第135話 新たなる魔法の夜明け——
さて、とりあえず、ざっとだけど覚えたスキルはだいたい試せた。
まだまだ使いこなすには練習が必要だろうけど、ひとまずの確認はできたといえる。
ひと段落ついたと思った私は、ここらで一度マナハスの魔法も見ておこうと、彼女の元へ向かった。
いやー、さっきからマナハスも本格的に魔法の試し撃ちをやり始めたから、気になってたんだよね。
すると、私が近寄ってくることに気がついたマナハスが、念話で話しかけてきた。
『“お、スキルを試すのは終わったの? なんかすごい動きしてたけど”』
『“うん。まあ、ある程度は確認できたかな。まだまだ練習は必要だと思うけど。——へぇ、すごいって、どんな動きだった?”』
『“いや、まんまアクション系のゲームのキャラみたいな動きっていうか。なんか物理法則を色々と無視してる感じだったし”』
『“それはまあ、覚えたスキルを色々使ってたからだろうね。——んで、そっちの方はどう? 魔法の試し撃ちは”』
『“ああ、このマトが出来てからは、やりやすくなったわ。お陰でいい感じに試せてる”』
『“うん……それで、この壁はなんなの?”』
さっきからマナハスがバンバン魔法を撃ち込んでいる先には、なんか壁があった。
それは、グラウンドの地面からいきなり生えてきたかのように、校庭のただなかに鎮座していた。
もちろん、最初からこんな壁がこんなところにあるはずがないので、一体これはどこから出てきたのかって話になるんだけど……
『“これ? これは……まあ、アレだよ。たぶん、土属性だか地属性だかの魔法を使って作った、いわゆる防壁的な、そういうアレ”』
『“……マジ? 属性魔術ってこと?”』
『“おう、そーだな”』
『“属性魔術——やっぱりあったんだ”』
『“あったんだよ。ああ、もちろん地属性以外に他の属性もあったぞ。とりあえず、基本四属性的な、「火」「水」「風」「地」って感じのやつは使えたわ”』
『“マジ!? ちょっ、見せてよ!”』
『“いいぜ〜。んじゃ、まずは「火」の属性からね。——これは、火の弾を飛ばす……まあ、ファイアショットって感じの魔法かな?”』
そう言ってマナハスは、右手に杖、左手に魔導書を構えると、壁に向かい集中していく。
すると、杖の先に青い魔力の光が生まれた。
と、思ったのも束の間、青い光はすぐにメラメラと燃える炎に変化した。——その形状は、先端が尖ったような感じで、確かに矢弾状であった。
『“いくぞッ!”』
その掛け声と共に、杖の先より放たれた炎弾が土壁に激突する——!
ドンッッッ——!!!
派手な音と共に、土壁の表面が爆ぜた。
……なかなかの威力だ。
これはどうも、あの虎に使った炸裂魔力弾よりも強力そうじゃない……?
『“すごい威力だね……!!”』
『“まあなー! いやまあ、どうも炎系が威力は一番高いみたいだから”』
『“なるほどね。んじゃ、炎以外はどうなの?”』
『“そうだな……炎以外も、それぞれ属性ごとに特色がある感じかな。じゃあ、次は風の刃を飛ばす、ウィンドカッター的なやつな。——炎が高威力だとしたら、風は高速なのが特徴かな〜”』
そんなことを言いつつ、マナハスは再び魔法を放つ態勢となった。
またもや杖の先に集まる魔力——それは次第に形を成していき、渦巻く風のようなものに変貌した。
『“そいっ!”』
合図と共に、不可視の風の刃が(おそらくは)杖より放たれ、一瞬の間もおかずに土壁に到達し、その表面を切り裂く。
ザシュッッッ——!!!
壁の表面には、大きな斬撃痕が刻まれていた。
『“速い——ッ! しかも、風の刃だから見えないわけか……いや、これはヤベェな……”』
『“速度は風が一番だな。一応、斬撃の「刃」以外にも、弾状の攻撃とかも出来るけど、たぶん、一番「風」と相性がいいのは、やっぱり斬撃技だと思うわ”』
『“へぇ、他の形状でもいけるんだ”』
『“まあね。んじゃ、次は「水」だけど……これは、あんまり攻撃向きじゃなさそうなんだよなー”』
『“まあ、確かに”』
『“水はむしろ防御向きなんだと思う。だから次は、水の盾——ウォーターシールド的なやつね”』
マナハスは三度、魔法の準備をする。
程なくして、杖の先にはどこからともなく水が湧き出す。それは、円形に薄く広がって空中に止まると、まさに盾のようにマナハスの前方に浮遊し続けていた。
『“強度としては土の防壁の方が硬そうなんだけど、こっちの方が発動は早いし、こっちはなんかクッションみたいな使い方も出来るんじゃないかと思う”』
『“なるほどね。——これ、ちょっと試しに攻撃してみてもいい?”』
『“おう、いいぞ。私も気になるし、やってみてよ”』
マナハスも許可してくれたので、私はさっそく刀を抜き放つと、振りかぶって水の盾に向けて思いっきり投げつけた。
バシャッッ——!!
私の刀は水の盾にめり込み——そのまま止まった。
『“あら、止まっちゃった”』
『“お、バッチリ防げたな”』
私は刀に向け手をかざすと、【飛刀】のスキルを発動してこちらへ引き寄せようとする——が、刀は水の盾にめり込んだまま抜けなかった。
『“——お? アンタ、今なんかやってる?”』
『“あ、うん。刀を引き寄せようとしてるんだけど……なんか動かせないや”』
『“へぇ、それもスキルなの?”』
『“そうそう”』
『“なるほど……。——うん、どうやらこの水の盾、触れたものをこんな感じに拘束したりとかできるみたいだわ”』
『“マジか。それは、なかなか……”』
今の私の攻撃、わりと全力の攻撃だったんだけどね……。
スタミナ使うのはもちろん、パワードスーツの力も全力だったし、それに加えて、ついさっき覚えた攻撃スキルも使っていた。
——投げる瞬間に、【進撃】を使ってさらに加速させたのだ。
しかしそれも、マナハスの新魔法「水の盾」にかかれば、いともあっさりと防がれてしまうのであった……。
しかも、そのまま武器を封じられるオマケ付きという……
やー、やっぱり魔法の強さはケタが違ぇや。
『“……それで、最後は地属性だっけ?”』
『“そーだな。——あ、いや、地属性についてはもう使ってるって”』
『“え——?”』
『“いや、ほら、さっきから攻撃を撃ち込んでるこの壁、これが地属性の魔法なんだって”』
『“あ、そうだったね。……え、てかこの壁も魔法で作ったやつなんだよね? ——これは、なに? ずっとここに残ったままに出来るってこと?”』
『“あー、いや、そうじゃないよ。まあ、そこは地属性の特徴というか。地属性は防御向きで、しかも持続時間が長いのが特徴なんだよね。——まあ、最大まで魔力を込めてみたってのもあるけど。その分、頑丈さと持続時間は他の属性と比べても一番ってわけ”』
なるほど……なんとなく、各属性の特徴が分かってきた。
攻撃、速度、防御、持続性——属性ごとに、その辺の得意不得意があるわけか。
私は、“水の盾”が解除されて動かせるようになった刀を引き寄せてから鞘に収めつつ、改めてマナハスに魔法についての感想を伝える。
『“いやぁ、なかなかすごいね、新しく使えるようになった魔法。やっぱりジョブを得てからの魔法はひと味違うね”』
『“そうだよな。まあでも、これでもまだほんの一部なんだけどね”』
『“マジ? 魔法ってそんなに種類たくさんあるの?”』
『“うん、そう、めっちゃ色々ありそうな感じ。ただまあ、今の私の力量で使えそうなのは、まだまだ全然少ないけどね”』
『“そっかー。でもそれはそれで、先が楽しみだね”』
『“それなー。てか、今試してるのもゆうて「魔術」だけだし、他にも「奇跡」と「呪術」もあるわけだしね”』
『“あ、そーじゃん”』
『“マジで、魔術や奇跡はともかく、呪術とかコレ、どっから手をつけたらいいのかも分かんねーわ”』
そういやこの人、三種類の魔法を使えるんだった。
いやー、これ、使える魔法をちゃんと把握するだけでも、そーとーかかりそーじゃない?
——それはそれで、頼もしくもあるんだけどね。……ま、その辺はゆっくりやっていくしかないんじゃない。
ま、それしかないよね。
それでー、カノさん、そっちの様子はどうっすか?
——まあ、こっちもぼちぼちといったところかしら。確認して、設置して、試運転して……その繰り返しね。
問題はなさそう?
——今のところはね。今後どうなるかは分からないけれど。
なるだけ早めにやっておきたいからね……多少の問題があっても、一通りは終わらせてしまいたいね。
どうやら、カノさんに頼んでいる方も、今のところは順調のようだ。
カノさんには主に、体育館にいるメンバーとやり取りしてもらっている。
向こうも向こうで色々と進めているのだ。
それに関してはまあ、向こうに行った時に確認するとしよう。
ある程度は確認できたので、続いて私たちは、新たに覚えたスキルや魔法を実戦で試すために、学校の外へと出ようとした……のだけれど——
『——“敵襲! これは……鳥ゾンビね、群れで来るわよ!”』
邪魔が入ったのだった。
ふぅ……また鳥か。
あれか、そこそこうるさくしてたからかなぁ。
まあいいや、それならそれで、コイツらを相手に試せばいいじゃん。
外のゾンビの前に、コイツらで試し撃ちしてやろう。
今の私たちなら、鳥が来たくらいで慌てることもない。
さて、それじゃ、どうやって倒すか——
『“おい、また鳥が来たみたいだな。——私の出した音に引き寄せられたか……”』
『“ああ、まあ、鳥くらいどうとでもなるでしょ、今の私らなら”』
『“まあ、そうだけど。——んじゃ、コイツらは私に任せてくんない?”』
『“いいけど……一人でやるの? どうする気?”』
『“まあね、ちょっと試したいことがあるから”』
『“はぁ、了解”』
そんなわけで、なんかマナハスがやる気だったので、彼女に任せることになった。
私と、それから幽ヶ屋さんのパーティーの三人は、グラウンドの端によったマナハスのそばに来ると、彼女の後ろに隠れるように集まった。
鳥はもう、すぐ近くまで迫ってきている。
マナハスはすでに魔法の準備を終わらせていた。
そして、鳥の襲撃に合わせるように、その魔法を発動する。
『“そおいっ——!”』
ゴウッッッ——!!!
そんな掛け声に合わせて——マナハスの前には、炎でできた壁が生まれていた。
これは——っ!
炎属性による防壁……?
——ッ! な、なるほどっ! これなら、防御と攻撃が同時に行えるってわけか——!
鳥ゾンビは数が多いし、同時に襲ってきたらなかなか対処が面倒だ。
いくら向こうの攻撃が弱くてほとんど効かないとはいえ、顔面などの弱点を狙われる場合もあるし、なるべく攻撃を食らわないに越したことはない。
それゆえの防御である。——だが、さらにそれが攻撃も兼ね備えているとしたら……?
すなわち、それが最適解——!
これぞ、鳥ゾンビの対処法として最善!
見つけちまったな、最強の攻略法を……!
事実、鳥ゾンビ共は、その尽くが炎の防壁に突っ込んで、あっという間に全滅——
……あれ、ちょっと、アイツら……
——全滅してないわね。……というかアイツら、炎を恐れてこっちを避けてない?
炎が邪魔でよく見えないので、“視点操作”のスキルで視点を飛ばして確認してみると——
ああ、うん……。なんかめっちゃ炎にビビって距離取ってるわ。
お陰で全然倒されてないわ。
『“……あ、アレ? うっそー? えー、マジ……? ……これならバッチリいけると思ったんだけどなぁ……”』
マナハスもそれに気がついたようで、残念そうに念話でボヤいた。
『“いや、私も、「これ完璧じゃん」って思ったよ”』
『“だよなぁ? マジで、ベストアンサー出したと思ったんだがー”』
『“てか、ベスト過ぎたって感じじゃない? ベスト超えてハーベスト、みたいな?”』
『“セサミかよ……くっそー、これじゃ意味ねー、倒せてねーじゃん……!”』
『“ドンマイ。——まあ、しょうがないから、あとは私に任せてよ”』
『“ぐぬぅ……”』
『“まあまあ、防御としては完璧なんだし……だから、そんな落ち込まんといてーや”』
私はそう雑に慰めると、刀を抜き放った。
まあ実際、鳥がこっちに来ないから攻撃に専念できるし、その点はちゃんとグッジョブだからね。
それに、そのまま倒せたら私の出番もなかったわけだし。
つーわけで、ここは私にも、新スキルでちょっとやらせてくれよな。
せっかくこうして、空飛ぶ相手にもそこそこ使えそうな技覚えたんだし、さ。
私は刀を肩に担ぐように振りかぶると、飛び回る鳥ゾンビに向けて、思いっきり投げつけた。
そして間髪入れずに、スキルを発動する——
おらっ、荒れ狂えッ——【飛刀乱舞】ッッ!!