第142話 デュエルスタンバイ!
わたしは左手の装置——“プレートバングル”に右手をそえ、カードを引く。
そして、引いたカードを確認する。
【風の刃】
種類——「魔法」
等級——「2」
属性——「風」
——ST——
攻撃——「1600」
射程——「1」
——FT——
【風属性のもっとも基本的な攻撃魔法の一つ。不可視の風の刃が高速で飛翔し、相手を切り裂く】
——R2の魔法カードか……。
——とりあえず、魔法がどういう風に発動するのか確かめたいし、試しに使ってみよう。
そう考えたわたしは、まずは離れたところを飛んでいた“弾丸鳥”を呼び戻す。
「……戻ってきて」
わたしの呟きに応じて戻ってきたR1の星兵は、差し出したわたしの右腕に降りると、そのまま腕を伝ってわたしの肩まで登ってきて、そこで止まった。
カチ、カチ——と、嘴を合わせて音を鳴らすと、BBは首を傾げるような仕草をして、それからピュロロロロ、というような鳴き声を出した。
——へぇ、コイツって、こんな鳴き声なんだ。
『サモドラ』のゲーム内では一度も聞いたことのない生の鳴き声を聞いて、そんなふうに思う。
わたしは肩にBBを乗せたまま、ゆっくりとゾンビに近寄っていく。
そして、それなりの距離に来たところで止まると、さっき引いたカードを左腕のバングルにセットして、宣言する。
「“呪文詠唱——風の刃”」
すると、わたしの目の前が光った。
光が晴れると、そこには風の渦のようなものがあった——と、思った次の瞬間には、ゴウッ、という音と共に見えない何かが前方に飛んでいった。
飛んだ方に目をやると、そこでは——体をななめに切断されて上半身が吹き飛んだゾンビの、その残った下半身が地面に倒れるところだった。
わたしはチラ、とそれを見るとすぐに目をそらして、視界に映る青いゲージを確認する。
BBを召喚した時に三割ほど減っていたそれが、今はほとんど残っていなかった。
——R2で今のわたしの青ゲージの、およそ六割強……。
威力はなかなかだけれど、たった一発でこれだけ減るなら、R1の星兵で戦った方が良さそう……
少なくとも、ゾンビが相手なら、それで十分そうだ。
そうなると、R1のカードをもう少し色々と召喚して試してみたい、のだけれど……
でも、もうゲージが無い……。
ええっと、この青いゲージって、どうやって回復させるんだったっけ……?
というか、ゲージが無くなるのが早すぎる……?
——しまった。魔法カードは、試すべきじゃなかったかも……
魔法が試せると思ったらワクワクして、深く考えずについ使ってしまった。
今は大事な試験中なのに……こんなんじゃわたし、不合格に——
と、その時——いつの間にか、わたしのそばにやって来ていたカガミおねえさんが、刀を地面に突き刺していた。
刀が刺さったところを見ると、腕があった。
刀に刺されているのに、それでもまだ動いているその腕は——これはおそらく、さっき魔法を当てた、あのゾンビの腕……
「気をつけてね、マユリちゃん。ゾンビは頭を破壊しないと倒せないし、切り離した腕も——こんな風に、動き続けるからね」
……そうだった、油断した。完全に倒したものと思っていた。
——そのことについては、すでに一度、ちゃんと聞いていたのに……あのスーパーにいた時に。
だけどまだまだ、そのことを実感できていなかった。そのことを、今まさに実感した。
——ダメだ……こんな体たらくじゃ、合格なんてもらえない……
——せっかく、せっかくこんな力を手にしても、これじゃ……
「それでさ、マユリちゃん——」
油断したね、これじゃ、合格はあげられないよ——。
と、そう言われるのかと思って、思わずわたしは身をすくませた。
けど——
「さっきのアレ……アレってさ、もしかして、魔法——的な、そういう、アレなのかな……?」
なにげない風をよそおいつつも、隠しきれない興奮をにじませた声で、カガミおねえさんはわたしにそう問いかけてきた。
「えっと……はい。そう、です」
わたしはなんとか、そんな風に返事をする。
「へぇぇぇぇ……そうなんだ。魔法——へぇ、魔法のカードとかもあるんだぁ……」
「……」
「魔法……あ、あのさ、マユリちゃん、これ、このカードって——」
「あの、わたし……」
「——ん?」
「わたし……不合格じゃ、ないんですか……?」
「え? なんで?」
「だって、わたし……油断して、腕に気がつかなかったから……」
「ん、……ああ、そーいう……。——いや、別に、それで不合格とか、そんなことはないよ」
「そう、なんですか……?」
「うんうん。——いや、今回見るのは、あくまでマユリちゃんがゾンビと戦えて、そして倒せるのかどうかだから。……それに——」
「……?」
「——いや、まあ、その……マユリちゃんのその能力は、それは、えっと、いったいどういう感じの、アレなのかな……?」
「それは……」
「教えて、もらえるかな?」
「あ、はい……わかりました。えっと、これは——」
わたしは不合格と言われなかったことに安心しつつ、おねえさんの質問に答えた。
。
。
。
わたしの説明を聞いたおねえさんは——
「ふぅん……なるほど。つまり、現実にあるゲームが元になってるんだ、その能力は」
「はい……このバングルも、カードも、どっちも見たことあるやつです」
「ふぅむ……『サモンスタードライブ』か……。聞いたことは……あったような気もするけど、詳しくは知らないなぁ」
「そう、ですか……」
「まあ、その原作のゲームについては今はいいや。問題は、実際に使える能力が、いったいどういう感じになっているのかだからね。——えっと、それじゃ引き続き、他のカードも色々と試してもらっても、いいかな……?」
「いいですけど……でも、その」
「ん?」
「あの……試すにしても、この青いゲージが、もう残っていないので……」
「ああ、なるほど。MPが……。えーっと、じゃあ、これを使って」
すると、わたしの目の前に画面が出てきて——そこには、なにやらアイテムが送られてきたと表示されていた。
「MP——青いゲージが減ったら、これを使って回復していいから」
どうやらこのアイテムは、青いゲージを回復させるアイテムらしい。
「これ、使ってもいいんですか……?」
「うん、いいよ」
「でも……」
「大丈夫。——いや、このアイテムはね、新しく手に入れたアイテムの装置で、なんか生産できるようになったから……だからまあ、遠慮せずに使っちゃっていいからね」
「……わかりました」
どうも、そんなに貴重なアイテムでもないってことを言いたいみたい……?
それなら……使わせてもらっちゃおうかな。
わたしは受け取ったアイテムを『使用』する。
すると、ほとんど無くなっていた青いゲージが回復していった。
——これでよし。
さて、それじゃ、次はなにを召喚しようかな……
考えつつもわたしは、とりあえず次のカードを引いてみた。
引いたカードを確認する。
【秘密の地下室】
種類——「特設」
等級——「3」
設営——「3」
収容——「5」
——ST——
LP——「5500」
防御——「2100」
——FT——
【隠密性の高い地下室を設営する。内部空間の広さや内装は、ある程度自由に変更することができるので、秘密の地下室なのに意外と快適に過ごせるともっぱらの評判である。※地面の状態に関わらず、だいたいどこにでも設置することができる】
——ギミック系か……それに、R3……
R3はまだ試してないけど、R2であれなら、3はたぶん、ゲージ満タンでも足りない気がする……
それにギミック系は、発動に時間がかかるカードだから……ゲームでは。
ここで使ってどうなるのかは、分からないけれど……今はすぐに効果を見たいし、これはやめておこう。
じゃあ次——
【飛行制御噴進鋼翼】
種類——「武装」
等級——「3」
対象——「人型」
——ST——
防御——「+1200」
速度——「+2」
——FT——
【噴射推進機構のついた、機械仕掛けの翼。装備者に高度な飛行能力を授ける。鋼の翼は軽量かつ頑丈で、防御装甲としても一定の用途に耐えうる強度を持つ。※運用の際は、1ターンにつき1ダースの燃料棒に匹敵するエネルギーが必要】
——アームズのカード、R3……
ゲームでは、単純に防御と速度のSTを上昇させるだけのアイテムなんだけど……
どうだろう、現実で呼び出したら、本当に空を飛べるようになる装備として出現するんだろうか……?
気になるけど……試そうにも、ちょうどいい星兵もいないし……
まあ、どっちにしろR3だから、そもそも呼び出せないか……
じゃあ、次——
【軽快な乗り物】
種類——「道具」
等級——「2」
乗員——「4」
——ST——
LP——「1800」
防御——「1200」
速度——「+1」
——FT——
【四本の足で軽快にどんな地形でも踏破してしまうナイスな乗り物。燃料棒1ダース分のエネルギーで2ターン動く燃費の良さもグッド。※ただし、乗り心地に関しては良好な保証はありません】
——これは……乗り物系か。
ランクは2……呼び出せなくはない、かもだけど……
今は乗り物とか必要ないし、それに——まずは星兵を呼び出したいからなぁ。
……いや、そうだ、今は別に、上から一枚ずつちゃんとドローする必要とかないよね?
カードバトル中じゃないんだから、好きなやつ選んで使えばいいじゃん……?
……そうだった。
デッキからR2の星兵カード探そう……
さて、どれがいいかな……
わたしが(デッキまるごと取り出した)カードの中から、どのカードにするか選んでいると——カガミおねえさんが話しかけてきた。
「あの、マユリちゃん……それで、その——」
「あ、すみません……今、どのカードにするか、考えてて」
「ああ、うん。まだ決まってないんだ?」
「あ、はい……ちょっと、迷ってて」
「さっき渡したアイテムは、遠慮なく使ってくれていいからね」
「あ、はい、ありがとうございます……」
「いやぁ、私もマユリちゃんの能力をしっかり見たいからね。だから——そう、一番強いカードとか、呼び出してみてもいいんだよ……?」
「……一番強いカード、ですか?」
「うん、そう。一番強いやつ」
一番強いカードといえば——このデッキの中では、やっぱりR3の星兵カードになるだろうか。
——どうもこのデッキには、最大でもR3のカードまでしかないみたいだし、そういうことになる。
R3の星兵カードは……五つある。
それぞれタイプや用途が違うから、一概にこれとは言えないけれど……
強いのと言えばやっぱり、コレか、コレかな……?
【はらぺこクマさん】
種類——「星兵」
等級——「3」
種別——「獣型」
戦技——「凶暴なる爪撃」「致命的な噛みつき」「野生の咆哮」
特性——「自己再生」
——ST——
LP——「4400」
AP——「2200」
攻撃——「3600」
防御——「3400」
速度——「2」
射程——「1」
——FT——
【飢えたクマ畜生である。すなわち凶暴なる狂獣である。高い筋力・攻撃力・耐久力、そして再生力を持つ、まさに怪物である。小さな街なら一匹で壊滅させられるくらいの、まさに生物災害なのである。出会ったところが、まさに相手にとっての生き止まりなのである……】
色々とふざけたカードだけど、その強さは本物。R3のカードの中ではかなり強い方のカード。
戦技も強力だけど、特に強いのは「自己再生」の特性。
毎回ターンが終わるたびにLPが回復するこの特性によって、ただでさえ多いLPも相まって、かなりの打たれ強さを発揮する。
だけど、コッチのカードも捨てがたい——
【可憐な魔法少女シャイニー】
種類——「星兵」
等級——「3」
種別——「人型」
特技——「鏡面円盾」「光輝能力」「光輝魔法」
特性——「光輝吸収」
——ST——
LP——「2700」
AP——「4500」
攻撃——「3600」
防御——「2300」
速度——「2」
射程——「4」
——FT——
【世界の平和を守るため、モフモフのマスコットと契約して、魔法の力に目覚めた少女。愛と勇気と友情を魔法の力に変えて、ひとたび変身すれば可憐な衣装をひるがえし、今日も人知れず悪と戦う。——シャイニーは希少な光属性の魔法に特化した魔法少女。聡明な頭脳と、どんなに過酷な状況でも冷静さを失わない強靭な精神力を合わせ持つ。まさに輝く才能を兼ね備えた少女である】
PMGは『サモドラ』を代表する人気カード。強さとしても、同ランク帯ではトップクラス。
シャイニーの使う光属性は、攻撃速度と射程に特に優れていて、それもまた同ランク帯のカードの内ではトップクラス。——特に、R3で射程が4もあるカードは、シャイニーを含めて数えるほどしか存在しない。
特性の「光輝吸収」も、本来は光属性の攻撃を受けるとAPを回復できるという特性だけど、それに加えて、晴天の日中に野外にいるとAPがターン毎に回復するという効果もあるので、かなり強力。
ただ、PMGはクマと比べたら防御が低くて、少し打たれ弱いのが欠点。その点は、クマの方がバランスがよくて弱点がない。
……まあ、どちらもR3だから、その分、召喚にはコストがかかる。
やっぱり、今のわたしには、R3のカードは召喚自体がまだできないんだと思う……
だとすれば、現状の最強カードは、R2ってことになるのかな。
手持ちのR2の中で一番強いのは……これか。
【凶暴な恐竜】
種類——「星兵」
等級——「2」
種別——「獣型」
戦技——「危険な噛みつき」「凶暴な突撃」
特性——「弱肉恐食」
——ST——
LP——「2300」
AP——「1000」
攻撃——「2100」
防御——「1800」
速度——「1」
射程——「1」
——FT——
【太古の時代より蘇りし暴虐の尖兵。強靭な顎と身体能力により、他の生物を駆逐し生態系の頂点に君臨した。ただし、知能は鳥並みである】
能力値だけ見れば、コイツなんだけど……いや、やっぱりコイツを呼び出すのはちょっと怖いかも。——だって最後の一文が気になるし……
となると、やっぱりこっち?
【骸骨兵士】
種類——「星兵」
等級——「2」
種別——「魔物」
戦技——「武器戦技1」「武器戦技2」
特性——「不死属性」
——ST——
LP——「1700」
AP——「800」
攻撃——「1200〜1400」
防御——「1000〜1200」
速度——「1」
射程——「1〜2」
——FT——
【標準的な強さの骸骨族の兵士。骨となってなお、仕えるべき主を探して彷徨う。だが、ひとたび主を見つけたとあれば、文字通り死兵となって忠誠を尽くし戦う。※所持武装は呼び出した個体によって異なり、ものによってSTの値が上下する】
ステータスは恐竜に劣るけど、やっぱりこっちの方が安心かな。
まあコイツもコイツでモンスターではあるけど……説明によれば、ちゃんと命令は聞くみたいだし。
それじゃ、とりあえず次は、コイツを呼び出してみるとしよう。