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第192話 電気の力って、スゲー!!



 私の視界の先に、先ほど撃墜した巨大なムカデ型メカから分離した一個体が、墜落の勢いにより地面にめり込んだ状態で鎮座している——


 あれから急いで着陸させたヘリから地上へ降り立った私は、すぐにこの墜落現場へとやってきて、撃ち落とした分裂体と対面していた。

 

 さて、ようやく手に入れた手がかりだ、今すぐ回収したい——ところなのだけれど……不用意に近づくのは危険だ。

 まずは、ちゃんと倒したのか調べるのが先決だろう。


 私は抜いた刀を右手に、墜落した分裂体との間にそれなりの距離を保った状態で、まずは【解析】を使う。

 ……ダメだ、やっぱり何も分からない。

 仕方ない、なら次は“鑑定”だ。


 私は分裂体に少しだけ近寄ると、イヤリング型の鏡を介して、そのスキルを使用する。


『“鏡映鑑定(アナライズ)”』


 むむむ……ややっ、こちらは手応えアリそうだぞ——


 そう思った、次の瞬間——


 突如、分裂体が爆発した。


 ドッッカァァァァァン!!!!


 ぬおっ——!?


 爆風を受けて、軽く吹き飛ばされる。


 マジかっ、コイツっ、自爆しやがった——!


 乱れた体勢を空中で立て直しながら着地しつつ、私は脳内でそう悪態をつく。

 というかコイツ、やっぱり倒せてなかったのか。けっこーアッサリ落ちたから、なんとなく怪しいと思っていたのだけれど……案の定だった。

 ——最初からマップにも映ってなかったから、そこでも判断不能だったし。

 こりゃあ、不用意に近寄って回収しようとしてたら、大火傷だったな……。


 (さいわ)い、それなりに距離を取っていたので、爆発によるダメージはほとんどない。

 しかし、肝心の分裂体は見事なまでに爆裂四散しており、もはや原形を留めていないどころか、どれが分裂体を構成していた破片なのかも判別できないような有様だった。


 ちっ……せっかくの手がかりが、(みずか)ら弾け飛びやがった。

 どうしよう……一応は、破片を集めて回収しておくべきだろうか。

 でもなぁ、そんなの集めたところで、あんまり意味があるとも思えないし……それに、集めるのが面倒くさいし。

 いやまあ、面倒くさいっていうか——今は時間をロスするわけにはいかないから、チマチマ回収作業とかやっている暇はないというか……。

 だけど、コイツを逃せばマジで手がかり無しで振り出しに戻るだけだし……やっぱり、残骸だろうが回収してみるべきだろうか。

 あ、そうだ、マナハスの魔法なら、残骸からある程度修復したりとかできないかな——


 なんて色々と考えていた、その時——不意にウサミンが私のそばにやってきて、何事か伝えてくる。

 ——どうやら、索敵を任せていたウサミンが、何かに気がついた様子。

 慌ててウサミンの示す方向を“視点操作”によるズームで確認してみれば——確かに何者かが、こちらに急速に近づいてきている様子が見てとれた。

 というより、それは——別々に散らばっていった他の分裂体のうちの一つだった。

 爆発音にひきつけられてきたのかなんなのか、今まさに高速でこちらに向かってきている。


 私は迎撃の態勢を整えるために、まずは急いでヘリを“回収”する。

 それからすぐに、近くにある頑丈そうな建物の影に隠れる。

 すると、ちょうどそのタイミングで、この場に分裂体が到達した。


 その一機の分裂体は、最初こそ周囲を探るような様子を見せていたが、すぐにこちらに向かって身構えるような反応をみせる。

 ——ふむ……アンジーはウサミンとセットで隠密してるし、私は私で“隠密迷彩(ステルス)”を使っているというのに、やけにアッサリと見つけてきやがる。

 やっぱりコイツら、かなり索敵能力が高いみたいだ……ちっ、なんて厄介な。

 見つかってしまった以上は、もはや隠れていても意味がない……むむぅ、ここはひとつ、こちらのタイミングで仕掛けるべきか——?


 しかし、どうする……分裂体ですら、ヘリであれだけ攻撃しても結局は完全に倒せていなかったわけだし、小さくなっていても普通に強いんだよなぁ。

 ——ではやはり、『雷使い』の能力を使うべき……?

 だけどアレは……使ってみて分かったけれど、強力ゆえに——いや、そう、強力過ぎるのだ。

 雷属性の根本的な威力が高すぎて、今の私ではまだまだぜんぜん上手く制御できていない……

 だが、空を自在に飛行できて、そこそこの耐久力があるあの敵を倒すには、やはり『雷使い』の能力を使うのが——


 なんて、色々と悩んでいるうちに——敵がいち早く攻撃を開始してきてしまい——向こうに先手を取られてしまう。


 分裂体は素早く移動して、こちらが(ひそ)んでいる建物の影まで回り込んでくると、その身を回転させながら何かを飛ばしてきた。


 バルルルルルルルッッ!!


 まるで銃撃のような、その——連続して無数の小さな何かを高速で飛ばす——攻撃を、すでに土の特大剣を生成していたアンジーが、その巨大な剣身を盾にして防いでくれる。

 私とウサミンも、アンジーの後ろに隠れてなんとか凌ぐ。


 分裂体も攻撃手段を持っていたか……にしてもこれ、普通に……なかなかの威力だぞ。

 飛んでくる何かの狙いは正確で、基本的にはアンジーの構えた大剣に命中している。しかし、中には外れて地面や建物に当たるものも多少はあり……

 それらの流れ弾により、地面は(はじ)けて(めく)れ上がり、建物の壁には穴が開く。

 だがアンジーの大剣はしっかりとその威力に耐えており、攻撃が抜けてくることはなかった。


 そのことには安心しつつも、私は敵の強さに改めて危機感を覚える。

 分裂体とて油断は出来ない。普通に強いぞコイツ……こうなったらやっぱり、“雷”を使うしかない。しかし、どうやって使いこなせばいい——?

 ……そうだな、強力過ぎる“雷”を制御するためには、むしろ——


 私の考えがまとまった頃には、しばらく続いていた分裂体からの攻撃も止まっていた。

 ——弾切れか、それとも別の攻撃に移るつもりか知らないが……攻撃するなら今だ。


 私は素早くアンジーの後ろから飛び出すと、分裂体に向けて、すでに準備していたその技を放った。


 喰らえっ、刀技(ブレイドアーツ)雷技(サンダーアーツ)の合わせ技、“雷属性(サンダーエレメント)”の飛ぶ斬撃っ、その名も——


『“雷刃波(らいじんは)”』


 バチバチと唸りを上げ帯電(スパーク)する刀を、上方に浮く分裂体に向けて振り抜けば……

 ——雷光の刃が宙に(ひらめ)き——

 その軌道の先で——空中に浮遊していた——分裂体が、なにやらいきなり落下し始める。

 と、思ったら——分裂体は突如として、落下中の空中で真っ二つに分裂し、そのまま地面に激突してしまった。

 

 それはまさに——放った私自身にすら感知できないほどのスピードにて飛んでいった“雷刃”が、分裂体をさらに真っ二つに両断して仕留めたという結果を示した光景なのだった。


 ……な、なんという速度、なんと鮮やかな切り口、なんともはや、天晴(あっぱ)れな威力よ……っ!

 通常の“斬空波(ざんくうは)”とは、もはや比べものにならない速度が出ていたではないか……あの“雷の刃”は。

 ——目にも止まらぬとは、まさにこのこと……文字通り、(まばた)き一つの間に空の彼方に消えていったぞ……。

 威力も申し分ない。そしてなにより、消耗もちゃんと抑えられている。


 MPの青いゲージを確認してみれば——まあ、なかなかに減ってはいるけれど……でもまあ、これくらいなら許容範囲内だ。少なくとも、一発でMPが全部ぶっ飛びかねないような危うさはもうない。

 ふっ、思惑通り……『刀使い』の技と併用することで、むしろ威力を抑えて消耗を減らすことに成功した。

 とはいえ、それでも分裂体なら一刀両断できる威力はあるし、射程も速度も十分以上だ。

 案外、雷と斬撃技は相性がいいのかもしれないねぇ……

 これは……もしかしたら、私がこれからメインで使っていく技が生まれてしまったのかもしれないゾ。


 新技の強さに興奮していた私だったけれど、しかし、戦いはこれで終わりではない。

 ウサミンによれば、他にも分裂体がこちらに向かってきているらしい。

 事実、倒した分裂体を詳しく調べる間もなく、次なる襲撃者がこの場に現れる。


 新たな分裂体が、今度は二機同時に出現してきた。

 建物を背に立つ私たちを囲むように、絶妙な距離を置いた空中にて左右に展開した分裂体が、左右から同時に攻撃を放ってくる。


 バルルルルルルルッッ!!

 バルルルルルルルッッ!!


 二方向から同時にくる攻撃に、あわや私たちは蜂の巣になる——なんてことはもちろんなく、アンジーがしっかりと防いでくれている。

 アンジーは特大剣を構成する土の形状を変化させ、まるで巨大な傘のような形にすることで、上空二方向から同時に襲いくる攻撃も完璧に凌いでいた。

 私とウサミンも、しっかりその土の大傘の庇護下にいるので無事だ。

 いやはや……さすがは防御特化のアンジーだ。これほど頼もしい盾役もなかなかいないよ。

 さて、このうっとおしい雨が止んだら、今度はこっちが雷をお見舞いしてやるからな……!

 と、私は意気込んでいたのだけれど——


 結果として、連中の攻撃という雨が止むことはなかった。——どころかむしろ、次第に雨足は強くなっていった。

 なぜなら——分裂体は周期を合わせて交互に攻撃していくことで、攻撃が止む瞬間が出来ないように調整していたから。

 さすがに、連中にも永続して攻撃をすることはできないようだったけれど……

 でも、リロードタイムを挟めばいくらでも攻撃できるのか、さっきから一切止むことなく攻撃が続いている……

 当然、その間こちらからは一切の反撃が出来ず、防御態勢で耐えることしかできない。

 しかも、そうして手をこまねいている内に——あれよあれよと、追加の分裂体があちこちからこの場に集まってきて……

 最初の二機から増えに増え……最終的には二桁に届こうかという数の分裂体が、お互いに周期を合わせて連携しつつ断続的にこちらに攻撃を浴びせてくるようになってしまった。


 平均して四機から五機の攻撃が常に降り注ぐようになっては、さすがのアンジーの鉄壁の防御も崩されるのでは無いかと不安になってくるのだけれど……


『カガミ殿、このままでは(らち)が明かないので、いったん退()いて態勢を立て直そうと思うのだが——!』

「それは構いませんが……撤退しようにも、この集中砲火の中だと難しいですよね——!?」

『それは私に考えがあるから、任せてほしい——!』

「わ、分かりました——!」


 土砂降りの雨より何倍も酷い騒音の中、私とアンジーはなんとか大声を張り上げて会話する。


 手短にやり取りを終わらせると、アンジーはさっそく行動を開始した。

 まずは、アンジーの能力により地面から土が盛り上がっていき、私たちの周囲を完全に覆ってしまう。

 そうして攻撃の雨を防ぎつつ——次に地面に(斜めに)深く穴を開けていき、みんなでその中へと降りていく。


『——このまま地中を進んで、連中の捕捉を振り切ることができればよかったが……やはり、そう簡単にはいかなかったか』


 アンジーの能力により、私たちはどうにかこうにか、連中の波状攻撃から脱出することには成功した。

 地中に(のが)れてからも……アンジーの先導に従い、わりと深いところまで掘った穴の中を、さらに横に奥にと掘り進めながら、“隠密”状態で進んでいく私たちだったけれど……

 地上(というか空中)の連中の動きを察知しているウサミンによれば、分裂体たちは地中のこちらの位置を正確に把握しており、今も地上にて執拗に追跡してきているのだという。


『逃げも隠れもできないとなれば……もはや、戦闘により撃破するより他に道はないようだな』

「まあ、そうでしょうけど……でも実際のところ、あれだけ撃たれるんじゃ、反撃の隙がありませんよね」

『ふむ……カガミ殿、貴公は連中を倒す方法について、何か思い浮かぶものはないか?』

「あいにくと……すぐには何も」

『そうか……では、ここは主人殿(マスター)のお力を借りるとしよう』

「マユリちゃんの、ですか? では、彼女には何か策が?」

『ああ、あるらしい。なのでここは、我々に任せてくれ。——では、まずは反撃できるよう場を整える。こっちだ』


 すると、アンジーが土を操作して地中に作っていく道が、今度は上へと登っていくように傾斜していく。

 その道をそれなりに登っていったところで、頭上に土ではないものが見えた。

 これは……建物の一番下の部分、かな。

 その建物の真下まで来ると、おもむろにアンジーは“地重震剣(グランビート)”を構えて——超振動するその剣身を——建物の基礎にあたる部分に突き立てた。


 ガガガガガッッッ!!!


 頑丈そうな建物の最下部を、しかし地重震剣(グランビート)はアッサリと砕き切っていき——すぐにそこには、人一人が悠々と通れるだけの大穴が開かれたのだった。

 私たちはその穴を通って、建物の地下部分に侵入する。


『では……あとは任せたぞ、ウサミ殿』


 アンジーがウサミンの方を見てそう言うと、ウサミンがコクリと頷いた。

 すると次の瞬間、ウサミンの前方に光が発生する。

 ——これは……マユリちゃんの召喚の光……?

 光が晴れて、その場に現れたのは……大柄な成人男性の身の丈を越えるほどに巨大な——銃のような何かだった。

 これは……?


 私がそれについての問いを発するよりも早く、ウサミンは現れたその巨大な銃を受け取ると、建物の外に向けて構える。

 いやいや、ちょ、ちょっと待ってよ、ここは建物の中だし、それも地下なんですけど……?

 なんて私が疑問に思っている間にも、ウサミンは着々と発射準備をしているようで——なにやら銃身が変形し、さらにはバチバチと帯電しているかのような音が……

 お、おい、ま、まさか——この銃って、もしかして……!?


 建物の壁越しにも敵の位置を正確に把握できているのか——ウサミンは迷うことなく銃の照準を定めて、そして……発射した。


 バッッチュゥィィィン——!!!!!


 超高速で発射された何かが、射線上にある——建物の床も、天井も、壁も、そして、その先にいた、分裂体の機体すらも——あらゆるすべてのものを貫通した。

 地下から一階に抜けて、さらには一階の壁をも貫き通した大穴から、外の様子を確認することができて——

 すぐに私が“視点操作”を使い、その大穴から覗いた先の外の光景の中には……つい先ほど、一直線にすべてを貫いた閃光の直撃を受けた一機の分裂体が、空中で四散したその名残りを見てとれた。


 ウサミンはそれからも、断続的に狙撃を行っていった。

 チャージして発射するという一連の動作が実行されるたびに、建物には一直線に大穴が開き、空中では一機の分裂体が粉砕される。

 分裂体も反撃をしてくるが、それらの攻撃は建物に(はば)まれてこちらまでは届かない。

 しかし、こちらからの攻撃は、すべてを貫いて相手を葬り去ってしまう。

 建物の壁は私たちにとっては防壁となるが、敵の分裂体にとっては視界と攻撃を(さえぎ)る邪魔物でしかなかった。


 さっきの地上の攻防とは反対に、今度は分裂体の方が、なす(すべ)なくやられていく番だった。

 あっという間に半数以上が撃ち落とされてからは、分裂体は行動を変え、回避機動をひたすら繰り返したり、その場から逃亡していくものも現れた。

 しかし、回避に専念しようがこの場から逃げ出そうが、分裂体のそれらの努力はすべて徒労に終わった。


 結局のところ、ウサミンの正確な狙撃の腕前と——すべてを貫く超威力、超音速を優に超える飛翔速度、視界の果てまで届く超射程——の三拍子揃った攻撃からは、何者も逃れることは出来ず……

 分裂体の数と同数である十一回の射撃を終わらせた時には、きっちりすべての分裂体が撃破されていたのだった。


 

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