第169話 ついにきた! 剣士といえば、この技……!
ふぅ……はぁ、ふぅ……。
——……落ち着いた?
オッケー……大丈夫。もう正気だから。
——それなら良かった。
ごめんごめん、ちょっと興奮し過ぎたよ……。
いやぁ……【刀技】と【炎技】を合わせた新技があまりにも楽しくて、ついついはっちゃけてしまった。
——確かに、すごく強力な技だったわね。この辺りのゾンビはアレで軒並み倒しちゃったし。雑魚ゾンビ相手ならマジで無双できるわね、これ。
だよねー、軽く数十体はアレで始末しちゃったよねー。マジで強ぇわ、これ。
なんかカッコいい技名をつけたくなる。
——名前、ね……そうよね、まずはこの「斬撃を伸ばす技」にもちゃんと正式名称をつけてやらないとね。
せやん、まだ名前をつけてなかったやん。
えーっと、何がいいかな。
魔力刃——とかは、そんまま過ぎるか……。
てか、SPとMPで技の仕様が少し違うからなぁ。——SPのは刃を伸ばすというより、なんか、遠くを斬るって感じだし……
遠くを斬る……遠間を斬る、遠間……いや、遠魔を、断つ——刃。
よし決めた、この三つ目の“刀技”の技名は——【遠間刃】だ!
MPを使って発動する場合は、【遠魔刃】としよう。
さらに、炎をまとった“遠魔刃”なら、【炎魔刃】——ってところですかね?
——ふーん、まあ、いいんじゃない? それで。
オッケー。じゃあ、この技はその名前で決定ね。
では次の技——次の【刀技】もじゃんじゃん試していこうか。
——この場で全部試してしまうの?
そうだね、試せるうちに試してしまいたいし。幸い——といっていいのか、今は試し相手には事欠かないからね。
——まあ、まだまだゾンビはたくさんいるからね。
そういうこと。
では、新たに覚えた【刀技】の二つ目、なんですけど。
あぁ……ついにこの技が来たか、って感じ。
いやね、私はね、ずっと待ち望んでいたんだよ、この技を。
それこそ——自分がもしもこんな技を使えるようになったら、どんな技名にしようかなって、ずっと昔に、すでに考えたことがあるくらいに。
だからそう、この技の名前はもう決めてあるんだよ。
——まさかこの技名を、本当に使うことになるとは……思ってもいなかったけれど。
本当に、人生は何が起こるか分からないものだ。
そう……
それはあらゆる創作物において、刀を扱うキャラクターが使う技の代表格。
——某海賊剣豪曰く……『煩悩鳳』。
——某幽霊剣豪曰く……『真空仏陀切り』。
——某半妖剣豪曰く……『風の傷』。
——某死神剣豪曰く……『月牙天衝』。
——某勇者剣豪曰く……『アバンストラッシュ』。
などなど……有名どころを挙げるだけでも、これだけのバリエーションがあるのだから、やはりそれだけポピュラーな技ってことだ。
まあ、ここまで言ったら、それがどんな技か、もう分かったよね。
では、満を持して、いよいよ私もこの技を使ってみるとしよう。
——ふむ……どうやらこの技も、SPとMPで性能が若干変わるのか……。
まあ、まずはSPを使う方でやってみますか。
では……いきます!
私は刀を上段に構える。
そして、振りかぶり——振り下ろす。その動作に合わせて、その【刀技】を発動する——ッ!
『“斬空波”』
そして私の刀から、「飛ぶ斬撃」が放たれた。
それは——その、私の振るう刀から放たれた、不可視の斬性の衝撃波は——勢いよく宙を駆け抜けてゆき、前方のはるか先、【遠間刃】ですら届かない場所にいるゾンビを、ばっさりと斬り裂いたのだった。
そう、これこそが私の、斬撃を飛ばす技……その名も【斬空波】——!
まさに、王道にして究極の技。
百人の剣士に聞きました、使いたい技——ぶっちぎりのナンバーワン(私調べ)。
剣士の使う技といえば——コレ。
私は再び、刀を上段に構える。
お次は、MPを使って放ってみようと思う。
——こちらはSPの時に比べると、少しばかり溜めに時間がかかるようだ。
よし、溜まった!
ではいくぞ、せいっ!
『“斬空刃”』
勢いよく刀を振り下ろすのに合わせて——先ほどの不可視の衝撃波のようなものとは違い、今度はハッキリと視認できる——青白い魔力の刃のようなものが飛び出す。
その魔力刃は瞬く間に宙を駆け抜けて、前方のゾンビ集団の先頭に着弾する。
そして——その先頭のゾンビを引き裂いても止まることなく、後方のゾンビをも斬り裂いていった。
ふむ、ふむ……
どうやら、MPを使う方が威力も射程も増しているって感じか。
それに、こっちは衝撃波というより実体のある刃を飛ばすみたいな感じだから……【斬空刃】って呼ぶことにしよう。
——ただ、こっちは放つ際の溜めも長いし、放った後にも若干の硬直みたいなのがあるな……でも、性能はこちらが断然上のようだ。
なるほどねぇ……
——ちょっと、まーたバラバラにして……だから倒しきれてないんだって。
あー、あぁ、そうだったわ……
ならまあ、こっちも試すか。
私は三度、刀を構える。
そして、【斬空波】を放つ——その“溜め”に、追加で炎の力を込める。
すると、構えた刀の刀身が燃え上がる……!
そこで放つ——『“斬空波”』
ボウッ!
半月状の燃える斬撃が、宙を駆ける——
威力も攻撃範囲も増した灼熱の【斬空波】は、その軌道上にいるゾンビどもを丸ごと飲み込んで、その体をほとんど焼失させながらも止まることなく突き進んでいった。
その威力に満足しながらも……私は物思いに耽る。
——「炎刃斬空波」、あるいは、「斬空波・焔」、いや……円月輪ならぬ「炎月輪」なんてのも、いいかも……。
ね、どれがいいかな、カノさん。
——別に、どれでもいいけれど……でもまあ、最後のヤツはちょっとオシャレだし、いいかもね。
だよねぇー。じゃあ【炎月輪】にしよっかなー。
——名前に拘るのもいいけど、まずは先にどんどん技を使ってみるべきなんじゃない? 名前は後でもいいんだから。
まあそうだけど。
そんじゃまあ、次の技いきますかー。
やー、本当はもうちょいこの【斬空波】を使いたいんだけどなー。だって飛ぶ斬撃だよ〜? テンション上がるだろ〜。
ぶっちゃけ一番テンション上がるのが、こういう遠当て系の技なんだよねー。やっぱロマンじゃん? こーゆう技ってさ。
——まあね。というかロマン以前に、射程が伸びるってだけで現実的に考えてもすごく強いんだけれどね。まあ、これからいくらでも使う機会はあるだろうし、今は他を優先しなさいな。
ういうい、そうしますよ。
じゃあ次、まだ試していない新技、五つ目の刀技について。
「伸びる斬撃」——【遠間刃】。
「飛ぶ斬撃」——【斬空波】。
ときて、最後のこの技を一言で表すとしたら、それは……「増える斬撃」、だろうか。
とりあえず使ってみよう。
私はゾンビにずいずいと近づいていく。
今度の技の射程はかなり短い。それこそ、普通に刀の刃が届く間合いで使う技っぽいので、射程はほぼ無い。ゆえに近寄る必要がある。
そして私は、一体のゾンビと一足一刀の間合いで対峙する。
本来は、二体を同時に相手取る時とかに使う技なのかもしれないけれど……最初なので、まずは一体から試す。
私の接近に反応したゾンビが、一歩踏み出し、私の刀の間合いに入る。
そこで私も一歩踏み込み、そのゾンビに向けて上段から袈裟斬りに斬りかかる——そしてそれと同時に、その【刀技】を発動する。
ザザンッ——
ゾンビの左肩から右腰にバッサリと斬り抜けた私の刀——そして、【刀技】の発動により発生していた斬閃が、それと同時にゾンビを逆袈裟に斬り裂いており、私は一撃で同時にゾンビに対して袈裟斬りと逆袈裟斬りを行ったのだった。
まるでバツ印のような軌跡で斬られたゾンビは、体をいくつものパーツに分けながら崩れ落ちる。
——これぞまさに、「メ斬り」……ではなく、「十文字斬り」。
【刀技】によって発動した斬撃の威力は申し分なく、ゾンビ程度ならバッサリと斬り分けてしまうことができた。
——いやだから、バラバラにしても倒せてないのだけれど……
私はすぐにさらに一歩踏み込んで、地面に落ちたゾンビの頭部に向けて刀を突き刺した。
しかし、そうして踏み込んだことで、前方と左右をそれぞれゾンビに囲まれることになった。
だけど大丈夫、むしろこういう時のための技なのだから、これは。
——とはいえ、真横からこられるとさすがに攻撃範囲的に厳しいかもだから、一歩下がるか。
あと、さすがに頭を正確には狙えないと思うし、炎も使っておこう。
私は囲まれる前にすばやく一歩後退する。
すると、左右のゾンビは前方のゾンビと並び、私の前方九十度角くらいの範囲に収まる。
よし、これなら一撃でいけるだろう。
私は刀を上段に大きく掲げる。さらにその刀身に炎の力をまとわせ、燃え上がらせる。
三体のゾンビが同時に私に接近してくる。
ふん、喰らうがいい……「大文字斬り」——ッ!
真正面のゾンビに向けて、私は炎の刀を横一文字に振り抜く——
——それに合わせて、刀より左右に炎の斬閃が発生し、左右のゾンビにそれぞれ襲いかかる。
ザザザンッ——!
一振りで三撃……!
目の前の三体のゾンビが、同時に炎の斬撃に切り裂かれて、一様にその場に崩れ落ちる。
——……なるほど、今度は三つで「大」の文字になる、ってことね。
そゆこと♪
ふうむ……使ってみた感じ、現時点では三画までで限界っぽいな。
でもたぶん、鍛えていけばもっと画数を増やせるようにもなるはず……
そうすればいずれは、一瞬で突きと八つの斬撃を繰り出すという夢の大技——かの『九頭龍閃』も可能になるはずだ……!
——まあ、今のままだと「三頭龍閃」だからね。
それは、ちょっと……だいぶしょぼく感じるわ……。
でも、今のままでも「秘剣 燕返し」はそこそこ再現できてるし、そういう意味では現状でもかなり強くねぇすか? この技。
——まあ言ってみれば、三人がかりで襲いかかっているようなものだからね。それも、息ぴったりに連携できる三人で。それは強いわよね、普通に。数の有利は絶対だもの。達人だって倒せるわよ。
だよねー、普通に強いよ、この技。
さて、それじゃ、技の名前は何にするかな……
一筆斬り——はダサいな……『燕返し』や『九頭龍閃』はカッコいいけど、そんまますぎるし……てか九頭龍閃はまだ足りないし……
そうだな、それなら、この二つからそれぞれ取って組み合わせて——
——燕、ではなく、速いもの……そして切り裂く刃のイメージ……かまいたち……風……いや、颯……。
……よし、決めた。
この、「増える斬撃」の技の名前は——【颯裂閃】だ……!
そんで、MP使う方は【蒼裂閃】で、炎属性込みの技は【紅裂閃】——ってところかな。
うむ、これにて新たに覚えたすべての【刀技】の試しと名付けは完了した。
新たに覚えた三つの技はどれも強力だった。これからの戦いでも活躍してくれるだろうと大いに期待しちゃう。
てゆうか、ようやく技らしい技を覚えたって感じだよねぇ。
まあ、【進撃】や【飛刀】もちゃんとした技ではあったけど、あの二つはあまりにも基本技過ぎるというか、ぶっちゃけ派手さが全然ないというか……正直すげー地味だったから、技っていうほどでもなかったというかさ……
だからマジで、今回新しく覚えたのはいかにも“技”って感じで、炎も合わせたら派手で強いし、かなりよきです♡
いやー、なんかようやく、私もいっぱしの“刀使い”になったなって、そんな気がする。
つーかマジでさ、『刀使い』はこんな感じの技をこれからもどんどん覚えていくとするなら……めっちゃ期待感がアゲアゲなんですが。
うーん、こうなると俄然、『刀使い』のジョブをこのまま強化していきたくなってきたかも……
——かなり興奮してたものね、アンタ。
いやー、大興奮だったよ、マジで。
——というか、【刀技】の確認は終わったけど、まだ新しく覚えたもう一つのスキルの方が未確認なんだけれど。
いやそーよ、それもあったよね。
なんかこっちもこっちで、一気に五種類くらい覚えてんだよね。
てかこの新スキルって、なんか効果がイマイチよく分からないというか……どうも実際に使ってみないと、一体全体どんなもんなんだか、ぜんぜん理解できなさそうな感じなんだけど……
——ならまあ……実際に使って試してみるしかないんじゃないの。
だよね、それしかないね。
というわけで、引き続き、今度は新スキルの方の確認だ。




