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第180話 専用登場BGM『Duel of the Fates』



 マップの索敵範囲に何者かが侵入した。


 その反応に気がついた私は——なにやら仲間内でごちゃごちゃと喋り始めていた——眼前の鬼史川(きしかわ)たちの存在をいったん無視して、すぐさまそちらに集中する。

 ミニマップの範囲にはまだ入っていないので、広域マップに切り替える。すると、こちらに近寄ってきている二つの反応を捉えた。

 速度的にどうも車に乗っているらしいその反応のうち、一つは白だが、すぐ隣にあるもう一つの反応の色は——黒だった。

 黒いアイコン、だと? そんなの初めて見たぞ……てか黒って、一体どういう意味なんだ……?


 考えている内にも、その二つの反応は私たちの方に近寄ってきており——見る間にすぐ近くまで来てしまった。

 マップを立体に切り替える——なるほど、三階の駐車場にそのまま入ってきたのか。

 すると、白いアイコンはその場に残ったままに、黒のアイコンが移動していく。その行き先にはエレベーター乗り場があった。

 私は思わずマップから視線を移動させる。そうして目線を動かした先には、すぐ近くにある二階のエレベーター乗り場が。

 高低差を無視すれば、謎の黒いアイコンはすでに、私たちのかなり近くへとやってきていた。


「——もういいわ、うるせぇ坂田、黙ってろ」

「でもよぉシドーくん! さすがにあのレベルの女を独り占めはないじゃんかぁ!」

「なに言ってやがる、テメェ、俺を差し置いてテメェらが先に手ェつけていいと思ってんのか? ああ?」

「で、でもよぉ……」

「……ふん、別に、お前らにも分け前をやらねぇとは言ってねぇ。ただ、最初にヤるのは俺だって言ってんだよ。俺がじゅーぶん堪能した後にゃあ、お前らにもちゃんとヤらせてやらぁ」

「ちぇっ、つってもよー、シドーくん乱暴だから、シドーくんの後だと女の反応ワリィしよぉ……」

「うっせーなぁ……いつまでもガタガタ抜かすと、テメェに分けてやった“力”も没収すんぞ、ゴラ」

「そ、それは勘弁してくれよっ」

「なら黙って従えや。おう、誰のおかげでテメェが好き放題できてんのか、思い出したか? ボケが」

「ご、ごめんって……」

「ふん……」


 なにやら最低なやり取りをしていたらしい鬼史川は、そこで仲間内での相談を切り上げると、いよいよこちらに向き直った。


「おう、ガキ。いい加減、どーすっか決めたんかよ? まあ、今さらやっぱやめるなんて言っても聞かねーけどな。後ろの女どもはもう俺のもんだ。おら、こっからは大人の時間だから、ガキは大人しく、さっさと仲間を連れて一緒に次の街でも目指しやがれ。うら、いつまでもダラダラしてっと、こっちも気が変わってぶっ飛ばしちまうぞ」


 そう言われたルナちゃんは、反射的に鬼史川に対して強い反抗心を表す目線を向けたが、そこから私に対して振り向いた時には迷ったような表情に変わって、小声で「どうしよう、おねーさん……」と言ってきた。

 それに私が答える前に——到着したエレベーターの扉が開いた。


 皆の視線がそちらに向けられる。

 開いていくエレベーターの扉から現れたその人物は——全身が黒い衣装で覆われており、一見して一切の素性が判然としない出立(いでた)ちをしていた。

 真っ黒のロングコートのような外套にはフードがついており、目深に被ったフードの下にはこれまた黒の——なにやら機械的な雰囲気の——仮面が装着されていて、やはり表情はおろか性別や年齢すら不明だった。


 その人物を見た瞬間に私が連想したのは、つい先日に体育館に乱入してきた例の黒仮面のことだった。

 コイツ、まさか、あの黒仮面の同類か——?!

 よくよく確認してみれば、あの黒仮面とは服装や仮面の細部(ディティール)が異なっている。だが、どことなく似ている雰囲気もある、ような……


「あ? んだコイツ、また変なのが出てきたぞ……。おいテメェ、なんなんだよ。あー、もしかして、あの中坊の仲間か? 二人して馬鹿みてぇに黒いナリしやがって……おーい、そのファッション、流行(はや)ってんのかぁ〜?」


 まるっきりバカにした様子で、まず最初に鬼史川がそう発言する。

 私はチラリと黒澤(くろさわ)くんの方に視線を向けるが——私の視線に気がついた黒澤くんは、こちらを向くと小さく首をブンブンと振った。

 知り合いではないか。まあ、なんとなくそうだろうと思っていた。なんというか、彼の中二ファッションとアイツの服装はどこか違う印象を受ける。


「んだよ、無視か……クソが。おいテメェ、テメェもあれか、力に目覚めたクチか。そうだよな、そんだけ堂々としてんだからよぉ……だがな、力に目覚めたのは何もお前だけじゃねーんだよ。アホみたいな格好で何考えてんのか知らねーけど——いいか、俺にはすでに三人の手下がいる。俺が力を分け与えて超人になったヤツらがなぁ……」

「……」

「聞いてんのか? おい、つまりな、俺が何を言いてぇかというと……お前はな、すでに負けてるってことなんだよ。四対一なんだから、たりめーだよな。だからよ、今すぐに降参して俺の下に付くってんなら……許可してやってもいいぜ」

「……」

「俺も今は、ムダに戦う気分じゃねーからな……。それで、どうする? お前の選択肢は二つだ。大人しく俺に従ってそれなりの扱いになるか、あるいは……俺に反抗してボコボコにされた挙句にカスみてぇな扱いになるか。——ま、なんなら、そん時にゃあ(はず)みで殺しちまうかもしれねぇけど……別に、俺はどっちでもいいしな」

「……」

「今すぐ決めろよ。俺は気が(なげ)ぇ方じゃねーからな。グダグダしてっと、自動的にボコされルートに決定(けってー)すっぞ」


 そんな会話——というか、一方的な宣言——がされる中で、私は事の推移を見守りつつも、考えを巡らせていた。

 この新たに現れた“黒ずくめ”に対して、はたしてどう対応するべきなのかを。


 マップに黒で表示されている時点で、コイツは今までのどのタイプにも当てはまらない。——例の黒仮面はそもそもマップに映らなかったので、それとも異なる。

 おそらく……黒いアイコンは正体不明という意味なのではないかと思う。【偽装秘匿フェイクコンシールメント】を使えば、相手プレイヤーのマップに映る色を自在に変化させられるので、黒にだってしようと思えばできるはず。

 少なくとも、この黒ずくめがマップの索敵や【解析】を誤魔化す能力を持っていることは確かだ。

 だとすると、コイツはそれだけの用心をする慎重さと、それを成す能力を扱えるだけの力量を持っているということになる。

 どっちにしろ、偽装系の能力を使われているなら、この黒ずくめの正体や実力を暴くことはできない。【解析】はもちろん、“鑑定”の能力も妨害されてしまうだろうから。


 だけど……正体を隠しつつも、こうして堂々と姿を現したということは——これは、どういう考えなんだろう。

 正体や能力は隠しつつも、存在自体を隠すつもりはなく、向こうから接触してきた、ということは……


 ——どうでしょうね……自分の実力に自信があって、不意打ちを好まないのか、あるいは戦い自体を望むような好戦的な人物で、初見殺しのように能力が分からない方が強いとか、その辺りのなんらかの理由によるのか……あるいは、それらが複合してそうなっているのか。


 ……どうなんだろうね。

 まあ少なくとも、実力に自信があるのは確かだろう。

 だとすると、最低でもレベルは15を越えていると思った方がいいか……

 さらには、よっぽど強力なジョブを獲得しているという可能性も……


「……おい、いつまでシカト決め込んでるつもりだ? いい加減、そのうっとおしいフード取ってツラ晒さねぇと、マジで容赦しねーぞ」

「……」

「なるほどな……よぉく分かったぜ。クソが。舐めやがって……。——おい、坂田、やっちまえ」

「おん、あ、いいの?」

「ああ……あのクソ生意気なボケを徹底的(てってーてき)にシメて、誰に逆らったのか分からせてやれ」

「う〜〜い! じゃっ、坂田、行っきま〜っす!」


 結局、ずっと黙っていた黒ずくめに業を煮やした鬼史川の方から仕掛ける感じになった。

 鬼史川の命令を受けて、“バールのようななにか”を武器にしている坂田と呼ばれた男が、黒ずくめに向かっていく。


「オラァッ、舐めやがって……テメーはオレがボコす! もう謝ってもおっせぇぞ! ウオラッァ!」


 威勢のいいセリフを吐きながら、オラついた男が肩をいからせながら、右手のバール(のようなもの)を肩に担ぐようにして、のしのしと黒ずくめとの距離を詰めていく。

 私は黙ってその様子を傍観する。

 鬼史川たちと黒ずくめが敵対するなら好都合だ。両者の戦いの中で、お互いの手の内を晒してくれることを期待できる。

 まあ、鬼史川の方はほぼ分かってるから、問題は黒ずくめの方だ。どうかな——はたして、レベルが5にも満たない坂田クンで相手になるのか……?


 ついに坂田と黒ずくめが至近距離で対峙した。


「このバールでよぉ……テメェの頭をよぉ……かち割ってやんぜぇ!」


 すわ殴りかかるのかと思ったが、坂田は見せびらかすようにバールを振り上げながら、まだなにやら口上を述べていた。


「テメェのドーグはなんだ? とっとと構えろよ、おん? んーん? テメェもしかして素手か? おう、素手喧嘩(ステゴロ)がいいなら、そっちでも構わんぜぇ〜オレは。いっとくけどなぁ、オレぁこー見えてもガキの頃から空手習って——」


 そこで黒ずくめが、己の武器を抜いた。

 カシュン、とばかりに現れて、いつの間にか右手の内に握られていたソレが、独特のヴゥゥゥン——という起動音を発すると、その右手には赤く光を発する剣が現れていた。

 いや、それはまさに、赤い光そのものが剣だった。

 ——ま、まさか……あれは……ッッ??!!


 ソレを表す言葉は、世にいくつもあった。

 やれ——ビームソード、ビームサーベル、レーザーブレード、フォトンブレード、光剣、リボルケイン……だとかなんとか。

 だが私からすれば、それを表す語はこれに限る。

 すなわち、“ライトセーバー”と。


 そう、それはまさに、刀身が光で出来た剣——ライトセーバーだった。

 ——手元にある筒状の物体から、光の刀身が生成されている……ように見える。

 それは完全に、見た目的にはそれと言って、そのものだった。


「………………」


 絶句する。


「……おいおい、なんだそれ、それがテメェの武器か? なんかどっかで見たことあるよーなアレだなぁ……まーいいや、なんでも。——おい、ビカビカ光って目立ってるからってチョーシ乗んなよなっ、あーなんか知らんけど腹立ってきた……! おらぁっ! オレのバールでへし折ってやるぁ!」


 坂田は果敢にも、まるで恐れることなく、赤い光の剣を持つ黒ずくめに殴りかかった。

 黒ずくめも反応して、その手の赤光剣を振る。


 ブンッ、と振るわれたバールと、

 ヴゥッン、と唸りながら振るわれた赤光剣が交差して——


 バッチュィンッ!!


 という高音と共に、赤光剣に触れたバールが一撃で断ち切られ、先端が吹き飛んでいく。

 ——その切り口は、高温で溶けたみたいに真っ赤になっていた。


「——へあっ?」


 とぼけたような声を上げる坂田。

 それが、彼の発した最期の言葉になった。


 バールを斬り飛ばした黒ずくめは、そのまま流れるような動きで振り上げた赤光剣を振り下ろす。

 頭部から股下まで一直線に振り抜かれた赤く輝く剣身は、一切の抵抗なく坂田の体を突き抜けていった。


 ジィィィィィジジッ、ジチュン——

 

 一拍の間のあと、その場に()()()物体が崩れ落ちた。——それは、かつて一人の人間だったものが、二つの死体に(わか)たれて果てた瞬間だった。

 その切り口は、これまた何かで焼いたように真っ赤になっており、血はほとんど流れていない……


「…………」


 誰もが言葉を発しない静寂の中で、私もまた戦慄していた。

 つい先程の光景が、何度も頭の中で繰り返される(リフレインする)

 真っ白になったような思考の中で、黒ずくめが動いたのを認識する。

 ビクッ、と反射的に身を引きそうになった私を尻目に、黒ずくめが向かっていったのは鬼史川のいる方だった。


 ヴゥゥゥゥゥゥンン……——


 静かに唸りを上げる赤光剣を無造作に携えて、ゆっくりと近寄っていく黒ずくめ……


「…………こっ、こっ、殺せッ! お、お前らっ、コイツを殺せぇッ!」


 鬼史川が悲鳴のような叫び声を上げる。


「おっ、おいッ! なにボサっとしてんだッ! とっととやれやっ! ボケどもがっ!」

「……っ、し、シドーくん……」

「ざけんなっ、てめぇら、このままじゃアイツにオレら殺されっぞ! その前にやっぞゴラァっ! 殺せぇっ! やれぁあっ!!」

「お、おおおっ!!」


 鬼史川の命令を受けて——鬼史川のサーヴァントの二人だけでなく——チームの全員が銃を取り出した。

 そして——


「撃てェ!!」


 その号令を合図に、一斉にその何十もの引き金を引き絞った。

 

 

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