第170話 新技をひたすら試していたら、いつの間にか戦いが終わっていたの巻……
さて、それじゃ、『刀使い』のランクアップで覚えた新スキルの方、サクサクと確認していきまーす。
まずはいっちょめの技から。
この技の効果は単純で、「刀の切れ味を増すオーラのようなものを発生させる」——という感じ。
では、実際に使ってみます。
私は構えた刀に意識を向けて、その技を発動してみる。
すると——確かに、刀に鋭いオーラのような何かが乗ったような、そんな感覚が……あるような気がする。
うーん、見た目にはほとんど変化がないから、アレなんだけれど……。
とりあえず攻撃してみるか。
私は近くにいたゾンビを袈裟斬りにする。
スゥィン——
およ?
なんだこれ、手応えが——違うっ!
なんという——抜群のキレ……!
——ちょ、ちょっと! 前見て前!
ほえっ? ——って、なんじゃこりゃ!?
あまりに素晴らしい手応えに自分で感じ入っていた私は、手元の刀に向けていた意識を目の前のゾンビに戻して——ハッとする。
——ゾンビの胴体が、乗ってる……!
袈裟懸けにバッサリと断ち斬られ、下半身と分かたれたハズのゾンビの上半身が、若干ズレながらもまだ胴体と繋がっている——というか、乗っている。
斬られたゾンビ自身も、「……?」——って感じの反応してるし……
と、その時、ゾンビが動いたことで、さすがに上半身がズレて落っこちそうになり——
せいっ!
スゥィン——!
私は、その落下しかけた上半身の一番上の部分——すなわち頭部を、落下しようとしている方向の逆から刀を振って斬りつける。
すると、またもや私の刀はまるですり抜けるような惚れ惚れするような滑らかな軌跡でゾンビの頭部を切断し——しかし、その抜群の切れ味により、またもや斬られた頭部は落ちることなくその場に残る。
しかも、落下しようとした上半身までもが、この二撃目の衝撃により落下がいったん止まり、胴体の上に残ったのだった。
これはもう免許皆伝だろ……
すげぇ……これが新技の切れ味……半端ねぇ。
——まさにアレじゃん、試し斬りで巻き藁が乗ったままになるやつじゃん……
私は俄然、なんか居合の試し斬りで巻き藁でも斬ったような気分になって——そのまま気取った所作で血振りの素振りなんかをしつつ、刀を鞘に収めた。
すると——まるで、そのパチンという小気味のいい音に合わせたかのように——その直後にドサリと、斬られたゾンビが今更ながらに地面にぶっ倒れたのだった。
ふっひぃ……最高に気持ちのイイ技だな、これァ……。
これぇ、もっともっとゾンビ相手に試し斬りしたいゾ。
もはや、ゾンビが動く巻き藁にしか見えなくなったワ……
——いくら相手はゾンビだからって、少しは自重しなさいよ……
自重はしないよ、必要ないからね。
だけどまあ、先に次の技も試しておこう。
えー、次の技の効果は……なるほど、これはたぶん、そーゆうアレだね。
ではさっそく試してみますか、そいやっ!
ヒュンヒュン——!
私はその技を発動しつつ、空中を二回ほど斬る。
すると、私の斬った軌跡そのままに、斬撃が宙に残った。
どうやらこれが、この技の効果のようだ。
すなわち、「刀を振った軌道に、斬撃の軌跡が残る」という。
もちろん、ただ斬った跡が目に見える形で残るだけじゃない。そこには見た目だけではなく、斬撃の効果もしっかりと残っているのだ。
まあ、どんなもんなのか、実践で試すとするか。
さっきSPを使って作った透明な“軌跡”は、数秒もせずに消えてしまった。——どうやら、さほど長くはもたないらしい。
なので私は、今度はゾンビの至近距離までやってきて、ゾンビに当たるか当たらないかのギリギリの距離で刀を振り、その場に“軌跡”を残す。——今度はMPを使って発動してみたら、青白く光る“軌跡”がはっきりと見える形で現れる。
近くの私に反応したゾンビは、すぐ目の前にある“軌跡”のことなどまるで気にかけずに私に近寄ろうと一歩前に踏み出す、が——
ズルル、ズチャ——
と、まさにそんな感じで、空中に残っていた斬撃の“軌跡”に自ら足を踏み入れていって、そのまま斬り裂かれてしまった。
ふむ、やっぱり、普通に斬れるってわけだ。
いうなれば、空中に斬撃を設置する技、といったところか。
MPだとだいぶ長持ちするね、まだ残ってる。——なら、ちょっと試しに……
私は空中の青白い“軌跡”に刀で触れたり、軽く打ちかかってみたりしてみる。
ふむ、ちゃんと実体があるというか、触れられるね。それに、そこそこの強度もある。
これなら、上手く使えば、攻撃だけじゃなくて防御とかにも使えそうだ。
さて、それでは次の技、どんどんいくぞ。
さっそく三つ目の技を発動、私は刀を振りかぶると、近くのゾンビに殴りかかる。
ドゴッ——!
本来はズバッと切り裂くはずの私の刀は、命中したゾンビの頭部を大きく凹ませた。
なるほど、分かりやすい。
この技は、刀の攻撃——本来は斬撃となるべきソレ——を打撃に変えるという効果だ。
そうね、場合によっては斬撃より打撃の方が効く相手とかもいるかもだし、そういう時には役に立つかもね。
まあ、なにかしらで手加減したい時とかにも使えるかな? ——いや、それなら「非殺傷」を使った方が早いか……。
よし、それじゃ次だ。
四つめの技、これはアレかな? 打撃の次は刺突ってことなんかな。
どうやら、刺突攻撃を強化するような技みたいなんだけれど……
私はその技を使いつつ、手近なゾンビに刺突を放ってみるが……
うーん、やっぱり分からん。
そもそもゾンビ程度は、なんの強化もしないでも普通に貫けるからなぁ。何が変わっているのか、はっきりしない。
でも、なんとな〜く、全身の力が一点に集中しているような感覚もあるような気がするような……
まあ、これについては、すぐには分からないっぽいな。色々使ってみないと。
よし、んじゃ最後の技、やってみよう。
これは……なんていうのか、いわゆる「防御貫通攻撃」というか、「鎧通し」というか、「発勁」というか……
たぶん、そんな感じの技みたいなんだけれどね。
ただこれも、防御力とかほぼゼロなゾンビ相手に試したところで、正直何も分からんのじゃないかと思うけれど……とりま試してみるか。
私は技を発動した刀で、ゾンビに軽く斬りかかる。
すると——袈裟懸けに斬り込んだ私の刀は、鎖骨に当たった時点で止まってしまった。
しかし、刀が当たった部分から一直線に内部に衝撃が奔り抜けて——
グニャリ、とゾンビの体が不自然に変形して——肉や皮は繋がったままながら——まるでその部分が斬られたかのように、袈裟斬りの軌道に沿って折り目がつくように折り曲がっていった。
……やっば、うわ、この技やべぇな……。
——めっちゃきめぇ物体が出来上がってしまった……
少なくとも、ゾンビ相手に使う技じゃねーわ。明らかにオーバーキルというか、スプラッターとも微妙に違う異質なグロさを発揮しちゃってるもん。
ま、まあ……ともかく、これで一応、五つすべての技を確認することができた。
まだ少しだけ使ってみただけだから、技の性質をきちんと理解してちゃんと使いこなせるようになるには、もっと色々と訓練する必要があるだろうけど。
なので練習しますか。練習台はまだまだいくらでもいるし。
というわけで、それからの私は、ゾンビ相手にひたすら技を試して練習していった。
そうしながら、私は新しく覚えた技の名前を考えていた。
——そうねぇ、【刀技】は確かに技って感じだったけど、この新しいスキルの方は、技というよりは、どっちかというとエンチャントみたいだよね。刀を強化したり、特殊な効果を付与したりって感じで。
——だから……そうだな、スキルの名前は【刀気】にしよう。
——んで、覚える技、というかそれぞれの【刀気】についても、◯◯気って感じに統一するとして……
——一つめの「切れ味を増す刀気」は……まんま【斬気】で。
——二つめの「斬撃の軌跡を残す刀気」は……じゃあ、こっちは【軌気】かな?
——三つめの「斬撃から打撃に攻撃の性質を変える刀気」は……【殴気】でいいや。
——四つめ、これはどうも、「攻撃の威力を一点集中する刀気」って感じだな……まあ、突き技と一番相性良さそうだから、とりあえず【突気】とでもしておくか。
——五つめ、これはやっぱり「衝撃を内部に貫通させる刀気」って感じだから……発勁っぽいし、【勁気】で。
とまあ、そんな感じで、一通り名前をつけた。
名前について考えつつも、大量のゾンビ相手に刀を手に技を駆使して戦って、戦って、戦い抜いていく内に……私の中にはとある想いが生まれていた。
あぁ、刀っていいなぁ……。——という想いが。
大量のゾンビ相手に戦いぬく中で、刀を振り回して取り回して使い倒していくうちに、私の胸の内には、そんな気持ちがふつふつと湧き上がってきていたのだった。
私は刀という武器が、改めて好きになっていた。
その美しいフォルムが、ゾンビをズバッと斬り裂く鮮やかな手応えが……そして何より、戦う自分を(【視点操作】により)客観的に見た時に感じるカッコよさが、やはりいいな——と、改めて思わされるのだった。
新たに覚えた技たちを使うのもすごく楽しいし。飛ぶ斬撃、【斬空波】を放つ感覚とか——これ、マジで快感なんだよね……。
ホント、今回覚えた新技たちは、強いしカッコいいし、マジで最高なんだけど。
いやー、こうなったら……やっぱり『刀使い』極めたいな。
てか、次のランクアップで新しく覚える技もめっちゃ楽しみだし、でも早く次の技を解放するためには、『刀使い』のままで熟練度を上げる必要がある。
だったらこのまま、メインのジョブは『刀使い』のままでいくべきだろうか。
まあ何やかんや、このジョブか一番安定してそうなのは確かだし。それが堅実な選択なんじゃないかな。
ただ、『炎使い』のジョブ能力が『刀使い』と組み合わさることで、より強くなったことも確かだ。
——それは、このゾンビとの戦いの中で、とても強く実感した。
なので……そう、他のジョブも獲得しておいた方がいいというのも、やっぱり思う。
だからまあ、とりあえず全部のジョブを獲得して、その上で、また『刀使い』に戻しておけばいいよね。
一度獲得さえしておけば、『刀使い』に戻してもそのジョブの能力を使うことができるし、『刀使い』を極めたら、改めて新しいジョブに変えたらいいし。『刀使い』を極めるまでに、他のジョブの能力を試しに使っておくことも無駄にはなるまい。
自分の今後のジョブ運用についてをそんな風に考えながらも、私はゾンビと戦っていた。
そして、そんな風にある程度の結論が決まった頃には、ようやくというか、ゾンビもその数を大幅に減らしており、いよいよ終わりが見えてきていた。
それから——神社の周りに集まっていたゾンビを、すべて殲滅することができた時には……
私は『刀使い』で新たに覚えた能力をしっかりと理解して、使いこなせるようになっていたのだった。
そうなるまでに、私自身、いったいどれだけのゾンビを斬ることになったのやら……もはや数えきれないほど大量に斬ったことだけは確かだ。
——実戦に勝る訓練なし。ゾンビはいい練習台になった。
終わってみれば本当に、とんでもない数のゾンビが集まっていた。もはやその全容は計り知れない。
なにせ広い神社の周りをすべて覆い尽くすほどの数がいたのだから。戦っている時はもちろん、本当にそのすべてを倒しきって戦いが終わったのかどうかも、この場からではにわかには判別し難いくらいだ。
それでも、事実としてすべてのゾンビを倒し終えてこの防衛戦が終わったことがその時すぐに分かったのは、ミッションクリアのお知らせがウィンドウに表示されたからだった。
そこには、報酬などの表示に加えて、ミッションの達成条件である「集まっているすべての敵の討伐」が完了したことが、しっかりと記されていた。
それを見たことで、私はようやく、この戦いが本当に終わったことを実感したのだった。
終わった……
ついに……
長かった……。
とはいえ、この戦いもまた、一つの戦いの終わりに過ぎないのだ。
これが終わったとて、まだまだ次の戦いが控えているのだから。
それはもちろん、次の目的である「藤川パパン」の捜索と救出に繰り出すという戦いのことであるし——あるいは、この戦いの後始末(それこそ、この大量のゾンビの死体をどう片付けるのかというそれ)だって……これもまた、一つの戦いと言えるのかもしれなかった。
……まあ、その辺については、この場に残る幽ヶ屋さんたちに任せるか。
いや、私たちはほら、早く次の救出に向かわないとだからさ……
思ったよりここで時間を使っちゃったから、すぐに向かわないとだから……。
だから手伝っている暇はないんだよ……ごめんね……。
まあ一応、できる範囲で協力できる部分は協力するつもりだから……それで許してね……。