第136話 それは意外と重要な発見であった——
とりあえず、襲ってきた鳥ゾンビは、私の放った技——【飛刀乱舞】によって全滅した。
この技については、特に説明するほどのものではないんだけどね。
要は、投げつけた刀を【飛刀】のスキルで操作して、そこらを飛び回らせるというだけだから(笑)。
正直、スマートさのカケラもない技だと自分でも思うけど……別に、ちゃんと敵が倒せたならそれでいいよね。
まあ、無傷で鳥を全滅させられたのは、聖女様の魔法による“炎の壁”があったおかげだけど。
ただ、その“炎の壁”について、ちょっと気になったことがある。
いや、さっきも思ったんだけど、普通ならこの魔法だけで、鳥ゾンビを全滅させられるはずだったのだ。
——完全に避けてたわよね、アレ。……まあ、普通に考えたら、動物が火を避けるのは当然だけれど。
や、まあね、普通だったら、あんな炎の中に自ら飛び込む方がおかしいのは分かるよ。
特に動物は、本能的に火を恐れるというしね。
だが、敵は動物は動物でもゾンビなのだ。
ゾンビは何かを恐れたりしない。
少なくとも、今まで見てきたヤツらの行動の中に、何かを恐れるといった感じの行動を見ることはなかった。
私が刀という刃物を構えていても、お構いなしに襲いかかってくるし。隣のゾンビがいくらやられようが気にすることなく、一切怖気づくことなく自分も特攻してくる。
それがゾンビの特性であり、恐ろしいところだった。
だがさっきの鳥ゾンビは……?
ヤツらは明確に、火を恐れていた。
——いや、実際に恐れたのかは分からない。
でも確実に、火を避けていた。
これは……もしかしたら……
とある推論に至った私は、それを確かめるために、改めて学校の敷地内から外へ出ると、ゾンビのいるところへ向かった。
ゾンビを前にして、私は刀を抜いた。
そしてその刀を、聖女様の前に差し出す。
聖女様——マナハスは、右手に杖、左手に魔導書を持ち、魔法を詠唱すると、私の差し出す刀に向けて杖を振った。
すると——ボウッ、と、私の刀が炎をまとい、燃え上がった。
『“……マナハス、これが——”』
『“——ああ、これが、炎属性を武器に付与する、炎属性の付与だ……!”』
なんと、彼女はそんな魔法も使えたのだ。
なので、今回の検証にはちょうどいいと思って、試してもらった。
私は、刀身がメラメラと燃え上がり五割増しくらいにカッコよくなった刀を携えて、ゾンビに相対する。
刀を正眼に構える私に、ゾンビは近寄ってきた、が——
しかし、一定の距離を取ったところで止まった。
私は“炎の刀”を突きつけるように構えたまま、ゾンビに近づいていく。
するとゾンビは、私から離れるように、緩慢な動きで後ろへと下がっていった。
これは、やはり……そういうことなのか……?
それから私は、炎の刀をゾンビに使って、色々と試していった。
結果——様々なことが判明した。
結論から言うと、どうやら、ゾンビは火を避ける性質がある——みたいだ。
炎を近づけたゾンビは、例外なくソレから距離を取ろうとする。
一応、魔法の炎が特別なのかもしれないと思い、後から普通の炎でも試してみた。
——適当な道具で有り合わせの松明のようなもの(棒に油を染み込ませた布を巻きつけた的なやつ)を作り、それにライターで火をつける。
ソレを近づけてみても、ゾンビの反応は同様で、やはり避ける。
なので、どうやらゾンビは、炎全般を避ける性質を持つらしい、と分かった。
それだけじゃない。
私は炎の刀を使い、ゾンビを色々と攻撃してみた。
その結果、ゾンビに対する炎による攻撃は、どうやら普通の攻撃とは違う効果を生むということも分かった。
具体的に例を挙げると——
まず一つ目——「炎攻撃のダメージを一定以上加えれば、ゾンビは弱点の頭部が無事でも倒せる」
実は、炎の刀でゾンビを攻撃したら、頭部を破壊しなくてもゾンビを倒すことができたのである。
通常なら、ゾンビはどれだけ攻撃しても、頭部が無事な限りは動きを止めない。——すなわち倒せない。
しかし、炎による攻撃のダメージが一定以上加わると、頭部が無事でもヤツらは動きを停止させた。
その状態のゾンビは、マップや【解析】でも倒したという扱いになり、回収も可能になるので、倒せたということで間違いない。
あるいは、ゾンビにとっては、炎のダメージそれ自体が弱点なのかもしれない。
——ゆえに、頭部という弱点をつかなくても、倒すことができる……とか?
もう一つ——「炎の攻撃によって切断された部分は、本体が無事でも動くことはない」
というのも、試しに炎の刀でゾンビの四肢を切り落としてみたら、切り離された四肢が(本体が倒されてなくても)動かなかったのだ。
通常なら、ゾンビは本体が無事な限りは、切り離された四肢すら動き続ける。
しかし、炎の刀で切り落とした四肢は、その限りではなかった。
これらの現象に関して、もう少し詳しく検証するために、私はとある機能を刀に追加した。
その機能とは、「刀身に高熱をまとわせる」という機能だ。
この機能を発動すると、刀は赤みを帯びて、かなりの高熱を発する。
その状態で斬れば、単純に刃で斬るだけでなく、超高温で溶かし切るようなことも可能になる。——つまり、それだけの熱を発しているのである。
ひとまず「赤熱刀」と名付けたこの機能を追加したのは、ゾンビに対して効いているのが「炎」なのか「熱」なのかを調べるためだ。
もっと言えば、この赤熱刀でゾンビを斬った場合に、炎の刀と同様のことが起こるのかを検証したかった。
その理由としては、いくつかあるのだけど……一番の理由は、これが炎の刀と同等の効果をゾンビに対して発揮するなら、かなり使えると思ったからだ。
単純にゾンビを倒しやすくなるし、それに、コスパの面で炎の刀よりこちらの方が優れているので。
——だってこの機能、スタミナ消費で発動できるからね。
それに、炎の刀はマナハスの協力がいるけど、こっちは自力でいけるわけだし。
いや、実はマナハスの魔法がなくても、私にも炎の刀は使えるみたいなんだけど。
いやね——刀の改造の中にも「属性追加」みたいなヤツがあったから……。そこで炎を選べば、私も自分で炎の刀を発動できるようになるっぽかったんよ。
ただ、この改造って制限もあって、どうやら一つの武器には一つの属性しか追加できないみたいで。
しかも、他の改造と競合する場合もあるみたいなのよね。
というのも、すでに私の刀には「非殺傷モード」を追加しているわけだけど、これと「属性追加」の項目って競合するみたいなんだよ。
つまり、すでにスタンモードを追加している私の刀には、属性を追加することはできないわけよ。
——ただ、赤熱刀に関しては、これとは別の項目だったので、すでにスタンを追加している刀にも追加できた。
前置きが長くなったけど、そういう諸々があったので、赤熱刀が炎の刀と同等の効果を持つかを調べるのは重要だったのだ。
んで、検証の結果はどうだったのかというと——
バッチリおっけーでした!d( ̄  ̄)
赤熱刀でも炎の刀と同様の効果が確認されました……!
これで……これからはこの機能を使うことで、もっと楽にゾンビを倒せるようになる……!
攻撃力が上がるというのはもちろんなんだけど……これの一番の利点は、無理に頭部を狙う必要がなくなるということだ。——これは実のところ、かなり大きい。
昼間はともかく、夜のゾンビ——それも大量のゾンビとの戦いを想定したら、この機能があるとないじゃ天地の差が生まれるだろう。
それこそ、昨日の夜の、大群のゾンビと戦ったあの時にこの機能があれば……もっと楽に戦えたに違いない。
ただ、赤熱刀と炎の刀でも、一つだけ違う部分がある。
それは——ゾンビが避けるのは炎であって熱ではないので、炎をまとう炎の刀を構えていれば、それだけでゾンビがこちらを避けていくが、赤熱刀にはその効果はない、ということである。
まあ……あとは普通に、燃える剣はクッソ目立つよね、というのもある。
さて、それでは今回の検証で判明したことをまとめると——
・ゾンビは炎を避ける。
・炎(熱)による攻撃なら、弱点(頭部)を破壊しなくてもゾンビを倒せるし、切り離した部位が動くこともない。
という感じ。
ともかく、今回の検証によって炎(熱)はゾンビに対してかなり有効と分かったので、赤熱刀は新機能として正式採用し、今後も刀には搭載しておくことにした。
まあ、そうは言っても、搭載するのはあくまで片方の刀だけだけどね。
——もう片方の刀には、別の機能を搭載している。
実は、改造項目の中には刀の数自体を増やすという項目もあったので、私はすでにもう一振り、刀を増やしている。
というかそれ以外にも、刀には色々な改造を一気に行っている。
てか、一気にやり過ぎて、まだちゃんと把握できてない感じだし……
一回しっかり確認しておいた方がいいかも。
よし、それじゃ次は、改造した刀の機能を確認しておくとするかな。