第167話 覚醒せよ、そは炎に選ばれし者である……!
私は『刀使い』から『炎使い』へとジョブを変更した。
ジョブの変更は問題なく完了し、私は『炎使い』のジョブを無事に獲得した。
よし……とりあえずは成功だ。
それじゃお次は、さっそく能力を確認していこう。
まず、『炎使い』のジョブを獲得したことで、手に入ったジョブアイテムについてだけど——それはなにやら、赤い宝石(的なナニカ)があしらわれた紋章のようなものだった。
この紋章の持つ機能としては、“炎属性を持ち、炎を生み出し、そして、炎を操る能力に補正がかかる装備品”——といった感じだ。
ふむ……では、とりあえず、このアイテムは、“炎の紋章”と命名しますので。
——言うと思った……。
ちゃんとエンブレムではなくエムブレムにしてるので、悪しからず……。
装備品ということで、炎の紋章は装備欄に“装備”した。
それだけでなく、実物の紋章自体についても、軍服に取り付けて装備した。
これ、見た目的にもけっこう——なんか勲章の一種みたいで——わりと似合っている気がする。
ジョブアイテムはしっかり装備できたので、次はスキルだ。
この『炎使い』のジョブについた最初の時点——つまり、まだ初期状態のランク1の状態で覚えることが出来たスキルは、次の三つ。
一つは、【火炎操作】——と名付けたスキル。
これは単純に「炎を意のままに操れるようになる」という能力だ。
二つ目のスキルは、【火力強化】。
こちらは効果が若干分かりにくいが、まあでも、おおよそ付けたスキル名通りの能力だ。
“火炎操作”を使用して炎を操るのにはSPを使うのだが、このスキルは、そこでさらに追加してSPやMPを使うことで「炎の“攻撃力”自体を上げることができる」という感じの能力だった。
ややこしいのは、ここで言う“攻撃力”というのが、どうも、炎の温度を上げるとかそういう単純な話ではないみたいなのである——ということなのだが……
まあ、SPやMPという謎のパワーを使っているわけなので、通常の物理法則とは別のナニカである可能性もある、ということなのだろうか。
結局、詳しくはよく分からないけれど、要はこのスキルによって、炎の威力を——ちょっと普通では考えられないないレベルで——上げることができる、ということなのだった。
そして最後、三つ目のスキルが【熱源感知】。
こちらも名前の通りの効果で、「周囲の熱を感知することが出来る」という、ある種の索敵にも使えそうなスキルだ。
基本的には常に発動しているパッシブスキルだが、任意で効果を高めたり範囲を広げたりといった操作も可能のようだった。
この三つのスキルは、『炎使い』のランク1で覚えることができた唯一のスキルから派生して覚えたスキルだ。
——『刀使い』の方でも、確か最初に覚えたのはそんな感じに技が派生していくスキルだった。
あっちは【刀技】と名付けたけれど、似たような感じなので、こちらもひとまずは【炎技】と名付けることにする。
さて、では……ジョブアイテムとスキルの確認も終わったので、さっそく実地で試していくとしましょうか。
とはいえ、いきなり巨人の本体に攻撃するのは、さすがにちょっとなぁ……
と、思ったところで、私は思い出した。——いやそうよ、なんかちょうどよく使えるブツがあるじゃないのよ。
そう思って私が見つめる先にあったのは——さっきからずっと私の大太刀に貫かれたままの、かつて巨人の頭部から生えていた名状しがたきナニカである。
ちょうどいい、コイツを的にして練習しよう。
てかコイツって、未だに死んでないから大太刀で地面に縫い付けて固定してんのよね。——放置して下手に動かれたりしたら困るし。
このまま放っておくのも危険だし、こうしてる間は大太刀が使えなくなるし、なにより邪魔なのでちゃんと排除しておきたい。
——それに、コイツに炎で攻撃して完全に倒すことが出来たなら、巨人も倒せるということになりそうだし……つまりは試金石として活用できるってワケだ。
よし、そういうことなら……おらっ! 最後に私の役に立ってからこの世を去れっ!
ではいくぜ、『炎使い』の能力——本邦初公開だっ!
まずはお試しとばかりに、私は手のひらの上に軽く炎を生み出してみる。というか、そういう風に念じると——上を向けた私の手のひらより少し高いところに、マジで思い描いた通りに炎が生み出された。
うおっ、おっ、まっ、マジかよっ……! マジで出たぞ——っ!
次に、軽く手を振りかぶってから、前方の大太刀に貫かれているソレに向けて、手のひらを突き出しつつも、炎が勢いよく噴射されていく様を想像してみれば——
ボォウゥゥゥゥッッッ!!!
と、激しく燃え盛る炎の噴流が前方に向けて放出されていき、その先にあるキモい触手のような名状しがたきブツを焼いていく。
赤々と輝く炎が、私の目に鮮烈な光を灼きつける——
轟々と燃え上がるその音が、鼓膜を強烈に振るわせる——
発せられる凄まじい熱量が、私の肌を苛烈に焦がしていく……
ビチビチビチビチッ——と、炎を受けたソレは激しく痙攣するが、地面に縫い付ける大太刀からは逃れられず、そのまま激しい炎に焼かれていく……
うおおおおおおおおおおッッッ!!!
私は一瞬でマックスになったテンションに任せて、炎を吹き出し、操り、燃え上がらせる——!!
うおおおおおファイアーブラスト! バーニングブロウ! いやさフォースフレイムっ!? ——火炎放射! ってのはシンプル過ぎるかいっ?!
炎を受けている部分は激しく焼けただれ、盛大に縮れて、一部はもはや炭化してしまっているようで、すでに黒い燃えかすのようになってボロボロと崩れ落ちていった。
そうだ燃えろ……燃えろ……燃えろっ……! 燃え尽きてしまえっ……!!
私の炎がァッ、お前を焼き尽くすゥゥゥゥッッ!!
灰は灰に、塵は塵に、ゾンビは燃えるゴミの日に……!
オラァッンッ! 汚物は消毒ダァッッ!!!
——うわぁ……マジでイッちゃってるわね。
おらっ……燃えろっ……もっとだ……もっと燃え——っあ? あれ、炎が出ないぞ。
な、なんだ? 何が起きた……?!
——ただのスタミナ切れよ。ちょっと……正気に戻ったのかしら?
あ、カノさん……。
いやぁ……ちょっとテンション上がっちゃってたね、失敬失敬。
——ちょっと、どころじゃなかったと思うけどね。
いやまあ、しょうがないじゃない、だってこんな……マジで……炎を操る能力者になっちゃったんだからさぁ……今の私。いやいや……マジでそれ……ヤバくね? てかヤバいって、くっそテンション上がってんだけど今。
なるほどね……『炎使い』の素質、我にあり——ってか。いやホント、名は体を表すとは、言い得て妙だわ。
なんだろう、これこそが私が真に極めるべき能力なんじゃないかと、そんな気がビンビンしているわ。てかむしろ、今まで炎を操る能力がこの身に宿っていなかったことが不思議に感じられるくらいだわ。
——まあ、興奮するのは分かるけど、ちょっと落ち着きなさいよ。……さて、それで、どうやら炎の攻撃なら、この巨人の一部も完全に倒せたみたいだし、これなら巨人の本体も倒せるんじゃない?
ん、ホントだ、コイツ、すでに死んでらぁ。
私はとりあえず、その完全に沈黙した巨人の頭部だった燃えかすのようなナニカを『回収』する。
そして、大太刀も普通のサイズの刀に“形状変化”させてから、腰の鞘に収める。
——もうコイツの出番はなさそうだし、しまっておいてよかろ。
なんせ今の私は、もっと強力な“武器”を手に入れてしまったのだから。
私は少し離れたところで現在も続いている、巨人VSアンジー&怪鼠タッグの戦闘の様子を確認する。
相変わらず、アンジーたちによって巨人は抑えられている状態だ。だが、これまでは有効な攻撃手段がなかったので、ここまでやっても倒せていなかったが……でも、今は私がいる。
私は巨人に攻撃が届く距離まで屋根の上を伝って移動する。
ちょうどいい場所にたどり着いたところで、アンジーが私の方を見てきたので、一つ頷いて応える。
改めて見ると、巨人は本当に大きい。
身動きが取れない相手をひたすら焼き尽くすだけとはいえ、この大きさとなるとなかなか骨が折れそうだ。
とはいえそれは、巨大だから時間がかかりそうだという意味で、それ以上でも以下でもない。
なにせ今の巨人は完全に動きを封じられているし、使える武器もほとんど無くなっている。
頭部は私によってすでに落とされていたが、それに加えて、今のヤツは右腕と左腕もそれぞれ失っている。そして残りの胴体の口は、土の槍で串刺しになっているので、やはりもはや使い物にならない。
アンジーと怪鼠たちによって、いまや巨人はここまで無力化されていた。
ここまでお膳立てしてもらったなら、あとはもう止めを刺すだけだ。
終わらせてやろう……
『“火炎放射”』
それから私は、巨人に向けてひたすらに炎を浴びせ続けた。
ヤツの息の根を完全に止めるまで、休むことなく、ひたすらに。
スタミナが尽きるまで炎を放出し、回復を待ってまた放出する。
私の炎攻撃による焼却力は、ヤツの再生速度をいくぶん上回っているようだった。私の炎によりヤツの体は焼き尽くされて炭化し、さらには崩れ落ちて灰となり——ヤツの巨体は徐々にその体積を減らしていく……
そしてついには——それなりに時間がかかったが——ヤツの総体をすべて焼き尽くすことに成功したのだった。
巨人に対して大いに能力を試すことができたので、ヤツを倒し終わった頃には、私は『炎使い』の能力にだいぶ慣れることができていた。
とりあえず、この新しいジョブの能力でできることはだいたい把握できた。細かい仕様についても、概ね理解したといっていいだろう。
巨人を倒し終わった私は、神社に戻る前にまず、燃え残ったヤツの体の一部などを回収する。
巨人以前に暴君だった時に落とした首までしっかりと回収しつつも、私は新たに獲得したジョブである『炎使い』について考えていた。
それにしても、この『炎使い』の能力は中々に強力だ。
まあ、弱点をついたというのが大きいだろうけど——それにしても、『刀使い』の私や、強力な魔剣や地属性の使い手であるアンジーや、はては巨大なボスが率いる怪鼠の軍団までもが色々と攻撃してもついぞ倒せなかった不死身の巨人を、『炎使い』の能力によって完全に倒すことができたのだから。
ゾンビ相手ならマジで、この『炎使い』の能力は極めて有用だ。
現時点でもそこそこの射程はあるし、威力としても申し分ないし——
おそらく、この能力であれば防衛戦でももっと活躍できただろう。それこそ、城壁の上で迎撃する役だって、このジョブの私ならやってやれないことはないんじゃないか? ——いや、この『炎使い』の攻撃の射程と火力ならば、十分に可能だろう。
なんて考えながらも諸々の回収を終わらせた私は、とりあえずマナハスに巨人の討伐が終わったことを報告する。
その報告の後に向こうの戦況を確認したが、どうやらまるで問題なさそうな様子。すでに防衛戦から掃討戦と呼ぶべき段階に移っているようで、危機はすでに去り、ゾンビを全滅させるのも時間の問題のようだ。
一通りやり取りした私は、「今からそっちに戻るよ」と言ってマナハスとの通信を終わらせる。
ふぅ……いやはや、最初はどうなることかと思ったけれど、暴君がいなくなってから一気に流れがこっちに傾いた感じだったね。
コイツをもっと早くに——それこそ、巨人に変化してしまう前に——倒せていれば、もっと簡単に終わってたんじゃないかと思わなくもないけれど……まあ、今さら言ってもしょうがないか。
それに、特に被害らしい被害もなく戦いが終わりそうなんだから、結果としてはそれで十分だろう。
あるいは、もっと早くに『炎使い』のジョブを試してみておいた方が良かったのかもしれない。
名前からはどの程度の能力なのか分からなかったから放置していたけれど……蓋を開けてみれば、中々に強力なジョブだった。
それこそ、炎が弱点のゾンビ相手には、まさに破格の性能と言える能力だ。
どうするか……ゾンビはこれからもメインで戦う敵だし、『刀使い』に戻さなくても——いっそこのまま『炎使い』のままにしておいてもいいのでは……?
——そういえば、アレをまだ試してなかった。まずはこれを試しておかないと。
そこで私は——おもむろに腰の鞘から刀を引き抜くと、“飛刀”のスキルを発動して刀を念じて操作してみる。
『“飛刀”』
……ふむ、普通にちゃんと発動したね。
今も着たままのパワードスーツについても——どうやら普通に使えるみたいだし。
ということは……ジョブを変更しても、一度獲得したジョブのスキルやアイテムは、他のジョブの時にもちゃんと使えるってことか。
ならやっぱり、まずは獲得できるすべてのジョブを獲得してしまうべきだな。
とりあえず、神社の周りのゾンビをすべて倒し終えて、今回の戦いが終わったら、すぐに取り掛かるとしよう。