第197話 さあ、すべてを解放しろ……! ——ボボボーボ・暴力だッ!!
『“発狂強化”』
そのスキルの発動により、前方の剛田さん——いや、千明の雰囲気が一変した。
見た目には特に変化は無い。だが、それがむしろ不気味に感じるほどに……彼女は変わってしまっていた。
人の形をしているが、あれはもはや人ではない……。
まるで飢えた獣……いや、まさに、あれこそは狂った怪物——
その時、チアキという名の怪物が、ふらりと前傾するように揺れて——次の瞬間、私の目の前にいた。
ッッッ——!!??
速——
ゴッッッ!!!!
殴られたのだと気がつく間もなく……手足が千切れるかという速度で私は吹き飛び、その進路上にある——立木も、地面も、車も、建物も……そして、空気の壁すらも——あらゆるものを粉砕し、削り、弾き飛ばし、貫き……突き破りながらも、まるで止まることなく突き進んでいく。
ボォォォッッッバババッッバザザザザッッガガガッッッドゴゴゴゴォォッッッ!!!
すぐに感覚はめちゃくちゃになって、もはや自分の現在の状況を認識することもままならなくなり……
私の体は宙を舞う——どころか、空を切り裂いて、突き抜けていく……
何
が
何
や
ら
\
\
°
°
°
◆
「っ——、またっ……!」
「っ! かっ、火神さんっ?! ——か、回復しなきゃ!」
『“身命を捧げる”』
「ちょ、ちょっと、いくらなんでも、一気に減り過ぎでしょ……『“カガミン——カガミン……?”』——え、反応がない……なんで?」
「……真奈羽さん、か、火神さんの身が……危ないです。私、そのことを感じるんです——」
『“信仰に殉じる”』
「……そうだね、私も感じる……“指輪”から伝わってくる——カガミンの窮地が……!」
「真奈羽さん……」
「……藤川さんは、そのまま回復し続けて。私は——私も、ありたっけの魔法で支援するから……」
『“守護力の加護”』
「——もう、見てるだけじゃないって、決めたから……。“決闘”だかなんだか知らないけど——横槍になるんだとしても……もう知らん! カガミンは、私が守護る……っ!」
「真奈羽さんっ……私も、火神さんのためなら、私はっ……!」
『“神威に奉じる”』
「藤川さん……回復は任せていい? 私はもっと——ありたっけの“守護”をカガミンにかけるから……」
「お任せください! この身命に変えても、火神さんの生命は死守してみせます!」
「な、なるべく急ぐようにするから。私も——たとえ、どんな攻撃を喰らっても死なないように……カガミンをガッチガチに強化する!」
『“防御装甲の加護”』
「だから——負けないでよ……カガミン……!」
◆
い、生きてるのか、私……?
真っ先に体を確認する——五体満足に一通り揃っている。
その事実に、まずはホッとする……それが安心できないくらいにヤバかった。
ただのパンチとは思えないくらいぶっ飛ばされた……どこだここ?
——ええ……ようやく止まったわね……相当な距離を飛んだみたいよ。
カノさん……
——ワタシも……意識が飛ぶかと思ったわ……
ホントそれ、ぶっちゃけマジで死んだかと思ったよ、私も……
チアキ——いや、怪物め……本気でシャレになんねぇって……
たった一発でアレとか、イカれてるにもほどがある……
まともにやり合える相手じゃないし……もはや勝負どころじゃない。このままじゃ、普通に殺される。
——そうね……実際、真奈羽と藤川さんの二人が色々してくれていなかったら、さっきの一撃でお陀仏になっていてもおかしくなかったわ。
みたいだね……こっちは二人に応じる余裕も無かったけれど……
二人にはマジで感謝しないと。ちゃんとお礼を——
と、その時——
怖気の走るような感覚と共に、視界にその姿がチラリと映ったと思った次の瞬間には——私は何かに押しつぶされて地面にめり込んでいた。
ドゴオォォッッッ!!!!
さらに続いて、止まることなく、衝撃が幾重にも降りそそぐ。
ドドドドドドドドドッッ……!!!!!
ぐっごっがっじっうっぬっぎっ……!!
殴る殴る殴る殴る殴る殴る——しかしそれは、もはや人間の振るう暴力を超えた何かだった。
——ダメっ、逃げてっ、早くっ! じゃないとっ死ぬわよアンタッ!!
ぐぬぬぬぬッッ!!!
私は圧倒的な暴力を浴びせられて萎縮してしまいそうになっている精神を奮い立たせて、なんとか体に力を込めると、その場から飛び退くッ——!
——が、すぐにその足を怪物に掴まれて、そのままめちゃくちゃに振り回される。
バガガガガッッギュンギュンギュンギュンッッズガガガッッ——!!!!
脳みそが耳から飛び出すんじゃないかという勢いに、私の意識は早くもブラックアウトしそうになり——
——かっ、回避……【回避】、を……使っ、て……!!
『“回避”』
薄れゆく意識の中で私はなんとか、必死に訴えるカノさんの助言を実行した。
【回避】を発動した瞬間——私の足は怪物の腕をすっぽ抜けて、ポーンと吹き飛んでいく。
勢いよく飛び出した私はそのままあちこちにぶつかるが、“回避”の効果により、衝突の度にノーダメージで跳ね返る。
まるでスーパーボールのようになっている私にも勝るほどの勢いで跳ねる怪物が追い縋ってきて、あわやその手に捕まりそうになるが——“回避”の効果により——私はまるでウナギのように怪物の手からすり抜ける。
怪物はやたらめったらと私を掴もうとするが、ツルツルヌルヌルと私はその手をすり抜ける。
「ッッ!! グオオオオアアアアアァァァァァッッッッ!!!!!」
やがて、ブチギレたように怪物は大きな声で咆哮を上げると、その手に持っている鎖鉄球をやたらめったらと振り回し始める。
ドドゴゴゴッッガガガガァァッッッ——!!!!
鎖鉄球が振り抜かれる先にある、あらゆるものが粉砕され、弾け飛んでゆく——
私にも何度か鉄球や鎖が命中するが、私はそれらを、まるで風に舞う木の葉のように“回避”していく。
——やべぇよ……“回避”を解いたらミキサーされてしまうから解けない……でもこのままじゃ、どっちにしろMPが保たない……
私が何も言わなくても、さっきから——ほとんど無くなりかけていた——HPや、今まさに減っていくMPが回復していく。藤川さんのおかげだ。
そして、マナハスから授けられた守護の魔法の効果も——そもそもこれが無かったら、さっきのラッシュで私はひき肉になっていたのでは……
しかし、それでも——それだけの支援を受けていても、今の私の命運はギリギリのところにある……
“回避”が切れたら終わりだ……しかし、MPがこのまま減り続けたら——藤川さんの回復も間に合わない——いずれは底を尽きるだろう……
なんとか、この暴(力)風域から抜け出さなければ……
そう思いつつも“回避”を維持しつつじっと機会を窺っていたら、しばらくしてさすがに暴れ疲れてきたのか、怪物の動きが緩まってきた。
っ、チャンスか……? いや、もう今行くしかない。や、やるぞ……行くぞっ——南無三ッ!
私は“回避”を解除すると、その場から退避するために全力で地面を蹴って飛び出した。
【軽化】も併用した全力の大ジャンプに——しかし怪物は悠々と(併走ならぬ)併跳してきていた。
——嘘だろ……っ!?
そして怪物は、私に向けて鎖を振りかぶって鉄球を飛ばす。
『“回避”』
私は再びそのスキルを発動した——が、
『“捕縛”』
鉄球こそ“回避”したものの、続く鎖が一気にぐるぐると私に巻き付いてきて、そして私は動けなくなる。
——まさかっ!? “回避”が効かない? なっ、んだこれっ、まさか掴み系の技なのか……っ?!
私を捕えたまま、怪物は鎖を振り回して……そうして十分に勢いをつけてから地面に向けて振り下ろした。
ドッバアァァンンッッッ!!!!
私は再び大地に埋まる。
——鎖はいまだに、私の体を縛りつけて移動を封じている……
すぐに、そのクレーターに怪物が降り立った。
怪物はやおら、私に覆い被さるように膝をつくと——その両手で私の首を絞めつけてきた。
ギリッ、ギリリッ……!
HPまでもがジリジリと減っていくほどの力で——もはや私の首をへし折らんばかりに——怪物の剛力が、文字通り私の息の根を止めにかかる……
——っ……『“回避”』……ダメだ、発動できない……っ、なら……!
私はなんとか絡みつく鎖から両腕を出して怪物の両手を掴み返すと——スタミナもパワードスーツの力もすべて含めた——渾身の全力でもって、その腕を外そうとする……が、しかし、怪物の剛力は、私の全力ですらピクリとも動かなかった。
——どうなっ、てんだ、よっ……おま、えは、いま……HPも、なくな、っている、はずな……の、……に……!
——な……んで……そ、んな……ち、か……ら……を…………
視界が歪む……力が、抜ける——
——念話、着信……
応じることすら、もはや限界……
『“——っ! カガミンっ?!”』
『“——っ?! 火神さん……!”』
あ、マナハス……藤川さん…………
『“か、カガミン!? う、うそ、負けそうなのっ……?!”』
ダメだ、息が……苦しい……
『“火神さん……負けないでっ——!!”』
意識が、薄れて、ゆく…………
『“身命を捧げる——献身御供”』
……マナハ……ふじ……
『“カガミンっ!!”』
『“か、火神さ……ん……”』
……ご、……ま……た……
………………
…………
……
——ちょっと……諦めてんじゃ、ないわよ……っ!
——こうなったら、ワタシが……!
『“飛刀進撃”』
バシバシ! バシバシバシ!
——ダメだ……こんな攻撃じゃ……でも、他には……
——雷……炎……ダメ、近すぎる……っ、なら……ッ!
『“鏡体念動”』
チカッチカチカッ——
「——ウウウ? ウウウ……」
チカチカッキラキラッ——
「ウウウウ……ウウウッ……ウウウウウウウアアアアアッッッ!!!!」
ブンッッ!!!
——きたッ!!
『“鏡面反射”』
キィィンンッッッ!!!!
「ギョエエエエェェァァァッッッ?!!」
ドンガラガッシャァァァンン——!!!
——やった……!
——ちょっと! 今すぐ逃げないと! 早く起きなさい!
…………——。
——く、ダメだ、本体の意識が……っ!
——どうなってるのっ?! ワタシは無事なのに、どういうことなの、これは……?
——いや、これ、もしかして、藤川さんの……
ドンッッ!!
「ウウウウ……ッ!」
——くっ、もう来たの……!
『“か、カガミン? カガミン! なにが、どうなって……これ——どうして藤川さんまで意識が——ああ、もう、どうすれば……ッ?!”』
『——“真奈羽! お願い! アイツをぶっ飛ばして!”』
『“え、カノさん?”』
『——“っ、もう来るっ——!”』
ダダダッ!
「ガアアッッ!!」
ズズイッ!
『“っぉ、わっ、任せて——!!”』
グワッッ!!
『“念力の衝撃”』
キュインッッッ!!!
「ギエエエエッッッ……!」
ドッバガアァァンン!!
『“い、いけた? 効いた?”』
『——“まだよ! どうせすぐに戻ってくる……やっぱり、ぶっ飛ばすだけじゃダメね、もっと強力なやつをお願い!”』
『“で、でも……相手は人間なんだよね?”』
『——“そうだけどっ……でも、手加減が通じる相手じゃないわ……!”』
『“……わ、分かった。それなら……全力のコイツで動きを止める——!”』
ダンッ!
「ゴアアアアアッッッ!!」
ダッダダッダダダッ——!!
『——“ちっ、もう来たかっ——!”』
『“うわ、マジ?! ちょ、まだ詠唱がっ”』
『——“ワタシが時間を稼ぐわ!”』
——失せなさいッ!
『“火炎放射”』
ボオオオォォォォッッッ!!
「——ッ!? ギョエエイッッ!!」
バッ——ダッダダッ!
——む、炎にビビってるみたい……いいわね、これならなんとかなりそう……
『“えっと、カノさん、もう少しかかりそうなんだけど……大丈夫そう?”』
『——“ええ、なんとか牽制できてるわ。……ああ、そうか、こちらの様子が分からないのよね。それなら——ワタシの見ている光景をそのまま念話にのせるわ。……これでどう?”』
『“——お、映像が浮かぶ……って、マジか、なんだあれ、人間の動きじゃないぞ……”』
『——“そうね……炎が切れたら、もう牽制はできないわ。ワタシのスタミナが切れるまでが勝負ね……”』
『“……大丈夫、もう…………完成した! いくよっ——合わせて!”』
『——“っ、了解! ——合わせるわっ、真奈羽!”』
——ワタシの炎で、動きを止める……!
ボオオオォォォォッッッ!!!
「——ッ、ギエッ、ゴアッ!」
バッ、ピタっ——
『“ッ——そこだっ、くらえっ!”』
——っ!
『“戒めの縛鎖”』
ジャラジャラジャラ——ジャキン!!
「ガアアアッッッ??!!」
ギシギシ、ギチチチ……!
『——“っ! さすがね! 動きが止まったわ!”』
『“おお、決まった! よかった……”』
『——“さあ、今のうちに早く逃げないと……! ああ、でも、肝心の本体が……”』
『“っ、やっぱり、ほとんど意識を失ってんじゃん……! ——分かった、私がなんとかする!”』
『——“お願い、真奈羽……!”』
『“任せてっ! ——ほら、寝てる場合じゃないぞ……そら、起きろっ、カガミン……!”』
パァァァ——
『“壮健なる癒しの波動”』
キュアキュアキュアキュア——……
——これは……すごい、心身が隅々まで癒されるみたい……!
『“お願い、起きて……カガミン!”』
——そうよ、とっとと起きなさい……! ワタシの“本体”……!
……
…………
………………
…………ぁ……ぁぁ……ぁぁあぁ……
……なんだろ……これ……めっちゃ安らいで気持ちいい……
ああぁ〜……このまま寝ちまいてぇぞぃ……
——寝るなバカ!
『“起きろアホっ!”』
っふぁい——!?
って、ん……? 私は何を……?
んんん——ここはどこ? 私は私? てかあの、鎖で縛られた頭がイカれてそうな人は誰?
——それはいいから、まずはこの場から逃げるわよ!
『“そうだぞっ、あの魔法もいつまで保つか分からないし……まずは逃げろ!”』
か、カノさん? マナハス?
——目の前のはアンタを絞め殺しかけた怪物なの! 分かったら、とっととゲラウェイ!
ら、ラジャー!
「グアアアアアッッッッ!!!」
ヒエッ——! なにアレ、おっそろしい……!
よ、よし、まずはとにかく、この場から離れるとしよう。
私は急いでその場から離脱すると、謎の怪物からだいぶ離れた場所まで一気に移動した。
移動している間に少しずつ直前の記憶が蘇ってきたので、現在の状況とか、アレは怪物ではなくチアキという名のプレイヤーであることなどを私は思い出していった。
安全圏まで避難できたところで、怪物の拘束が解けたのか、遠くで破壊音が断続的に聞こえるようになる。
その鼓膜を震わせる振動に私は背筋が寒くなるような気がしつつも、すぐに気を取り直して——刻々と変化していく——現在の状況に対応するために迅速に行動を開始する。
まずは、私を助けてくれたというマナハスとカノさん、そして、ずっとゲージを回復してくれたり、他にも色々とサポートしてくれていた藤川さんにお礼を言いつつ、アンジーたちに連絡を取って合流する。
元々、アンジーとウサミンについては、基本的には私とチアキの戦いには手出ししないようにと事前に言い含めていた。——話がややこしくなるといけないので。
——それについては、マナハスと藤川さんにも似たようなことを言っていた。相手にバレるような加勢は控えてねって。
とはいえ、いよいよ負けそうになったり私が危険だと判断したら、その時は加勢してくれていいので——とは言っていた。
しかし、チアキが怪物になってからは、私たちの移動速度が速すぎて、二人は完全に置いていかれてしまっており……加勢しようにも出来なかったようだ。
そんな二人とも合流した私は、【隠密迷彩】を使って気配を消しつつ——同じくウサミンの能力により、二人揃って気配を消している——アンジーたちと一緒に、隠密状態で付近を奔走していく。
真っ先に始めたのは救助活動だ。チアキと私の戦闘に巻き込まれてしまった人がいないかどうか——チアキが破壊した場所を迅速に回って、そこにいた人を生死を問わず回収・保護していく。
チアキは現在進行形で暴れ続けているので、所定の場所を一通り見て回ったら、現在の彼女の進路に追従していくように、私たちも救助活動を進めていった。
はっきり言って、理性を失いただ暴れるだけの今のチアキは、もはやモンスターと変わりなかった。それも、相当な破壊力を持った危険なモンスターだ。
この辺りには元から人気がなかったとはいえ、さすがに誰もいないということはない。実際、彼女の破壊活動に巻き込まれたと思しき生存者も——いや……元生存者も、か——すでに何人か発見している。
それについては、彼女との戦いの発端となった自分にも責任の一端はあるからと……私はそんな彼ら彼女らを、生死を問わず全員漏れなく保護(または回収)していく所存だった。
正直言って……すでに私とチアキの“決闘”どころではなくなっている。
“狂化”により、文字通り狂ったように暴れているチアキ自体、まるで手がつけられないし、大いに問題なのだけれど……もはや、それだけでもない。
ここにきて、新たな問題も持ち上がってきていた。
暴れるチアキが掻き立てる騒音や振動は常軌を逸しており……周辺一帯に大いに響き渡っている。
そして現在、この世界の情勢においては、そのような配慮に欠けた騒動を起こしては、何が起こるかは火を見るよりも明らかだった。
そう——不幸は新たな不幸を呼ぶとばかりに——騒動は新たな騒動を呼び寄せる。それが今の世界における、避けようのない現実なのだ。
チアキの狂気に引き付けられるかのように……現在進行形で、周辺から続々と、新たな脅威が出現し始めている。
数えるのも億劫になるような大量のゾンビはもちろん……そこには未知の怪獣もいれば、既知の怪鼠(の大群)もおり……
そして……既知ではあるが、まだまだ未知の存在である——先のメカムカデと、恐らくは同種の類いの存在なのであろう——謎の機械の敵も……すでに複数の機体を確認できていた。
それら機械のモンスターはみな、何かしらの生物の形状を模したかのような外見をしているようだった。
なので私は、ひとまずの仮称として、その機械のモンスターのことを「機械獣」と呼ぶことにした。
実際のところ、名前をつけて区別するのは必要だった。
なぜなら——この“機械獣”たちも、すでに一つの勢力と呼べるくらいの数がいて、徒党を組んでいたのだから。
そして、この場にいるのは、この機械獣の勢力だけではない。他にもいくつもの勢力が、今まさにこの地に集結しているのである。
そう、集まってきている。
続々と。
この場所に向けて。
それらの怪物——敵対存在たちによる、一大勢力と呼ぶべき群勢が。
すぐにでも、ここは戦場になるだろう。
それも、かつてないほどに大規模な戦場に。
もちろんソイツらも、別に全員が一枚岩というわけではない。むしろ、互いに相争う間柄である。私たちも含めて。
ゆえに、これから始まるのは、複数の勢力からなる壮大なる潰し合いだ。
いくつもの勢力が入り乱れ、互いに互いを滅ぼしあうような、そんな凄惨な殺し合いの場が……
私たちのいる、この場所を中心として……今まさに、生まれようとしている。
逃げ場はない。
空も、地上も……なんなら地中にすら、敵の反応が——それも無数に——ある。
戦いは……避けられない。
そして勝ち目も……あるかどうか分からない。
というより、これは……
勝ち残れるかどころか、生き残れるかどうかすら……
本当に……この世界は、私の想像を容易く超えてくる……
謎の領域に入る前から、まさかこんな、最悪の事態になるなんて……
新たな戦いが——絶望の影をまとって、じりじりとにじり寄ってきている音が……
すぐそこまで、迫っていていた……。




