第146話 まかせろー(バリバリ)
マユリちゃんに関しては、とりあえずはそんな感じで、越前さんにも認めてもらうことができた。
なのでお次は、その越前さんと、あと藤川さんの二人に、色々とやってもらう番だ。
いやね、この二人に関しては、まだ新スキルを試したりとかしてなかったので、この機会にやってもらうことにしたんだよね。
まず、越前さんと、それからマユリちゃんに関しては、そもそもコスチュームをまだ作ってなかったので——それについては、外に出る前にすでに作成して着用してもらっていた。
越前さんは、ミリタリー風の衣装をプリセットから選んで、自分で軽くいじってからコスチュームを作成していた。
なので現在の彼は、現代風の軍人っぽいスタイルになっている。
マユリちゃんに関しても、普通に自分で選んで作った衣装を着ている。
こちらは何風という感じでもなく、普通に私服の範疇って感じのコスチュームだ。
いやー、越前さんはともかく、彼女に関しては、なにか口出ししてみようかなーとも、思ったんだけど……
——や、カードバトラーの正式な衣装がどんな感じなのかとか、私にもさっぱりだったので……
……結局、本人に一任することになった。
——まあ、マユリちゃんは、そもそもそんなこと意識してなくて、普通に適当な服を選んだだけだろうけどね。
というわけでコスチュームはいいので、越前さんと藤川さんには、レベルアップを始めとして、新しいスキルのインストールと練習、それから武器の改造やお試しなんかを色々としてもらった。
まずは二人のレベルを、とりあえず14まで上げておいた。
レベル15まで上げれば二人もジョブを獲得できるけど、14から15に上がる際は、実は一気に必要なPが増えるのだ。
それに、越前さんは、まだ心の準備が出来てないって感じの反応だったし、藤川さんは、私のPを貰いすぎるのは申し訳ないみたいな反応で——
まあとにかく、二人ともまだレベル15は早いって感じの意見だったので、——じゃあ今回は14までで……という感じになった。
そして次に、二人の武器である銃に関しては、私の刀にもあった【形状変化】をやったことで、劇的な変化があった。
いや、なんか、改造によって銃の種類自体も変更できるみたいだったので……
なので、従来のARだけじゃなくて、SGやSRやSMGや、それからGLやクロスボウみたいなのまで——他の銃種に切り替えることも可能になった。
これはもはや、【形状変化】ではなく、【形態変化】とでも呼ぶべき機能だね。
……まあ、銃種を切り替えたら、それに合わせて弾種も変える必要があるんだけど。
弾に関しては、装置でそれぞれの銃種に対応する弾を作れるし、問題ないか。
そうそう、弾といえば、その改造の中に「弾が必要ない特殊な銃」みたいなやつもあったので、導入しておいた。
これは、なんかひたすらに強力なエアガンみたいなやつで、空気の弾を飛ばすから実弾は必要ない——みたいな。
ただこれ、その空気の弾を装填する際には、毎回手動で装填動作をする必要があるみたい。
しかも、一度に一発しか装填できないので、地味に面倒ではある。
——まあ、これはあくまで弾をケチりたい時に使うつもりのアレなんで……ほぼほぼゾンビ用だし、それでも構わんけどね。
さて、それで、スキルの方に関しては、他のみんなと同様に、二人にも【軽化】や【防御】などのスキルを習得してもらい、練習してもらう。
それから、二人に関しては、追加で【消音】と名付けたスキルも習得してもらった。
この【消音】のスキルの効果は、文字通り「発する音を消す」というものだ。
自分の体と、触れているものが効果範囲みたいなので、このスキルを発動中は、足音はもちろん、発砲音も完全に消すことができる。
銃を使う二人にとってはかなり有用なスキルなので、習得してもらった。
まあ、銃を使わなくても、足音とか消せるだけで、実際かなり有用だし……これ、私も習得しとこうかな……?
——まあ私も、銃を使う機会あるかもだしね。
その辺を色々やっている間に、設置中だった例の畑のカードが出現したようだったので、確認してみたりもしていた。
設置場所として選んだ、体育館の近くの日当たりのいい土の地面のある場所に出現した“燃料棒の畑”のそばでは、さっそく妖精ちゃんが畑の世話をしていた。
テニスコート一面分くらいの大きさの畑には、すでに謎の植物が一面に植えられていた。
その畑の上に浮いている妖精の彼女が指を一振りすると、なにやら人の頭部くらいの大きさの小さな雲が出現して、畑に生えている植物に水を振り撒いていく。
水を浴びた植物たちは、まるで映像を早回しにしているかのような、とんでもない速度で成長していく。
——いやマジで、見ているそばからグングン伸びていってるんですけど……?!
「……土も悪くないし、魔法の水で育てているから、成長も早いし順調です——って彼女も言ってます」
私の隣で、マユリちゃんがボソリとそう呟く。
「はぁぁ……そーなんだぁ。——ってか、ここの土って、いい土なんだ……?」
「……なんか、もともと花壇だったそうです、ここって」
「へぇぇ……えっと、それも、彼女が?」
「はい。そういうのも、分かるみたいです」
へぇー、妖精ちゃん、さすがだね?
「……この分なら、今日の日が沈むまでには、一回目の収穫が取れる——って言ってます」
「おお、早いね。もうできるんだ。……あのさ、マユリちゃん、ちなみになんだけど、この畑から取れるアイテムって、それ……どんな感じのやつなのかな……?」
「どんな……ですか?」
「ええっと、なんていうか……食べ物なんだっけ?」
「そう、ですね……」
「これって、普通の人間が——つまり私たちにも、食べたりできるようなやつなのかな……?」
「それは……分かりません」
「そっか……」
——……アンタ、食べる気なの……?
いや、ちょっと気になっただけだよ。
「それで、あの……カガミおねえさん。わたし、試験にはちゃんと合格したんですよね……?」
「え、ああ、うん。マユリちゃんは合格だよ。越前さんも、マユリちゃんがサーヴァントになることを認めてくれたから、大丈夫だよ」
「そう、ですか。……あの、章太郎おじさんを説得してくれて、ありがとうございました」
「ああ、いや、気にしないでね。——私は別に、自分が思った通りのことをしただけだからね……」
私の返答を聞いたマユリちゃんは無言でペコリと頷くと、畑の中にいる妖精ちゃんの元へとてとてと歩いていった。
——まあ実際、マジで好きにやってるだけよね、アンタは。
ああ、そうさ。そうともよ。
だから別に、マユリちゃんに感謝してもらう必要はないんだけどね。
ただ、マユリちゃんに関しては実際、彼女がサーヴァントになった責任の、その多くを私が占めていると言える。
なので彼女の安全に関しては、私にも責任の一端はあるわけで——
だからこそ、その責任を果たすためにも、コイツには色々と釘を刺しておかねばなるまい……
「それで、あの、輝咲さん——」
私は、マユリちゃんと共にこの場にやってきていた彼女に声をかける。
「はい? なんでしょう、火神さん」
「これは、マユリちゃんがサーヴァントとして覚醒した責任を持つ者の一人としての、お願いなのですが……輝咲さん、あなたには、マユリちゃんのことをしっかりと守ってあげて欲しいんです」
「はぁ……言われなくても、私はそのつもりですが」
「そうですか? それなら、いいんですけど……」
「ええ、もちろん、私は彼女に召喚された身ですからね。であれば、私が召喚者である彼女を守るのは、それは当然のことです」
「そうですか。それなら——」
「そもそも、私は正義の味方である魔法少女ですよ? 魔法少女とは、世の人々に仇なす怪物を倒すのがその定めであり、負うべき役割なのです。そして、なぜそうして戦うのかと言えば、それはまさに彼女のような存在を守るため、ひいては世界の未来を守るためです。戦う力のない弱い存在——子供、女性、老人、社会的弱者たち……いつだって最初に犠牲になるのは、そういった者たちです。かような弱者を守ることこそ、力を持つ者の負うべき責任です。この世界でも、その事実になんら違いはありません。ゾンビとはまさに、世界に滅びをもたらす存在であり、ならば、それは我々、魔法少女の敵であるということで——」
「ああはい、分かりました、分かりました……。いや、マユリちゃんを守って、しっかり戦ってくれるなら、それでいいんです。あなたがマユリちゃんの身の安全を第一に考えてくれるのなら、私が言うことは、他にはもう何もありません」
「優先順位の話ですか? ——でしたら確かに、私が一番に優先するのは召喚者である彼女です。むしろ、そこに関しては、たとえ他になんと言われようとも譲れないところですね」
「そうですか……。じゃあ、あとはまあ、ちゃんとマユリちゃんの指示に従ってくれるなら、本当に何も、他に言うことはありませんよ」
「指示、ですか——。もちろん、私としても、出来る限りは従うつもりですけれど、ね……」
「え、なんですか、その含みのある言い方は……?」
「いえ、そうは言っても、彼女はまだ幼い子供ですから……。ですのでむしろ、場合によっては、私が彼女を導いてあげる必要があるのではないかと、そう思っているのです」
「まあ、それは、確かに、そうかもしれないですけど」
「あとは、そう、私はあくまで正義の味方である魔法少女ですので……中には従えない指示もあるということも、理解しておいてもらいたいですね」
「それは……具体的には?」
「別に、難しい話ではありません。ただ……そうですね、例えば——相手が人間である場合は、殺生の類いはNGですので——と、そういう話です」
「ああ、なるほど……。まあ、その辺に関しては、無理強いする気はまったくありませんし……。そもそも、もしもそういう場合があったとしても、マユリちゃんに関わらせるつもりは、端からありませんから」
「それならいいんです。——ああ、もちろん、相手が人間であろうがこちらに襲いかかってきた場合には、私も対処します。まあ、殺さない程度に」
「ええ、そうしてください。最優先はマユリちゃんの安全です」
「承知しました」
輝咲さんはそう言って、私に頷いてきた。
ふむ……まあ彼女も、正義の味方としての信念はしっかりしてるみたいだし、マユリちゃんの護衛に関しては、大丈夫そうかな。
まあ、そんな感じで、畑の様子も確認できたので、私たちは引き続き、外で色々と試していった。
マユリちゃんも、呼び出した星兵での戦いを試していた。
輝咲さんは自分で勝手に戦ってくれるからいいけど、他の星兵は指示をする必要があったりもするから、そこの確認だ。
マユリちゃんが呼び出した星兵は、(非戦闘系の妖精ちゃんを除けば)現時点では三体いる。
一体目が、最初に呼び出した“弾丸鳥”とかいう小鳥の星兵。
カード情報は、こんな感じ。
【弾丸鳥】
種類——「星兵」
等級——「1」
種別——「獣型」
戦技——「弾丸突撃」
特性——「先制特攻」
——ST——
LP——「300」
AP——「300」
攻撃——「1000」
防御——「100」
速度——「2」
射程——「1」
——FT——
【弾丸のような速さで飛び、激突の際は回転しながら鋭い嘴からぶつかるという、中々に危険なやつ。大きさは小鳥程度だが、その小さな体躯に秘めた殺意は膨大である】
どうやらコイツは、完全に攻撃特化な性能をしているらしい。
マユリちゃん曰く——R1で攻撃が「1000」もある星兵はなかなかいない——らしいです。
大きさは雀くらいだし、見た目も普通に可愛い小鳥って感じなんだけどね……
んで、二体目が、なんか“骸骨兵士”とかいう星兵。
見た目はまんま、人体骨格って感じのホネ。それが剣と盾を持って、あとボロい皮の鎧みたいなのを着てる。
外見はアレなんだけど、戦力としては普通に優秀なんよね、コイツ。
まあ、ゾンビとかなら余裕で倒せる実力あるし、命令はちゃんと聞くし、なんか特性のおかげで、疲れ知らずらしいし。
や、なんかアンデッドはそういう特性があるらしい。補給の必要がない、みたいな。
コイツに関しては、マユリちゃんのMPどころか、畑産のアイテムすら必要ないみたい。何もなくても召喚を維持できるという、マジでコスパに関しては最強の存在。
……まあ見た目がアレなんで、体育館の防衛とかには使えないけど、文句も言わずに疲れも知らないので、外のゾンビをひたすら駆除させるとかならマジで適役なのだ。
目には目を、歯には歯を、アンデッドにはアンデッドを——ってね。
そして三体目が、言わずと知れた魔法少女である。
彼女、変身を解いた状態でも普通に戦えるみたいで(STはいくらか落ちるらしいけど)、実際、ゾンビ程度なら楽に排除できていた。
コスパに関しては、この人も相当だし……そう考えると、もう何体か呼び出せそうな気もするよね……?
というわけで、呼び出してみました。
それがコイツ。
【偵察鳥】
種類——「星兵」
等級——「1」
種別——「獣型」
戦技——「鷹の目」
特性——「相互通信」
——ST——
LP——「700」
AP——「500」
攻撃——「500」
防御——「300」
速度——「2」
射程——「1」
——FT——
【高度な偵察能力を持つ猛禽類。複数羽からなる軍隊ならぬ群体。お互いに離れていても意思疎通できる能力を持っているので、司令鳥を手元に置いておけば、広く戦場の様子を確認できるだろう】
なにやら偵察に使えそうな星兵だ。
見た目はまんま、鷹とかあの辺の猛禽に似ている。それが複数羽集まっての一部隊で一つのカード扱いらしい。
FTに書かれている通り、コイツらは離れていてもお互いに通信できる能力を持っている。
なので、それぞれをバラバラに周囲に展開させれば、広い範囲の索敵・偵察を行えるというわけ。
そうして集まる情報は司令鳥とかいうリーダーの個体に集まり——それがマユリちゃんに伝わる、と。
さらには、こんなのまで。
【夜警蝙蝠】
種類——「星兵」
等級——「1」
種別——「獣型」
戦技——「静かなる一撃」
特性——「反響探査」
——ST——
LP——「500」
AP——「500」
攻撃——「600」
防御——「300」
速度——「1」
射程——「1」
——FT——
【反響定位により周囲の状況を探ることができる蝙蝠。暗闇の中でも克明に周囲の様子を探ることができる。黒い体は闇に溶け込み、飛ぶ際の音もほとんどしない。そんな彼らの暗闇での狩りは、常に一方的な結果で終わることになるのである】
いやはや……つまり、暗闇でも夜でもどんとこい、ってことかい……?
いやぁ、マジで……索敵もバッチリこなせるとか、この子マジで……万能選手か??
……ともかく、マユリちゃんが居てくれるなら——私たちも安心して、明日は遠征できそうだね……。