第127話 コスチューム・チェンジ!(その2)
三人の防具をサクッと作成して、着替えてもらった。
これから三人にはチュートリアルの続きをする為に外に出てもらうことになる。その前に打てる安全策の一つが、防御力アップのための防具の着用というわけだ。
あの襲撃者のこともあるし、プレイヤーとして覚醒したとはいえ体育館の外に出るのは危険が伴う。なので、できる限りのサポートをするのは先達である私の義務みたいなもの。
すでにパーティーを組んでいるのだから三人は仲間だし、貴重な戦力である。ならば、その強化を行うのは当然のことである。
防具の購入や改造の費用はすべて私が出して、彼女達にも私やマナハスが着ている物と同等の性能の装備を拵えた。
服のデザインについては、本人の希望も聞きつつ、私の意見も入れつつで作らせてもらった。
彼女達も聖女の仲間となったからには、それなりの衣装に袖を通してもらわないといけないのでね、こちらからも口を出させてもらった。
その結果として完成した三人のコスチュームを、軽く紹介しておこう。
まずは南雲さん。
彼女の着ている衣装のデザインは、彼女が普段、薙刀の競技をしている時の格好とほぼ同じだ。昨日も見たあの袴のようなやつの上に、頭部以外の各部に防具を取り付けたような格好となっている。
一応、防具の細かい意匠などにはそれなりに手を加えてはいるが、正直かなり地味というか……私たちに比べると普通の格好って感じだ。
私としては、昔の武士が着てた甲冑とか鎧武者的な衣装も推してみたのだけど、着慣れたこれがいいと言われたので、すごすごと引き下がった感じ。——そこで南雲さん相手にもう一押しする勇気は、私には無かった……。
では次、幽ヶ屋さん。
幽ヶ屋さんの衣装の見た目は、いわゆる“巫女服”といった感じだ。神社にいる巫女さんが着てるやつ。あの赤い、緋袴っての?
アレに少し手を加えて、少しばかり豪勢に改造した一品というところ。
着せてみて分かったんだけど、この幽ヶ屋さんて人、めちゃくちゃ和装が似合う。
神社の娘というし、普段から着慣れているのかも知れないけど、着方がとても様になっているし。
というか、とにかく本人の雰囲気と絶妙にマッチしている。和風美人というか大和撫子というか、そんな感じの人だからね。
この衣装を着た上で、さらに弓まで持った日には、もうこれ完全に『犬夜叉』の「桔梗」だわ。——霊能力も持ってるし、まんまそれだろこの人。
まあ、幽ヶ屋さん本人は、巫女服よりも弓道着的なやつの方が(まだ)いいみたいな意見だったけど、そこは私が巫女服を推して、そして押し切った。
確かに弓道着も似合うだろうし悪くなさそうだけど、やっぱキャラ的にどっちといえば巫女服でしょ、この人は。
さて、それでは最後の大トリ、リコちゃんですよ。
彼女の衣装が何になったかと言えば……そりゃあ当然、“テニスウェア”だ。いや、むしろ他に何を着るというのか。
ちゃんと頭部につけるサンバイザー的なのや、リストバンド的な小物アイテムについても揃ってるよ。
前の二人が和装ときて、いきなり洋装というかテニスウェアだから、二人に混ざるとすごい浮いてしまっている感が否めないけど……そこはまあ、仕方ないね。ただ、リコちゃん自身はテニスウェアめっちゃ似合ってる。
当の本人は——なんでウェアが防具になるのっ! 意味わかんないっ!——と最初は反発してたけど、とりあえず着替えさせてから、「すごい似合ってる」とか「可愛い、最高」とか褒め言葉を連発してたら、その内満更でもなさそうな感じになって最終的には乗り気になってたので……うん、上手くいってよかった。
というわけで、着替えも済んだ三人を連れて、私とマナハスを含めた五人で体育館より外へ出る。(マユリちゃんは、越前さんの元へ戻ってもらった)
体育館を守る戦力については、藤川さんと越前さんを残していくので大丈夫だろう。——「守護君」によるシールドもあるし。
避難所の今後の運営に関しては、会長さんに一任しておく。ひとまずの危機は去ったと考えるならば、早くも今後の事にも目を向けておかなければならない。なので会長さんには、その辺の諸々にも取り掛かってもらう。
すでに会長さん本人もそのつもりみたいだったので、お任せする。会長さんなら、なんかいい感じにしてくれるだろうと思う。
私としても、この避難所の今後のことについてはそれなりに考えている。とりあえず私に出来そうなところで、色々と協力しようとも思ってる。まあ、その辺は私というより、カノさんが色々探してくれてるんだけど。
とはいえ、カノさんは文字通りの“ブレイン”なので、実際の手足として動いてもらうために、藤川さんと越前さんの二人には協力してもらう必要がありそうだけど。
まあ何もせずに体育館にいるだけなのもヒマだろうし、他に特にするべき事もないから、二人の協力に関しては問題ないだろう。
……それに、藤川さんに関しては、今はそうやって何かしらに手を動かしていた方が良さそうだし。
というのも、なんていうか、藤川さんは先ほどの襲撃者の件に責任を感じて落ち込んでいる様子だったから。
私に頼まれてすぐに「守護君」を設置できていたなら、あの襲撃も防げたのではないか——と、彼女はそんな風に自分を責めていた。
結果的には、そんなに大した被害は無かったとはいえ、それはあくまで結果論だし……。ただ、そんな事をいうなら、あんなわけの分からんのがいきなり襲ってくるなんて分かるわけないし、藤川さんの設置が間に合わなかったなんて、それこそ結果論でしかないのだけど。
こうなってはむしろ、私の頼んだタイミングが悪かったとも言えるなぁ。——まあ、あるいはベストなタイミングだったのかもしれないけど。でも結局、間に合わなかったわけだし……。
ま、藤川さんに関しては、また後からちゃんとフォローしておくとしよう。
さて、それでは外にやって来ましたよ。
外といっても、我々が今居るのは、学校の敷地内——グラウンドだ。
とりあえず、ここでスタミナの操作のチュートリアルを終わらせて、体の動きも慣らしたところで、戦闘のチュートリアルに進もうと思う。
三人には早速、スタミナの使い方を練習してもらった。
スタミナを使用して身体能力を向上させる“身体強化”と、スタミナを使って武器を強化する“武装強化”、身につけるのは主にこの二つのやり方についてだ。
とはいえ、これのやり方を私から教えようにも、とても感覚的な話で言語化できるものではないので、結局は各人に自力で習得してもらうしかない感じなのだけど。
……しかし結果的には、心配する必要は全然なかった。というのも、三人はあっさりとこの二つを習得してしまったからだ。
“武装強化”についてはそんな難しくないので分かるのだけど、“身体強化”まで普通に使いこなしているのには、私もかなり驚いた。
だってこれについては、私のパーティーでは私以外はまだ誰も使いこなせてないくらいだし。だけど三人は、ごく短時間の練習であっさりと使いこなせるようになっていた。
元々運動系の部活の人らだし、運動神経は良さそうな印象ではあったけど、まさかこれほどとはね。
幽ヶ屋さんは元からのプレイヤーで運動神経も良さそうだし、南雲さんについてはまあ、ね……って感じで分かるんだけど、リコちゃんも二人と同レベルだった時には、さすがにマジかよって思った。
ふーむ、根性だけじゃなくて実際に素質の高いところを見せられたら、俄然、リコちゃんを選んで正解だったという気がしてくる。
三人がそんな感じにやっている間、それを見ながら私も色々とやっていた。
まずは新しいスキルのインストールだ。実はこれについては、体育館にいる間から、ずっと裏で進めていた。
スキルのインストールは、【並列思考】みたいなよっぽど特殊なスキルでもない限り、そこまで負荷があるわけでもないので、普通に会話をしているだけとかなら、その裏でインストールを進めることも不可能ではないのだ。
なので、カノさんがピックアップしたスキルを、すでに色々とインストール済みだ。
そのスキルのラインナップについては、基本的に戦闘に使えるモノを選出してもらっている。
先の襲撃者の件を受けて、私の実力不足が浮き彫りになった。やっぱりもっと強化しないといけない。ってことで、戦闘用スキルをバンバンインストールして強化するのである。
まあ、スキルを入れただけですぐに使いこなせるわけでもないので、まずは私も練習しないとなんだけど。
外に出たので存分に色々と試せる。私が外に出てきたのはそのためでもある。
三人のチュートリアルが終わったら、私もスキルの調整をしないとだね。




