表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/247

第160話 風雲、幽ヶ屋神社城——不死軍勢との戦い



『……“遠隔召喚(リモート)——勤勉な自律型重機インダストリー・ヘビーオートマタ”』


 つい先ほど、この上なくとんでもないものを、この場にいないままで呼び出してみせたマユリちゃんは、さらにオマケとばかりにそれを追加で呼び出した。

 さっきまで機銃のあった場所の近くの城壁の内側に出現したソイツは、いつぞやにも見たことのある管理能力持ちの機体だった。

 というか、機銃もちゃっかり城壁の上に乗っている。——合体したってコト……?

 機銃にしろこの城壁にしろ、特設(ギミック)カードの召喚を維持するには、マユリちゃんのMPを使うか——もしくは管理者が必要だったはず。

 この城壁を維持するのは実際、相当大変そうだから……助力を呼んだってわけかな。


『……この子に城壁の管理をさせます。この子が無事な限りは、城壁へのダメージも修復されるので……できれば、気にかけて守るようにしてもらえると……助かります』


 なるほど……管理者をつけているとダメージを受けても回復させられるのか。それならコイツもしっかりと守ってやらないとだね。


『とはいえ、この城壁は……元からLP(ライフポイント)もかなり高いので……そう簡単には、壊れないと思いますけど……』

「それは頼もしいね。まあとにかく、この城壁のお陰でゾンビの侵入は防げそうだし……かなり助かるよ。本当に、ありがとね、マユリちゃん」

『いえ……お役に立てたなら、よかったです』


 いやいや、めちゃくちゃ役に立ってますとも。

 てか正直言って、マユリちゃんがいなかったらもっと早い段階でこの防衛戦は詰んでたと思うし……ほんと、この子がいてくれて大助かりだよ……。


 というかマジで、この城壁は凄すぎる。

 結界が壊れた(というか、私たちが壊してしまった?)とか言われた時は、マジでどうしようかと思ったけれど……。

 いやまあ、結界もすごいとは思うけれど、鳥居が壊れたくらいでダメになっちゃうし、やっぱり見えないってのは不安なんだよねぇ……。


 それに比べて、この城壁の圧倒的安心感よ。

 頑丈で、分厚い、物理的存在の壁……!

 やっぱ物理よ。物理が最強って、はっきりわかんだね。

 見なさい、この重厚な(たたず)まいを。一目で分かる、この頼もしさ。いやぁ、焦りが一瞬で吹き飛んだわ。これでゆっくり作戦も立てられるってもんだわ。


 ——確かに頼もしいけれど、でもこの城壁だって、謎の召喚能力で一瞬で作られたものなんだけれどね。


 いやまあ、確かにそうなんだけれど。

 ……改めて考えると、こんなヤベェブツを一瞬で生み出すとか、マジでヤベェな。

 まあ、お陰で助かったんだから、いいんだけど。


 さて、城壁があまりに凄いもんで、ちょっと落ち着かないレベルで興奮しているけど……だからと言って、このままスゲースゲーと言ってるだけではいけない。

 てか普通に、城壁で新たなゾンビの侵入は防げたかもだけど、すでに内部にも結構な数に侵入されてるし、ソイツらにも迅速に対処しなければ。


 ——この城壁なら、普通のゾンビの侵入は防げると思うけれど、でも、怪鼠(かいそ)なら壁を登ってこられると思うわよ。


 確かに……だとすると、迎撃にあたるメンバーはやっぱり必要か。

 だけど、内部にすでに入った奴らに対処するメンバーも必要だし……。

 配置は、どうするか。迎撃はやっぱり、遠距離攻撃持ちの方がいいかなー。

 内部の敵は、近接武器のメンバーにやってもらおう。


 私はマップを起動する。

 中心には私とマナハスのアイコン。すぐ近くにもう一つあるのは、これは建物内にいる幽ヶ屋(かすがや)さんのアイコンだろう。

 マップの索敵範囲は、だいたい神社の敷地全体をカバーしている。そして、今現在の神社内の様子はといえば……たくさんの敵を表す赤いアイコンがあちこちに存在している。

 動きが素早いのは怪鼠か。(のろ)いのはゾンビだな。——ううむ、すでに中々の数が入ってきてやがるな……。

 しかし、現在進行形でその赤いアイコンも少しずつ減っていっている。それを成しているのは、味方(プレイヤー)を表す青のアイコンだ。

 そしてその青いアイコンたちは、少しずつ中心のここに向かって集まってきていた。


 実のところ、中心にもすでに敵のアイコンがいくつか到達しているのだけれど、それは青ではなく緑のアイコンが対処してくれていた。

 この緑のアイコンは、星兵(サモンスター)を表すアイコンだった。……てか、なんかたまに増えてるんだけど。これはまあ、あの角ウサギたちのことなんだろう。

 今のところは、その緑たちでなんとか敵には対処できている。しかし、敵の数が増えていくとどうなるか分からない。

 だが、すでに青いアイコンや他の緑のアイコンもこの場に集合しつつある。

 すると案の定、藤川さんたちから到着を知らせる通信が入ってきたので、私はそれらの通信への対処を一旦カノさんに任せて、自分はマップに目を走らせる。


 改めて確認してみれば、この神社の敷地はだいたい正方形の形をしている。

 その四辺を囲うように出現した城壁は、すでにマップにもその存在が映し出されている。——マップさんの仕事が早い……。

 さて、それでは……この城壁の四辺に、それぞれ一人ずつ遠距離持ちを配置するとして……人選はどうするか。

 そうだな……機銃のところにウサミンをつけて、あとは藤川さんとシャイニーで一辺ずつとして、では、残り一辺は……

 幽ヶ屋(かすがや)さんがいれば、彼女に任せたいところだけれど……いけるのか? 彼女。

 マナハスは——ここから動かすわけにはいかないし……。


 チラリとマナハスの方を確認してみれば、さっきまでは城壁の出現に驚いて放心していた彼女も、ようやく落ち着きを取り戻し始めているようだった。

 すると、私の視線に気がついたマナハスが話しかけてくる。


「これ……マユリちゃんがやったんだよね? 相変わらず半端ないな……」

「だよねぇー。でも助かったよ、これでゾンビの侵入を大幅に制限できるだろうし」

「だよなぁ。ってか、これだけの壁があればもう入ってこれないでしょー。となると後は、この壁の上から攻撃して全滅させるだけって感じ?」

「そうだね。でもまあ、まだ油断は出来ないよ。怪鼠なら壁も登れるかもだし、それに……“暴君(タイラント)”のこともあるからね」


 なんて言っているまさにその時、噂をすればとばかりに、城壁の外より破壊音が——。

 急いで【視点操作】で確認してみれば、案の定、“暴君(タイラント)”による攻撃だった。

 その狙いは、まだ無事に残っていた鳥居だ。車を投げつけて破壊してきている。

 妨害も難しいし——それに、結界はどうせ壊れてしまうらしいし——今は放置するしかないか……。


「さて、言ってるそばからヤツの仕業みたいだよ、これは……」

「みたいだな……。てか、アイツもマジでどうするんだよ。あれだったら、また私が魔法で攻撃しようか? ——まあ、今度は粉々に吹き飛ぶ威力のヤツを使ってやるさ……」

「ふむ、そうね……。や、でもさ、マナハスって今も守護の魔法を使ってるんだよね? それ使ったままでも攻撃できるの? ——いやまあ、さっきから何度かすでにやってたけど……」

「ああ、できるよ。まあ、なんていうか——確かに、あんま放っておくとこの守護の魔法も効果が消えちゃうんだけど、でも、ちょっと手を放すくらいなら平気というか……まあ、そんな感じだから」

「そっか……って、あれ、マナハスの杖、光輪は? 無くね?」

「あ、回収するの忘れてた……」


 そういってマナハスが杖を(かか)げると、さっきまで炎の壁を出していた辺りから光輪が飛来して戻ってきた。


「これでよし、と」

「そういえば、光輪を飛ばせる距離もかなり伸びたみたいだね」

「あー、それな。まあこの杖も、もうLv(レベル)15だしな。光輪を飛ばせる距離もだいぶ伸びてるみたいだよ。……うん、今の調子なら、こっからでも普通に外の奴らに攻撃できると思う。ここはちょうど中心だから、全方位にいけるね」

「マジか……そりゃ頼もしいね」


 ならマナハスはやっぱり、この場にいてもらうのがベストだな。

 ここは一番安全だし、守護の魔法を維持する必要もあるし、ここからでも攻撃が届くなら援護も可能と。

 うんうん、マユリちゃんも大概だけど、聖女様も負けてない……まあ、たぶん、ギリギリ。


 ——それで、他のメンバーの配置はどうするの? もうみんなここに集まったわよ?


 お、そうかい。ならすぐ各員に配置を通達——と、いきたいところだけれど……

 幽ヶ屋さんはどう? いけそう? 彼女が無理なら、ちょっと考える必要があるんだけど……。


 ——それについては分からないわ。まだそこまで聞けてないから。


 仕方ない、直接聞いてみるか。

 んじゃカノさんは、とりあえず他のみんなに配置を通達しておいて。


 ——遠距離組は城壁の上で、地上は近接組ね。


 そうそう、お願いね。


 カノさんはさっそく、みんなに配置を告げていく。

 私は城壁上の最後の一辺を埋めるため、幽ヶ屋さんに通信を繋ぐ。


『あ、火神(かがみ)さん……』

「幽ヶ屋さん、結界はどうにかなりそうですよ。いや、結界というか、城壁がその代わりをしてくれたので……」

『城壁……ですか? その、一体なんのことなんでしょう……?』


 ああ、彼女はまだ直接その目で見ていないのか。

 うーん、口で言ったところで多分信じられないし、直接見てもらうしかないだろう。


「おそらく口で言っても理解できないと思うので、直接見てみてください」

『あ、その……わ、私——』

「いやぁ、これはかなり壮観な眺めですよ。一見の価値ありです」

『そ、そうですか……』

「……ん、幽ヶ屋さん? どうかしたんですか?」

『いえ、その、私……』

「……もしかして、幽ヶ屋さん、外に出るのが怖くなった——とか?」

『……えっと、その……はい、実は』


 なんと、そうか……。

 まあ、彼女も色々あったし、無理もない……。

 

「そうですか……まあ、無理にとは言いません」

『ごめんなさい……火神さん。私……』


 しかし、彼女がまさか、こうなってしまうとは……思ってなかった。どっちかというなら、彼女はメンタル強い方だと思っていたんだけれど……。

 ならまあ、彼女にはその場で出来ることをやってもらおう。ちょうどいいことに、やってもらいたいことが一つあったし。


「ではその、幽ヶ屋さん、あなたに一つ、頼みたいことがあるんですけど……」

『……なんでしょう?』

「ああ、大丈夫ですよ。外に出る必要はありませんから。その場で出来るお願いです」


 やってもらいたいこととは、あれだ、新規プレイヤーの覚醒だ。

 きちんと確認しそびれていたけど、なんか幽ヶ屋さんのお父さんも、例の声を聞いたとか言っていたよね? 私はしっかり覚えているからね?

 彼をプレイヤーとして覚醒させられたら、大きな戦力増加となる。なので幽ヶ屋さんには、そのためのレクチャーをやってもらいたい。

 彼の覚醒に成功したのならば、そのまま一気にレベル10まで上げてサーヴァント作成まで解放してしまいたいところだ。——必要な(ポイント)は私が渡すから。

 サーヴァントの候補にも、ちょうど思い当たる人たちがいることだし……。


「——その、どうでしょう、お願いできますか?」

『はい……それくらいは、任せてください』


 私からそう頼まれた幽ヶ屋さんは、断ることなく了承してくれた。

 それから私は、手短に彼女と話を進める——

 そうして聞いたところによると、幽ヶ屋さんはすでにある程度、その辺りについてお父さんと話をしていたみたいだった。

 ご本人の意思は私も尊重するつもりだったけれど、どうやらお父さん自身は覚醒に前向きらしいし、それならやってもらうとしよう。


 幽ヶ屋さんとの話を終わらせたところで、すぐに私は、城壁を最大限に利用した防衛体制の配備に取り掛かる。

 基本的にはさっき考えた通り、城壁の四辺の上にそれぞれ一人ずつ、遠距離攻撃を使える人員を配置する。

 あてにしていた幽ヶ屋さんがおらず一人足りないので、その分は機銃に代行してもらう。つまり、機銃、ウサミン、藤川さん、シャイニーの四人をそれぞれ四方に配置する布陣となる。

 とはいえ、機銃はそもそも敵味方識別に不安があるし、そんな機銃を単体で運用するのは心配な部分もあるんだよなぁ……なんて思っていたのだけれど。

 そこはまた、マユリちゃんが手を回してくれた。


 彼女は新たに【自立型機体スタンドアローン・オートマトン4S-4B】という星兵(サモンスター)を召喚して、この星兵が弾薬の補給などの機銃の補助をするようにしてくれたのだ。

 このメカ的な星兵くんの見た目は……私の知ってる知識の中で言うと、『攻殻』に出てくる“タチコマ”みたいな、あれが一番近いだろうか。——まあ、名前はどっちかというと“R2-D2”みたいなんだけどさ。

 このメカくんにはさらに、【浮遊型自動砲台フローティング・オートビット】という武装(アームズ)カードも装備させているので、このメカくん単体でもなかなかの火力を発揮できそうなのだった。


 召喚を使いまくってるマユリちゃんは、MP消費なども含めてなかなかに大変そうではあるのだけれど、彼女はまるで文句を言うこともなく全面協力してくれていた。

 私としても、彼女には——私が支給したMP回復アイテムを惜しみなく使用してもらうなど——考えうる限りにおいてあらゆる支援を提供する所存であった。——まあそんなことは、彼女の協力を受ける上では至極当然の(はか)らいでしかないのだけれど。


 それから、みんなには配置についてもらう前に、聖女様からの魔法の援護として“炎属性の付与(ファイアエンチャント)”をそれぞれの武器に(ほどこ)しておいた。

 ゾンビは炎が弱点だから、この魔法を使うと使わないでは戦闘の効率が大いに変わってくることだろう。


 しかし、こちらが諸々の準備を終えて、皆が配置につく頃には——“暴君(タイラント)”によって、すべての鳥居が破壊されてしまっており——すでに結界は完全に機能を失い、全方位からゾンビが押し寄せてくるようになっていたのだった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ