第131話 ラケットは凶器! 狂気のテニスバトラー爆誕(爆)
さーて、それじゃ幽ヶ屋さんも終わったので、いよいよ大本命リコちゃんの番ですよ。
幽ヶ屋さんにより一帯のゾンビが居なくなってしまったので、私たちはゾンビを目指して移動していく。
南雲さんと幽ヶ屋さんに関しては正直、心配していなかった。この二人は多分大丈夫だろうと思ってたし、実際そうだった。
となると、やっぱり一番気になるのはリコちゃんだ。特殊な出自の二人と違って、一人だけ一般人出身の彼女。……いやまあ、使う武器はこの子が一番特殊なんだけど。
その点でも、やっぱり一番気になるのがリコちゃんだよねー。
いや、マジでさ……そのテニスラケットは、実際のところ、どんな風にして戦うんすか?
まあ、その答えは、これから明かされることになるだろう……。
ゾンビの居る辺りに着いたので、リコちゃんが戦闘態勢に入る。
フラフラとこちらへやって来るゾンビに相対しているリコちゃんは、左手に持ったテニスボールを地面にトントンと何度か打ち付けていたかと思ったら、徐にボールを上に放り投げて、ラケットを振りかぶると——
「はあッッ——!!」
そのものテニスのサーブの動きで、振り抜いたラケットによってボールを打ち出した。
打ち出されたボールはかなりの速度で飛翔して、見事にゾンビに命中——その頭部を粉砕した。
ゾンビの頭部を粉砕したボールは、跳ね返ってリコちゃんの元に戻ってくる。
彼女はボールに近寄って行きながら立ち位置を調整すると、右手のフォアハンドストロークにより再びボールを打つ。
打ち出されたボールは次なるゾンビの頭部に命中し、それを粉砕すると同時に彼女の元へ跳ね返る。リコちゃんはそのボールへ駆け寄ると、先程と同様にラケットをスイングしてボールを打ち返していく。
そうして打ち出されたボールはやはり、次のゾンビの頭部を吹き飛ばすのだった。
彼女の戦う姿はまるで、普通にテニスをプレイしているかのようだった。
しかして打ち出されたボールの威力は凄まじく、かつ狙いも完璧であり、毎回ピッタリとゾンビの頭部に命中するや、粉々に破壊してその中身を道路にぶち撒けていく。
そうして彼女は、まるで普通にテニスをプレイするかのように、ラケットでボールを打ち返していく。
そして、彼女が一打ちするごとに、一体のゾンビが始末される。
彼女はほとんどその場から動くことなく、それでいてバラバラな位置や距離をフラフラしているゾンビ共に対して、次々と正確にその頭部を吹き飛ばして始末していった。——それも、スタミナはほとんど使用せずに。
どうやら、ショップで購入したラケットとボールによる打球の威力は、普通では考えられない破壊力になっているようだ。——それこそ、ゾンビ程度の頭なら、スタミナで強化せずとも軽々と粉砕できるくらいに。
だとすると、スタミナを使用した打球の威力とは、一体どれほどだというのだろうか。
その疑問に答えるように、リコちゃんはスタミナを使った戦闘を開始した。
周囲から続々と集まって数を増していくゾンビ達に対抗するために、彼女は“身体強化”を使用して上昇した身体能力によって溌剌と動き回り、ゾンビを翻弄していく。
「せやッ、たぁッ!」
さらにはそうして動きながらもラリーは続いており、周囲360度に目まぐるしく飛び交うボールが、ゾンビを彼女の場所まで到達させない。
そこにたどり着く前に、みな尽く倒されている。
さらに、彼女は“武装強化”を使い、ラケットにスタミナパワーを浸透させて打つ。
その状態で打ったボールの威力は、ラケットより伝導したパワーにより大幅に強化されていた。
まとうパワーにより発光するボールの威力が一体どれほどかと言えば——ゾンビを数体まとめて貫通してなお余りある威力だ。……これなら十分に怪獣相手にも通用しそうだ。
というか、なんやかんやいってリコちゃんが一番ゾンビの殲滅速度が速い。
遠距離もいけるから近接オンリーの南雲さんより速いし、矢を回収したりロスタイムのある幽ヶ屋さんよりも、ボールを打ち返すだけのリコちゃんの方がやはり速い。
——てか普通に、矢を連射するよりラリーの方が速ぇもんコレ……!?
ちなみに、打ったボールがピッタリと彼女の位置に返ってくるのは——彼女の打ち方の妙もあるだろうが——ボールとラケットに搭載された機能によるものだ。
武器の改造により、ラケットには「ボールを引き寄せる機能」が、そしてボールには「何かに当たった時に、こちらの方に跳ね返る」という機能が搭載されている。
なので、ゾンビに命中させればゾンビを倒しつつボールは戻ってくるし、仮に外しても地面や壁に当たった時点でこちらに戻ってくるし、ラケットで引き寄せることも出来る。
更には、ボールには幽ヶ屋さんの矢と同様に瞬間移動によって回収する機能も搭載している。なので、場合によってはアポートにより一瞬でボールを手元に戻すことも可能だ。
それに、ボールは一つではなく複数持っているので、そちらを使うことも出来るし、状況によっては複数のボールを同時に使うような戦法も可能だろう。
そんな機能があるとはいえ、打ち出すボールの軌道——つまりは狙いの正確さについては、完全にリコちゃんの腕前によるものだ。
それについても、ゾンビ相手なら自分自身があれだけ動き回りつつもほぼ百発百中なので、実戦レベルの評価は確実である。
彼女が選んだスキルは、テニスラケットの扱いのスキルなので、名付けるとしたら……【庭球術】? まあ、要は“テニス殺法”のスキルなわけだが、この戦いの様子を見れば、彼女はこれを完全に使いこなしていると言える。
それについてはやはり、彼女の元からの素質によるものだろう。テニス部員として、テニスの経験があるからこそ……ということだ。
だとすれば、彼女がテニスラケットで戦うという選択を(きっかけは偶然だとしても)したことは、もはや天の采配だったと言っていい。グッジョブだ。
やはり、彼女は選ぶべくしてラケットを選んだのだろう。
「リコ……やる時はやる子だと思ってたけど、まさかこれだけの戦いを出来るなんて……」
もはや呆気に取られるといった感じでリコちゃんの戦いを眺めていた私の隣で、同じような様子だった幽ヶ屋さんが、呆然とそんなことを呟いた。
「いやぁ、私も驚きました。……まるで心配なさそうですね、彼女」
「カガミさん……ええ、そうですね。——元から彼女は、本番に強いタイプではあったんです。テニスに関しても、練習よりも試合の本番で一番実力を発揮する感じの子で……」
「へぇ、そうなんですね」
「確かにリコは、テニスの実力自体も、元からかなりのものでした。一年生にして団体でもレギュラーメンバーでしたし、個人でもかなりいい成績を残してましたから。実際のところ、うちの部のエースと言っていい存在ですよ」
「一年でエースですか、すごいですね」
「ええ。子供の頃からクラブに所属してやってきていたというのもありますけど、彼女、テニスに関しては、メンタル面でもかなり強い部分を持っていました。上級生相手でも実力で真っ向勝負って感じで。そんなメンタルの強さは試合でも発揮されてて、相手が強敵でも上級生でも、臆さずに立ち向かえる強さがあったんです。……なんていうか、リコは……ラケットを持つと人が変わるんです。——うん、そうですね、そんな表現がピッタリきます」
「確かに……そんな感じですね、彼女」
「これまでにも、ここ一番でリコが発揮する爆発力には、私も目を見張るものがありました。……今の状況は、まさにそんな感じなのかも」
どうやらリコちゃんは、ここぞという時に真価を発揮する系の人みたいだ。
私としては、初対面の印象が強かったから、なんかメンタルはよわよわなイメージだったけど、本当の彼女はそうではなかった。
そうか、彼女に足りなかったのは、ラケットだったんだ。赤ん坊におしゃぶり持たせるみたいに、ラケットを持たせたら彼女は完成するわけだ。
完全体となった今の彼女にとっては、ゾンビなんてモノの数ではないというわけか……。
結局、戦いはそんな感じでリコちゃんの独壇場のまま、付近のゾンビが全滅することによって終了した。
結果——リコちゃんは、倒したゾンビの数は前者二人を超えるにも関わらず、倒すのにかかった時間は一番短いという、驚異的なスコアを叩き出していた。
いやいや……つーかさ、マジで、テニス強くね?
まさかの、あの二人を差し置いて、リコちゃんのスコアが一番高いという衝撃の結果。
これには私はもちろん、当の二人も驚きを露わにしている。
総評——いや、あれ、テニスってこんなに強かったっけ? テニスラケットって実はかなり強武器だった……??
……まあ、某RPGのナンバリング10番目にもボールで戦う人とか出てきたけど、あの人も普通にかなり強かったからね。——必殺技使ったらダメージ最強レベルらしいし。
やっぱりスポーツ系は強いってことなのか……?!
いや、マジで、これ超次元テニスの時代が来ますよ、この終末に。
というか戦闘面だけでなく、精神面でも彼女は強い。
ゾンビを倒すことにもまるで躊躇いを見せず、初めての実戦でこれだけの成果を叩き出していることには、純粋に驚かされる。
これはマジで……逸材じゃねーの、リコちゃんさん。