第187話 生きることは、食べること
さぁ〜て、能力も復活したことだし、張り切って⤴︎⤴︎いこうじゃないの。
というわけで、まずは一番やりたくないことからやってしまうとしますか。
それというのは、つまり……鬼史川チームの死体のお片付けだ。
いやまあ、本来ならもっと早くにやっておくべきだったと思うのだけれど、でも他に優先することもあったし——そうして後回しにしている内に、どんどん億劫になってきて……今の今まで放置してしまった。
まあ、だいぶ放置していたせいで、途中から何人かがゾンビ化してしまったので、いよいよ後回しにせざるを得なくなったというのもあるんだけれど。
そもそも死体の処理とか誰もやりたがらないのに、ゾンビまで出現したとあっては、危険なので他の人には任せられない。
というか、私自身もついさっきまで無能だったので、自分でやることも出来なかった。
とはいえ能力も復活したので、これでようやく——ドローン君に回収を任せることができる。
まあその前に、邪魔なゾンビを片さないといけないけれど……
いや、ゾンビがいる以上は、油断は禁物だ。一応ちゃんと戦闘の準備をしないと。
なんせ今の私は、メインウェポンの刀が二本ともおじゃんになっている。
後に壊れたシスに切られた方はまだ、放っておいても“自動修復”でそのうち直りそうだけれど……刀身が丸ごと消滅した方は、そもそも自動修復では直らないような気がする……。
どっちにしろ、すぐに使えるように一本は今すぐ確保しておきたい。
そう思った私は、刀身が消失した方の刀をP消費による即時修理により、この場で復元した。
ふぅ……これでいい。もはや左腰に刀を差してないと落ち着かない体になっちまったよ……。
とまあ、そうして準備もできたので——心配してついてくると言ったマナハスと一緒に——いよいよゾンビと死体を片付けるために、私が安全地帯である家具店のテナントから外に出ようとしたところで……
「あ、ライカお姉さま、どちらに——って、もしかして、外のゾンビを倒すつもりなの? あ、じゃあ、それ、ルナに任せて! ルナも手持ち増やしたいから、アイツら捕まえてくる!」
言うが早いか、ルナちゃんはさっそく外に飛び出していくと——有言実行、復活した鬼史川チームだった男たちの成れの果てであるゾンビにボールをぶち当てて、次々と捕まえていった。
——ほう、ほう……あんな感じで捕まえるのね……なるほどぉ……。
私は興味深くその様子を見守りつつ、ドローン君を使って死体を回収していく。
「——お、なにこれ? なんだろコイツ、えー、なんかやたらフツーのゾンビに比べて強くなーい? ……あ、コイツら、もともとプレイヤーだったヤツらじゃん。へー、だからかー?」
ゾンビたちの中には、なにやら鬼史川がサーヴァントにした内の二人が生き残って(?)いたらしく、ルナちゃんはソイツらも捕まえていた。
なにやら、元サーヴァントだったゾンビは普通とは違うみたいな反応だけれど……何がどう違うんだろうか?
なんて思いつつ、私は最後に残った——中でも一番酷い有り様だった——鬼史川と坂田の死体を回収した。
すると、他の死体とは違う反応があることに気がつく。
これは……要は、戦利品ってことなんかな。
どうも、死体を回収したことで、鬼史川と坂田の所持していたPやアイテムまで回収することが可能になるみたいだった。
ふむ……プレイヤーを倒した場合は、まずはその時点で撃破報酬のPが手に入るみたいだけれど、直接倒してなくても死体を回収すれば別途、戦利品が手に入るのか。
……となると、シスが死体を放置したのはなぜだろう? ——後から回収するつもりだった? あるいは、死体からも得られるものがあると知らなかったのか……?
……まあ、プレイヤーもそう沢山はいないんだと思うし、案外、ヤツがPKをしたのは、これが初めてだったという可能性は普通にあるか。
シスには逃げられたから、ヤツとの戦いではなんの戦利品も無かったどころか、もはや損害しか被ってないのだけれど……戦ってない鬼史川の方からは得られるものがあった。
まあ、これもある意味、シスとの戦いによる戦利品であるともいえるか……
どうせ放置するわけにもいかないし、ま、貰えるものは貰っておくけど。
ゾンビはルナちゃんが捕まえて、死体は私が回収し——さらには、聖女様が魔法で血の跡などをまるっと浄化してくれたので……ようやくその場は綺麗に片付いたのであった。
テナントの出入り口にほど近い場所にあった地獄絵図ゾーンが消えたので、これでだいぶ生存者の人たちも外に出やすくなっただろう。
というわけで、私たちは全員で移動することにした。その最終的な目的地は——フードコートである。
まあ、つまりは、少し遅めの晩ご飯を食べようってことだ。
どんな時でも、人間が生きているからにはお腹は空く。
幸いにして、ここはあらゆるものが品揃えられているショッピングモールなのだ。当然、食料品もある。
全員で移動しつつ、途中で食材を調達して、それを調理器具の揃っているフードコートまで運んで、そこで調理していく。
生存者集団の中には、元々このフードコートで働いていた従業員の人がいたので——その人を筆頭に、料理ができる人も手伝っていたので、次々に料理が完成していった。
聖女様を筆頭に私たちは——別に、プレイヤーの特権というわけではないけれど——一番最初にできた料理をいただいた。
怪我人をあれだけ救った聖女様をVIP待遇するのに誰も異論は無かったようで、こちらから何か言うまでもなく、マナハスの元には真っ先に一番豪華な食事が提供されていた。
まあ、一人ではとても食べきれないほどの量だったので、私や藤川さんも一緒に食べることになった結果として、自然とそんな感じになったとも言えるけれど。
なんやかんや、私としても久しぶりにちゃんとした料理を食べている気がして——聖女様用の料理は特に豪華で気合が入っていて美味しかったのもあって——中々に楽しい食事の時間となった。
マナハスや藤川さん、そしてちゃっかり同伴できた藤川パパンも一緒になって、私たちは談笑しながら同じ食卓を囲む。
パパンからは自分と娘を助けてくれた礼を浴びるほど送られた。しかしその時の私は人見知りモードになっていたので、そんな感謝の言葉にも当初はよそいきの反応を返していたのだが……
とはいえ、マナハスや藤川さんという、私が素で接する面々が周りにいたこともあり——パパンと話すのにも次第に慣れていき、最終的には、彼とも少しは被った猫を脱いで話せるようになった。
話してみた印象としては、藤川パパンは陽気で明るい性格の人って感じだった。ただ、口数自体はもともとあまり多い方ではないみたいだ。——まあそれは、あの藤川ママンとは、それが案外相性がいいということなのかもしれないけれどね。
私としては——なんやかんや仲良さそうにお互いに話している藤川親子を見ながら——結果的には、ルナちゃんのボールに入っていたことで、藤川さんがシスに殺されかけた場面をパパンに見られずに済んだので助かったなぁと……そんなことを改めて思うのだった。
そんな二人からふと視線を外してみれば——今や他の人たちも、次々に出来上がっていく料理を順ぐりに受け取ると、席について食事を開始していた。
その様子を見ていると——それはまるで、在りし日のフードコートでの光景といってそのままのようで……
しかしそれは、もはや失われてしまった“日常”と呼ばれるものの名残でしかないのだろう……
なんてことを、私は満腹になって満足したお腹を撫でながら、ぼんやりと考えていた……。
全員の食事が終わったところで、私たちは全員で元いた家具店までとって返して、各々就寝の準備をする。
大型ショッピングモールの家具店だけあり、ここには全員がなんらかの寝具を使用できるだけの数がそろっていた。
ここでもやはり、聖女様特権で一番お高いベッドを使えることになり、私は密かに心中でガッツポーズをする。
なにせ、聖女様の使うベッドということは、それはすなわち私の使うベッドであるというのと同義なのだからね。
——しかしこれ、私が普段使っているベッドよりも、ダンゼン寝心地良さそうなベッドだなぁ……。
まさか世界が終末ってる今になって、生まれてこの方初めて体験するような一等高級なベッドで眠ることになるとは……人生とは分からないものだ。
にしても、これが天蓋付きベッドってやつか……こんなので寝た日にゃあ、まるっきり気分は貴族か金持ちかお姫様だな、こりゃあ。
店のラインナップの中には浴槽もあったので、私は寝る前にお風呂にもちゃんと入ることにした。
店にある浴槽は展示されているだけなので、そのままではお湯を張ることはできないが——そこはそれ、私の隣には魔法使いの巨乳美少女がいるのだから……彼女ならその程度、やってやれないことはない。
まあ、要は彼女の魔法を使えば、お湯を張ったりすることくらいはわけないってことだ。
まさか衆目のある中で入るわけにもいかないので、浴槽は展示場所から持ち出して、バックヤードのような部屋の中へ設置する。
その様子を見ていたルナちゃんが自分も入りたいと言ってきたので、彼女と藤川さんも含めた四人で交代で湯船に浸かっていく。
洗い場がないのでお湯が汚れそうだけれど、そこはそれ、入る前に聖女様の“あわあわ洗浄魔法”とかいうのを使ったことで、まさに魔法のように一瞬で体を洗って綺麗にできたので問題ない。
ま、別にお湯を張り替えるのも魔法ならほとんど一瞬なので、毎回張り替えてたから別に気にする必要もなかったのかもしれないけれどね。
お風呂から上がった私たちは、いよいよ就寝の支度に入った。
すでに時刻は深夜と呼べる時間帯に差し掛かっている。疲れもあるし、寝るのは正しい行いなのだが……気がかりがないわけでもない。
正直言って、まだまだやらなければいけないことは山積みだった。
仕留めきれずに逃してしまった、恐ろしきPKであるシス本人のことはもちろんだけれど、ヤツが残していった爪痕は存外に大きい。
いや、残された問題は、別にヤツが原因のものだけに限った話でもないのだけれど。
それこそ、鬼史川に拐かされてきたらしき女の人たちに対するケアとか、今はいったん保留にしている状態だし。
撃たれた怪我自体は治したとはいえ、その時に受けたショックを引きずっているような人もいるし。
なにより、現在の世界の情勢が情勢なので、非力な一般人である生存者には、心労が増えることはあっても心が休まることはなかなかないだろう。
そんな彼らの今後の扱いをどうするべきか……それは中々に頭を悩ませる課題だ。
とはいえ、今の私にははっきり言って、そんな諸問題に煩わされている暇などないというのが本音だった。
なので私が今一番気にしているのは、シス本人が再びここを襲撃してはこないだろうかということだし、その際には、どうやって次こそ完全に仕留めてやろうかということだった。
もちろん、行きがかり上とはいえ一度助けた以上は、生存者たちの今後にもそれなりの責任を持つつもりではある。
とはいえ、今の私がやれることと言えば、彼らの希望を聞いて、望むなら春日野高校に連れていってあげるということくらいだ。
それにしたって、実際に行動に移すのは明日以降になる。やるとしたら高校の方とも連携を取らないといけないし、マユリちゃんの能力も色々と借りたいところだし。
まあ、彼らを助けることにもメリットはある。
とはいえそれも、彼ら自身がどうこうというよりは——彼らを助けることで、なし崩し的に仲間に引き入れることができるルナちゃんという存在のことなのだけれど。
今や彼女は完全に私たちを信用して慕ってくれているので、むしろ向こうから私の助けを借りたいと言ってきそうではある。まあその時には、私としても出来るだけ便宜を図ってあげたいとは思う。
そういえば黒澤くんも、私たちの力を借りたいと言っていた。
シス戦のあとで能力が復活するまでの空き時間に、私は暇だったので彼とは色々と情報交換をしていた。
その時に聞いたのだけれど、彼も彼で、実は数人の生存者を抱えているという話だった。まあ、ここには連れてきていないらしいのだけれど。
そもそも彼がここに来たのは、拠点に使うのに良さそうな建物としてここに目をつけたからで、彼は偵察目的で単身でここまで来たという。
生存者については——彼はすでに「守護君」を取得していたので、それを使って——今は別の建物に匿っているのだと。
それで、私たちがここから移動するなら、自分もその人たちを連れて師匠についていっていいでしょうか——という話を持ちかけられていた。
プレイヤーとして覚醒したとはいえ、一人では心細かったのだろう……信用できる相手がおらず、Lv10を超えているのにサーヴァントは未契約だという。
ふむ……なら、貴重なサーヴァント枠を有効活用するためにも、こちらから信用のおける人を紹介してあげるのもいいだろう。
戦力が増えるのは無条件で賛成なのだ。彼は見たところ、悪い人物ではなさそうだし……これから契約するサーヴァントの選定にこちらから口を出していいなら、それで十分に助力する見返りとして成立する。
実際のところ、戦力強化は常に付きまとう課題なのだ。
実力の高いPKの恐ろしさを嫌というほど実感した今となっては、よりいっそう戦力強化に対する熱意が増している。
とはいえ私自身にはもう、今すぐに強化できるような余地は残っていない。獲得できるジョブはすでにすべて獲得しているし、レベルをいくつか上げたところで、あのシスのような強敵相手にはさほどの意味はなさそうだし。——次に何かが解放されそうなLv20までは、現在保有しているPではさすがにまだ届かないと思うし……。
だとすると、強化するべきは私以外——ということになる。
とすると、今がまさに頃合いということだろう。
まだLv15に上げていなくて、ジョブを未獲得だった——藤川さんのレベルアップと、ジョブ獲得の、そのタイミング……
それは今だ。




