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第173話 聖女様御一行の、お忍びレスキューミッション



 ヘリは(さえぎ)るもののない空中を、目的地に向けて順調に進んでいった。


 まず最初に目指しているのは、パパンが残した災害時伝言板(メッセージ)に記されていた場所だ。

 しかし、その情報は昨日確認したもので、そもそもそのメッセージが残されたのはそれよりさらに以前の話だ。

 そして、肝心の本人とはずっと連絡の取れない状態になっている。なので、パパンが今もメッセージに記した場所にいるのかは分からない。

 だが現状の手がかりとしてはこれしかないので、まずはそこに向かう。その後のことは、またその時になってから考えるしかないだろう。


 今回、未知の状況に飛び込むにあたって、私たちも新たに色々と準備をした。

 私がジョブを全部獲得したのもその一環であるし、それ以外にもいくつかのことを行った。


 まず、私たちの服装についてだけど……今までの聖女服やら軍服はやたらと目立つので、着替えることにした。

 とはいえ、着替えるとはいっても、防具としての服を着用していることに変わりはない。要は、防具の見た目(デザイン)を別のものに変更したということだ。

 というわけで、今の私とマナハスと藤川さんは、それまでの目立つコスプレみたいな聖女服や軍装から一変して、ごく普通の一般的な服装になっている。


 それだけではなく、防具を改造して新たにいくつかの機能を追加した。

 防具の拡張機能の中には、索敵を回避する隠密系の機能や、鑑定系の能力を妨害したり(あざむ)くことができるような機能があったので、それらを追加した。

 具体的には——


 

 【光学迷彩オプティカルカモフラージュ】——完全に透明になり、姿を消せる。——使用時には常にMPを消費し続ける。


 【隠密迷彩ステルスカモフラージュ】——気配を隠し、見つかりにくくなる。——他プレイヤーのマップに映らなくなる。——使用時には常に微量のSPを消費し続ける(MPを併用すれば、発動時間をさらに長くできる)。


 【偽装秘匿フェイクコンシールメント】——自身の情報を秘匿、または偽装する。——他プレイヤーのマップに映る際の表示を誤魔化せる(一般人と同じ表示にできる)。また、“解析”を使われても一般人と同じ反応を返せる。


 【同調迷彩シンクロカモフラージュ】——周囲の景色に同化する迷彩色に瞬時に変化する。


 

 という感じ。

 ちなみに、最後の“同調迷彩シンクロカモフラージュ”以外の機能は、それぞれの機能を同時には使用できないという制限があった。


 これらの機能を追加したのは、これから先の行動方針(プレイスタイル)を「なるべく見つからない(スニーキングスタイル)」にしようと思っているからだ。


 ここから先は、未知の状況に飛び込んでいくことになる。

 どこにどんな敵が潜んでいるか分からない。それでも、できる限りの備えをした上で(のぞ)むべきだと考える。

 では、どんな脅威が出てくるにしろ、もっとも効果的な対策とはなにか。それは——そもそも相手に見つからないことである。

 戦いの際に一番重要なのは、まず()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして同時に、()()()()()()()()()()()()()()()、である。

 なので、もっとも重要なのが、索敵系の能力と隠密系の能力なのだ。


 ただ、プレイヤーは元からマップという極めて高性能な索敵能力を持っている。なので、索敵系の能力に関してはこれだけで十分であり、追加で他の能力は必要ないと言えるくらいではある。

 しかしそれは逆に言えば、そのプレイヤーという存在が敵に回った場合には、かなり厄介な存在になるということでもある。

 さらに言えば、その厄介な他のプレイヤーの索敵能力を掻い潜る必要性を感じて、それに対抗できるだけの隠密系の能力を獲得しているプレイヤーがいる場合もある、ということだった。

 そう、それこそまさに、今の私のように。


 そう考えれば、マップ以外の索敵能力もあるに越したことはないのだけれど……いかんせん、現時点で獲得できるスキルや改造できる機能の中には、これというものがなかった。

 まあ、それだけマップが強力ということでもあるんだよね。

 ——“光学迷彩オプティカルカモフラージュ”を使ってても、普通にマップに映るみたいだし……

 とすると問題になるのは、マップの索敵を完全に無効化する“隠密迷彩ステルスカモフラージュ”か、あるいはマップの表示を誤魔化す“偽装秘匿フェイクコンシールメント”か。


 ただ、現状でもすでに“偽装秘匿フェイクコンシールメント”に対抗する手段はあるにはある。それというのは、『鏡使い』のジョブで覚えた鑑定系のスキルである“鏡映鑑定(アナライズ)”だ。

 このスキルを使えば、少なくとも相手が偽装していることは見破ることができる。——ただ、偽装を無効化して本来の情報を見抜くことまではできないようだったけれど。

 とはいえ、偽装していることだけでも判明すれば、少なくともそんな能力を持つ存在——すなわちプレイヤーであるということは判るので、それで十分といえば十分だろう。


 “鑑定”のスキルはそんな感じに、ある種の索敵にも利用できるので重要度は高い。なので私は、“鑑定”の能力をより使いやすくするために、ジョブアイテムの鏡にもすでに色々と改造を施していた。

 その一環で、鏡はイヤリングのように見えるように見た目を改造してから、両耳に“装備”するようにした。

 ——こうしておけば、好きな時に鑑定を使えるし、鏡をいちいち取り出さなくてもいいし、鏡を相手に向けるという行為の不自然さも誤魔化せる。

 ちなみに、鏡以外にも、炎や雷の属性アイテムである紋章(エムブレム)についても、装飾品に見えるように加工して装備しているので、属性技もいつでも使う準備はできている。

 ただ、刀に関しては……変更してもちょっと誤魔化しようがない感じだったので、実物を出して装備はせずに使う時以外は収納しておくようにする。


 装備の見た目を変更しておくのは、自分の能力を隠すためにはけっこう重要なことだ。

 ぱっと見でソレと(わか)る装備なら、そこからどんな能力か推測されてしまう。

 なのでそれを防ぐために、装備の外観に関してもひとしきり改造した。


 私だけじゃなくマナハスや藤川さんも、自分たちの装備の見た目には気をつけるようにしている。

 マナハスの魔法の杖と魔導書などは、一目で魔法使いだと判るので、特に気をつける必要がある。

 なので、この二つはガッツリ見た目を変えて——魔法の杖は指輪(杖)と腕輪(光輪)に、そして魔導書はタブレット型端末に……それぞれ改造により変化させた。

 これで少なくとも、ぱっと見はただのアクセサリーとタブレットに見えるだろう。


 藤川さんに関しては、見た目を変えるというよりは、見えないように隠すという方向性で対応した。

 基本的には、服の下などに隠せる拳銃(ハンドガン)短機関銃(サブマシンガン)にしておいて、必要に応じて“形態変化(モードチェンジ)”をする、という感じだ。

 なので彼女に関しては、服装自体も銃を隠しやすいような服装になっている。


 こうした細かい部分についても、戦闘になる以前の段階の情報戦に対する備えだといえる。

 つまりはそれだけ、事前の情報戦は重要ということなのである。

 そういう意味でも、一番問題になるのはやはり、索敵の(かなめ)であるマップを無効化してしまう“隠密迷彩(ステルス)”か……と思うところだが、実際は違う。

 いや、もちろん、マップに映らない“隠密迷彩(ステルス)”はかなりの脅威だ。なので私としても、何らかの対抗策は用意しておきたいところではある。

 “隠密迷彩(ステルス)”の弱点としては——まるでレーダーのようなマップの索敵には映らないが——視覚には普通に映るという点である。

 これで“光学迷彩(オプティカム)”まで併用できたら、さすがに手に負えないところだが……幸か不幸か、この二つは同時に使うことができない。なので、その点は心配ない——と言いたいところだが、これもそうとは限らない。

 なぜなら、“光学迷彩(オプティカム)”以外にも透明になる能力が存在するかもしれないし、さらにはそれが、“隠密迷彩(ステルス)”と併用できる能力である可能性もなくはない。


 あくまで私が知っている能力がこの二つだけで、その二つは同時には使えないという、それだけなのだ。

 他にもいくらでも、同系統の能力がある可能性はある。

 なにせすべてのプレイヤーには、“それぞれの素質にあった能力を開花させる手段”があるのだから。

 私が“ジョブ”と呼んでいる、それだ。


 つまり一番の問題は、それだった。

 誰がどんな能力を持っているのか分からない。

 誰しも、どんな能力にだって目覚める可能性がある。

 中には、“光学迷彩(オプティカム)”と“隠密迷彩(ステルス)”の効果を同時に発揮できるような、そんなとんでもない能力だってあるかもしれない。


 まあ、その辺りを心配しだしたらキリがないけれどね。

 てゆうか、それをいうなら、一等とんでもない能力を持っているプレイヤーを私はすでに知っているし。

 それこそ——私のすぐ隣にいる、魔法とかいうとんでもない万能の能力を使える、聖女マナハス様って呼ばれているプレイヤーとか。

 あるいは——弱冠11歳の幼さながらも、類い稀なる戦力を有する稀代の戦術家である、サモドラデュエリストたるマユリちゃんという少女とか。


 いやまあ、だからさ、こういうヤバいヤツらが敵にもいたらどうしようって、私はそういう心配をしているワケ。

 現にそういうプレイヤーがこうしてここにいるわけだから、他にもそんな連中がいたって何もおかしくないってことじゃん?

 正直、こんな連中への対抗策を考えろとか言われてもさ……そりゃあね、もうさ、極力見つからないように目立たずコソコソとしておくしかないよね——ってなるじゃん?


 もちろん、味方にそんなヤベェヤツらがいるという利点も、最大限利用していく所存ですよ?

 その一環として、すでにマユリちゃんからはアンジーとウサミンを借りてきているわけだし。

 中でもウサミンに関しては、貴重な索敵要員としてウチのパーティーの偵察役を(にな)ってもらっている。


 ウサミンの持つ“狩猟技能(ハンティングスキル)”という能力、これが索敵と隠密の両方の性質を(あわ)せ持つ能力だった。

 すでにウサミンには、その能力を使ってかなり活躍してもらっている。

 

 ウサミンは基本的に、アンジーとセットにして運用するつもりだ。

 アンジーにはそもそも、隠密系の能力をまったく持たないのでかなり目立ってしまうという欠点があった。なので、それを補うためのウサミンなのだった。

 ウサミンの持つ隠密能力をアンジーにも適応することで、彼女もウサミンと同様の隠密能力を発揮し、プレイヤーのマップに映らなくなったりなどの最低限の隠密性を獲得する。

 本来、ウサミンには——一緒に行動するとしても——他者にまで隠密能力の効果を波及させることまではできなかった。隠密の効果はあくまで、自分自身にのみ適応される能力だったので。

 それを解決したのは、アンジーの方の能力だ。そのアンジーの能力——もとい特性(アビリティ)こそが、何を隠そう、例の“騎乗技術(ライドンテクニック)”なのであった。

 これにより、アンジーがウサミンに“乗る”ことによって、アンジーにもウサミンの持つ隠密能力の効果を波及させることができたのだ。


 まあ、実際には本人たちのサイズ比的に、どうやってもアンジーがウサミンに乗るのは無理(というかウサミンが可哀想すぎる)だったけれど……そこは逆にウサミンがアンジーに乗ることで解決した。

 ——や、なんか、逆でも普通にオッケーみたいだったので……。

 そんなわけで、今もウサミンはヘリを操縦するアンジーの肩の上に乗っかっている。——また普通に可愛いんだよねぇ、これが……。


 さらにウサミンには、アンジーだけではなく、アンジーの操縦するこのヘリ自体にもその能力を使用してもらっていた。

 使ってもらっている能力とは、ウサミンの持つ特性(アビリティ)であるところの——“静音行動(サイレントアクション)”だ。

 これを使ってもらうことで、このヘリ自体の移動に伴う爆音をほぼ無音にしてしまうことが出来ていた。

 その上で、ヘリ自体も改造により——防具の“光学迷彩(オプティカム)”の機能と同様の効果の——透明化の機能を追加して使用しているので……

 現在、このヘリは——なかなかのデカさの機体を、これまたなかなかの速度で飛ばしながらも——透明になって姿を消しつつ、ほとんど無音で飛行しているのだった。

 マジで、最新鋭のステルス戦闘機もびっくりの所業だろうよ。


 ……まあだから、こんな無茶苦茶なことをやってくる敵が居ないとも限らないので、やっぱり出来る限りの警戒と対策をしておかないといけないなぁと、そう思うわけですよ、(ぼか)ぁ。


 ——いやぁ……そうそう居ないと思うけれどね。いくらプレイヤーだとか言っても、ここまでのヤツはさすがにそうはいないでしょうよ。


 分かんないじゃーん? 現にこうしてここにいるんだから、他にもいないとも限らんのよ。——まあさすがに、そうはいないと思うけどね、私も。

 とはいえ、現状でやれる対策は大体やり尽くしたからなぁ……あと出来ることと言ったらもう、それこそ聖女様の魔法の中になにかあるかなってところだろうか。

 まあ、聖女様以外にも魔法を使えるヤツがいないとも分からないし、魔法への対策を練るためにも、まずは魔法のことをよく知らないとね……

 というわけで、聖女様にも色々と聞いていくとしますか。


 とりあえず、遅くなったお昼ご飯でも食べつつ、ね……


 

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