第196話 戦いの ボルテージが 上がっていく !!
カノさんの活躍により、相手の剛田さんのジョブや能力が概ね判明した。
私はカノさんから詳しいことを聞きつつ、それを元に戦略を考えていく。
とはいえ、能力が判明したと言っても、それはあくまで概要が判明しただけで、詳細についてはまだ分からない部分も多い。
——それこそ、『狂戦士』とかいうジョブの能力とか……まあ字面からだいたい想像つくけどさ、でも、いや、だからこそ、実際に使ったらどうなるのかについては、まるで想像が及ばないというか……。
ともかく、判った情報から、彼女の戦闘系統を大まかに分類するならば……射程は近・中距離の、パワー・テクニックタイプ——と言ったところだろうか。
基本的に、彼女のステータスはパワーよりだ。しかし、戦闘スタイルというか能力傾向としては、案外テクニカルに寄っている部分もあるので——一番それが顕著なのは『刻印使い』の能力だ——分類としては、パワーとテクニックの両方という感じ。
どうにも彼女には遠距離攻撃は無さそうな感じなので、射程としては鎖鉄球が届く距離である近・中距離、というところだろう。
以上を踏まえた上で、では、私はどう彼女と戦うのがベストなのか、という話なんだけれど……
現在の私の戦闘系統としては、近距離スピード・テクニックタイプ——といったところだろうか。
とはいえ射程については、“刀技”を使えばある程度は伸ばせるし——それこそ“斬空波”を使えば、遠距離といっても遜色ない射程に届く。
現状は、得意の近接レンジで戦おうにも、相手の『刻印使い』の能力に対抗する手段に乏しい。ここで優位を取るのは難しいだろう。
ならば、射程の優越を活かして、このまま遠距離戦を仕掛けていくのがいいだろうと考える。
とはいえそれも……射程の優越はともかく、属性の優越については、相手に一歩先をゆかれているのが現状のようだ。
私が炎属性を使い出したところ、剛田さんは『刻印使い』の能力により、何やら水属性をその身に宿した。
そして、これはまるっきりイメージ通りに——炎は水に弱かった。
結果として、私の炎属性攻撃は、その効果を大きく減衰させられてしまい、彼女にろくなダメージを与えられないようになってしまった。
あれから——彼女が水属性に属性チェンジした後にも——私は何度か“炎月輪”を放ってみたのだけれど、今度は完全に鎖の防御に防がれて一切のダメージが通らなくなった。
炎はもはや彼女には効かないようだ……が、しかし、私にはもう一つ属性がある。
そう、雷属性が。
炎は水に弱いのだろう。では、雷ならどうだろうか……?
こっちは……むしろ強そうじゃない? 水には効果バツグンなんじゃない?
——少なくとも、ポケモンではそうなる。
ともかく、炎が効かない以上、次は雷を試してみようと思うのだけれど……それには問題があった。
なんというか……あれは威力が高すぎるのだ。
対人戦で使うのは……さすがに躊躇してしまうくらいには、クッソ強いんだもの、アレって。
下手に使って、相手をうっかり殺してしまいでもしたら——殺しは無しにしましょうとか、先に言ったのは私なのだから——そんな事態になることは絶対に許されない……
だが、現状を打破するには……やっぱり雷しかないように思う。
しかし、やっぱりこれを使うのは……ぶっちゃけかなり怖い。
では、どうするか……
「さァて……これでもう炎も怖くねェぞ。んで、どーしたよ? おーン? オマエのご自慢の炎が防がれちまってよォ……もう打つ手無しかァ〜?」
思い悩む私に、剛田さんが——なんかすっげー煽るような口調で——話しかけてくる。
「残念だったなァ〜、アタシは炎が効かないンだわ。ま、色々と、使える能力の幅が広いンでねェ……」
「……」
「そーいや、“降参”もアリなんだッたな。どーよ? 勝ち目がナイと分かったんなら、いっそ早めに降りた方が身のためだ——」
「まさか、降参なんてしませんよ」
「……ほぅ」
「むしろ、そちらこそ……いつでも構いませんよ、“降参”してもらっても……ね」
「ふっひひィ、言うじゃねェか……はッ、虚勢にしては、なかなかサマになってるぜ」
「さて、これを見ても、そんな口がきけますかね……?」
そう言うと私は、『雷使い』の力を解放すると——おもむろに刀に雷のパワーを込めていく。
「——ッ! ……なンだァ、そりゃあ……?!」
「これですか? 見れば分かりますよ、その威力の程はね……」
「……ッ」
「もっとも、それを見た時には、あなたは真っ二つになっているかもしれませんが……」
「——ッ! ンだとッ……!」
「まあ、それではルール違反なので、まずはこうして——ご覧にいれましょうかっ!!」
そこで私は、目の前の地面に向かって——地を走るように飛ばすため——下から擦り上げるようにして、その攻撃を放った。
『“雷刃波”』
カッッッ——!!!!
と、強烈な光が発生し、
ゴオオオオッッッッッ——!!!!
と、大気を震わせる轟音が響き、
ズガガガガガガガガガガッッッ——!!!!!
っと、とんでもない勢いで地面を大いに削りつつ進んでいった雷刃が——
一瞬にして剛田さんの脇を通り過ぎたところで、少しだけ上向きに飛ぶようにと狙ってつけた角度に従い、その高度を上げていき——
ついには地面から解き放たれて上昇していくと、進路上にあった建物の端っこを吹き飛ばして——
そしてそのまま、遥かな視界の果てへと消えていったのだった。
それらはまさに、瞬き一つ——一瞬の間の出来事であった。
……てか、うわ、マジかよ、これ……思ったより……被害がデカいじゃん。
地面が……長範囲にわたって、めっちゃ吹き飛んじゃってる……。
そういや、今のところ、この技を使ったのって空に向けて撃っただけだったから、何かに当たったのを見たことは無かった。——いやまあ、メカムカデの分裂体には当たってたけど、あれはもう、ほぼスルーってくらいに見事に真っ二つにしてたから……。
まさか、ヒットした時の破壊力がこんなにヤバいとは……
——一応、二次被害が出ないようにと、何もなさそうな方に向かって飛ぶようにはしたつもりだった、んだけれど……
——地面と、あとなんか遥か遠方にあった建物の端っこが……ががが……
いやこれ……間違っても市街地で水平撃ちとかしちゃいけないタイプの技じゃん……。
私は、頬を冷や汗が流れていくような気になりつつ、そっと剛田さんの反応を窺う。
すると彼女は——自分の真横を通っていった雷刃の行方を、振り返って目で追った後に——ゆっくりと(まるで錆びたロボットのような動きで)こちらに向き直ると、明らかに目を泳がせつつも、なんとか口を開いてこちらに反応した。
「へ、へぇ……これは、なかなか……派手な技じゃねーの。ま、まあ、言うだけのことはあるがなァ……、っァ、だからと言って、まだ勝負は決まってねェぞ、ぉ、おらァ……」
それは……見るからに虚勢と分かる威勢だった。
「……次は当てますよ」
「——ッ!! ……っぐぅ」
「降参するなら、今ですよ……?」
「…………っ、舐めやがって、コラァ……ッ!」
私の降伏勧告も虚しく、彼女はむしろ闘志を漲らせるようにこちらを睨みつけてくる。
「はッ、上等だぜ……テメェの挑戦、受けてやンよ! あの程度の技くれェ、真っ向から受け止めてやらァ……!」
「え、いや、無茶しない方が……」
「うるせェ! やるッつったらやるんだよ!」
「……そうですか」
「だから……」
「——ん?」
「……だから、ちょ、ちょっと、待ってろよ」
「……んん?」
何やら最後は尻すぼみになりつつも、そう言い捨てるや否や、彼女はやおら“準備”を始める。
『“刻印解除”』
まずはおもむろに、“水属性”の効果の刻印を解除する。
『“鎖形編成——防盾形態”』
それと同時進行で、彼女の前方に鎖が幾重にも折り重なるように展開していき——さながら巨大で重厚な盾を形成する。
『“刻印付与——防御印”』
『“刻印付与——装甲印”』
『“刻印付与——守盾印”』
続いて何やら、『刻印使い』の能力を連続して使って、鎖で編まれた“巨大な盾”に追加で次々と防御系の効果を施していった。
——それぞれの詳しい効果についても、カノさんが“鑑定”して教えてくれたので、私にもなんとなくは把握できる。
『“刻印付与——強化印”』
しかも、それだけやっても終わらずに、さらに追加で刻印の効果を強化する刻印まで使用する。
『“刻印起動”』
最後に、付けた刻印をすべて起動したことで……どうやら“準備”は終わったようだった。
「よし、よし! おぉ……これならいけんだろ! よっしゃあ! ——さァこい!」
バッチコイとばかりに、剛田さんは私に大きく顎をしゃくって合図を送ってきた。
……オイオイオイ、なんじゃそら。
まあ、いいけどさ。
念の為、“鑑定”で“巨大な盾”の強度を測ってみると……確かに、あれだけ色々やっただけのことはあり、実際かなりの“防御力”を持っていそうだった。
うーん、これなら……あるいはマジで、無事に防げるんじゃぁ……?
「おい! 何やってンだよ、これ長くもたねェから、撃つなら早く撃ってこいッて……!」
「あ、はい、スミマセン、す、すぐ撃ちますんで」
急かすような(あるいは、焦ったような)剛田さんの声に思わずそう答えた私は、すぐに“雷刃波”を放つ体勢に入った。
まあ、あそこまでやってくれたんだから——こちらも撃たねば、無作法というもの……
ちゃんと耐えてくれよ、頼むぞ……それじゃ、いきます——!
『“雷刃波”』
私は“巨大な盾”に向かって、ほとんど手加減無しの“雷刃波”を放つ——!
カッッッ——!!!!
ズガッッッッ——!!!!!
強烈な光が弾けて——直後に硬質な着弾音が大気を震撼させる。
結果や、いかに——!?
目が眩むほどの強い光が収まって、視界が回復し、現れたる光景には——
五体満足で生存している剛田さんがいた。
“巨大な盾”も残存しており——一部の鎖は千切れたり曲がったりしている様子ではあったが——なんとか私の攻撃をしっかりと防いだ様子だった。
ほっ……無事だったね、よかった。
——まあ、まったくの無事ではないみたいだけれどね。HPもそこそこ減ってるし、何より、剛田さん本人も……なんだか、痺れて動けなくなってるみたいなんだけれど……?
言われてよぉく確認してみれば——なにやら彼女は感電しているかのようにビクビクと痙攣していた。
よく分からんけど……チャンスだな。
私は彼女に向かって大きく飛び上がって、一気に距離を詰める。
そして、彼女の真上に到達したところで、急停止するのと同時に、真下に構えた刀に【進撃】を発動して、一気に急降下していく。
“視点操作”で俯瞰する私のその姿は——帯電する刀を構えて一直線に落ちていく、それはまさに——まるっきり一条の稲妻のようだった。
これぞ必殺、“落雷撃進”——!
対する剛田さんは、私が彼女の真上に到達した時点でなんとか体の自由を取り戻したようで、慌てて防御態勢を取る。
『“鎖形編成——即時編鎖”』
しかし時間の猶予はほとんどなく、どうにか私との間に鎖を適当に展開するので限界だった。
私はその鎖のカーテンを引き裂くように突っ切る。
ガギギギッッ!!
鎖は私を止めることが出来ず、私の刀が剛田さんに迫る。
「——ッ!」
とっさに剛田さんが両手で鎖を握り——それをピンと張って——刀を受け止める。
ガギンッッ!!
それでなんとか、私が落下する勢いは止めることができた、のだが——
バチバチバチッビリビリビリッ——!
「がああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
しかし——触れた私の刀から迸る雷(の余波)にその身を貫かれて、盛大に感電した。
勢いの止まった私は、彼女の前にふわりと着地する。
すぐ目の前の彼女は……いまだにビリビリバチバチと感電しており、盛大に痙攣してしまっていて、もはや行動を完全に封じられていた。
マジか、雷属性……やばクソ強ぇ……っ!!
直に触れたら、もうそれだけでアウトってワケぇ——?!
いや、これ……一撃入れたら、そのまま完封できるじゃん。
いやぁ……我ながら、おっそろしい属性やでぇ……。
なんて思いつつも、私は感電して動けない彼女にコツコツと刀(の峰打ち)で攻撃していく。
その度に彼女は、「があっ」とか「あがっ」とか「んんぅんぅっ」とか「いびびびっ」とか「んごごご」とか言って反応する。
……いかん、なんか笑いそうになってきた……それだけはいかんゾ。
——なかなか衝撃的な決着の仕方になったわね……。
そうだね……。
さて、HPももはや赤い切れ端が残っているだけだし——バリアが切れて感電したら危ないかもだから、雷はもう解除しよう。
んで、彼女の感電が収まる頃合いを見て、トドメの一撃を入れるとするか。
視線で人を殺せそうなほど強烈に私を睨みつけながらも——いまだに痙攣している剛田さんの様子をじっくりと観察して……私は最後の一撃を放つ。
「——ッ、——、……ッテメェマジでゼッテェぶッこ——」
ようやく喋れるようになった彼女のセリフを最後まで聞くことなく、私は無慈悲にもトドメの一撃を入れた。
躱すことも出来ず——それは彼女のHPの最後の一片を削り切り……
バチィンッッ——!!!
その瞬間、強い衝撃が発生し——私は後ろに吹き飛ばされた。
えっ、なに——っ?!
私は動揺しつつも素早く体勢を立て直して、無事に着地する。
今のは攻撃? いや……違うか。
——そうね、こちらのHPは減ってないし……おそらく今のは、HPが切れた時に起こる現象のようね。
どうやら、そうみたいだね。
——どうも、ああして強い衝撃を発生させることで、残りのHPの耐久力を超えるダメージを受けても、それを無効化できるって感じみたいよ。
なるほど……つまり、一種の安全装置みたいなものってことか。
確認してみれば、私の方はけっこうな勢いでぶっ飛ばされたけれど、剛田さんの方にはまったく影響は無かったみたいだった。
彼女はHPこそ完全に消失していたが、体は無傷のようだ。
とはいえ、HPが無くなった以上、もはやこれにて勝敗は決まったも同じだった。
なので私は、悠然と彼女に話しかける。
「さて——剛田さん。HPも完全に無くなっちゃってますので……さすがに、これはもう降参するしかないと思うのですが……どうでしょう、“降参”してくれませんか?」
「……HPッてのは、緑のゲージのことか?」
「ええ、そうです。それがダメージを無効化してくれるのは、あなたもご存知でしょう。ですから——」
「あれ、そーいやアタシ、アンタに名乗ってたッけか?」
「——え、いや、名乗ってもらってはいませんが……」
「……だよなァ。——ああ、アタシは剛田千明。チアキでいいぜ。“さん”も要らねェ」
「……分かりました。千明さ——、……チアキ」
「おう」
「……あ、私は火神です」
「カガミね。で、名前は?」
「あ、えっと……、……雷火、です」
「へぇ、いい名前じゃン。じゃあ、アタシもライカッて呼ぶわ」
「……そうですか」
「え、ナニ? 名前で呼ばれンの嫌なン? それとも、呼び捨てが気に食わねェカンジ?」
「え、いや、別に……」
「そーいやオタク、歳はいくつなん?」
「……十七ですけど」
「なァんだ、タメじゃん。なら呼び捨てでもいーよな?」
「まあ、それは構いませんが……」
——ちょっと、いつまでお喋りしているつもりなの? まさか、気付いてないわけじゃないでしょうね……?
もちろん、気付いているよ。
——彼女はすでに、無くなったHPを復活させるアイテムを使用済みだ。
とはいえ、それの効果が出てHPが復活するには、優に数分はかかる。
逆にいえば、それだけかかってしまうのだから、戦いは終わったものだとしても、早めに使っておくに越したことはない。
なにせ今は終末、危険はいつもそばにある。
——さあて、まだはっきりと降参と言われたわけじゃないし……実際、“天の声”も何も言っていないのだから、勝負はまだついてないのよ。
分かってるよ……
さて、それではそろそろ、ちゃんとした決着をつけるとしよう。
「——にしても偶然だなァ、歳が同じなんてよォ。まァ確かに、一目見て同年代くらいだなッてのは、アタシも最初から思ってたけどな——」
「あの、世間話はもういいので、そろそろ答えを聞かせてくれませんか?」
「えェー、おいおい、もっと話そうぜェ〜? せっかくこーして、偶然にも同い年同士でカチあったんだからよォー?」
「話をしたいなら、決着をつけてからゆっくりするとしましょう」
「なんだよ……へっ、あと軽く十分くらいは、アタシと楽しくお喋りしててほしィんだけどなァ。——よォ、付き合ってくれンなら、ご褒美にキスしてやッてもイイぜ〜?」
「……」
「うそうそ、ジョーダンだよ。そんな目で見るなッて」
「……そろそろ、答えを聞かせてくれますか」
「ああ、分かったよ……んじゃ、もう一回訊いてくれよ」
「では……“降参”してください」
「ああ、それなァ……答えは——“ノー”だ」
言うが早いか、彼女は両手を自分の胸に押し付けると——
『“刻印付与——継続発動——治癒印”』
『“刻印付与——時限発動——解除印”』
何やら自分に対して、刻印を付与する——。
「悪ィな、まだまだこっちはヤル気なンだわ……!」
「いやいや、HP無しでどうやって戦うつもりですか……無謀ですよ、死ぬ気ですか?」
「ンフフフ……確かにな……。でもま、そッちこそ、こッからは死ぬ気でやッた方がいーぞ」
そう言うと彼女は——まるで狂ったように楽しそうに——口を歪めて嗤うのだった。
「——なンせこちとら、こうなッちまッたら、まるで加減が効かなくなるンで……なァッ!」
そンじゃ、第二ラウンドといこォや——
彼女は、そう言い残すと……
『“発狂強化”』
まさかの、このタイミングで——そのスキルを発動した。