第195話 盛り上がるバトル! 燃え上がるパトス!
『“身命を捧げる”』
藤川さんが、『信奉者』で覚えたスキルを発動する。
すると、赤色になるまで減っていた私のHPが、一瞬で満タンまで回復する。
しかし、それに連動するように、視界に映っている藤川さんの緑のゲージが一気に減っていき——ついには赤くなってしまった。
うおぉ、アイテム使うよりダンゼン回復が早い——! すげぇなコレ!
でも案の定、藤川さんのHPが減っている……。やっぱり、けっこう危ないってか、ちょっと恐ろしいスキルやで……
『“藤川さんのスキルで回復した方が早そうだね。ならマナハスは、藤川さんの方を回復してあげて”』
『“……どうやら、そうみたいだな。分かった、んなら私は藤川さんを回復するから”』
『“うん、頼むね。——藤川さんも、ありがとう。というか、藤川さんの方は大丈夫……?”』
『“私は全然平気です! ただゲージが減っただけですのでっ”』
『“そっか、それなら良かった”』
私はスタミナの回復を待ちつつ、剛田さんの様子を窺う。
【解析】が通るので、私は彼女のSTゲージを確認することができる。
どうやら向こうもスタミナがほとんど無くなっていたようで、彼女もスタミナの回復を待ちつつ、こちらの様子を探るように見つめてきていた。
——ふむ、向こうの方が回復が早いな……SP回復アイテムをすでに使っているのか……。
『“では次、スタミナの方も回復しますね!”』
『“え、ああ、ありがとう”』
藤川さんがそう言うや否や、私のスタミナも瞬時に全回復してしまった。
『“では、これからも火神さんのゲージが減り次第、順次私が回復させますので……! 火神さんは思いっきり戦ってください!”』
『“あ、ありがとう。助かるよ”』
いやマジで、実際かなり助かる。
言ったとおりに藤川さんがやってくれるなら、私は実質的に二人分のゲージを使って戦えるということではないのん?
てゆうか、マナハスの回復も合わせれば——減った藤川さんのゲージをマナハスが回復してくれれば、藤川さんは常に私のゲージを回復し続けられるので——これは……実質的に、私のゲージはいくら使ってもほとんど減らないってことじゃない? ……おいおい、ヤベェな、ソレ。
最初はどうなんかと思っていたけど……藤川さんの『信奉者』のスキル、マジで有用だわ。
特に、【身命を捧げる】とかいう、このスキルは——まあ名前もなんだけど……効果もかなりヤバい。
このスキルの効果は名前のとおりで、藤川さんが私に対して自分の持つ“何か”を——どれだけお互いが離れていても、ノータイムで——捧げられるというものだった。
自分のSTゲージを“捧げる”ことで私を回復できるというのが一番分かりやすい使い方だけれど、他にもわりかし、捧げようと思えばなんでも捧げられるみたいだ。
それこそ、彼女が新たに覚えた色々なスキル……ソレ自体も、私に捧げることができるみたいだった。
——つまり私は、その気になれば、彼女が新たに覚えたスキルの大半を自分でも使うことができるようになるのである……。
まあ、とはいえ、そんなになんでもかんでも捧げられても困るので……ゲージの回復だけでも十分以上に強力だし、今のところはそれだけやってくれたらいいと思うところだけれど。
STゲージも全快したので、私は様子を見つつ剛田さんに“鑑定”を使って、彼女の能力についてを探っていく。
——むっ、やっぱりジョブ持ちか……なっ、それも三つも、だと!
詳しく調べて彼女の能力を丸裸にしてやりたいところだったけれど——さすがにそれを待ってくれる相手ではなく、彼女も動き出した。
くっ、仕方ない——カノさん! 後は任せる!
——了解。続きはこっちで調べておくわ。
私は能力の調査をカノさんに任せて、相手の攻撃に意識を集中させる。
すでに剛田さんは、こちらに向かって猛然と走って距離を詰めてきていた。
「んじゃ、続きといこうぜェ……そらァッ!」
走りながらも勢いをつけて振り回していた鉄球を、私に向かって振り抜く。
私はその予備動作を見切って、飛んでくる鉄球を軽く躱した——が、
『“跳転”』
私の背後にあった木にぶつかった鉄球が、その勢いのまま跳ね返り、私の背中に直撃した。
ドゴッッ!!
——『“刻印付与——間接刻印——吸引印”』——
ごっ、ほぉぅ……!
『“変化鉄球”』
さらには、またもや鉄球が回転しつつ私の体の上を這い回って、鎖でグルグル巻きにしようとしてくる——
ぐっ、させるかッ!
『“回避”』
すると、スキルを発動するや否や、私の体に巻き付いていた鎖や、のしかかっていた鉄球が——滑るように私の体から外れていく。
私は自分でも体をくねらせるように動いて、なんとか鎖の拘束から完全に抜け出すことに成功する。
そのまま私はいったん距離を取ろうと、その場から飛び退こうとするが——
——ちょっと、また何かついてるわよ!
カノさんに言われて——“視点操作”で——確認すれば、確かに私の体(背中)に、またもや何かの紋様が浮かんでいる。——って、いつの間に?
「甘ェな! 逃がさねぇぞ!」
そう吠える剛田さんが、鉄球に繋がる鎖を握る右手とは違い、空いた左手をこちらに向けると——
『“刻印起動——吸引印”』
私の体がその手のひらに引き寄せられていく。
「喰らいなッ!」
引っ張られるように勢いよく引き寄せられていき、剛田さんに向けて背中から突っ込んでいく私に対して、彼女がお迎えに寄越したのは——強烈な回し蹴りだった。
ドカッ——!!
——『“刻印付与——間接刻印——拘束印”』——
ぐほっ……!
背後からの鋭い蹴りを喰らい、私はまるでサッカーボールのように跳ね飛ばされていく。
——くっ、またなのっ!? これはっ、どうやら攻撃と同時に付けられているみたいね……っ!
吹き飛ばされつつも“視点操作”で背中を確認してみれば……確かに、また何やら紋様が浮かび上がっている。
——カノさん、今度のやつの効果は……?
——どうやらこれは、動きを止める効果の紋様みたい。いつ発動するのかは分からないわ。気をつけて!
私はなんとか、吹き飛ばされつつも体勢を立て直して着地する。
——というか、アンタもそろそろ攻撃しなさいよ。なんでさっきから喰らってばっかりなのよ……しっかりしなさいよね。
いや、それはごめん……。
何やかんや、私もちゃんとした対人戦って初めてだし……やっぱ相手が人間だと、ちょっと躊躇してしまうっていうか……
——まったく、それで負けてたら世話ないわよ。
分かってる。これだけボコボコにやられてたら、さすがにもう躊躇もクソもないって。
……さて、それじゃそろそろ、こっちからも反撃するとしよう。
そう思った私は、まずは刀の機能である【攻撃充填】を発動する。
——対人戦で使えそうと思っていたこの機能……いよいよ初の実戦投入だ。
コイツを使えば、攻撃や防御で専用のゲージを溜められるようになる。そして、そのゲージはスキルの発動などに利用できる。
藤川さんのおかげで私はゲージには余裕があるけれど、これを使えばさらに余裕ができるんじゃないかと思う。
私が反撃へと意識を切り替えている間にも、剛田さんは吹き飛んだこちらとの距離を詰めてきており、己が武器の間合いに入るや否や鉄球を飛ばして攻撃してくる。
私はその攻撃を、飛び退くのと同時に【推進】を使って大袈裟に距離を取って回避する。
——とはいえ基本的には、攻撃は完全に躱すに越したことはない。
なんせ彼女の攻撃には、どうも看過できない追加効果が発生しているみたいだし。
その辺のことは、今まさにカノさんが“鑑定”を使って調べてくれている。
反撃するとは言ったけれど、相手の能力が分からないうちに攻勢に出るのは危険だ。カノさんの仕事か終わるまでは、慎重に立ち回るとしよう。
そう方針を定めた私は、剛田さんの鎖鉄球が届かない距離を常に維持するように動く。
【推進】や【軽化】、あるいは【固定】など、基本の機動系スキルを使っていくことで、彼女の間合いに捕まらない高速機動を実現する。
——この辺のスキルを使った高速機動についても、もっと実戦で試しておきたいと思っていた。
そうしつつも、向こうの間合いの外より、こちらからも攻撃していく。
さあっ、それでは……喰らうがいいっ、私の秘剣、遠当ての斬撃、とくと見よ!
『“斬空波”』
不可視の斬撃が宙を奔り——剛田さんに直撃する。
「ぎゃん——! ……はァっ?! なんだ今のは……っ!?」
驚きを露わにする剛田さんに——普段は戦闘中は無口な私も——今回ばかりはついつい口を開いてしまう。
「おや、飛ぶ斬撃を見るのは初めてですか?」
「なッ、と、飛ぶ斬撃だと……?」
「ええ、そうですよ……そらっ、もう一丁!」
『“斬空波”』
「ぐェッ——! っそ、マジかよ……!」
「さあさあ、どんどんいきますよ……!」
「っ、させるかよ! チョーシ乗んな! オラッ!」
『“刻印起動——拘束印”』
「んおっ——」
「へッ、どーよ」
背中に付けられていた紋様の効果が発動し——私は体が動かせなくなる。
くそっ、またこれか……!
マジでこれ、毎回こうやって動きを阻害されたら、負のループに突入することになるんだって……!
なんせ——
「ザマァねぇなァ——ぅオラァッ!!」
動きが止まった私に、剛田さんはここぞとばかりに鉄球を飛ばしてくる。
——これを喰らったら、またなんか付けられて、そしてまた……って繰り返しよ。
だから、これを喰らうわけにはいかない。
体が動かないなら——でも能力自体は発動できるから——こうだ!
私はもう一本の刀を空中に呼び出して——【飛刀】で操りつつ、【進撃】で勢いを乗せて——飛来する鉄球を迎撃させる。
ガッギャッ!!
ぬっ、やっぱ重いな——ッ!
だけど、なんとか直撃を逸らすことは出来た。
「なンだと……?!」
さて、今回もなんか付けられたんかね?
まあ、仮にそうだとしても、刀に付けられただけなら別に、どうとでも対処できよう。
「チッ、まだだッ」
鉄球の軌道が変化して、再び私の方に突っ込んでくる。——しかし、その時にはすでに、私の体は動くようになっていた。
私は大きくその場を飛び退いて、その攻撃を躱す。——ついでに、防御に使った刀は『回収』しておく。
間合いの外に退避した私に対して、剛田さんは忌々しそうな視線を向けてきていた。
「チッ、ちょこまかと……すばしっこいヤツだなッ……」
よし、これでもう謎の紋様による妨害はない。
あとはこのまま、向こうの間合いの外から攻撃し続ければいい。
——本来は鎖鉄球のリーチの方が刀よりも断然長いのだが、飛ぶ斬撃を含めれば私の方が長い。
向こうが遠距離攻撃を持っているなら話は変わってくるけれど……まあ、それを見極めるためにも、遠距離戦を仕掛けてみるか。
私が刀を構えると、剛田さんも反応して鎖を手繰る。
『“鎖形編成——防壁形態”』
すると——なにやら鎖が彼女の周りに渦巻いていき、彼女を守るようにその周囲を覆っていく。
あれは、防御技……?
——防御に徹するつもり? なら、彼女には遠距離攻撃は無いってことかな……?
まあいい、様子見ついでに、そいつの防御力を試してみるとしよう。
『“斬空刃”』
私はそれなりに威力を溜めてから、魔力刃の斬撃を飛ばす。
ガギィッ!!
しかし、その斬撃は鎖の防壁に阻まれてしまった。
「ッ!? なッ、マジで、飛ぶ斬撃……だと——っ?!」
ぬ、ガッツリ防がれたか……。
——今度ははっきりと視認できる“飛ぶ斬撃”を見て、剛田さんが驚いている……ふふ。
彼女のHPは減っていない。どうやら完全に防がれたようだ。
ふむ……どうするか。なかなか硬いみたいだぞ、あの防御形態。
とはいえ、所詮は鎖でしかない。ならば……これならどうかな?
『“炎月輪”』
続いて私は、『炎使い』の能力を使って刀を燃え上がらせると、そのまま炎の斬撃を飛ばした。
ブボオォォッッ!!
「なっ——ぐ熱ァッ!?」
“炎月輪”は鎖の防御にいったんは阻まれたが、しかし、すべての威力を防ぐことは出来なかったようで、剛田さんのHPが減っていた。——それに、わりと熱かったのか、彼女は軽く悲鳴を上げる。
わ、大丈夫かな……? 髪とか焦げたりしてないよね? そんなことになったら、ちょっと——いや、かなり申し訳ないのだけれども……
と、思ったけれど……うん、どうやら、普通に大丈夫そう、みたい……かな?
……ん、だね。まあ、HPが効いてるのか、髪が燃えたりはしてないわ。
うん、よし。
なら続行。
『“炎月輪”』
『“炎月輪”』
『“炎月輪”』
私は連続して炎月輪を放つ。
「あちっ、あッ、あっつゥ……くっ、クソ! オイッ、ちょ、マジ、こ、この……!」
防御しても抜けてくる熱のダメージにより、剛田さんはなす術なくHPを削られていく……
「——ッ、ぁつ、ぁっ、ぁぁああしゃらくせェ! 舐めんなッ!」
剛田さんは何やらそう吠えたてると、左手を自分の体に押し付ける。
『“刻印付与——水流印——刻印起動”』
すると——
ボッシュウウウウウゥゥゥゥ……!!!
と、私の炎月輪を受けた彼女から、大量の白い煙が発生する。
いや、これは……水蒸気——?
大量の白い煙——水蒸気が晴れると……そこには、何やら水のように透き通った青いオーラを纏っている剛田さんの姿があった。
いや、彼女の体だけではない。彼女の握る武器である鎖鉄球……今は防御形態になっているそれにも、水のオーラがまとわりついている。
あれは、もしや——“水属性”……なのか?!
——そうね……あれは水属性よ。そしてどうやら、炎属性は水が弱点のようね。最後の攻撃のダメージが通ってないわ。
マジか、そんな能力も持っていたの?!
というか、なんなのあの人、『水使い』のジョブを持ってるってこと?
——いいえ、彼女は『水使い』ではないわ。あれはおそらく、彼女の三つのジョブのうちの一つ、『刻印使い』の能力よ。
刻印使い?
——ひとまず、便宜上、そう名付けておくわね。それと、他二つのジョブも判明したわ。こちらはそれぞれ、『鎖鉄球使い』と『狂戦士』と呼ぶことにするわ。
ファッ——?! えっ……!?
——ちなみに、彼女が選択しているジョブは『鎖鉄球使い』で、他二つは獲得済みのサブね。
……いやいや、ちょっと待ってよ。
えっと、『鎖鉄球使い』は分かるよ。あの武器由来のジョブでしょ?
んで、『刻印使い』は、さっきから使ってる謎の紋様——刻印か。これを使う能力のジョブだよね。
……で?
なに、『狂戦士』って。
——だって、端的に言って、そう表現するのが適切なジョブみたいなんだもの。まあ、別名「バーサーカー」ってところかしら。
マジかよ……。
——今のところは、まだこの『狂戦士』の能力は使っていないみたいだけれどね。まあ、このジョブで使えるスキルはそもそも一つしかないみたいだけれど。
……ちなみに、なんてスキルなの? それ。
——それは、もちろん……『狂化』よ。