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第189話 その約束は、いつか訪れるまた次の機会に……



「さて、それじゃ、寝る前に……少しだけお話ししようか」


 私とマナハスと藤川さんは、三人が並んで横になっても十分な広さのあるベッドの上で、実際にそうして三人並んで横になっていた。

 ちなみに並び順としては、マナハス、私、藤川さんという感じで、私が真ん中だ。


「お話し、ですか?」

「まあ、お話しっていうか、要は明日の予定についての確認なんだけれど」

「明日か……予定というと、確か、明日はいよいよ私たちの家族を助けに行くって話じゃなかったっけ?」

「うん、そう。それについてなんだけれど……まずは、藤川さん。明日はマナハスと一緒に、マナハスの家族の救出を手伝ってもらってもいい?」

「あ、はい、もちろんです! 私の家族を助けるのにこれだけ協力してもらったんですから……今度は私が協力する番ですので!」

「うん、ありがとう。そう言ってもらえるとすごく助かるよ」


 少しでもマナハスの安全性を高めるためには、戦力は多いに越したことはない。

 まあ、藤川さんもついさっきジョブを色々と獲得したことで一気に戦力が増したところだ。今の彼女ならば、マナハスの護衛要員としても申し分ない働きをしてくれることだろう。


「まあ、藤川さんだけじゃなくて、他にもついてきてもらうつもりだけどね。越前(えちぜん)さんとかにも。ただ、越前さんが来るとなると——彼とマユリちゃんを引き離すわけにはいかないから——マユリちゃんにもついてきてもらうことになるかな」

「マユリちゃんもか? ……いや、まあ、子供とはいえ、マユリちゃんの実力の高さについては、今までの戦いぶりから十分に理解しているから、うん……足手まといとは嘘でも言えないけれどさ」

「マユリちゃんがついてくるなら、彼女の護衛として星兵も何人か来ることになるでしょ? したらもう、それだけでお釣りがくるよね」

「まあな……」

「とにかく、明日は朝イチで即出発しようと思う。——実際、こっちでも色々とやるべきことが残っているけれど……そういうのは全部後回しにする。というかもう、その辺はこっちに残る人たちにやってもらう。私たちは、すべてを振り切って朝イチで()つ。これは肝に銘じといて」


 実際、やるべきことを挙げればキリがないってくらいに、まだまだやらなければいけないことが山積みなのが現状だ。

 なんならこれからも、時間の経過に合わせて次から次にタスクが増えていくんじゃないかと思う。

 しかし私たちには、そんなことに(かかずら)わっている暇はない。もっと優先するべきことがあるのだから。それを優先する。

 まずは自分の親しい人間を助ける。他人に関わるのは、少なくともそれがすべて終わってからだ。

 まあ、仮にそれらがすべて終わった後だとしても、私には自分がやりたいことが色々あるから、あまり他人に割く時間は無いのだけれど。


「なんだか随分と決意に満ちたような言い方だけど……そこまで気合い入れとかないといけないのか?」

「断言してもいいけど、絶対に引き止められるから。色々な人からね。そういうのにいちいち取り合ってたら、それだけでもう時間食っちゃって——気がついたら日が暮れてるって感じだね。だからもう、最初から一切取り合わないと決めておく必要がある」

「まあ、確かに……頼りにされそうというのは、容易に想像できるけどさ。私らもそうだけど、特にマユリちゃんなんてな……あの子がいるのといないのじゃ、まるで勝手が違ってくるだろうからね」

「そういう意味でも、やっぱりマユリちゃんは一緒に連れていくべきなんだよね。こっちに置いておいたら、なんやかんやといいように使われちゃうかもしれないし」

「うーん、確かに……」

「そうですよね……しっかりしてますけど、マユリちゃんもまだまだ子供ですし……あのくらいの年頃なら、大人の言うことってほとんど絶対ですから。いくら彼女と言えども、言うことを聞かされちゃいますよね……」

「そうそう、そういうこと……まあ一応、保護者の越前さんという防波堤もいるけど、いくら大人で保護者と言えども、越前さん一人で大勢の人間を相手にするのは厳しいと思うし……そもそも彼にも一緒に来てもらうんだから、マユリちゃんにも来てもらうしかないんだけれど。でもまあ、本人がその場にいなければ、誰にもどうすることもできないからね。マユリちゃんのためにはむしろ、ついてきてもらう方がいいと思うよ」

「まあ、そうかもな……」

「それに、いよいよともなれば、その場にいなくても力を貸せるのがマユリちゃんの凄いところだからね。味方のプレイヤーさえいれば、本人がどこにいようが星兵を送って援護できる。本人がどこにいても一緒なら、どこにいようが文句を言われる筋合いはない……」

「改めて言われると、とんでもない話だけどな……実際、今んとこは一番重要な能力の持ち主だろ」

「まあ、正直、今となっては、もう彼女抜きではもはや立ちいかなくなっているんじゃないかなとは、私も思うよ……」


 マユリちゃんの重要度は、実際かなり高い。

 明日の遠征に関しても、彼女の能力を大いにアテにしている。それこそ、移動の要となる移動手段の調達に関してすら……

 それに関しては、明日になってからまた相談してみようと思っているんだけれど。


「——さて、マユリちゃんのことはそんな感じでいいとして……そろそろ本題に入ろうかな」

「本題、ですか?」

「え、メンバーの発表が本題じゃないの?」

「うん……なんていうか。まあ、それも本題といえば本題なんだけどね。じゃあ、まあ……改めて発表するよ。明日の、マナハスの家族の救出に行くメンバーは——マナハスと、藤川さんと、越前さんと、マユリちゃん、この四人。あとは、まあ一応、そこに星兵がいくらか追加される、って感じかな」

「それは分かったけど……?」

「……四人? あれ、え、ちょ、ちょっと待ってください……あ、あの、それじゃ、火神(かがみ)さんは……?」

「え、あっ、えっ——?」

「私は、だから……別行動だよ」

「ええっ?!」

「う、嘘っ……ですよね?!」


 そう、これが本題だ……

 そんな反応になるんじゃないかと思っていたから、なんて言ったものかと迷っていたのだけれど……

 やっぱり、さすがに……驚いちゃうよね。


「いや、まあ、実際のところ、そうするしかないでしょう? 私とマナハスの家族はそれぞれまったく別のところにいるんだから、私とマナハスは——別行動するしかない……」

「それはっ、そ、そうかもしれないけど……で、でもっ——」

「マナハス……私としても、すごく辛いよ……マナハスと離れ離れになるのはね」

「カガミン……」

「でもこれは、もう決めたことだから。実際、他にはどうしようもないし、そうするしかない……」

「……っ、……」

「私も、最後まで悩んだけどね。そうするべきなのか、そうしていいのか。……でも、シスと戦ったことで、決心がついた」

「アイツと、戦ったことで……?」

「うん……アイツとの戦いの中で、『待っててマナハス』のスキルが発動したんだけど……それで分かったんだ」

「……それって、私がアイツに殺されかけた時のこと、だよね?」

「……そう、そうだよ」

「……、分かったって、一体、なにが……?」

「……それはね——」


 そこで私は、マナハスがシスによって絶体絶命のピンチに(おちい)ったあの時に、『待っててマナハス』のスキルがどのように発動したのかを二人に説明した。


 あの時の感覚によって……私は理解したのだ。

 この、『待っててマナハス』で覚えたスキルがある限り、マナハスと離れ離れになったとしても、彼女がピンチになった時には、“君の危機”のスキルにより私はそれを察知できる。

 そして、いよいよマナハスの危機的状況が臨界点に達しようとしたその時には——私のステータスもいよいよ高まり、“君の元へ”が発動できるようになる。

 そうすれば、たとえどれだけ離れていようと、文字通りの瞬間移動によって、私は一瞬でマナハスの元に助けに行ける。


 だが、私がその場に到達したからといって、それで必ずマナハスをピンチから救えるとは限らない——

 なんて弱気な気持ちも、まったくないとは言わないけれど……いや、やっぱりそんなことはない。私は必ずマナハスを守り抜くことができる……! そう信じる——!

 なぜなら……私にはまだもう一つ、“君を救う”というスキルがあるのだから。

 このスキルの効果も、やはり名称の通りだ。このスキルを発動すれば、マナハスがどんなピンチに陥っていようとも、そのピンチからマナハスを救い出す——そのために必要なあらゆる能力に、私が覚醒する。

 たとえ、どんなに追い詰められた状況だったとしても、絶対にマナハスを救う——という私の意志がそのまま具現化したような能力(チカラ)……。


 ……とはいえ、このスキルがあったとしても——それでも絶対ではないのだけれど。

 ——事実、シスに対しては、このスキルを発動しても、よくて五分といったところだった。

 だが少なくとも、このスキルのおかげで絶体絶命の危機を切り抜けられたのは確かだ。

 だとすれば後は、私自身の裁量にかかっているといえる。

 まあ、最低限のお膳立てさえしてもらえるなら、後は自分の力でどうにかしてみせるさ……


 たとえ、どれだけ離れていようと……『待っててマナハス』の能力がある限り——私はマナハスの危機を確実に察知するし、いよいよともなれば一瞬でマナハスの元に駆けつけるし、彼女がどんな危機的状況に見舞われていようと、それを覆せるだけのチカラを発現させてみせる……。

 だからそう、マナハスと離れ離れになったとしても……きっと——いや、絶対に、大丈夫。

 だから——


「——だから……一緒にはいけないけど……でも、大丈夫だから……何があっても、マナハスのピンチとあらば、私はソッコーで駆けつけるから。だから……きっと、別行動しても、大丈夫だよ」

「カガミン……」

「まあでも、実際のところ、そうそうピンチにはならないと思うけどね。越前さんや藤川さんや、何よりマユリちゃんもいるし。それこそマユリちゃんがいれば、大抵のことはなんとかなるでしょ。てか、そもそもマナハス自体がつよつよ魔法使いなんだから。大丈夫だよ、きっとね」

「カガミン……ごめん」

「え、なんで謝るの?」

「だって……本当なら、私の方こそ、カガミンを守るって……そう言おうと、思ってたのに……。——あの戦いが終わってから、改めて私は、そう自分に誓ったはずなのに……。私、カガミンと離れ離れになるとか、ぜんぜん考えてなかったから……いざ、そんなこと言われてみたら、一気に心細くなって……。……ダメだね、私。まるで覚悟なんて出来てなかった……」

「マナハス……」

「私も……本気で、覚悟を決めないと……カガミンと離れ離れになるんだとしても、やってやるって覚悟を。そうだよね……カガミンに頼らないって決意ができて初めて、カガミンのことを私が守ることができる……そうだよ、誰かを守りたいなら、まずは自分が自立して、自力で自分を守れないと……」

「いや、マナハスは魔法使いで後衛なんだから、基本的には守ってもらうでいいんだよ? 守られつつ後方から援護すればいいんだから」

「ふっ、そうだね……ありがとう。そっか……私を守ってくれる人を、私が守ればいいんだ」

「まあ、そうね」

「……分かった。私も、カガミンと離れ離れになっても、カガミンを助けるし、守るから。——カガミンのくれたこの“指輪”があれば……たとえどんなに離れていても、私もカガミンに魔法をかけられるから……きっと、助けになれる」

「そっか……それは確かに、心強いし、助かるよ」

「あ、あの……わ、私もっ、離れていても火神さんを助けます!」

「藤川さん……」

「この、新しく手に入れた『信奉者』の力を使えば、私、離れていても火神さんの力になれると思いますので……!」

「……そうだったね、確かに、そんなスキルもあるみたいだったよね」

「その、今はまだ、ちょっとしたサポートにしかならないかもですが……でもっ、いずれはもっとお役に立てるような能力が使えるようになるかもしれません。——いえ、使えるようになってみせます! ので……!」

「うんうん、まあ、そうだね、その可能性は実際、あると思うし……私も楽しみだよ、ランクアップしたらどんなスキルが増えるのか……」

「少しでも早くランクアップするように、私、毎日祈りを捧げます……!」

「私も、もっと魔法を練習しなくちゃ……。まだまだランクアップして増えた魔法もぜんぜん使いこなせてないし。——私の魔法の可能性は、まだまだこんなもんじゃないはず……。私も、もっともっと便利で強い魔法を使えるようにならないと……!」


 二人はなにやら、決意を新たにしたような気迫を(みなぎ)らせていた。

 なんだか私のために意気込んでくれているのは、すごく嬉しいのだけれど……

 でも、そんなに興奮していたら——今から寝るってのに、なかなか眠れなくなっちゃうんじゃないでしょうか……?


「さて……そうすると、おちおち眠ってなんていられないな……すぐにでも魔法の特訓をやらなくちゃ」

「……そうですね、私も、少しでも実力をつけるために、特訓しようと思います。新しく覚えた能力も、もっと試してみないとですから……!」

「よし、それなら、二人で一緒に特訓しようか、藤川さん」

「いいですね、よろしくお願いします!」

「え、いや、その……寝ないの?」

「カガミンは寝てていいからね」

「ええ、どうぞ、火神さんはゆっくりとお休みになられてください」

「や、その……夜はやっぱり、ゆっくり寝て休むのも大事だと思うんだけ——」

「うるさくしないようにするからね、カガミンが寝る邪魔はしないから。——さあ、藤川さん、行こうか」

「はい! よろしくお願いします」


 言うが早いか、二人は颯爽とベッドを抜け出すと、開いたスペースへと向かっていったのであった。


 おいおいおい……マジかよ。

 そんな……寝る時は約束通り、マナハスに抱きついて、胸に顔を(うず)めて寝ようと思っていたのに……。

 一人で寝ろだって……?

 そんなのって、ないよ……(泣)。


 ——いっそのこと、アンタも特訓に参加してくれば?


 いや、でも……私はもう、すでに寝る気マンマンなんだもん……


 ——じゃあ寝なさいよ。一人で。


 ……寝るしかないのか、一人で。このキングサイズのベッドで。

 寝心地は最高品質なんだろうけど……寂しいなぁ、一人は。

 ——せめて、マナシィがいれば……

 ——アレがあったら、きっと“緋のマント”でマジックアイテム化できるだろうに……

 ——まあそれでも、マナハス本人には(かな)わないだろうけれど……

 ああ、マナハス……私の隣には、あなたが必要なの、に……


 伸ばした手は、しかし何も掴むことはなく……

 ただ、左手の指輪(ペアリング)から伝わる“繋がり”が、彼女の存在を感じさせる……


 私は右手で左手を、指輪ごと包むように握る……

 そして、指輪越しに今も伝わってくる、マナハスの気持ちに想いを馳せながら……


 いつしか睡魔に誘われ、私は一人、夢の世界へと旅立っていったのだった……。


 

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