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第130話 神社生まれもすげぇ……



 さて、南雲(なぐも)さんの次に戦いに(いど)むのは、幽ヶ屋(かすがや)さんの番だ。


 一帯のゾンビが南雲さんによって駆逐されてしまったので、私たちはゾンビのいる場所まで移動していく。

 移動しながら、私は幽ヶ屋さんの実力について考える。

 

 さて、南雲さんは文句なしの合格だったけども、幽ヶ屋さんはどうだろう。

 南雲さんと違って、彼女はスキルは普通に弓の扱いのスキル、【弓術】を選択していた。

 彼女は元から高い弓の技術を有していたが、ここは堅実にスキルも習得しておくことにしたようだ。

 

 彼女の使う武器は弓、そして矢だ。弓は銃と同様に遠距離攻撃ができるのが最大の利点と言える武器だが、これも同様に「矢弾に限りがある」というのがその最大の欠点でもある。

 しかし、銃と弓で大きく違う点は、弓は使用した矢を再利用できるという点だ。

 その利点を最大限に活用するために、彼女の武器には事前準備として改造によりいくつかの機能を搭載させている。それは、主に矢を再利用するための機能だ。


 彼女の武器の弓は、セットで矢と矢筒が付いている感じだったのだけど、その矢筒の改造内容に、使用した矢を引き寄せて回収する機能とかいうのがあったので、すでに改造して搭載しておいた。

 回収かどのように行われるのかというと——なんか普通に掃除機で吸い込むみたいに、矢が自分から矢筒の方に飛んでくるって感じ。


 そしてもう一つ、矢を回収する機能として、瞬間移動(アポート)によって回収する機能というのもあったので、これも搭載しておいた。

 これは吸引による回収とは違い、矢の位置に関係なくすべての矢を一瞬で回収できる。

 まあ、発動の際にはMPを消費するので、SP(スタミナ)消費で使える吸引とはその辺も違うのだけど。

 とりあえずこの二つの機能が有れば、彼女の使う矢が尽きることはなかろうということだね。



 私がそんな感じのことを思い返している間に、ゾンビのいる場所に到達した。

 それから、幽ヶ屋さんは配置について、戦闘を始めた。


 幽ヶ屋さんは、腰に付けた矢筒から矢を引き抜くと、弓につがえて、弦を引き絞り、狙い、矢を放った。

 一連の動作は、まるでなんらかの儀式の手順であるかのように堂に入ったもので、一切の遅滞なく一つの型としてまさに完成されていた。

 放たれた矢は当然のようにゾンビの頭部に命中し、対象を一撃で仕留めた。


 それからも彼女は、止まることなく一連の動作を繰り返していく。

 その場から一歩も動くことなく、視界内のゾンビに次々と放たれていく矢は、そのすべてがゾンビの頭部に命中し、一つも外れることはない。

 矢筒の中の矢をすべて使い切ったことで、ようやく彼女の動きは止まった。仕留められたゾンビの数は、使用した矢の本数とまったくの同数であった。


 射撃を終えた幽ヶ屋さんは、矢筒を手に取ると、前方にかざした。

 すると、撃ち放たれてゾンビの頭部に突き刺さっていた矢が次々に引き抜けていく。そして、その勢いのまま宙を飛来すると、彼女の持つ矢筒に収まっていった。


 矢が補充された幽ヶ屋さんは、矢筒を元の位置に戻すと、(ふたた)び射撃を開始した。


 そんな行程を何度か繰り返すと、そう大した時間もかからぬ内に、視界の中のゾンビは全滅していたのだった。

 ……ちなみに、これまでの過程において、彼女がスタミナを使ったのは矢の回収の時のみで、【弓術】のスキルはあるものの、射撃は素の身体能力によって行われていた。


 それからは、ゾンビのいる場所へ学校の周りを回るように移動しながら、幽ヶ屋さんは今度はスタミナを使用しての戦闘を試していった。

 戦闘のスタイルについても変えて、遠距離から射撃するだけでなく、あえてゾンビ達の中にその身を投じて接近戦を演じていく。

 その戦いぶりは、まさに圧巻の一言だった。


 たくさんのゾンビの中を、スタミナ使用によって強化された身体能力でもって、巫女服を(ひるがえ)しながら縦横無尽に駆け巡る。

 そうしながら、これまたスタミナによって威力が強化された矢を放っていく。

 

 高速で移動しながら的確に狙いが付けられていることを示すように、放たれた矢はゾンビの頭部を正確に撃ち抜くのは()()()()、一度の射撃で二体、三体のゾンビを()()()倒していた。

 それはつまり、重なり合った複数の(ゾンビ)を一つの矢で貫くという——いわゆる二体抜き、三体抜きの妙技であった。

 

 彼女は自分自身の動きでもって、意図的にそうやって自分から見るゾンビを一つの線上に重ね合わせて、そのタイミングを逃さず正確な射撃によってその線上に矢を放っているわけだ。

 昼間のゾンビはノロマとはいえ、まったく動かないわけではない。それでもそれだけの芸当をこなせるという事実は、それすなわち彼女の力量の高さを示す証拠に他ならなかった。


 そもそも、ゾンビとの初の実戦でそこまでの動きが出来るというのが、もうね……。

 彼女がこれまでにも何ぞ(妖魔)を相手に実戦の経験があるという話も、この様子を見せられては俄然、信憑性が増すというもの……。


 幽ヶ屋さんはそんな風に、まるで危なげなくゾンビとの戦いを進めていった。

 今度の戦闘においては、戦いの中で折をみて矢を回収していくので、矢が尽きることもない。

 

 結局、彼女が止まった時には、付近のゾンビは全滅していた。


 辺り一帯に満ちていたゾンビの唸り声も消え、訪れた静寂の中——

 幽ヶ屋さんは最後に、瞬間移動(アポート)による矢の回収を、一度は試してみるかとばかりに発動させた。

 使われたすべての矢が光と共に消えると、瞬時に彼女の矢筒に現れた。

 すると、ドサリ——と、壁に矢で縫い付けられていたゾンビが地面に倒れる音が、静かな一帯にやけに大きく響いた。



 幽ヶ屋さんの戦いぶりを見た私は……軽く戦慄していた。

 これが……これが祓い屋の家に生まれた彼女の、その秘められた実力……


 見れば、マナハスやリコちゃんはもちろん、南雲さんも、彼女の活躍にはおおいに感心している様子であった。

 どうやら南雲さんの目から見ても、彼女の戦いぶりは瞠目に値するものだったようだ。


 実際に幽ヶ屋さんの戦う様子は、先ほどのあの南雲さんの戦いぶりと比較しても、まさしくそれに比肩する実力を発揮していたといえるだろう。

 ……いや、むしろ、ここまでくると、この幽ヶ屋さんに匹敵しうる南雲さんの方が、よっぽど異常なのだと思うべきか。

 もはや疑うべくもない幽ヶ屋さんの経歴——それを思えば、南雲さんよりもよっぽど、こちらの彼女の方が異常なのだから……。


 総評——神社生まれってスゴイ……私は改めてそう思いました、まる。


 

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