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第193話 なるほど……分からん(分からん)



 【電磁式極超加速狙撃銃エレクトリック・ハイパーレールライフル】……だそうです。


 マユリちゃんがウサミンに(たく)した超破壊兵器は、彼女がレベル15になって新たに手に入れた(ランク)4の武装(アームズ)カードだった。

 ——にしてもこれ、とんでもねぇ威力だったな……。

 分裂体からの攻撃を防げるくらい頑丈そうなものを選んだので——事実、分裂体からの攻撃はなんとか防げていたこの建物の壁を、しかし、このレールガンはいとも容易くぶち抜いてしまった。

 ——本来、あれほとの威力の射撃となると、反動とか衝撃波とか、そういう余波的なものも相当ありそうなのだけれど……その辺はそうでもなかったのは、おそらくは、そういう仕様でも存在しているのだと思われる。

 まあ、おかげでこちらから一方的に攻撃することができたので、分裂体たちもすべて撃破することができたのだけれど。


 すべての分裂体を撃墜したことを確認したところで、私たちは急いでその場を離れた。

 その際には、建物に入ってきた時の穴を使い、そこからまた外に出るための経路をアンジーが土を掘って作成していく。

 律儀にわざわざ入ってきた場所から出なくてもいいような気がするかもだけれど……いや、そうする必要があったのだ。

 なぜなら、仕方ないとはいえ、ウサミンによって穴だらけにされた(元)頑丈そうな建物が、今にも崩れてしまいそうになってしまっていたので……

 生き埋めになる前に、一番近い出口である穴に飛び込んだってワケね。


 事実、地中を通って建物の外の地面の上まで出てきた私たちの目の前で——(くだん)の建物は、壮大な音を立てながら崩れ落ちてしまったのだった。

 ふう、間一髪だった……ありがとね、ビルくん。では、どうか、安らかに眠ってくれ……——

 なんて感傷もそこそこに、私はウサミンが撃ち落とした分裂体を回収するために、さっそく周囲を確認していったのだけれど……


 うーん、こりゃダメだわ……


 分裂体はどいつもこいつもバラバラになっており、回収できそうな“無事な”機体は存在していなかった。

 まあ、無事なら無事で、そん時は最初のヤツみたいに自爆するのかもしれないけれど……

 結局、この敵に関しては、どうやったって回収できないってことなんだろうな……。


 とまあ、半分諦めつつも、一応はすべての分裂体を確認していた私は——その中に一つだけ、無事に残っている機体を発見した。

 これは……私の“雷刃波(らいじんは)”によって倒された機体だ。——あの見事なまでの切り口は、間違いない。

 とはいえ……どーせこれも自爆待ちなんでしょ、もう騙されねーから。


 てな感じに、私はまるで期待はせずに——でも一応は確認するために、用心のためにしっかりと距離をとってからソイツに【解析】を使う。

 すると普通に、【解析】の能力が通じた。

 えっ、マジ? なんで……?

 ……もしかして、罠か?


 私はむしろ、さらに警戒を高めつつ——しかし慎重に距離を詰めていき、射程ギリギリまで近づいたところで、今度は“鏡映鑑定(アナライズ)”を使ってみる。

 すると、こちらもしっかりと効果を発揮して、分裂体の機体の情報を読み取っていく……


 ふむ、ふむ……なるほど、そういうことか……。


 “鑑定”を使ったことで、実に色々なことが判明した。

 ——この機体は、その性能としては、移動速度と偵察の能力が高いという特徴を有している。

 ——弱点としては、やはりというか、“雷属性”がそれに該当するようだ。

 ——案の定、自爆するための機能も搭載されていたようだけれど……それは雷属性による攻撃の影響で、すでに機能を停止していた。

 ——というより、自爆機能に限らず、今やすべての機能が完全に停止しているようだった。

 鑑定のお陰で、機体の性能や搭載されている機能については、おおよそ判明した。

 しかし、鑑定をもってしても、この機体の所属や製造元というか、その正体に繋がるような情報を読み取ることはできなかった。


 肝心なところまでは分からなかったけれど、でもまあ、それでもなかなか貴重な情報が得られたと思う。

 コイツはもう完全に倒されていて安全みたいだから、とりあえず回収もしておこう。


 私は二つに分かれた機体をそれぞれ『回収』した。

 すると、画面(ウィンドウ)に反応があり、なにやら——回収した機体を売却してほしい——みたいな文言が現れる。

 ふむ……? なんだろう、これは……初回撃破ボーナスか何か?

 よく分からないけれど、通常よりも高値で買い取ってくれるみたいだね……?

 まあ、別に、調査は済ませたし、これ以上は私に出来ることはないし……高く買ってくれるなら、売っ払っちゃっていいかな。


 私は回収したばかりの機体をさっそく売り払う。すると、なかなかの量の(ポイント)を獲得することができた。

 ほう……いいね。

 確認してみれば、デカ(メカ)ムカデを倒した(ポイント)とは別に、分裂体のそれぞれを倒した(ポイント)も入っているみたいだった。——まあ、分裂体の方のほとんどはウサミンが倒したので、その分の(ポイント)はウサミンに(というか、その主人(マスター)のマユリちゃんに)入っているのだろうけど。

 だけどまあ、デカいのと小さいのでそれぞれ(ポイント)がもらえるのは有難いね。

 ついさっきの売却分も含めたすべてを合わせると、今回の一連の戦闘で獲得した(ポイント)はなかなかの額になっていそうだ。

 まあ、そもそもがけっこうな強さの敵だったからね、このくらいの見返りはあって然るべしだよ。


 さて、突然襲ってきたメカムカデはなんとか無事に討伐できたわけだけど……

 メカムカデ(が分裂した機体)についてはなんとか情報を得ることができたが、相変わらず謎の領域の中は謎のままだ。

 中から出てきた敵を倒すことはできた。——一応は。

 だがそれも、一体を倒しただけだし……それにしたって、偵察機のような性能のやつだったから、主力ではないのかもしれないし。

 やはり、領域内部のことはいまだに何も分かっていないに等しいし、内部にいるらしき敵についても——もしかしたら、同様の機械系の敵が他にもいるのかもしれないという予測は立つとしても——すべては臆測の域を出ない。


 依然として、まだまだ情報が全然足りていない。

 どうにかして、内部の様子を探りたい……やはり、もはや何かを内部に送り込むしかないのか……?

 いや、まだ出来ることはある。それに、内部を調べるにしても、その前にまず調べなければいけないものがある。

 あの領域そのものについて——もっと言えば、領域の()()について……それをまずは調べよう。


 そのように考えをまとめた私は、さっそくヘリを呼び出すと、再び空に繰り出した。

 地上から調べることもできるけれど、ヘリに乗って空中から広い範囲を見渡せた方が調べるには何かと都合がいいので、そうすることにした。

 ——メカムカデの攻撃によって、ヘリも少しダメージを受けていたけれど、この程度ならまだ大丈夫だ。

 操縦はアンジーに任せて、私は領域の境目のギリギリにまでヘリで近づいていく。


 そうして、上空から謎の領域の境目のかなり近くまできたところで——私はヘリの後部座席(キャビン)にある側面の扉を開いて、そこから領域を見下ろす。

 ——(かたわ)らにはウサミンがついて、レールガンを構えて警戒してくれている。

 私は領域の境に向けて、“鑑定”の能力を発動した——。



 領域そのものに“鑑定”を使ったことで、いくつかのことが判明した。


 まず、この領域の内と外では、どうにも空間的な(へだ)たりが発生している……らしい。

 詳しいことは——というか難しいことは——そもそも私にも理解できないので、仮に(わか)ったのだとしても(わか)らないのだと思う。


 なので、他にも私に(わか)る範囲での情報としては——

 ・内部の様子を外部から観測することはできない。これは、内部が外部とは空間的に()()()いることが、その理由のようだ。

 ・外から領域の中に入ることはできるし、特にそれを阻害する要素はない。また、領域に入った後も外に出ることはできる。つまり、閉じ込められたりするなんてことも特にないようだった。出入りは自由みたいだ。

 ・境界を越えて領域の中に入ることで——ダメージを受けたりとか、そういう——何かしらの被害を受けることはない。つまり、中に入ること自体には危険性はない。

 ・しかし——内部に入ったら、“何らかの影響”を確実に受けることになるみたいだ。その“影響”の詳しい内容については……やはり、外からでは(わか)らないようだった。

 ・ちなみに、マップの索敵範囲に入るまで領域に近寄ってみたりもしたけれど、案の定というか、例の謎の領域の部分は空白になっているのみで、マップには何も映らなかった。

 ——とまあ、そんな感じで……分かったことといえば、大体そんなところだった。


 結局、外からではどうやってもこれ以上の情報を得ることはできない——ということが分かったわけだけれど……

 そうなるとやはり、さらに内部の情報を探るためには、もはや(みずか)ら出向くか、偵察要員を送り込む必要があるということになる。

 出入りに関しては問題ないようなので……問題となるのはそう、内部に入ったら受ける“影響”とかいう、これについてだ。

 後はまあ、内部にいるのかもしれない脅威対象(敵対存在)についても、もちろん警戒の必要があるけれど。


 まあ、ここまで分かった以上は……次にやるべきことは決まった。

 送り込むしかないだろう、偵察要員を。

 問題は、誰を送り込むのか……。

 私の持つ候補としては、偵察機(ドローン)君くらいしかいない。

 うーん……まあ、マユリちゃんとも相談して、一番相応しそうな対象を選定でき次第、内部の偵察へ送り出すとするか……

 と、私がそう結論付けて、さっそくマユリちゃんへと通信を繋げようとした、その時——


 ウサミンがまたもや何かを発見した。——と、私に伝えてきた。


 すわ、また敵襲か——っ!? と、私は身構えたのだけれど……どうやら違う様子。

 差し迫った状況ではないみたいなので、落ち着いてウサミンが教えてくれた方向を確認した私の視界に映ったのは……謎の領域の境界のすぐ近くで、領域から離れるように進んでいくバイクに乗った一人の人物だった。


 なっ、何だあいつ——?

 というか、アイツ、もしかして……


「あの領域から、出てきたの……?」


 独り言のようなその問いに——ウサミンが反応して、コクリと(うなず)いて答えてくれる。


 マジかっ、マジであの領域から出てきたのか……!

 これは……


「アンジー! あのバイクの人物を追ってください!」

『了解した』


 私がドアを閉めるのと同時にヘリが動き出し、私の指示通りにバイクを追っていく。

 速度の違いですぐに追いついたヘリは、すぐにバイクの上空にたどり着いたので——その間に副操縦席に移動していた私は——フロントガラス越しに“視点操作”を使い、さらには【解析】を発動してそのバイクに乗った人物について調べる。


 すると、【解析】は妨害されることなく通用し、対象の情報を獲得した。



 名前——『剛田(ごうだ)千明(ちあき)

 年齢——『17』

 性別——『女性』

 人種——『日本人』

 Lv(レベル)——『15』

 防具——『Lv(レベル)15』

 装備——『強機動服(パワードスーツ)(☆☆)』『刻印判子(スタンプ)(☆)』



 プレイヤーだっ!

 それも、Lv(レベル)が15を越えている……!

 ジョブはあるのか——? すごく気になるけれど……【解析】ではそこまでは分からない。

 ——しかし、ジョブアイテムであるパワードスーツを着用しているようなので(それも、ランクが2の)、ジョブ持ちである可能性は高いだろう……。

 ——もう一つの“スタンプ”とかいうのは、これもジョブアイテムなんだろうか……よく分からん。

 防具は着用していたので普通に調べられたけど、武器は装備欄にしまっているのか、所持していないのでこちらも調べることができなかった。

 “鑑定”を使えば装備欄の内容も判明するけれど……この距離では無理だ。

 どうも、この——剛田千明なる——人物は、【秘匿】に類するスキルは持っていないようなので、“鑑定”を使えば他の情報も判明すると思うけれど……


 さて……どうしようか。


 ——あの領域の内部から出てきたってことは……彼女は内部の状況を知っているはずよね。


 そう、そうなのだ。

 新たな選択肢が、向こうからやってきた。

 今から私が自分で偵察要員を送り込まなくても、すでに内部に入っている彼女から聞き出した方が早い。


 もちろん、彼女に()くとするなら、それはそれで問題となる部分もある。

 そもそも、相手はまったく面識のない相手だ。しかも、私と同レベルのプレイヤーなのだ。

 一番の問題はそこだ。プレイヤー——それも、こちらと実力が近いプレイヤーとの接触は、相応の危険が(ともな)う。

 ——つい先日の、シスの件もある……。

 あの剛田千明なる人物と接触することが、シスの件の二の舞となる可能性は、もちろんある……。


 先日の、トラウマになりかねない他プレイヤーとの接触を思い出しては、私も出来る限りの安全策を取りたくなってくる……けれど。

 少しばかり悩んだ上で——しかし私は最終的に、彼女と接触してみることに決めた。


 やっぱり、彼女から得られる情報は貴重だ。

 それに、普通に接触が上手くいく可能性もある。そうすれば、もしかしたら情報だけでなく味方となる存在が増えることになるかもしれない。

 仮に、彼女との接触が上手くいかずに——どころか最悪の結果になったのだとしても……今の私なら何とかなる、と思う。

 そもそも今の私は一人じゃない。アンジーとウサミンという頼れる星兵(サモンスター)の仲間がいる。


 それに、昨日のシスの時とは違い、他の仲間たちとの通信も問題ない。なので、いざとなればマユリちゃんに追加の星兵(戦力)を送ってもらったり、マナハスや藤川さんからの援護を受けることもできるのだ。

 さらには、今の私には庇護対象もいないので、とても身軽だ。——星兵の二人については、わりとどうとでもなるし……なんなら、最悪は二人を殿(しんがり)にして、私だけ逃げるという選択肢もある。

 今の私は、私自身のことだけを考えて動くことができる状態なのだ。

 だとすれば——たとえ昨日のシスとの一件のような——最悪の状況になったのだとしても……きっと切り抜けられる。……いや、切り抜けてみせる……!


 だから、やっぱり……この機会を逃すべきではない。

 これは、チャンスだ——

 彼女と接触して、情報を引き出す。上手くいけば、それが最善なのだから。

 仮にそうならなかったとしても、その時はその時だ。


 そう決意した私は、道路を疾走するバイクの進路に先回したところで急いでヘリから降りると、道の中央に立って彼女を待ち受けるのだった。

 

 

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