第15話 友情の証に、あなたにコレを贈ります。受け取ってくれる、よね……?
瓦礫地帯を抜けた私たちは、無事な街並みにたどり着いていた。
「ふう、ようやく文明社会に復帰した」
マナハスが見慣れた街並みを見て、安堵したような声で言う。
「よかった。この辺りからは無事なんですね。私の家はもう少し先ですが、無事そうですね」
と藤川さん。
自分の家の事だから、それは安心するだろう。
私はと言うと、
「あ、コンビニあった」
お馴染みの文明の恵みを発見した。
「ちょっと寄ってかない? 色々買いたいものあって」
「いいですよ」
「私もさんせー」
というわけで、コンビニ寄ることにした。
しかし、その前に……。
「ちょっと私たちの格好、ヤバいよね?」
「ヤバい。というかカガミン、平気そうに歩いてるけど、ボロボロなのは服だけ? 体は大丈夫なの?」
「ああ、私は全然怪我してないよ」
「……それならいいんだけど。まあ、服もそうだけど、あんたの日本刀もかなりヤバいんじゃ」
「これはもちろんしまっとくよ」
ピカっとな。
「は? え、なに今の?」
「服自体がアレですよね……。私とカガミさんの服ってボロボロ……。私なんかお腹見えちゃってるし、てか、血の色がすごいですね。救急車呼ばれそう……」
「確かにその血はヤバいね。どうにか隠した方がいいか。でも私の服ではなー。……よし、ここは真奈羽の服を貸してあげてよ」
「いや待て、さっき何やった? 刀はどこいった?」
「そんなことは今どうでもいいでしょ。服は貸してくれるの? その上着だけあればいいからさ」
「服は別にいいけど、いや、だからさっきの日本刀は——」
「借りていいって。よかったね。このコートで上から隠せば、なんとかなるんじゃないかな」
「これ、本当に借りていいんですか? 汚れちゃうかも知れませんけど……」
「え? ああ、うん、いいよ。私の上着以外には、ほかに使えるものは無さそうだし」
「家に帰って着替えてから来るとか……」
「いやいや、別にそこまでしなくてもいいでしょ。汚れたって構わないから着ていいよ。……いや、そんなことよりさぁ、さっきの日本刀——」
「うんうん、ちゃんと隠れるね。似合ってるよソレ」
「え、ホントですか?」
「むしろ真奈羽より似合ってるよ」
「わざわざそんなこと言うなし。てか聞けよ。さっきから聞いてんでしょ」
「何? 上着ないと寒いの? しょうがないなぁ。それなら私の上着貸してあげるよ」
「そうじゃねーし、要らねーよそんなボロクズは」
「ボロクズはないでしょ……。いくら、そう表現するのが適切なくらいダメージ受けてるとしてもさ」
「むしろ今の状態だと、オマエの格好が一番ヤバいんだけど?」
「だから真奈羽にこのボロクズを着せてバランス取ろうとしてんじゃん」
「大人しくその瀕死ファッションを受け入れな。自分でもボロクズって言ってるくせに、そんなん私に着せようとするな」
「あんたならきっと似合うよ。大丈夫、自信持って」
「ボロクズが似合うとか、それただのディスなんだけど?」
「いやいや、ボロクズを着ても大丈夫なくらい中身がイカしてるってことだから」
「自分の恥を私にも分散したいからって、適当言うなよな」
結局、マナハスは私の上着を着てくれなかった。友達なら服の交換くらい当たり前だと思うんだけど、ちょと傷つくよね……。
なので私は、そのままの格好でコンビニに入ることになった。
——いや、誰もそんなボロクズ着たくないからね。つーかもう捨てたらいいんじゃない? もはやただのゴミよソレ。
そこまで言うかよ。一応、今日のために着てきたお気に入りなんですけど……。
まったく、お気にの服までダメになるとか、今日は最悪の日だな。
——なんか今日イチショック受けてない? 今日、あれだけ色々あった上で、一番のショックが服なの?
だってこれほぼ新品だし。まだ全然着たことないやつだったのに……。
——マジでショック受けてら。ゾンビに襲われた時より沈んでんじゃないのこの人。
しょーがないからコンビニで色々買いまくろ。ヤケ買いしよ。荷物ならアイテム欄にぶち込めばいいしー。あーマジ便利さいこー。
つーか、先のこと考えたら、物資の調達って大事じゃない? 今後のことを考えて、最悪の事態に備えるとしたらさ。
——最悪の事態、ゾンビがどんどん広がっていって、地上が埋め尽くされる……。そして舞台は世紀末へ——
場合によってはそれもあり得る。もちろん、そうはならない可能性もあるけど。普通にゾンビを全部隔離出来たりとか、そもそも増えたりしないタイプだったりとか。
——本当にそう思う? そんな可能性高いと思う?
いや全然。ゾンビだけならともかく、怪獣も出てきてるしさ。なんかそんなに簡単には終わらないような気がしてしょうがないよ。
まあでも、まずは様子見だよね。つーか今日は疲れた。
それに私は、ゾンビよりも自分の体についての方が気になる。
——ほんと、なんなんでしょうね、この力は。
少なくとも、今のところはすごく助かってるけど。ただ得体が知れな過ぎるから、はやく少しでも情報が欲しいところだよね。
——そのためにも、藤川さんの家で休めるのは助かったわね。
まったくだよ。藤川さんはラッキーガールだしお助けガールでもあるんだね。
律儀に恩を返そうとしてくれるし。すごくいい子だよね。少し変わってるところもあるけど。
——それは、アンタと関わったせいじゃないの? じゃなかったら、普通の子だと思うわよ。
まあ、状況が特殊なせいだね。私というよりはね。
そんなことを考えながら、私はコンビニの中で商品を物色していく。
まずは食料品を大量に買う。どちらかというと保存用の食べ物を多めに、お菓子もたくさん。他にも、この後食べる用の分のご飯なんかも。
それから、食料以外にも必要そうな物は片っ端から買っていった。災害時に使えそうなヤツ。スマホのモバイルバッテリーとか、化粧品系とか、衣類とか、諸々……。
ボロボロの服着たやつが、めっちゃ大量の商品を持ってきたということで、店員さんは驚いていた。
というか、店員さんまだ居たんだね。近所であんな凄まじいことがあってたんだから、とっくに仕事なんて抜けて逃げててもおかしくないと思うんだけど。なんだろう、仕事熱心なのかな? 抜けさせてもらえないだけかな。
会計は中々の金額になった。元々、今日は色々と買い物するつもりでそれなりの額を持ってきていたのだが、まさかこんな風に使うことになろうとはね。せっかく都会に出てきたから、服とか買うつもりだったのに……。
まあでも、買える時に買っておいた方がいいか。これから何が起こるか分からないんだから。
——着てきたお気に入りの服が、ボロボロのボロクズになったりもするわけだしね。
やかましい。いちいち言わないでいい。今だって店員さんの奇異の視線に無心で耐えているんだから。
しかし、私がそんなに珍しいかね。
——そりゃ珍しいでしょ。紛争地帯の帰りか何か? って感じだし。
いや、そうだとしてもさ、さっきから向こうの一帯から他所に避難している人とか沢山いると思うんだけど、そんな人は見なかったのかな。
——まあ、そういう人は少しでも遠くに行きたがるだろうから、こんな近くのコンビニには行かないだろうし、逃げるのに成功したのなら服もボロボロにはなってないでしょ。ボロボロになっているような人は普通助かってないんじゃない? 藤川さんみたいな例外を除いてね。それ以外は、みんな“アレ”になって、今もあの瓦礫の辺りを彷徨っている、とか?
確かにそうか。
だとしたら、この店員さんは、音がしたこと以外は何も知らないのかも知れない。勤務時間中にスマホを見たり外に出たりとか出来ないだろうし。
まあ、あれだけ尋常じゃない事態なんだから、さすがにそれはないかな?
——さあ? でも実際に見てなかったら、ただの地震か何かだとでも思っちゃうんじゃない?
ああ、地震ね。日本ならまず浮かぶのはソレだよね。だとしたら、少し逃げたところで意味ないって気がするしね。
実際に怪獣が暴れてんのを見たら、絶対、少しでも遠くに逃げようとするだろうけど。
——まあ、普通見ても信じられないわよね。んで、ボーッとしているうちに死んじゃう、みたいな。
あー、そうかもね。
——だから、怪獣を見た瞬間に殺しに行くような人は絶対におかしいんだけどね。
いいじゃん。そのおかしい人のおかげで怪獣の脅威去ったんだから。
私は会計を終え、大量の袋に入った荷物を担いで、コンビニの外に出た。
外では、早々に買い物を終わらせていた二人が私を待っていた。
「いやオマエ色々買いすぎでしょ。どんだけ買ってんのよ。持って歩けんの? 私は手伝わないぞ?」
すかさずマナハスにボロクソに言われる。
ふん。君はまだ知らないんだよね。私は素敵な能力によって、手ぶら移動が約束されているということを。
一応、人気のないところでやるために、コンビニの裏手に回る。
「ちょい、どこ行くん?」
なんやかんや言いながら、マナハスもついてきた。
藤川さんも、心なしかなんかワクワクした顔で私の方を見ている。また私が何かすると思っているんだろうか。まあ、するけど。
アイテム欄のウィンドウを開いて、コンビニ袋に照準、ほれ『回収』。
すると、コンビニ袋たちはピカッと光って消えていく。
ウィンドウには、似たようなアイコン達が現れて並ぶ。よし、成功。
「……いやマジさぁ、さっきからそーゆうの、マジで何なわけ? 全然意味分かんないんだけど」
マナハスが、なぜかキレ気味で私に詰めてくる。
いやそんなキレられても……。
「見て分からない?」
「分かるわけなくない?」
まあ、分かるわけないだろうと思って言ってみたけど。
まあでも、もしかしたら「これもしかしてアイテム欄に収納してる……?」とか、ドンピシャの答えを言ってくるかなと思ったりもしたんだけど。
たぶん、私が逆の立場ならそんな感じのことを言っていたと思う。そうしたらマナハスはキレ気味に「いや何で分かるんだよ」とか言ってきそう。
「後で説明してあげる」
「ホントだな? ほんとに説明してくれよ? それはマジで頼むわ」
「私も知りたいです!」
「え、アナタは知っているんじゃなかったの?」
「実は、良くは分かっていないんです。おそらく、天より授かった能力か何かではないかと、想像しているのですが……」
「……そうなの?」
「……後でね」
全然違うけどね。いや、実際はどうか知らんけど。マジで天界由来の力とかいう可能性もゼロではないけど。まあ多分、違うと思うけど……。
「それじゃあ、私の家まで案内しますね。歩きだと、もうしばらくかかると思います」
「お願いするね」
それからは藤川さんに案内してもらって、藤川さん家まで向かう。
それなりの時間を歩いたが、普通に街の中を歩いただけで、途中でさっき見たような、不気味な人影に遭遇することは無かった。連中が発生しているのは、まだ駅周辺だけなのだろうか。
問題があるとすれば、私の服がアレなせいで、少々注目されてしまうということくらいだ。
元々、注目されるのは好きではないので、これは地味に辛い。藤川さんの家についたら、着替えさせて貰おうかな……。
そうして藤川さんの家にたどり着いた頃には、私はだいぶメンタルにダメージを受けてしまっていた。
やっと着いた。これでようやく落ち着けるよ……。