第139話 備えあれば憂いなし
体育館に戻った私は、さっそくこちらでの進捗を確認していった。
私たちが外に出ている間にも、こちらでは色々とやってもらっていた。——主に、藤川さんと越前さんに。
カノさんを通して二人にやってもらっていたのは、装置系のアイテムの設置と試運転だ。
カノさんには、その辺のアイテムについて色々調べてもらっていた。
したら結構——いや、かなり使えそうな装置が色々と見つかったので、さっそく購入して二人に試してみてもらっていたというわけ。
この装置系のアイテムによって色々と問題が解決しそうなのだけれど、中でも一番の成果はアレだ、消耗品の補充について。
三色のゲージを回復するポーション系のアイテムや、銃の弾など、現状ではポイントを使い購入するしか補給のアテがなかった重要な物資が、いくつか存在していたわけだけれど。
その問題を、装置は解決してくれたのだ。
というのも——なんと、装置系のアイテムを使えば、その辺りの消費アイテムを生産することができたのだ。
いやー、よかったよかった。
実際、毎回その辺のアイテムをポイントで買わなきゃいけないとなれば、だいぶカツカツになるような気がするし。
ポイントを節約するためにも、その辺のアイテムはできるだけ生産装置によって補給するようにしたい。
なので、とにかく早めに設置して稼働させて、稼働させて、稼働させまくろうというわけ。
まあ、ポイントは使わないとはいえ、この装置も無条件に使えるわけではないのだけれど。
この装置系アイテムに関しても、やはり動かすためのリソースというか、エネルギーみたいなのが必要になってくる。
では、何を使って装置を動かすのかというと……これも装置だ。
ミッション初クリアの達成報酬で、すでに手に入れていた、あの動力装置。
例の「守護君」を動かすのにも使っているこの装置、コイツが他の色々な装置を使う際にも、そのエネルギー源にすることができた。
じゃあそもそも、この動力装置自体はどうやってエネルギーを発生させてんのよ、という話になると思うんだけど。
それに関しては……正直、詳しくは分かっていない。
だってこの装置、稼働するのに必要なのが、「水」と「空気」と「太陽光」だけなんだもん。
なんかそれだけ聞くと、まるで植物かなにかみたいに思えるけど。——いや、なんか、見た目もどことなく植物みたいなんだよね……。
というわけで、この装置はひとまずの仮称としては「聖樹」と、そう呼んでおくことにする。
んでこれ、この「聖樹」。
これ、仮にエネルギーを作りすぎて使いきれてない分が出たとしたら、それを——まるで果実かなにかのように——エネルギーの結晶体にして生成するという、そんな機能まであるみたいだった。
——要は、使いきれないエネルギーは、勝手に電池みたいなのにして排出してくれるってこと。
この「聖樹」一つで、「守護君」はもちろん、他にもいくつもの装置を動かすことができるみたいだし、なんならそれでも全部のエネルギーは使いきれなくて、余剰分も発生しているみたいだし。
いやぁマジで、この聖樹さん、かなり重要なんだわ。
なにがヤバいって、これ、この「聖樹」で生成される余剰分のエネルギーの結晶体——これさ、ショップで売れるわけよ。しかも、なかなかの値段で。
つーことはですよ、モンスターを倒したりミッションをクリアしたりしなくても、これをせっせと作ってるだけでポイント稼げるし、それでレベル上げたりとかできるってわけなのよ。
いやそれ、ガチでヤバいじゃん。めっちゃ重要じゃん。ってなるじゃん。
そうなると私が考えることは一つ。「聖樹」の追加購入——つまりは先行投資だ。
こういうのは、早いうちからフル稼働でやった方が勝ちなのだ。
もちろん、最初の購入時には相当な量のポイントが減るだろう。だけど長期的に見れば、後々からはどんどん黒字になるハズだし、やらない手はない。
と、そう思ったのだけど……
結論としては、私が「聖樹」を追加で購入することはなかった。
——いや、だってコイツ、めっちゃ高かったんよ……
売ってはいたよ、ショップに。あるにはあったんだけど……
その驚きのお値段、なんと、一つ500,000P。
五十万ですよ、五十万。
いや、さすがに高すぎるわ……
まあ、それだけのPも持っていないわけじゃないし、買えなくはないんだけど……
他にも色々と使う可能性を考えると、おいそれと買える値段じゃない。
そう考えると、ミッションの初回クリア報酬でもらえる一つが、いかに貴重かということよ。
そうだね……それでいけば、一応、アテはあるわけだ。追加で入手するアテは。
そう——幽ヶ屋さんというアテが。
彼女もミッションをクリアすれば、報酬でコレが手に入るハズだ。
うん……だとすれば、今無理して追加で買う必要はないのかも。
まあ、装置系アイテムの動力についてはそんな感じ。
それで、購入して設置した装置についてなんだけど、ポーションや弾薬を作る装置以外にも、色々と入手した。
食料や水、電気などのインフラに関係するものとか。
装置で生産する際に使える素材を合成できる装置とか。
物資を収納しておける、内部の空間が拡張されているっぽい感じの倉庫的な装置とか。
他にも、装置ではないけれど、予備の武器(主に銃器類)とかも、購入して備蓄しておくつもりだ。
一気に色々と用意しすぎじゃねってくらいだけれど、一体どうしてそんな色々と用意しているのかというと……その理由を一言で言えば——保険だ。
つい一昨日に、謎の力を得た私——。
それによって、今のところはなんとか、この、それまでとは様変わりしてしまった世界でやっていけている私だったが——
そんな私が今、一番不安に思うことが一体なんなのかと言えば、何を隠そう、その力が失われることだ。
だって、ないとは言えないでしょう。
そもそもこの力自体、正体が謎だし、ある日突然なんの脈絡もなく手に入った力なのだから。
それならば、同様にして、ある日突然、なんの脈絡もなく無くなることだって、無いとはまったく言えない。
もしくは、そう……他のプレイヤーとの戦いに負けた場合なんかは、やはり力を失う可能性があるみたいだし。
——まあ、そもそもPvPで負けた場合は、もうそこで終わりだと考えていた方がいいと思うけど……
この力の有用性を、すでにこれ以上ないくらい思い知っている——そんな私だからこそ。
この力を失うことを、何よりもまず恐れざるを得ないのである……
しかし、正体が謎である以上、絶対の保証などない。
それでも……と、出来ることを考えた結果、思いついたのが、現物を揃えておくこと——だったというわけ。
降ってわいた力だから、この身に備わっている能力が、なんかいきなり消えてなくなったとしても、私は驚かない。(まあ、実際そんなことになったら、めちゃくちゃ狼狽えそうだけど……)
だけど、現物として出しておいた物資や装置に関しては——これなら、そうそう無くなったりはしないんじゃないの? と思うわけだ。
仮に、なにかの拍子に私の能力がすべて無くなったとしても、呼び出した物まで消えることはない——かもしれない。
そう思えばこそ、今のうちに色々と入手して設置しておこうというわけである。
というわけで、装置以外にも、備えとして他にも色々と買っておいた。
あとはそう、武器の改造で色々な機能をつけたのも、実のところその一環だったりする。
まあそもそも、ここを避難所として使っていくつもりなら、その辺の諸々はいずれは必要になるのだし、用意しておくことはぜんぜん無駄ではない。
なら早いうちから、備えの意味も含めてやっておけ、というわけ。
そんなわけで、これまた用心として、一部の人たちにはとあるアイテムを支給したりもした。
その一部の人たちとは、藤川ママンやマユリちゃん、そして会長さんなどの——私たちにとって重要な人物たちのことだ。
ママンやマユリちゃんには元からバリアシールを渡していたけど、アレもいつまで効果あるのか分からないし……、なのでこの機会に、会長さんとかにも追加で保険となるアイテムを渡しておくことにした。
渡したアイテムは、見た目は腕輪のようなアイテムで、これをつけておくと色々な効果があるらしい。
中でも一番の効果は、装備している人にプレイヤーのHPと同じようなバリアを発生させる、というものだろう。
シールと違って、こちらのバリアの効果は、時間経過でいずれ消失するという感じではないみたいだし。
他にも色々と機能はあるみたいだったけど——とりあえずそんなアイテムを、重要人物に限定して配布しておいた。
まあこれ、そこそこポイント必要な装備だったので……みんなに配るとかそんなのは無理です。
そんな感じで、色々なアイテムや装置を一気に出したりとかしてみたわけだけど……したら思わぬ誤算もあった。
うち一つの装置が、予想外にもけっこう重要な働きをしたのだ。
その装置は、元は諸々の電源を確保するのに使おうと入手した装置だった。
装置の効果については単純で、「聖樹から得たエネルギーを、電気に変換する」というもの。
これ一つで、周辺にあるあらゆる電化製品に給電・充電されるらしい。
しかもワイヤレスで。
いやまあ、普通はそーゆうのって、受信する側にもなんらかの備えが必要だと思うのだけれど……
そこはそれ、ショップで入手した謎技術の謎装置にかかれば、そんなの必要なかったのだった。
マジで、この装置の効果範囲内にいれば、スマホも勝手に充電されていくからね。——もちろん、充電コードとかどこにも繋いでいなくてもね。
あるいは、この体育館の照明とかその辺に関しても——仮に電線が切れたりして一帯が停電したとしても——この装置があれば使えるはずだ。
それだけでも凄いのだけど、この装置、副次的機能としてインターネットがオンラインになるという効果もあったのだ。
これによって今現在の体育館では、昨日のどこかの時点から使えなくなっていたスマホなどの通信機器が、再び使えるようになっていた。
なので現在の体育館内では、各自のスマホによる怒涛の安否確認ラッシュが起こっている。
こちらがオンラインになったとはいえ、連絡する相手の状態によっては、向こうがオフラインだから繋がらないということもある。
それでも場所によっては、まだネットがオンラインの場所もあるみたいで、連絡が取れている人もいるみたいだった。
かくいう私も、この機にスマホでいくつか連絡を取っておいた。(少し遅いお昼ご飯を食べながら)
まずは家族。前回の時と同じく妹の風莉に電話して、実家の様子を聞いた。
その結果、いまだに私の実家の付近では、まだゾンビも怪獣も現れていないらしいというのが分かった。
それには大いに安心したが——こちらの状況を思えば、いつまでもそれが続くとも思えない。
なので今度は私は、こちらの状況も含めて、風莉に色々と情報を伝えておいた。
私の話を聞いた風莉は——半信半疑な様子ながらも、ちゃんと理解してはいるようだった。
まあ、さすがにあれから三日目ともなれば、無事なところでも色々と情報は入ってきているみたいで、風莉も色々とネットとかで見ていたらしい。とはいえ、ほとんど信じてはいなかったようだ。
だけど、姉の私から、「これマジだぞ」って言われたので、——じゃあ、マジなのか……? と思い始めた、みたいな。
とりあえず、風莉を通して自分の家族には伝えるべきことを伝えたので、続いて私は、とりあえずこいつにだけは連絡しておかないと、という相手の連絡先をスマホに表示する。
その相手とは、小学校で転校していったマナハスとは違い、私の地元に一緒にいる、私のもう一人の、親友——いや、悪友と言える存在。
そんな相手に、私はスマホで電話をかけた。
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電話が終わった。
私は自分が知っている情報を、一部を除き、余すことなく相手に伝えた。
まだすぐには、私も地元に帰れる目処は立っていない。
なので、私が会いに行けるまで——それまで無事でいられるように……そう願って、私は今の私が伝えられるだけの事を伝えた。
ただ一つ——自分がプレイヤーという超人になったことについては、伏せておいたけれど。
それはなぜかと言えば……まあ、それまで話すと話がややこしくなるから伏せたというのも、もちろんあるのだけれど。
やはり、最大の理由といえば、もちろん——
会った時に直接見せて驚かせるためだ。
必ず会いに行って、そして直接、私は自分の能力を見せつけてやるつもりだ。
だから……だからそう……
……それまでは絶対に、死ぬんじゃねぇぞ……マリィ!




