第201話 オープン・ザ・タクティクス!
マドカのおかげで、見落としていた可能性にも気がつくことができた。
“盤上戦術”を発動させる前に“武装”カードを装備させておくなんて——言われてみれば、こんなに簡単で有効な方法もない。
というわけでわたしは、デッキの編成と並行して、みんなに装備させる武装カードも選別していく。
そして、初期メンバーのそれぞれに一番相応しい武装カードを選びしだい、すぐに召喚していく。
数があるので、すべてを呼び出すのはちょっと大変だけれど——青ゲージを何度も回復させつつ——マドカとも協力して、手分けしてどんどん召喚する。
まず最初はシャイニー。
彼女に装備させるのは、この二つ。
【飛行制御噴進鋼翼】
種類——「武装」
等級——「3」
対象——「人型」
——ST——
防御——「+1200」
速度——「+2」
——FT——
【噴射推進機構のついた、機械仕掛けの翼。装備者に高度な飛行能力を授ける。鋼の翼は軽量かつ頑丈で、防御装甲としても一定の用途に耐えうる強度を持つ。※運用の際は、1ターンにつき1ダースの燃料棒に匹敵するエネルギーが必要】
【浮遊型超高速競走機——Type.D】
種類——「道具」
等級——「3」
乗員——「1」
——ST——
LP——「2500」
防御——「1900」
速度——「+3」
——FT——
【世界一危険なレースと言われる『DM・GP』にて使用される、超高速高性能機体の横流し品。現役の機体には及ばないが、それでも相当なスピードの出るマシーンであることに変わりはない。※運用の際は、1ターンにつき2ダースの燃料棒に匹敵するエネルギーが必要】
指揮官にとってもっとも重要なSTである“速度”特化にしたいシャイニーは、この二つを装備させることにより、それぞれ“速度”が「+2」と「+3」されるので、合計すると「7」という——初期の“速度”としてはまさに破格の数値を実現する。
『“よかった……武装カードだけじゃなくて、乗り物カードもいけるみたい”』
『“——だね。にしても、これ全部合わせたら、シャイニーの速度は……驚きの「7」——これはすごい!”』
『“でもこれ、二つとも消費コストがけっこう高いし……そこは、ちょっと心配かも……?”』
『“あー、確かに……。んー、でも、シャイニーの特性はアレだから、なんとかなるんじゃないかなー?”』
『“……むしろ、シャイニー以外には無理な構成なのかも……。うん、そういう意味でも、指揮官にはシャイニーが適任だったみたいだね”』
お次はアンジー。
彼女には、この二つを装備してもらう。
【浮遊型自動砲台】
種類——「武装」
等級——「3」
対象——「人型」
——ST——
攻撃——「+1500」
射程——「+2」
——FT——
【装備者の周囲に浮き従い、自動的に敵を攻撃する砲台。——そう、貴方は何もする必要はありません、ただこれを装備しておくだけで、敵対者は自動的に排除されてゆくのです。ね、簡単でしょ? ※射撃武器を扱う適性のない対象にも装備させることができる】
【軽快なる自動二輪】
種類——「道具」
等級——「2」
乗員——「1」
——ST——
LP——「900」
防御——「600」
速度——「+2」
——FT——
【スポーツタイプの自動二輪車。オフロード性能もそこそこ高いので、わりとどんな地形でも走れる。ただし装甲は薄めなので、戦場での使用にあたっては過信は禁物。※ 運用の際は、1ターンにつき1ダースの燃料棒に匹敵するエネルギーが必要】
これでアンジーも、“速度”と“射程”の両方が「3」になる。
『“両方「3」もあれば、まずまずってところかな〜?”』
『“……だね。さすがに、両方「1」だと低すぎるからね”』
次はウサミン。
装備するのは、これ。
【精密なる狙撃銃】
種類——「武装」
等級——「2」
対象——「人型」
——ST——
攻撃——「+800」
射程——「+2」
——FT——
【一分の狂いも許さない精巧な造りこそが、一分の狂いもない精密な狙撃を成功させる——。そんなコンセプトを元に職人たちにより制作されたこの狙撃銃は、数多の職人気質な狙撃手たちを納得させ、確かな評価を受けるに相応しい性能をいかんなく発揮するのであった】
これで“射程”は「+2」。合計すると「4」になる。
『“本当は速度も上げたかったところだけど……ちょうどいい乗り物カードがなかったね”』
『“ウサミンの場合は、馬のトラースと組み合わせられたら、それが一番いいんだけれどね……”』
『“んー、道具カードの乗り物とは違って、星兵カードだと、初期配置可能なユニット数の制限に引っかかるから……無理か。うん、無理だね、残念だけど”』
『……そうだね。まあ、しょうがないから、馬ちゃんについては、“盤上戦術”が始まってから、なるべく早めに召喚しようと思う”』
『“おお、馬ちゃ〜ん——どうか早めに引けますように……!”』
続いてランディ。
彼女に装備してもらうのは、この二つ。
【強化機動兵装——Type.N】
種類——「武装」
等級——「3」
対象——「人型」
——ST——
LP——「+12300」
攻撃——「+700」
防御——「+2100」
速度——「+1」
——FT——
【標準的な性能の量産型の強化機動兵装。いたるところで見かけるとばかりに広く普及しているのは、やはりそれだけ広く支持されているという証なのであろう。※ 運用の際は、1ターンにつき2ダースの燃料棒に匹敵するエネルギーが必要】
【可変式の熱線銃】
種類——「武装」
等級——「3」
対象——「人型」
——ST——
攻撃——「+1700」
射程——「+3」
——FT——
【“どのような戦場にも対応できる”——をコンセプトに、様々な射撃モードを搭載している可変式の熱線銃。可変式というのは射撃モードのことだけではなく、その大きさについてもであり、歩兵から重装機兵、はては人型搭乗兵器にいたるまで、あらゆる規格に対応可能である】
二つを装備させると、“速度”と、“射程”がそれぞれ「2」と「5」になる。
『“ランディは元のステータスがちょっと低いけど、「兵装駆使」の特技のおかげで二つも装備できちゃうから、なんとかなりそうだね”』
『“うん。見た目的にも、この装備はランディにピッタリだし……いい感じ”』
『“ランディはねぇ……最初から「専用機体」が使えたら、間違いなく最強のカードなんだけどねー”』
『“……それだともはや、ランディではなくダンタリオンのカードになってしまうんじゃ……?”』
『“う、それは……確かに。じゃあ、やっぱダメだね。ランディとダンタリオンは二人で一つなんだから、今のままじゃないと”』
そして最後は……カガミおねえさんだ。
カガミおねえさんは——ほんと、驚くくらいに——元から、かなり優秀なSTだったけれど……
まさかまさかの——おねえさんは、こんな“武装”カードを装備できちゃうんだよね……
——これに気がついた時には、わたしも思わず変な声を上げちゃいそうになるくらいにビックリした……。
そう……おねえさんは装備できてしまうんだ——この、“伝説の武装”カードを……!
【雷を斬りし伝説の刀——“雷斬”】
種類——「武装」
等級——「3」
対象——「人型」
属性——「雷」
——ST——
攻撃——「+3000」
速度——「+1」
射程——「+1」
——FT——
【なぜか速度と射程が+1される——その昔、雷を斬ったとされる伝説の刀。その刀身はとてつもなく強力な雷属性を持ち——“雷属性”と“刀を扱う熟練の技能”の両方を持つ者にしか扱えないという、あまりにも装備者が限られる業物。しかしその分、その性能は極めて強力であり、あるいはこれ一本で戦場の行く末を左右しかねないほどである】
装備できるユニットがすごく限られるという意味でも、伝説の装備の名に相応しい、この強強カードを……。
『“この人——スゴいね……! 星兵だとしたら、めっちゃ優秀なカードだよっ……!”』
『“そうだよね……しかも、カガミおねえさんはそれだけじゃなくて、伝説のカードまで装備できるんだから……本当に、ヤバいと思う”』
『“ほんとほんと。——しかも、見た目もすごくカッコいいし……カードになったら、すごい人気出そうな人だなぁ”』
『“だよね……そうなったら、つられて「雷斬」の人気まで上がりそう。だって、これほどバッチリな組み合わせ、他にないもの”』
なんやかんや、“雷斬”が装備できたことで、初期メンの中ではカガミおねえさんが頭一つ抜けて一番強いユニットになっちゃった……。
本来なら——星兵ではないおねえさんには、安全に気をつけて無理をしないようにしてもらおうかと、思っていたんだけれど……。
いかんせん、こうなってしまうと……カガミおねえさんにも、できるだけたくさん活躍してもらいたくなってきちゃったかも……。
さて……とにかくこれで——装備も行き渡った。
それに、並行して進めていた、デッキの選別もおわったので……
いよいよこれで、“盤上戦術”を発動させる準備がだいたい整った。
いよいよ最終段階にまできたところで……わたしは改めて、“盤上戦術”の起動準備画面を見つめる。
そして、中心部にいる指揮官の周囲の——中心のシャイニーのいる場所からみて、それぞれ、北東・南東・南西、北西の位置にあたる——四つの座標に、四名の初期ユニットを配置してみる。
すると、その四名の前線をになうユニットの、それぞれの“射程”に応じて——発動される“盤上戦術”のエリアの大きさが決まる。
地図の縮尺によれば……能力の効果圏内となるエリアの大きさは、初期状態でもかなりの広さになるみたいだと分かる。——なにせ……面積で言うと、かるく1㎢以上はあるみたいだから。
しかし、現在のその範囲(予定地)の中には、すでに大量の敵が存在していた。——地図には、それらの敵を表す赤いマークが無数に表示されている。
敵を除いた、残りの反応としては……中心部にある味方の星兵の反応と、同じ場所に大量にある、もう一つの反応——これは、避難してきた人たちの反応だ。
カガミおねえさんにも頼まれているので、この人たちのことも気にしておかないといけない。
とはいえ……この人たちのために、追加で何かやる必要があるかといえば……そうでもないのだけれど。
けっきょくのところ、“盤上戦術”においては、中心にある司令部を守ることが、ゲームにおける勝利条件であり、敗北しないための絶対条件となるので……助けた人たちを最初から司令部に配置しておくなら、あとはいつも通りに——司令部を守り抜いて——ゲームを進めていくだけでいい。
領域内にいる生存者のほとんどは、すでに救助済みだったけれど……改めてマップを確認してみたら、まだ救助していない生存者も、わずかながら圏内に存在しているようすだった。
せっかくだから、この人たちについても、ついでに助けておいてあげるとしよう。
“盤上戦術”を発動させる時には、展開される領域の中に、すでに(ユニットに類する)何かが存在する場合、それらに対して三つの強制指令——「徴兵」「追放」「移送」——を使って、どう対処するかを選ぶことができた。
それぞれのコマンドの効果は、以下の通り。
コマンド「徴兵」——召喚済みの星兵や、パーティーを組んでいるプレイヤーを、味方ユニットとして取り込む。
カガミおねえさんはもちろんだけれど、“盤上戦術”の起動前に召喚済みだったアンジーたちを取り込むためにすでに使っていたのが、このコマンドになる。
コマンド「追放」——エリア内にいる任意の対象を、エリア外に(転送して)強制的に追放する。
つまり、このコマンドを使うことで、“盤上戦術”を発動させた時点で、能力の効果範囲内——およそ1㎢の面積のエリア——にすでにいる邪魔な敵ユニットなんかを、いったんエリアの外に追い出すことができるのだ。
しかも、すべての敵を分けへだてなく追放してしまうのではなく、どの敵を追放するのかをこちらで選ぶこともできるという親切設計だった。——なので、都合のいい敵だけは残しておく……なんてこともできるみたい。
——ちなみに……「追放」を使うと、エリア外のどこかにランダムで飛ばされるので、こちらで行き先を操作することはできないし、どこに飛ぶのかも分からない。ただ、それほど遠くには飛ばないようで、わりと近いところに出現するみたいだった。
コマンド「移送」——任意の対象を、(エリア内の)特定の場所へ転送によって移動させる。
これを使えば、戦闘開始時の敵の配置を、こちらである程度操作することができる。
敵だけでなく、味方である星兵ユニットについても——今いる司令部の位置から——初期配置の座標に転送することが可能だ。
さらには、それだけではなく……このコマンドを使えば、エリア内に紛れ込んでしまった(戦力としての条件を満たさない)生存者や動物などの第三者を、安全な場所(司令部のある中心のプレート)に「移送」して保護する——なんてこともできるのだった。
なので、わたしは……
すでに「徴兵」のコマンドにより、初期ユニットとなる四騎の配備を済ませた上で——
次に、「追放」のコマンドを使う対象として、厄介そうな敵をあらかた選択して——
最後に、「移送」により—— 初期ユニットの四騎を所定の配置につかせて、エリア内に残した敵の位置を調整しつつ……保護するべき生存者たちを、もれなく選択して司令部に送るように設定する。
それらの操作を終わらせたところで——これにてついに、“盤上戦術”の発動に関する、すべての準備が完了した。
では……いよいよ始めよう。
初見クリア必須、デッキは寄せ集め、やり直しは無し——の、鬼畜難易度の戦場を。
——とうぜん、緊張感はある……けれど同時に、どこか興奮している自分がいるのもまた……感じている。
『“盤上戦術——戦術展開”』
能力を発動するのと同時に……
“これより戦術を開始する”——。
どこか懐かしい——『サモドラ』のゲームにおける恒例の掛け声が、わたしの頭の中に響いた。
。
。
。
“盤上戦術”が発動して——
最初に配られた七枚の手札を見たわたしは……思わず、ニヤリ——と、ほくそ笑む。
——やっぱり……さすがはわたし。ここぞと言う時には、いつだってカード運が良い。
これなら、いいスタートが切れそう……。
それじゃ、立ち上がりは、まずどんな風にやっていこうかな……
わたしはカードを一つ一つ確認しながら考える。
しかしまさか、一枚目から、コレが来るとは——
【従順な駿馬トーラス】
——馬ちゃんだ……欲しかった馬ちゃんが来た……!
最初に召喚しておける星兵の数にも限りがあるからと、この子は諦めていたけれど——まさか、最初の手札に来てくれるなんて……
いやはや、我ながら、なんと運のいいことか……。
ウサミンの“速度”を上げるのに、まさにうってつけの子なのだ、この馬ちゃんは。
なのでもちろん、このカードはキープ。早めに召喚して、ウサミンと合体させなくちゃ。
さて、次に、二枚目のカードは——
【異状の治療】
これ……例の——チアキとかいう、あの危ない女の人の状態を戻すのに使える……?
いや、不確定要素だし、無理に試す必要はないか。じゃあ、これは“返還”で。
それに——“盤上戦術”を発動したことで判明した——あの人の情報を見る限りでは……そのうち自力で元に戻るみたいだし……なら、それまでは無難に放置しておくとしよう……。
次、三枚目は——
【経過時間遅滞領域】
——ランク5の“領域”カード……!
……だけど、今の時点では、まるっきり無用の長物。というか、どっちにしろ、今回の戦場では使うことはないだろうから……“殉還”でいい。
とはいえ、手持ちにほとんどなかったランク5が最初の手札に入っているのは——むしろ、やっぱり運がいいと言えるね……。
四枚目——
【回復水晶】
むむ……これはいる。いる——けど、ちょっと邪魔いような気もするような……。
悩むけど……とりあえずキープしとこう。
五枚目——
【ぬかるんだ地面】
“特設”だけどランク1だから、そこそこ使い勝手はいいんだけれど……でも、すぐには特に使い道もないかな、じゃあ、“返還”で——
いや、待って——そうだ……これ、あのチアキとかいう人を抑えておくのに使えるかも。
一応は人間だし、完全な敵として扱うわけにもいかないから、攻撃もできないしやっかいな相手だと思っていたけれど……行動を妨害するだけの効果のこれなら、傷つけずに上手いこと時間を稼げそうかも……?
飛行能力持ちのユニットでもなければ、ちゃんと効果はあるはずだし……移動を封じれば、あとは攻撃がきても——たぶん、そんなに“射程”もないだろうし——なんとかなるんじゃないかな……。
よし、なら、これはキープだ。そして、早めにあの人のいるマスに使っておこう。
六枚目——
【大型の盾】
これは普通に要らないかな。“殉還”で。
そして、最後の七枚目が——
【燃料棒の畑】
これだ……!
最初からこれが手札にあるなんて……本当に、幸先がいい。
なにはともあれ、まず初めに召喚するのはコイツで決まり。
さて、それじゃ……
最初の一手といこう。
『“特設展開——燃料棒の畑”』
。
。
。




