途としては——新たなカードの召喚や、既存のカードの強化、あるいはTCとかいう特殊な指令を発動するのに使うとかいう……そういうやつらしい。
APとは違って全体に共通するPなので、それだけ重要というか、希少というか……
まあ、結局のところ、この“盤上戦術”の攻略のキモは、このTPをどれだけ効率的に入手できるかにかかっているようだ。
敵を倒す以外にも、生産系のカードの生産物を収めることでも増やせるみたいで、マユリちゃんは序盤から色々と生産系のカードを召喚しているみたいだった。
なんて私が考えているうちにも盤面は進行していき……次のターンに行動するのは——チアキだ。
【暴れ狂う獣チアキのターン!】
【“刻印刻限”——“解除印”が発動!】
『ガアアアアアアァァァァァぁぁぁぁぁ——っ、ぁぁぁ……ぁぁっ、ぁあ……?』
【チアキの “狂化状態”が 解除された!】
あ、怪物がようやく正気に戻ったみたい。




