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第14話 理解しないでも使えるところが、実はすごいことなんだろうね

 


「ねぇ真奈羽(まなは)。あのおじさんを見てみてよ。アイツをどう思う?」

「す、すごく……顔色悪いな……」


 明るい日差しの下に現れたのは、やたらと不健康そうな見た目の人物だった。

 私は今日の朝、電車の中でこの人物と同じようなおじさんを見かけた。というか襲われた。


 (くだん)の人物がこちらを向く。そして近づいてくる。瞬間、身構えたが、その動きはこの上なく緩慢(かんまん)で、ちょっとした瓦礫(がれき)を越えるのにも四苦八苦していた。

 その動きは、地下で追ってきた人物と同じ人物だとはとても思えなかった。

 これは一体、どういうことなんだろう……。


 しかし、今はそんなことを考えている場合ではないだろう。

 周りを見回せば、いつのまにか人影が増えていた。それは、さきほど一緒に脱出した人たちではない。彼らは地下から脱出した後も止まる事なく、すでにこの場より去っている。


 私たちも、とりあえず階段から離れて安全そうな場所に移動した。

 真奈羽をおぶったままだと瓦礫の移動が困難なので、とりあえずの避難だ。もちろん、藤川さんも私たちについてきている。

 適当な場所まで来ると、その場に真奈羽を下ろして、ベルトに挟んだままだったスマホもしまっておく。

 さて、地上の今の状況は……。


「おいおい、地上は一体どういう状況になってんのよこれは……。何がどーなってるの……? 辺り一面、瓦礫の山になってるし、なんだかヤバそうな人たちがゾロゾロ出てきてるんだけど……?」


 マナハスが地上の様子を見ながら呆然と呟く。そうか、彼女はこの光景を見るのは初めてなのか。まだ駅が健在だった頃に見たきりで、直後に破壊される駅の地下に入って、以来ずっとそこにいたわけだから。

 せっかく真っ暗な地下から明るいお日様の下に出られたのに、そうやって見れた光景がこれじゃあ、どっちにしろお先真っ暗って感じじゃん。

 ああ、なんて可哀想な生き物なの、マナハス。

 しかも周りには、遅いとはいえ、今もこちらを目指すヤバそうな感じの人たちが大量にいるわけですよ。


 正直、相手がこの速度なら、よっぽど囲まれたりでもしない限り、普通に逃げられると思う。そう、()()()()()()()()()()()()()()()

 マナハス、何やらヤバい事態が起こったその初日に足を捻挫(ねんざ)するとか、間が悪いにも(ほど)がある。

 そんなあなたに唯一の救いがあるとすれば、あなたが今一緒にいる二人が、幸運を持つ女の子と、奇跡を起こす人物だと言うことだね。

 さて、幸運少女で臨床実験された実績ある回復アイテムを使うがいい。


「とりあえず真奈羽は今のままだと足手まといだから、置いていかれたくなかったらこれを使わせてもらうよ」

「こんな状態の私を置いていかないでくれっ。……んで、それは、何?」

「それはっ……! 天より(たまわ)りし奇跡の御印(みしるし)ですよね! 私にも使われたやつですよねッ!」

「え、何? 意味が分からないんだけど……? というか、こちらの方はどなた?」


 そう言って藤川さんを見るマナハスの目には、“驚愕”の二文字が。そりゃそうだ。今の彼女のファッションは常軌を逸している。

 さて、藤川さんも紹介しなきゃだけど、だけどまずその前に治療だ。


「自己紹介は後でね。まずはここから移動するべきだと思うよ。だから早くこれを使わせて。いいから、痛くないから……たぶん」

「いや、だからそれは何なんだよ? 正直めちゃくちゃ怪しいんだけど?」

「——これ、使われてみてどうだった? 藤川さん。痛みとかあった?」

「いえ、痛みなどは特に。元々、痛覚ももう分からないような感じでしたので……」

「ちょっと待って、どうゆう状況なのそれ? やばいヤツじゃないのその丸いやつは?!」

「大丈夫、大丈夫。すぐ終わるから。何も怖くないから」

「いやお前が怖いんだけど。ちゃんと説明してくれよ!」

「説明は後、だよ。分かるでしょ? 今の状況。そんな暇はないんだよ」

「時間が無いって迫るのは、詐欺の常套(じょうとう)手段だぞ……」

「心外だなぁ、真奈羽さん。私があなたを騙すと思うんですかー?」

「なんでそこだけ敬語なんだよ……。——分かった。とりあえずオマエを信じる。……ただし、この状況で変なおふざけしてるんだったら、後でタダじゃおかないからな」

「そんなことするわけないじゃん。私は友達想いなだけだよ」


 ようやくマナハスが観念したので、アイテムを使う。藤川さんの時みたいに、捻挫した足にかざして使用する。

 すると、前回のように光ながらドロリと形が崩れて、マナハスの足にかかる。その瞬間、「うえっ」っとマナハスが(うめ)く。


「何これぇ? いやホントに何これぇ?」

「これをかけると怪我が治る」

「は? どうして?」


 そう素直に聞かれると……どうしてなんでしょうね? 確かに疑問だね。

 なので私も、心底不思議そうに応じる。


「どうしてだろうね?」

「いや分かってないの!? 自分でやっておいてっ!?」

「原理までは知らんよ。大体そんなもんじゃない? 誰だって、スマホの仕組みなんて知らなくても使ってるし。普通だよ普通」

「そういう次元の問題か、これ……?」


 ドロドロはしばらく足を(おお)っていたが、次第に消えていった。

 すると、マナハスは驚いたように足を動かして——立ち上がった。


「あれ、マジで痛くない。治ったっぽいんだけど」

「だから言ったでしょ、大丈夫だって」

「え、マジで治ったの、ヤバいだろ」

「治ったんだからいいじゃん」

「いや待って、マジでさっきのやつ何? あんなんどこで売ってんの?」

「まあ、少なくとも近所の薬局とかには売ってないだろうね。ま、そんなことより、これで自分で歩けるようになったよね。つーわけで移動しよう」


 だいぶ集まってきてるのよね、この人らが。明らかに普通じゃない人たち。

 一体どこからこれだけ出てきたんだろう、と思うくらい沢山いるんだけど。


 ——これってもしかして、恐竜が暴れたことで死んじゃった人たちじゃないの……?


 この人たちの中には、明らかに致命傷と言える怪我をしている人もいる。死んでいないのがおかしいと言えるくらいの負傷。

 例えば、まるっきり上半身だけしかなくて、腕の力でヨロヨロ動いてる人とか。無論、生まれつきのものではない。

 その証拠に、胴体の部分はついさっき千切れたことを示すように生々しい断面を晒していた。

 他の人もだいたい怪我人ばかりだ。服はボロボロで、血や何やらで汚れている。


 しかし何より異常なのは、そんなみんながみんな全員揃って、私たち目指して集まってきていると言うことだ。

 周りの動きにつられるように、離れたところの連中も、徐々にこちらに集まり出している気がする。

 私たちの元に来て何をしようというのか……。それを確かめるために近づかせるつもりは毛頭ない。


 しかし、移動するとしてどこに向かえばいいのか。私とマナハスは休日をこの街で遊ぶために電車で来たので、地元ではないこの街に帰る家はない。

 一応、泊まりの予定ではあったが、適当にそのあたりの安いホテルにでも泊まるかなーとか考えていたので、実際、行く当てもない。


「移動するとは言ったけど、どこに行こうかな……」


 兎にも角にも、この駅周辺からは離れた方がいいんだろうけど。とりあえず適当な方向に進もうか……?

 そう考えていたら、


「もしかして、行く当てが無いんですか?」


 と、藤川さんが言ってきた。


「うん。地元じゃないから帰る家もないし、知り合いが住んでるってわけでもないんだよね。真奈羽もそうだよね?」

「あぁ、うん。この辺りに知り合いはいないなぁ」

「正直、もう遊ぶどころじゃないから、今日はもうどっかで休みたいんだけど、どこに行くべきかなぁ? 適当なホテルでも探すか……」

「悠長に悩んでる時間はないぞ。てゆうか、けっこう囲まれ始めてない? これまだここにいて大丈夫?」

「まあ、このくらいなら突破出来ると思う」

「……気になってたんだけど、アンタのその手に持ってるやつさ、それ、日本刀みたいじゃない?」

「うん」

「なんでそんなん持ってるの?」

「……それ、いま答えないとダメ?」

「いやまあ、後でもいいけど……」

「とりあえず、諸々の説明はぜんぶ後でするからさ。安全なところに移動してからね」

「あ、あの……行く当てが無いんだったら、(うち)に来ませんか?」

「え、藤川さん()? ここから近いの?」

「えーっと、そうですね、そんなに遠くないです」

「それって、お家大丈夫?」

「あ、大丈夫です。瓦礫になっている範囲よりは、だいぶ外だと思うので」

「んじゃ、お言葉に甘えて、そこ行かせて貰えばいいんじゃない? んでも、なんか初対面だけど私もついて行っていいのかな?」

「はい。カガミさんのお友達なら、もちろんどうぞ」

「なんか、やけに持ち上げられてる気がするんだけど、あんたなんかしたの?」

「さあ、人徳ってやつじゃない?」

「いやまさか」

「なんで即否定するの」


 なるほど、藤川さん家ってこの近くなんだ。それは渡りに船かも。

 だったら、とりあえずそこに行ってみて、後のことはまたそこで考えたらいいよね。

 今はまず、一旦落ち着きたい。正直、恐竜くんが暴れ出してから、これまで一切落ち着けるタイミングがなかった。そろそろ落ち着いてもいい頃でしょ。


「えーっと、それじゃあ藤川さんの家に一旦寄らせてもらうということで、いいかな?」

「はい! それでお役に立てるなら、光栄です!」

「いやあんた、マジでこの子に何したのさ?」

「カガミさんは、私の命を救ってくれた恩人なんです!」

「えぇぇ……マジで?」

「マジです!」

「マジなん?」

「マジだよ」

「マジかよ……。いやまあ、この状況だし……? あ、そういやさっきの謎の球——」

「ほら、その辺の話も後でしていいから、とにかく行こう。二人とも私の後ろから付いてきて、離れないでね。私の通った(あと)を歩くようにして。——藤川さん、家がどっちにあるのか教えてもらえる?」

「分かりました! 方向的には向こうだと思うんですけど、ちょっと周りが瓦礫ばかりなんで、若干自信が無いです……」

「駅からはどっちの方角になるの?」

「南です」

「ならそっちであってるね」


 私は視界にマップを表示させて、赤い点に注意しながら進んでいく。

 ちなみにこのマップにはどっちが北かも表示してあるので方位も分かる。まあ、太陽とかを見てもいいけど、今はまだ太陽もそんなに傾いていないので微妙なんだよね。

 てゆうか、今、何時だろうか。確認してなかったな。てかなんかお腹減ったな。

 そういえば朝から何も食べてないもんなー。でもそれにしては、お腹の減り具合が少ないような気もする。普通、朝から食べてないであれだけ動いたら、もっとお腹空いてそうなんだけど。

 重労働と言いつつ、半分は謎のスタミナパワーに頼ってたから、そのせいなのかな?


 周りには相変わらず、不気味に動く人影がまばらにいるが、十分距離を取って進めば問題なさそうだ。連中は、かなり瓦礫地帯を進むのに手こずってるようだ。

 地下での連中も、こいつらも同じだと思うんだけど、動きの質がまるで違う。実は別物なんだろうか。それとも、もっと速く動けるけど、そうしていないだけ?

 とりあえずは、速く動く可能性もある、と考えて警戒はしておくようにしよう。まだ分からないことだらけなので、警戒はしておくに越したことはないだろう。


 黙々と瓦礫を越えて進んでいく。

 しばらく進んだところで、ようやく瓦礫のゾーンが終わって、ごく普通の街並みの中に戻ってきた。

 その変わりようを見たら、なんだか、まるで別の街にでも来たかのような錯覚がする。まるっきり地続きの同じ街のはずなのに……。

 今日は本当に、色々と感覚がおかしくなりそうだ……。



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