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第184話 大いなる喪失



 私はシスをゴールした店の前に陣取って、ヤツが出てくるのを出待ちしながら考えを巡らせる。


 さて……どうやってヤツと戦うか。

 光剣は【回避(アボイド)】を使った刀で受け流せる。とはいえ、これはあくまで防御が可能になったというだけだから、ヤツを倒すにはなにか攻撃手段が必要になる。

 フォースの防御はマナハスに任せるとして——しかし、フォースの防御に専念してもらうなら——マナハスの攻撃も期待できない。

 藤川さんは……無理させるべきではない。あれだけコンディションが悪ければ誤射する可能性も高い。味方の攻撃でピンチになるのはごめんだ。

 となるとやはり、私が自分で攻撃するしかない……。


 刀は光剣の防御に専念する必要があるから、刀では攻められない。

 ——もう一本あればどうにかなったかもしれないけれど……そっちはあいにく持ち手の部分しか残ってない。

 なら後は、格闘で攻めるか、あるいは炎を使うか……

 いや、雷という選択肢もあるか。


 そう、雷属性だ。——いやぁ、なんと威力が高そうな響きだろうか。

 実際、炎属性よりもなお強力な属性だと思われる。

 だが——いや、だからこそか……私はすでに『雷使い』のジョブを獲得して、“雷の紋章(サンダー・エムブレム)”も獲得しているし、雷属性の攻撃を放つ技も覚えているから、使おうと思えばすでに使えはするのだけれど……どうにも二の足を踏んでしまう。

 だって、『雷使い』の能力って、まだぜんぜん試せてないんだよね……。だから、ちゃんと制御できる自信もぜんぜん無い。

 威力が高いからこそ、ミスったらとんでもないことになりそうだし……それに、威力が高い分、消耗も相応に激しいだろう。

 おそらく、今の私でも、使ったらMPがごっそり減ってしまうのではないかと思われる。

 それもそれで問題だ。なぜなら、防御の(かなめ)である【回避(アボイド)】のスキルの発動にも、常にMPを消費するから。

 このスキルが切れることは——それすなわち死と同義である。だからこそ、MPの運用には慎重にならないといけない……


 シスを“雷撃放射フォース・ライトニング”で倒すなんて、皮肉が効いてて素晴らしいと思うのだけれど……

 いやまて、相手はシス(仮称)だし、ライトセーバー(のような武器)も持っている。

 うーん、これ、やっぱり電撃だろうが普通に防がれるのでは?

 なんなら、跳ね返されたりするかもしれない。ヨーダも跳ね返してたし。

 ……そう考えたら、やっぱり雷は無しか。リスクがデケェ。特に相手がシスの場合は……。


 でもなぁ、炎もフォースで普通に防がれてたし……

 じゃあ、格闘か? しかし格闘でどこまで削れることやら。

 というか格闘も、ゆうて危ないしなぁ。下手に手を出したら、光剣の餌食になるだろうことは想像に(かた)くない。

 あのシスも、おそらくはLv(レベル)15を超える猛者のはずだ。HPも相応に高いはず。武器も使わない格闘攻撃のダメージで、どれだけやれる……?

 半端なダメージではいつまで経っても倒せないだろうし、攻撃回数が増えればそれだけ被弾のリスクもかさむ。

 そもそも、相手もHPが減ったら回復アイテムを使ってくるだろうし……一気に削れないと意味がない。

 ってかそうだよ、回復アイテムだよ。普通にこれがあんだよ。敵も使ってくるんだよ。

 え、それじゃ、どうやって倒せばいいの……?


 ……向こうはいいよね、HPとか関係なく一撃で殺せる武器があるんだから。回復する間もなく瞬殺できるよ、そりゃあ。

 で、こっちはそんな武器相手にちまちまと格闘戦しろってかぁ? ——それはさすがに無茶振りが過ぎるでしょ……

 ……やっぱり相手、強すぎない? これマジで勝てそ? 大丈夫そ? 無理そじゃね?


 ——……そうね、普通にやったら、かなり厳しいでしょうね。


 今からでも逃げた方がいいだろうか——なんて思っていたら、はい、シスが出てきましたよ。

 ……向こうはやる気っぽいな。やっぱ逃げるのは無理だわこれ。


 ——一つ、思いついたかもしれないわ。上手くいけば、アイツを一撃で倒せるかもしれない方法をね。


 マジかよカノさん……アンタってばマジで、私の最高のブレインだわ。


 私はこちらに向かってくるシスを待ち構えつつ、カノさんからその方法について聞いておく。

 …………ふむふむ。

 なるほど、あのスキルを使うわけね。


 ——【回避(アボイド)】のスキルが効くなら、可能性はあると思わない?


 だね。でもチャンスは一度きりだと思う。失敗したら次はもう反応されるだろうから。初見殺しでヤるしかない。


 ——ええ、だからこそ、ここぞという時に使わないとね。


 まあ、リスクも高いから、他の方法があるならそっちも検討したいところだけれど……

 ゆっくり考えている暇はなさそうだし、戦いながら判断するしかない——


 シスが私を間合いに捉えて、そして——斬りかかってくる。


 ふっ——!


 私は光剣の軌道を見極め、“回避”の力を宿した刀で逸らして(しの)ぐ。


 ヴゥン、ヴン、ヴゥゥン——


 続け様に振られる致死の光刃を、私はなんとか逸らし続ける。

 しかし……


 こ、これ——かなり難しいぞっ!

 当てれば弾き返せた白光刀の時とは全然違う! 刀の置き方をしくじれば普通に防ぎ切れない——!

 それに、相手の動きも今までと違う……!

 私の“回避”刀の性質を見抜いて、対応を変えてきた。なにやら、とにかく当てることに特化したスタイルになっている。

 光剣の軽さを活かして、素早く、細かく、正確に——どこでもいいからとにかく当ててやるって感じのソレ……マジうざいってか怖いってかやめてっ!


 くっ、ぬっ、うぉっ、ほわっ、ヒェッ——!


 赤い 光が 私を 殺そうと 迫ってくる——


 こ、(こえ)ぇ! ワンミスで死ぬチャンバラまじで(こえ)ぇ!

 マジでなんでHP無視してくるの? おかしくない?! 卑怯だろこのヤロウ!

 マジでトラウマになりそう、この光と音が——

 だが、そんなことにはなってほしくない。だって私、スターウォーズが大好きだから。

 ライトセーバーをトラウマにしないためには、コイツを倒すしかない……!


 しかし私は、なんとか死なないように凌ぐので精一杯で、攻撃する余裕がまるでない。

 むしろよくギリギリでも生き延びられているなと、自分を褒めたくなってくる。

 だって、ただ躱すだけでもキツいのに、一応ちゃんとマナハスたちの方に行かないように牽制もしながらだから——

 とはいえそれも、当のマナハスのサポートもあっての成果なんだけれど。


 実際のところ——【回避(アボイド)】のスキルで光剣にどうにか対処できるようになったとはいえ、やっぱり向こうの方が圧倒的に有利なのは変わらない。

 そもそも、シスには光剣だけじゃなくフォースもある。同時に使われたらほぼ勝ち目はない。

 しかし、その厄介なフォースはマナハスが防いでくれている……ようだ。正直、目に見えないし気にしている余裕なんて一切無いから、なんも分からないけれど。でもさっきから全然フォースを使ってきてないっぽいから、たぶんそうなんじゃないかと思う。

 それどころか、ちょくちょくマナハスは私に助太刀してシスを制してくれている。——シスが私の横を抜けてマナハスたちの方へ行くのを阻止したり、私が受けをミスりそうになった時にシスの動きを妨害してくれたり。

 どうやらフォース(念力)マジック(魔法)の目に見えない戦いに関しては、マナハスの方に軍配が上がっているようだった。


 だがしかし——それでもなお、私たちの方が劣勢だった。

 シスの攻勢を無傷で凌げているだけで実際それは奇跡のようなものだが、それも結局は防戦一方だということだし、長期戦はそもそもこちらが不利だ。

 シスの光剣はまさに無限のエネルギーでも有しているのか、まるで衰える様子はないし、それを軽々と振り回すシスにはまるで疲れる様子もない。

 対する私は、常に【回避(アボイド)】のスキルを発動し続ける必要があるので、MPが減り続けている。——回復アイテムはすでに使用しているが、それでもどんどんゲージは減っていっている。

 つまり、このままでは……MPが切れて私は負ける。


 ……覚悟を決めなければ。

 他の方法は何も思いつかないし、もうやるしかない。カノさんが考え出した例の秘策を。


 ——そうね……MPが尽きたら秘策も使えなくなるから、もうやるしかないわよ。


 上手くいくかどうかは、やってみるまで分からない。失敗すれば最悪、私は即死する。

 だが、私にはマナハスがついている。マナハスなら——彼女の魔法の加護(サポート)があれば、リカバリーしてくれる可能性もある。


 ——とはいえ、相手の攻撃を正確に見切れないと“アレ”は成功しないだろうから……この連撃の中では厳しいかも……


 ならいっそのこと、こちらから隙を(さら)してみる……?

 誘いをかけて、そこを狙わせる。


 ——どうかしら、下手な誘導では上手くいかないどころか、逆手に取られてやられるかもよ……?


 ならばこちらも、犠牲を払おう……

 肉を切らせて骨を断つ——ならぬ、刀を斬らせて、敵を殺す!

 いくよ、カノさん!


 ——ッ、了解! やりなさい!


 私は覚悟を決めた。

 シスの上段からの振り下ろし——それを、刀を掲げて受け流す。

 刃の上を滑っていく光剣——その途中の適切なタイミングで、私は“回避(アボイド)”の効果を解除する。

 その瞬間、光剣は掲げた私の刀をあっさりと切り裂いて、そのまま私の体に向かってくる。

 ここっ——!


『“鏡面反射(リフレクト)”』


 タイミングを合わせてカノさんが——まさに狙い通りに、私の首筋に向かってくる光刃の、その手前にぶら下がっているイヤリング型の鏡に対して——そのスキルを発動した。

 そのスキル——『鏡使い』で覚えた、鏡に当たった攻撃を反射させるというスキルを。


 私の首筋を目掛けて斬り込んできた光剣は、首を傾げてそれを(かわ)した拍子に振り上げられたイヤリングの——その先端についた小さな鏡に見事命中して、そして、()()()()()


 赤い光がひるがえり——

 そして——シスの右腕が宙を舞った。


 まだだッ——!

 (とど)めを刺す——!!

 今こそ、右腕ごと光剣を手放したシスを仕留めるチャンスだ! とばかりに、私は“火炎放射”を放とうとして——異変に気がついた。

 

 ……あれ、炎が出ないぞ。

 なんでだ? スタミナは残ってたはず——って、

 スタミナが無い……や、それだけじゃない——!?

 MPも無い。え、HPも無い。


 いや、というか——視界に何も映ってない。

 常に表示されていた——ステータスの三色のゲージも、ミニマップも、装備のアイコンも……UIユーザーインターフェースが全部消えてる……

 どういうこと? メニューは——メニューも開かない。

 アイテム欄、マップ、スキル、ジョブ……なんでなにも反応しない——?!

 “視点操作”、“回避(アボイド)”、“解析”、“通信”——

 ぜんぶ使えない……

 待って待って待って、なにこれ、嘘でしょ……

 もしかして……


 私、能力を、すべて失ってる……?


 心臓がドクンと跳ねる——

 嫌な汗が、一気に私の肌を伝わって流れる——

 足元の床が崩れ去ったかのような感覚がして、思わず私はふらついて、よろよろと後ずさる……

 頭の中では、ずっと——なんで? なんで? という問いが木霊(こだま)している……

 呼吸が浅くなって——どころか、いよいよ上手く息が吸えなくなって……


「はっ、はぁっ、は、はっ、はぁ……」


 ——しっかりしなさい! まだ完全に決着はついてないのよ!


「か、カノさん……で、でも……」


 ——“でも”も“だって”もないわ! と、とにかく、今のアンタは無防備なんだから……逃げなさい!


「に、逃げるったって、どこに……てか、え、待って——」


 カノさん、なんでアナタまだいるの?


 ——はあ? いちゃいけないっての?


 い、いや、いていいけど……むしろいてくれて嬉しいけど……でもカノさんって私のスキルによって生まれた存在でしょ? なら、カノさんも消えちゃうのかと思ったんだけれど……?


 ——それは私にも分からないけれど……いや、もしかしたら……って、そんなことは後回しよ。ちょっと、アイツから目を離さないで!


 あ、そっか——カノさんもスキルがないから自分で好きに見れないのか、ごめんごめ——って、


 シスはいつの間にか左手に銃を持って、こちらに向けていた。


 ——避けてッ!!


「カガミン——ッ!!」


 私はとっさに頭を(かば)いながら床に飛び込んだ。


 ダダダダダダダダダッ——!!


火神(かがみ)さんッ!!」


 ダンッダンダンッ!!


 ………………。


「カガミン? カガミン!? しっかりして!」

「か、火神さん……!」


 ………………。


「藤川さん、動ける?!」

「私はいいので……真奈羽(まなは)さんは、火神さんのところへ……」

「いや、藤川さんも一緒に……」

「分かりました……」


 ………………。


「…………カガミン! カガミン……まさか、なんで……そんな……!」

「火神さん……」

「…………シスはどうなった?」

「カガミン!」

「火神さん!」


 私は恐る恐る、身を起こした。

 周りを見渡すが、シスの姿はない。


「シス……って、アイツのこと? アイツは……逃げられたよ」

「すみません……逃げられました」


 私は自分の体を確認する。

 確かに撃たれた。全部じゃないが、何発か食らってたはず……

 今の私には、HPも、なんの守りもないんだとしたら……


「カガミン……け、怪我は? 大丈夫なの……?」

「火神さんっ……」

「……怪我は、無いみたいなんだけど」

「ああ、よかった……」

「ご無事で……! なによりです……!」

「その……でも私、今はなんか、能力が使えないというか、HPのバリアも切れてるみたいなんだけれど……」

「……どうやら、そうみたいだな……。でも、怪我してないってことは、私がやった守りの魔法が間に合った——のか?」

「わ、マジか、魔法で守ってくれてたの?」

「うん、とっさにね。でも、間に合ったのか分かんなくて……」

「いや、撃たれたけど無傷なんだから、間に合ったんだと思う」

「そうか……よかった、本当に……カガミンが無事で」

「うん、ありがとうね、マナハス……」


 マナハスのおかげで、なんとか無事だったようだ。

 ああ、助かった……。


 ……しかし、まだ私の内心では、動揺の嵐は一向に収まっていなかった。


 だって……私の能力は、ずっと消えたままだから。


 

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