第166話 ここにきて示される、新たな可能性……?!
マナハスからの通信要請が来たので、私はすぐに反応して彼女との通信を開始する。
「マナハス? どうしたの? 何かあった?」
『お、カガミン。——あ、いや別に、こっちは大丈夫だよ。というか、なんとか持ち直してきてるって感じかな』
「お、マジで?」
『うんうん。なんか、敵の増援も減ってきてるみたいでね。このままいけば、普通に押し切れると思う』
「そっかそっか。それなら良かった」
『それで、そっちの様子はどう? ——なんか、のっけからデカい叫び声みたいな音がしたり、少し前にもなんかデカい音がしてたし……それに、けっこう時間かかってるみたいだから』
「そうね……まあ、ちょっと手こずってるんだよね」
『大丈夫なの? てかなんかそっち、新しい敵も来てるみたいだよね?』
「ああ、うん、なんか鼠のボスみたいなデカいヤツが、手下をたくさん引き連れてきたね」
『それって——』
「でも大丈夫、なんかそいつら、今は普通に巨人と戦ってるから」
『確かに……どうやら、そうみたいだけど』
「あ、そっちからも見えてる?」
『うんまあ、ギリギリね。——てか、ジャイアントって……あのデカいのだよね? アレって——』
「ああ、あれは暴君の第二形態みたいな。デカくなったから巨人って呼んでる」
『いやマジで、デカすぎんだろ……そりゃあ、あんだけデカくなったら苦戦もするよな』
「ふふ、まあね……いやまあ、デカさもだけど、弱点が判んなくて倒し方が見つからないんだよ。ちょっとやそっとのダメージはすぐに再生するし」
『マジかよ……』
「だからさ、ゾンビの弱点の炎属性で攻めようと思うんだけど……私たちじゃ、ちょっと火力が足りないというか」
『なるほどな……。火力というなら、まさに私の出番じゃない?』
「確かに、マナハスの魔法ならいけると思うけど……でも、そっからはさすがにここまで届かないよね?」
『うーん、出来なくはないけど……』
「え、マジ?」
『でも、やっぱり命中率は下がるし——大雑把に狙うなら、周りも吹き飛ばしちゃうんじゃないかと思う』
「そ、そっか……」
『まあでも、もっと近寄れれば——』
「いやそれは、危ないじゃん」
『……そうだけど。うーん……でも、そうだね——今はちょっと、こっちでも私の魔法が必要だから、どっちにしろ、ここを動くのは無理かもなぁ……』
「そうかぁ」
『こっちが落ち着いたら——このままいけば、いずれはここを守り切って倒せると思うんだけど。そしたらそっちにも、いくらでも加勢してやれるんだけどね』
「分かった。まあ、とりあえず、こっちでやれるだけやってみるよ。じゃあ、そっちの状況が変わったら教えて」
『りょーかい。そんじゃ、くれぐれも無理はするなよ!』
「オッケー。そっちこそ、なんかする前には教えてよね。くれぐれも、勝手にそこから動かないようにね」
『はいはい、分かったよ』
「それじゃあね」
『うん、また』
そこでマナハスとの通信は終了した。
ふむ……マナハスの援護は期待できないか。
なら、やはり——アレを試してみるかな。
そう思って、私がアレに取り掛かろうとしたところで、アンジーにも動きがあった。
これまでの彼女は、巨大怪鼠——ボスと、巨人の戦いの様子を探るように見つめていた。
そんな彼女の視線の先、ボスと巨人の戦いについては、先ほどからずっと膠着状態が続いていた。
ボスが生み出したらしき、おそらくは土で出来ている無数の槍は、相変わらず巨人を串刺しにしており、その動きを封じている。
しかしボスは、そうして巨人の動きを抑えるだけで精一杯のようで、それ以上のことは何もできていなかった。
——配下の怪鼠たちは懸命に巨人に挑んでいるが、それも大した成果はない。
そして、巨人も大人しく抑えられているばかりでもないようで、動きの封じられた中でも最大限に抵抗して、徐々にその拘束から抜け出そうとしているように見える。
疲れ知らずのゾンビが相手では、いずれはこの膠着状態も終わってしまうことだろう。
そうなる前に、アンジーは行動を起こした。
アンジーはその場から大きく飛び上がると——空中を弧を描くように飛んでいき、なんと——巨大怪鼠のボスの頭の上に着地した。
突然のアンジーの急襲に驚き慌てるボスは暴れようと——したように見えたが、その動きも何やら抑えられていくように収まってゆき……そのまま落ち着いてしまった。
んんっ?! こ、これは……?
と、戸惑う私にまた通信が——今度はマユリちゃんからだ。
私はすぐに応答する。
「えっと、もしもし、マユリちゃん」
『カガミおねえさん……そちらの状況は、その、どうですか?』
「えーっとね、まあ、問題ないっちゃないんだけれど……いやでも、その、アンジーがね——」
『あ、えっと、アンジーは大丈夫です』
「そう、なの? あれ、アンジーは何をして……? ——そういや、ネズミを利用するとかなんとか、言っていたような気もするけど……」
『あ、はい。アンジーはあの、おっきなネズミを乗りこなすことで、ネズミを操ろうとしているんです。——それで、どうやら……成功したみたいです』
「操る? え、操……れんの? アンジーって、そんな能力あったっけ——?」
『えっと、一応、“騎乗技術”の特性を、応用した……というか。まあ、そんな感じ……です。——あ、あと、アンジー自体を少し強化したので……それもあるかも、です』
「な、なるほど……。——いやぁ、アンジーの特性、めっちゃ応用効くしスゲェな……」
『……えと、カガミおねえさん……ネズミさんの方は、そんな感じで、大丈夫なんですけど……あの、おっきなゾンビの方は、どうですか? ……倒せそうですか?』
「それについては……一応、これから試してみようと思っていることがあるんだけれど」
『あ、そうなんですね、分かりました』
「えっと、もしかして、マユリちゃんの方でも、なにか考えてくれてたのかな?」
『いえ、その……。まあ、何かできることがあれば、とは……はい』
「そうなんだね、ありがとう。その、もしも私の試したいことが上手くいかなかったら、マユリちゃんの手を借りるかも……。でもまずは、私の力でどうにか出来ないかやってみようと思ってるから……」
『あ、はい、分かりました』
「何かあったら、その時は言うから。それまでは、そっちのことを頼んでいいかな」
『はい、——任されました』
「うん、お願いね。それじゃあ——」
そこで私は、マユリちゃんとの通信を終わらせる。
通信しながらも、私はアンジー(とボス)の様子を確認していたけど……どうやらマジで、アンジーはボスを乗りこなして(?)いるようだった。
そう、なんか普通に、ボスはアンジーの言うことを聞いている風な感じだし——なんなら、その配下の無数の怪鼠たちすら、今やアンジーの支配下にあるような気さえするというか……
いや、なんか配下たちの動きが、一気に統率が取れているような感じに見えるというか……明らかに、動きがさっきまでより洗練されているというか、かなり練度が上がっているというか。
無駄な動きがなくなって、お互いに連携が取れるようになっているというか……。
それに、ボスについても、今はしっかり攻撃に参加できている。
今のボスは、土の槍で巨人の動きは封じたままで、酸弾による攻撃を出来るようになっていた。
——もしかして……土の槍の方はアンジーが維持しているのだろうか? まあ、彼女も地属性を操れるし……。
ボスの酸弾はかなり強力なので、この攻撃を使えるようになったのは大きい。
しかし——それでも状況は、良くて五分といったところか。
結局、どれだけ練度が増したとしても、元より相性的に不利であるのに変わりはないし、酸弾を使ったとしても、弱点である炎属性でもない限り——再生能力持ちの巨人に対しては——やはりこれでも決定打にはなり得ない。
ならばやはり、必要なのは、炎属性攻撃だ。
炎属性——それを使うあては、ないこともない。
なにせ、他でもないこの私自身に、その素質が眠っているという話なので。
今こそ、その素質を解放するべきなのでは——?
すなわち——『炎使い』のジョブの出番が……これを使う時がきたということなのではないか。
考えてみれば……私自身の戦力を強化する上で、それは分かりやすく手っ取り早い手段だった。
ジョブの変更はいつでも可能だ。——すでに候補として出現しているものなら、Pさえ使えば、今すぐにでも。
そして、ジョブについたら、それだけで少なくとも、最初に一つ二つのスキルと、それから専用のジョブアイテムが手に入る。
実際、それだけでもかなりの戦力強化になるだろう。
さらに——もしも、ジョブを変えたとしても、すでに獲得済みのジョブのスキルやジョブアイテムが引き継がれて、別のジョブの時でも使えるのだとしたら……?
それは実質、ジョブを獲得すればするだけ、強くなるということではないのか?
だとすれば……現時点で獲得できるジョブは、すべて獲得しておいた方がいい——となるのではないか。
——確かに……そう考えることも出来るわね。でも、他のジョブに変えても元のジョブの能力を使えるのかは、まだ分からないし……ジョブを変えるのには、それなりにPを使うからね。少なくとも、必要もないのにホイと使うには躊躇するくらいのPがね。
まあね……だからこそ、『刀使い』を選んだ最初の時点ではそこまではしなかった。——そもそも、あの時は、まだジョブの存在自体がどんなものなのかよく分かってなかったし。
でも『刀使い』のジョブにとりあえずなってみて、ジョブはかなり強力で有用だって分かったし……。
それに、今は必要な状況だから——いまこそ『炎使い』のジョブを試してみるべき時……!
そしてもし、『炎使い』のジョブに変えた状態でも、すでに覚えた『刀使い』のスキルや、ジョブアイテムのパワードスーツが使えるようだったら……
その時は……他のジョブも獲得しておくという選択肢も大いに検討する余地があるということだ。——というか、マジでその時は、もう全部のジョブを一気に取っちゃうとするかな……?
だってだって、そうしたらさ、一気に色々と使える能力が増えるんだよ?
そんなん絶対……ゼッタイ歓迎じゃんね?
大体……ぶっちゃけさ、私って『刀使い』の能力だけだと、あんま活躍してないし……今のところ。
——状況によってはマジで、近接オンリーマンとか役に立たんのじゃ……。
んなら私も——リーダーとしての威信もあるし——もっと能力増やして、そしてバリバリ活躍したい……!
てか普通に、新しい能力が増えるのがめっちゃ楽しみってのもあるけど。
——特に『待っててマナハス』とか……一体どんな能力が使えるのか、皆目検討もつかないジョブとかもあることだし……!
Pの使い方については、確かに慎重な判断が求められるところだろうけれど……
でも、これからどんな危機が降りかかるかも分からないし、どんな状況にも対処できるようにするために——そして、あの時ああしておけばよかった……と後悔しないためにも——使える能力は多ければ多いほどいい。
まあ、実際のところは、試してみないとどうなるかは分からないけれど……
いや、だからこそ、まずは『炎使い』に変えてみて、試してみるべきだろう……
私はウィンドウを操作して、ジョブの選択画面を表示する。
——そして念の為、周囲をもう一度確認する。
うん……巨人はアンジーとボスが抑えてくれているし、配下の怪鼠たちもちゃんと統率されてるし、他に敵はいない……大丈夫だ。
では——やるぞ。
私は、現在のジョブである『刀使い』から、『炎使い』のジョブに変更するため、ジョブの欄を確認していき……そこで違和感を覚える。
ん、ちょっと待って——あれ?
なんかこれ、ジョブ一個増えてね?
——……確かに、なんか新しいのが一つ増えてるわね。
え、マジかよ、いつの間に……?
……え、ちょっ、ど、どうしよ。
——とりあえず……先に確認しておく?
そ、そうだね。
私は自分のつけるジョブの欄の中に、いつの間にやら増えていたそのジョブを確認してみる。
このアイコンは……なんやろか? なんか形がシンプル過ぎて、ちょっとよくわかんねぇぞ……?
——てかマジで、新しいジョブってなんなんだ……?
いやでも、すごい気になる……ってか、めっちゃ楽しみだな……!
だって新しいジョブだもんね。私の新しい可能性——?
……とにかく、説明の方を見てみるとするか。
それじゃあ、いくぞ——表示ぃ!
〈固有の系統の能力の発動に特化した能力値〉
〈鏡に関連する能力〉
〈鏡の性質を司る技能を習得する〉
〈能力に合わせた専用装備を獲得〉
これは……!?
——そうね……これは差し詰め、『鏡使い』ってところかしら、ね。
……ま〜た名前ネタかよっ!
おいっ、私の火神は鏡じゃねーぞ! ——いやまあ、確かに読みは一緒だけど!
てかっ、名前ネタなら、なんでこれだけ微妙に出現が遅いんだよ! ……いやマジで、なんでなん?
——それは……やっぱり名前は名前でも読みだけだから、とか?
いやどういうシステムなん、それ……。
……まあいいや、今はジョブ候補が増えたことを純粋に喜ぶか。
——そうよね。とりあえず最初に全部のジョブを獲得しておく方針でいくなら、選べるジョブが多いに越したことはないもの。
鏡に関連する能力かぁ……うーん、色々と想像はできるけど、どんな感じなんだろうか。
まあ、それも後回しだね。今はとにかく、『炎使い』に変更しよう。
それじゃ早速やるから、カノさんは周囲の警戒を一応、お願い。
——ええ、任せて。
んじゃいきます、『炎使い』にジョブを変更——『決定』!