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第138話 天翔ける聖女——白翼の軌跡



 というわけで、引き続き検証と試行のお時間です。


 ゾンビ相手に試したいことはあらかた試せたので、私たちは一旦、学校の中に戻ってきた。


 私がゾンビ相手に色々と検証している間、マナハスや幽ヶ屋(かすがや)さんたちには武器の改造やスキルのインストールをやってもらっていた。

 それも終わったので、次はみんなにスキルを試してもらうことにした。なので、まずは安全な校内でやるのが良かろうと思い、校庭まで戻ってきた。


 みんながスキルの練習をしている間には、私も私で、まだ試せていないスキルを試すつもりだ。

 そのスキルとは、一つは【気力操作】だ。

 これは南雲(なぐも)さんが初期スキルとして選んでいたスキルで、SP(スタミナ)の使い方に関するスキルだ。


 プレイヤーはそもそも、スタミナに関してはある程度、スキルがなくても使うことができる。

 しかし、デフォルトの状態で可能なのは、身体能力を大雑把に強化する“身体強化”と、武器の威力を強化する“武装強化”の二種類しかない。

 しかし、この【気力操作】というスキルをインストールすれば、スタミナをより高度に使いこなすことができるようになる。

 そうすると、色々と出来ることが増えるのだ。

 具体的に例を挙げると——


 まずは、“武装強化”を武器以外で——特に、自分の身体でも——発動できるようにする、「身体武装強化」

 これは簡単にいうと、素手での攻撃や、蹴りなどの威力もスタミナにより強化できる、というものだ。

 従来の“身体強化”は、あくまで膂力としての身体能力を強化するだけだった。

 この状態でパンチやキックをしても確かに威力は上がっているが、それはあくまで筋力的な威力上昇でしかない。

 しかし“身体武装強化”は、(こぶし)や蹴りの威力自体をスタミナで強化することができる。

 ……いや、正直——結局なに言ってるのか分からんけど? って感じだけど……


 分かりやすく言うと——


 “身体強化”は身体能力を()()()()強化する能力で——


 “身体武装強化”は拳や足をスタミナで()()()()(おお)って強化する——


 ……という感じ?


 要は、体そのもの(の一部)を“武装強化”する、ということよ。


 これは攻撃だけじゃなくて、防御にも応用できるからね。

 ——まあ、防御にはそれこそ【防御(ガード)】のスキルがあるけど、あれは使うと動けなくなるし……

 【防御】を使うまでもない時とかには、使えるかもね。


 ああそう、その【防御】のスキルとも関係しているんだけど、【気力操作】のスキルがあると、【防御】とかの別のスキルを使う時にも、より高度な使い方ができるようになるみたいなんだよね。

 【防御】のスキルって、普通は使うと全身をバリア的なアレが(おお)って、全身丸ごと動けなくなるんだけど……

 【気力操作】のスキルを使えば、そのバリアが覆う範囲を調整できるようになる。

 だから例えば、腕だけに【防御】を発動させるとかもできるようになる。

 そうすれば、腕は動かせなくなるけど他の部分は動かせるから、“防御”しつつ移動したりも出来るようになる。


 【気力操作】による、他のスキルの効果を調整する能力というのは、もちろん【防御】以外の他のスキルに関しても使える。

 ——【軽化(フロート)】で自分以外の物を軽くしたりとかも、【気力操作】のスキルによる調整が必要になる。

 そもそも、【固定(スパイク)】を足裏だけに発動させて空中ジャンプ的なやつをやるのだって、たぶんアレも【気力操作】の調整無しでは難しいと思う。

 そう考えると、この【気力操作】のスキルって、ほぼほぼ必須スキルだわ。

 ……てか、思い返してみると私って、このスキルをすでにだいぶ使っていたみたいね。


 【気力操作】はすでに色々と使っていたけど、まだ全然使ってみていないスキルもある。

 それがこれ、【気危察知】のスキルだ。

 ——ん? 危機察知ではないのか? と思うよね。

 このスキル、効果はどうやら、気配察知と危機察知の両方が合体している感じのスキルみたいなのだ。——なので、こんな名前にしてみた。


 この【気危察知】のスキルは、種類(カテゴリー)としては索敵系のスキルになるだろう。

 効果としては、「自分自身に向けられた気配、あるいは降りかかる危機を察知する」というもの。


 気配が具体的に何かというと——要は視線とか、敵意とか、殺気とか、そういうアレだ。

 つまり、こちらに向けられたなんらかの意識を(それも、攻撃的なものに対してより強く)感じとる、ということ。


 では危機の方はどうなのかというと、これは物理的な対象を指す。

 例えば、こちらに向けて勢いよく飛んでくる物体とかを(これも、攻撃的であるほどより強く)感じとるわけだ。


 このスキルを使っていれば、ほぼほぼ不意打ちはされなくなると言っていいと思う。

 さらには、こちらに意識を向けてきた相手を察知できるわけだから、索敵にも使える。


 では、このスキルがあれば警戒は万全なのかというと、そうでもない。気をつけるべき部分もある。

 いや、このスキルって、常時発動型(パッシブスキル)じゃなくて任意発動型(アクティブスキル)なんだよね。

 だから、使ってない時に攻撃とかされたら、普通に気づけないのだ。

 とはいえ、発動にはスタミナを消費するから、常に発動し続けるというわけにもいかないし……。

 なので、どのタイミングで使うかが重要になるスキルといえるだろうね。


 さて、他に使っていないスキルは、なにかあったかな……いや、アレがあったか。

 このスキルに関しては、いまさら特に解説する必要はないけどね。

 だって、越前(えちぜん)さんや藤川さんがすでに持っているスキルだから。

 ——そう、つまりは【銃術】的なスキルだ。


 まあ、念のためにね、一応、私も習得(インストール)しておくことにしたのよね。

 サブウェポンとして、HG(ハンドガン)とかSMG(サブマシンガン)くらいなら、持ってても邪魔にはならないし。

 場合によっては、刀よりも銃の方が効果的な場合もありそうだし。——人間相手の時とか、ね。



 まあ、そんな感じで。

 私はそれからも、色々とスキルとかを試した。

 私だけじゃなく、マナハスや幽ヶ屋さんたち三人も、スキルを試して練習している。


 幽ヶ屋さんたち三人は(すじ)がよくて、けっこうすぐにスキルを使いこなせるようになっていた。

 大きく飛び上がったり、壁を駆け上ったり、空中で反転したりと、なかなかの動きをしている。


 対して、我らが聖女様の方はと言えば……ぶっちゃけ、なかなかに苦戦しておられる。

 そもそもマナハスは、単純な“身体強化”による全力疾走にすら、いまだに難儀している有様だった。

 まあ、だいぶ練習したら、なんとかそれなりには出来るようになっていたけど、三人と比べたらまだまだ全然でございますね。


 だが、そこは我らがマナハス、彼女が一番上手くできていた種目もちゃんもあった。

 それは“空中機動”——要は飛行に関する分野だ。

 マナハスはこの場の全員(私を含めて)の中で、一番空を飛ぶのが上手かった。

 それこそ、例の翼を背中に広げて、プカプカ、フワフワ、スイスイと、空中を自在に飛行していた。


 どうやら聖女様は、新たに覚えたスキルを使うことで、ほとんど自在に空を飛ぶことが可能になったみたいだった。

 元々、何かに乗れば空を飛べた彼女だが、今やそんな必要もなく、その身一つで自在に宙を舞っている。——翼を広げて。

 や、なんか、マジで翼があった方が操作がやりやすいらしい。

 本人はなんか悔しそうにしてたけど……どうもそうらしいです。


 彼女がアレほど——それこそ、私たちの中で一番に——上手く空が飛べているのは、どうも魔法の“念力”が関係しているみたい。

 スキルだけで空を飛ぼうとすると、実際なかなか難しいのだけれど、彼女はそれに加えて“念力”という推進力が使える。

 それこそ、【軽化(フロート)】だけ使って体を軽くしてしまえば、あとは念力で操作すれば、どうとでも飛べるって感じ?

 その際に、その念力の受け皿として、翼が役に立つってわけね。

 いやぁ、やっぱり聖女に翼は必要だったんだね。

 これには聖女の第一の信奉者さんもニッコリです。



 その後も私たちは、スキルを存分に練習した。

 ある程度慣れてきたら、また学校の外に出て、ゾンビとの実戦を通して試していったりもした。

 それも終わる頃には——幽ヶ屋さんたち三人も、一端(いっぱし)の聖戦士と呼べるくらいの練度になったと思う。


 十分に練習できたので、私たちはそろそろ体育館に戻ることにした。

 ——ただ、戻る前に、私は幽ヶ屋さんと協力して、最後に色々と検証を行った。

 その内容は——幽ヶ屋さんが現れたことで試せるようになった——他プレイヤーとの間の諸々の仕様のアレコレである。


 検証の内容を細かく上げていけば——他プレイヤーがマップにどう映るのかとか、他プレイヤーに【解析】を使ったら何が判明するのかとか、色々あるけれども。

 一番に確認しておかないといけないのは、当然、PvP(対プレイヤー戦)に関する仕様である。


 プレイヤー同士が戦った場合、勝敗はどういう風に決定するのか。そして、敗北したプレイヤーは、一体どうなるのか。

 プレイヤー同士の戦いでは、ポイントはどう変動するのか。

 それを知っておくのはとても重要なので、早いとこ検証しておこうと思って、この機会にやっておいた。


 PvPの仕様については、一応、ウィンドウで調べたら大体のところが判明した。

 なので、幽ヶ屋さんと一緒に検証したのは、実際にやった場合にどうなるかの細かい部分についてだ。

 それに関しては、実際に試す相手として私以外のプレイヤーがいないと無理なので、幽ヶ屋さんの協力が必要だったのだよね。


 それでは、具体的なPvPの仕様については、どうなっていたのかというと——

 結論から言えば——PvPは普通に可能であり、敗北したプレイヤーは、勝者側のプレイヤーに、自身の生殺与奪の権利を含む、すべてを奪われることになる——ということが分かった。

 ここでいうすべてというのは、もちろんポイントについても含まれているし、その他のアイテムなどについても同様であった。(ただ、この場合のアイテムというのは、あくまでアイテム欄に収納しているアイテムに限られるみたいだったけれど)

 それどころか、“すべて”の中には、プレイヤーとしての能力そのものについても含まれていた。


 どうやら、PvPに勝利したプレイヤーは、敗者の「プレイヤーとしての能力」自体を消すという処置も可能となるようだった。

 まあ、そもそも戦いの結果として、相手を死に至らしめることもあるわけで……そうなれば当然、能力どころか、命を含むあらゆるものが失われるわけだけど。

 そう、PvPで相手を殺してしまうのも普通に可能のようだった。そしてその場合も、相手の持っているポイントやアイテムがすべて手に入るようだ。

 いや、それどころか、それに加えて、倒した相手の強さ(レベル)に応じた報酬(という名のポイント)すら手に入るみたいだ。


 だが、倒した相手を殺さずに降参させたりとか、そういうのも可能みたいだった。

 その場合も、相手のポイントやアイテムを徴収することが出来るし、さらには、特殊な契約を結んで自分の配下に組み入れるみたいなことも可能となるみたいだった。

 これは、パーティー契約とも似たシステムで、敗北させたプレイヤーと結ぶ特別な契約だ。

 この契約も、勝者側のプレイヤーにすべての権利があり、敗者は完全にその支配下に置かれる。


 まあ、結局のところ、他のプレイヤーとは普通に敵対することが可能だし、倒せばモンスター同様にポイント(やアイテム)を獲得できたりと、分かりやすい()()()()すらあるということが分かったわけだ。

 さーて……そうと分かったからには、他のプレイヤーには十分に気をつけないといけない、ということだね。



 検証も終わったところで、私たちはいよいよ体育館に戻った。

 その際には、避難してきた時の車に載せてきた荷物についても、ついでに回収しておいた。

 もいっこついでに、香月(かつき)さんと藤川ママンの車も、学校の中に運び入れておくことにした。

 いつぞやと違い、今度は普通に二台とも“収納”することができたので、運ぶのに苦労することはなかった。——やっぱり……誰も乗っていないなら、車だって回収できるみたいね。


 そんなわけで、たくさんの荷物(+車)も、全員で分担してアイテム欄に収納して——

 私たちは手ぶらで、体育館まで帰ってきたのだった。


  

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