第145話 (◯◯◯は)君に決めた——!
“ナルシストで話し始めたら止まらない 光属性の魔法少女シャイニーが 仲間に加わった!”
——なーんてね。
いやー、なんかすごい癖が強そうなんだけど……実力は確かみたいなので、シャイニーは戦力として採用することになった。
実力についてもそうだけど、シャイニーはその特性に関しても、かなり有用そうだったし。
なんせこの人、日の光を浴びていれば、APだか魔力だかいうのが回復するらしくて——
なので、天気が良ければこの人、召喚を継続するのに必要な魔力を、マジで自力で賄えてしまえるのだ。
そういう意味では、確かにエコというか、かなり燃費のいい星兵だ。
とはいえ、夜になれば日が沈むので、完全に自立できるわけでもないのかと思ったのだけど……
私がそう言ったら、(なんかちょっとムキになったように)本人は——夜は夜で、昼に集めた力を消費しつつ大人しくしておけば、一晩くらいはそれで保つ、と言っていた。
さらには、魔力の消費を抑えるために、魔法少女の変身も解いてしまえばいい、とか言って——実際に変身を解いてしまった。
変身を解いたシャイニーは——派手な白金髪が普通の黒髪に、白銀色の瞳は透灰色の瞳に、魔法少女の衣装はどこかの学校の制服姿に変わり——見た目がだいぶ大人しくなった。
まあ、元の姿だとあまりにも目立ったので、この見た目なら、適当に新しい仲間として紹介するにもやりやすそうでいい——と私は思った。
……まあでも、カラーリングはマシになってたけど、相変わらず顔のつくりがかなりの美少女であることに変わりはなかったので——その点では、やっぱり目立つかもしれない、とも思ったけど。
ちなみに、この姿の時はシャイニーではなく、本名の輝咲で呼ぶようにしてください——と言われたので、その通りにしている。
さて、シャイニー改め輝咲さんに関しては、そんな感じ。
とりあえず彼女は、対外的には——新たに救助した生存者の一人で、さらに、すでに聖女様から力を得た人である——みたいな感じの説明でいこうと思う。
まあ、事実としては、マユリちゃんの呼び出した星兵とかいうアレなのだけど……それは説明が面倒だし、意味不明なのでやめておく。
ただ、実際のところはやはり、マユリちゃんの能力の一部なので、シャイニーは基本的には、マユリちゃんについていてもらうことになるだろう。
R3のカードなだけあって、実力はかなりのものみたいだし。この人がついていてくれたら、マユリちゃんの安全は保障されたようなものでしょう。
ただ、本人の癖がかなり強いので、ちゃんとマユリちゃんの言うことを聞くのかどうか——そこについては若干、心配ではあるけれど……
そうなんだよねぇ、魔力の燃費がいいという利点は、裏を返せば、それだけ召喚者の補助なしでも行動できるということでもあるのだし。
まあ、いくら日光で魔力が回復するという特性が彼女にあるとはいえ、基本的に星兵は召喚者からのMPの供給が存在に不可欠だ。
そして召喚者がその気になれば、いつでも召喚を解除してカードに戻す——“送還”が可能なので、そういう意味でも、星兵は召喚者に逆らうことはできないと言える。
その辺のことを抜きにしても、大前提として、召喚された星兵は、召喚者に危害を加えることができないという制約か元からあるらしいので、少なくともマユリちゃん自身に対しての危険はない。
あるとすれば、命令を聞かずに暴走する危険性だろうか。——マユリちゃん以外に対しては、そういう制約はないみたいなので。
だが、これに関しても、基本的に星兵は、そもそも命令をしないと行動しない感じみたいなので、問題ないと思う。
ただ例外として、輝咲さんや妖精ちゃんのような一部の星兵は、命令が無くても自分の意思で行動できるみたいだけれど。
だけどこちらに関しては、その分詳細な意志の疎通も可能なレベルの知性があるということなので、ちゃんと言い聞かせておけば問題ないだろう。
なので問題はやはり、この二人が言うことをちゃんと聞くのかどうかなんだけれど……
妖精ちゃんに関しては、メイドというだけあり素直で聞き分けのよい性格らしく、むしろ好んで命令を聞くようなタイプみたいなので、問題はなさそうな感じ。
だから、やっぱり輝咲さんの方なんだよね、問題はさ……
いやー、某作品に出てくる“令呪”みたいな、そういうのがあればいいんだけど。
あるいは、召喚者の命令は絶対みたいな、そういう制約があるのならね。
だけど実際は、“令呪”はもちろんないし、絶対服従の制約もない。命令を聞くかどうかは本人次第なのだ。
一応、一部の命令に関しては、それなりの強制力があるらしい。
と言っても、それはあくまで、攻撃指示などの特定のコマンドに限り、細かい指示についてはその限りではないみたいだ。
どうやら、知性の低い動物系などの星兵に関しては、そういう命令によく従う傾向があるようだ。
ただし、そういう星兵は知性が低い分、他にもっと具体的な命令をしようとしても、それを理解できるとは限らず、難解な指示にはそもそも従えない場合がある。
逆に、知性の高い星兵——それこそ輝咲さんなど——は、その辺の指示も理解できるわけだが、知性が高い分、本人の自由意志も強いので、指示を聞くかは分からないという……
うーん、あちらを立てればこちらが立たず……
マユリちゃんの能力は極めて強力なのだけれど、そういう細かい部分を見てみれば、やはり色々と問題点や制限も存在している。
まあそれでも、その程度の問題点なんて些細なもんで気にならないって言ってしまえるくらいには、やっぱりとんでもなく有用なので——
マユリちゃんのサーヴァント適性を測る試験としては、私としては文句なしの合格判定だ。
と、まあ、私としては、マユリちゃんはほぼ文句なしの合格と言っていいのですがね。
だけどさすがに、今回のマユリちゃんに関しては、私の一存では最終的な決定を下すことはできない。
そこはやはり彼——彼女の保護者である越前さんの許可が必要だ。
思えば、今までの契約に関しては、皆、自分の意思だけで決めていた。
それは、まあ、みんなマユリちゃんとは違い、最低でも高校生くらいの歳だから自分で判断できるだろう、というのもあるけれど——
そうは言っても、まだ高校生とも言えるので、本来は保護者の許可が必要そうなものだ。取ってないけど。
だって、ねぇ、その時はまだ保護者とは連絡繋がらなかったし、そしてこの場にはいなかったし、だからそう、しょうがないよね。緊急事態だしね。
——え? 藤川さんに関しては、保護者が近くにいたんじゃないかって?
……スッ(目逸らし)
……で、まあ、マユリちゃんに関しては、まだ小学生と幼いし、保護者の越前さんがこの場にいる。
彼の許可なしで、彼女をサーヴァントにすることはできない。
しかし、私としては、もはやマユリちゃんの戦力を逃すつもりはない。
なのでなんとしても、彼を説得しなければならないのである。
——つーかマユリちゃんに関しては、すでにレベルをめっちゃ上げたり武器も改造したりとP使いまくってるし……いまさら辞めるとか、それもう無理だから……!
それで、当の越前さんのこれまでの様子はと言えば、基本的にはマユリちゃんの能力のとんでもなさに大変驚いている様子であった。
まあ、この私ですら相当に驚かされたのだから、私より大人で、しかも彼女の保護者という立場でもある越前さんの驚きようは、私と比べるべくもなかった。
いや……最初とかマジで、初めてルフィに電撃放った後のエネルみたいな顔してたから、越前さん。
——エネル顔は言い過ぎでしょ。
そうかなぁ? けっこう似たようなモンじゃなかったー?
まあ、かなり見ものな反応をしていたよね、彼。
——そりゃあ、姪っ子がいきなりこんなとんでもない能力使い出したら、驚かないワケがないわよね。
結局のところ、越前さんの反応としては、そんな風に終始驚いている感じでしかなかったから、彼女の能力を肯定的に捉えているのかどうか、その辺はよく分からなかった。
まあ、彼がどう思っているのかはともかく、私としては説得する以外の選択肢はない。
でも、どうか肯定的に捉えていてくれればいいんだけれど——
そんな風に思いながら、私は引き続きアレコレと試しているマユリちゃんのそばから離れると、越前さんの方に向かう。
今はもう輝咲さんがそばについているから、マユリちゃんの安全に関しては大丈夫だろう。
なら私の次の役割は、彼の説得だ。
私は越前さんの隣に行くと、マユリちゃんの方を見ながら彼に話しかけた。
「いやぁ……すごいですね、マユリちゃん」
「ああ、うん……そうだね」
「……越前さんは、どう思いました? マユリちゃんの能力を見て」
「ああ……いや、正直、何が何やら……まるで理解が及ばないよ。まさか、こんな能力まであるなんて……」
「ですよね。私も、そう思います」
「特に、あの——輝咲さん? あの人なんて、まるで普通の人間にしか見えないじゃないか……。——いや、まあ、見た目に関しては、全然普通じゃなかったけどね。それに、まあ、実力についても、ね……」
「ですよねぇ。でも、アレだけの実力があれば……少なくとも、マユリちゃんの安全に関しては、問題なさそうじゃないですか?」
「まあ……そう、かもね」
「……どうでしょう、越前さん。私は、彼女は合格でいいと思うんですが。——それも、及第点どころか、満点に近いくらいの」
「……」
「正直、ここまで強力で有用な能力を使える以上、彼女を戦力として認めない手はないと思います」
「……それは、——でも、しかし……」
「もちろん、越前さんが彼女の保護者として心配する気持ちも分かりますよ」
「火神さん……」
「ですが、今はこんな世の中ですから……絶対の安全の保障なんてどこにもありません。危険は常に、我々のそばにあります」
「……」
「……マユリちゃんの能力のいいところは——とにかく強力だというところはもちろん、能力の幅がかなり広そうだとか、応用力がすごく高そうとか——少し見てみただけでも色々ありますけど……中でも一番の利点は、呼び出したカードに戦わせることができるという部分だと、私は思います」
「それは——」
「それは言い換えれば、彼女は自分が矢面に立つ必要はなく、だけど戦力としては十分な働きができる、と、そういうことです」
「……うう、ん」
「というか、戦力として以外にも、彼女は色々と活躍できそうな気がしますよ。——どうも彼女の能力は、戦闘だけにとどまらず、他にも色々と出来ることがありそうですし……」
「そう、なのかな……? まあ、俺には、マユリの力の内容が、全然よく分からないんだけど……」
「まあ、それについては、おいおい理解していけばいいんじゃないですか? ——少なくとも、私には、使い手の危険性がかなり低い、すごくいい能力に見えます」
「……そう、かい」
「……それでも越前さんが心配されるのでしたら、もちろん私としても、最大限の配慮をするつもりです。——基本的には、マユリちゃんは越前さんと離れないように一緒に行動してもらうようにしますし、なるべく危険のないことを手伝ってもらえるように、私も気をつけるようにしますから」
「……火神さん、君はどうして、そこまでしてマユリを戦力に加えたいんだい?」
「……それは——」
「思えば君だけは、最初から唯一、マユリが契約することに賛成していたよね。まさかあの時点で、マユリがこんな能力を使えるようになるとは思っていないはずだし。——どうして君は、あの時、マユリの肩を持ったんだい……?」
「それ、は——」
「それは……?」
「それは……やっぱり、マユリちゃんの——彼女の決意を、尊重してあげたかったから、ですかね……」
「……決意、か」
「ええ。……私は、今のこの世界で、本当の意味で戦力になれる人間とは、そういう人間だと思っています。——幽ヶ屋さんのパーティーのみんなは、まさにそんな感じです。みんながみんな、強い意志を持っている。戦うという意志を」
「戦う、意志——」
「一番大事なのは、やっぱりそこです。なにせ、そこ以外は……わりとどうとでもなるので。——スキルやステータスがあれば。ですので、一番重要なのは、やはりそこなんです」
「確かに……マユリの能力は、かなり強力そうだよね。だけど、——いや、だからこそ、そんな強力な能力を子供に持たせるのは、やっぱり、間違っているんじゃ——」
「いえ、間違っていないと思います」
「——え?」
「マユリちゃんには、素質があります」
「それは……確かに、あの能力は確かに凄そうだよ。それは認めるけど……」
「いえ、能力ではありません」
「えっ?」
「もちろん、彼女の能力は強力ですよ。でも私が言っている素質というのは、そことはまったく別の部分です」
「別の……?」
「マユリちゃんの素質、それは——ゾンビを倒せる、というところです」
「……?」
「最初に、マユリちゃんは、あの鳥のような使い魔を出してゾンビを攻撃しましたよね?」
「あ、ああ」
「ええ、そうです。彼女はゾンビをいとも容易く屠りました。それも——眉ひとつ動かさずに、淡々と」
「——っ!」
「……これって、普通はなかなか出来ないと思うんですよ。——いくら、命令によってあくまで間接的に攻撃しているだけだとしても、相手は姿だけは人間の形をしたゾンビですから。普通なら躊躇します。……越前さんも、最初にゾンビを撃った時は、殺さないと分かっていても、かなり躊躇してましたよね?」
「……ああ、そうだね……」
「その後に、ナイフでとどめを刺すとなった時にも、やっぱり躊躇してましたよね」
「それは……もちろん、そうだよ」
「でもマユリちゃんは——」
「……」
「一切、そんな様子を見せなかった」
「……それは」
「いえ、別に、ソレが悪いと言いたいんじゃないんですよ? というか、私はむしろ好ましいと思っているんです。だからこそ、彼女には素質があると言いたいわけです、私は」
「素質……」
「これはむしろ、子供だからこそ——な部分もあるんじゃないかと思います。言い方はアレですが、子供って時に残酷じゃないですか。というか子供って、むしろ大人より強い部分もあると思うんですよ。——虫とか平気で触れるし。大人は気持ち悪くなることも、子供は平気だったりしますよね」
「まあ、確かに……?」
「……まあ、結局のところ、大人も子供も関係ないんですけどね。ゾンビを、——敵を、躊躇なく倒せるのかどうか。必要な素質は、つまるところその一点に尽きます。そして彼女には、その素質がある……」
「……」
「——前に、越前さんも言ってましたよね。似たようなことを。私には、この事態に対処する素質がある、みたいな意味合いのことを」
「……そう、だったね」
「そして、そのことを良いことだとも、言ってくれましたよね?」
「……ああ」
「それなら——マユリちゃんにも、同じことを言ってあげてください」
「——っ」
「マユリちゃんを、越前さんが支えてあげてください」
「それは……もちろん、そのつもりだけど」
「はい、お願いします。——ああそう、素質以外に、実はもう一つ、必要なものがあるんですよ」
「もう一つ? えっと、それって……?」
「それは、つまり——私にとっての聖女様のような存在です。自分のことを、支えてくれる存在……そして、力を振るうにあたって、枷にもなってくれる存在」
「ストッパー……?」
「ええ。やり過ぎないように、諫めてくれる——あるいは、そういう面を見せたくないと思わせる存在です。……そんな存在がいれば、力に溺れるようなことにはならないと思います」
「……なるほど」
「まあ、つまるところ、越前さんが保護者としてマユリちゃんを支えて、そして、導いてあげればいいんです。それが出来るのは、やっぱり、越前さんを置いて他にはいません」
「そう、だね……それが出来るのは、俺だけだ」
「はい。ですので——マユリちゃんのこと、越前さんにお任せしても、よろしいですか……?」
「ああ、分かった。マユリのことは、俺に任せてくれ。あの子を守って……ちゃんと導いてみせるよ」
「はい。……よろしくお願いします」
……ふぅ。
……よし、よし! おっし!
なんとか言いくるめたぞ!!
やったぜ私! よくやった!
これで……最高の逸材、ゲットだぜ!!
——最後の最後に……ほんと、台無しなんだけど……。