第126話 これがアタシの、覚悟の証よ……!
「さて……それではお三方は、これから自分の使う武器を選んで下さい」
というわけで、南雲さんとリコちゃんが契約使徒として覚醒して、これにて役者も揃ったことなので、三人のチュートリアルを進めていこう。
まず最初は、武器の選択だ。
「武器、か……私の使い慣れた得物といえば、やはり薙刀かな」
南雲さんはやはり、薙刀を選ぶようだ。
薙刀については昨日私が買ったものがあるので、南雲さんが薙刀を選ぶならそれを渡せばいい。
なので、チュートリアルで獲得する武器については別のものを選んでもらうことにした。
「使い慣れた武器といえば、私にも一つありますから、それにしようと思います」
驚くことに、幽ヶ屋さんはそう言うと、特に迷うことなく武器を選択した。
彼女が言う、その使い慣れた武器とは——弓だった。
なんでも彼女は、実家の方針で幼い頃から弓を習っていたらしい。なんか和弓という種類のやつ?
その腕前はかなりのものらしく、聞けば、高校に入ってすぐに体験入部で弓道部で弓を射た際には、すごい記録を叩き出したとか。
そうなると当然、彼女は弓道部から熱心な勧誘を受けることになったのだが、学校の部活でまで弓をやる気はなかったらしく、テニス部に入ったんだとか。
なんでも彼女が弓を習っていたのは、悪霊や妖物の類いに対抗する手段としてらしく、聞けば、実際に今までにも実践(あるいは実戦)で使用したことも幾度も経験済みとか、なんとか……
いや……実戦で使ったことあるとか、南雲さんですら驚くレベルだよ。マジでこの人も相当な傑物じゃん。
……つーかその妖魔対戦的な話、もう少し詳しく聞きたいんだけど。こんな事態になる前から色々と経験済みとか、なんなんすかそれ、ほんとビックリなんだけど。
という感じで、二人の武器についてはあっさりと決定した。
すると、未だに悩んでいるのは一人だけとなる。
まあ、普通ならそうなるはずなんだけどね。普通の人はなんらかの武器を扱った経験なんて皆無だろうから、迷うのが当たり前な反応だ。
何となく思うのだけど、このチームって他の二人がだいぶ特殊だから、中でリコちゃんが一人だけ色々と浮いてしまう結果になってしまいそうな気がする。
そうなると彼女は大変そうだけど、彼女が自分で選んだ道なのだから、なんとか食らいついて欲しい。
まあ、何かあれば、私も同じ一般人出身として色々とサポートしてあげよう。
——まあ、幽ヶ屋さんや南雲さんに比べたら、まだ一般人と言えるレベルよね。
いやいや、十分に一般人だから私は。私の実家は普通の一般家庭だし。武術の道場だったり、表向きは神社で実は祓い屋やってますみたいな特殊なやつじゃないし。
「う〜〜ん、どれがいいのかなぁ〜…………アレ? なんでこれがここに? ——って、アッ!! ウソッ、なんか選んじゃった!!?」
私が改めて二人の特殊性について思いを巡らせていたら、突然、リコちゃんが何やら騒ぎ出した。
「り、リコ? どうしたの……?」
「ぶ、部長ぉ! あ、アタシ、なんか変なの選んじゃったかも……っ!」
「えぇ? 変なのって、何?」
「あ、いやぁ、変なのっていうか……」
「……?」
なんだかリコちゃんはやらかしたみたいだけど、質問しても何を選んだのか、どうも要領を得ない返事を返すばかりだった。
しかし、選んでしまったのはしょうがないので、とりあえず次のステップの、武器を“装備”して“呼び出し”するのをやってもらう。
最初にすんなりとこなしたのは幽ヶ屋さんだった。特にまごつくこともなくあっさりと成功させて、弓を手元に呼び出した。
見たところ、ウィンドウの操作とかに関しても戸惑う様子も無いし、初めから手慣れている。
——やはり、最初から選ばれたプレイヤーというのは、その辺が得意な傾向がある……?
次に成功させたのは南雲さんだった。
南雲さんの薙刀については私が渡したものだけど、ちゃんと装備して呼び出すところも試してもらった。
彼女はすでに私が取り出すところも間近で見たことあったし、その分イメージしやすかったのか、それほど手こずることなく成功した。
では最後、リコちゃんだが……
彼女もなんやかんや、わりと早くに成功させることができた。
そして、彼女の呼び出した武器は——
「り、リコ、それって……!」
なかなかに様になった持ち方により、彼女の手に握られていたのは……
——持ち手の先に、楕円状のネットのついた部分のある物体——
はい、これはどうみても「テニスラケット」です本当にありがとうございます。
「り、リコ、あなたっ、な、何を考えているの……??」
幽ヶ屋さんは、まるで——リコ、恐ろしい子……!——と言った反応で、まさに戦慄していた。
「ち、違うんですっ部長! だ、だってなんか、色々見てたらその中にラケットがあったから、思わず反応しちゃったら、なんか選んじゃってたみたいで……だ、だから、わざとじゃないんですっ!!」
「…………か、カガミさん、どうしましょう、コレ……」
そっか、リコちゃんってテニス部だったもんね。
確かに、そう考えれば、彼女にも扱い慣れた武器があったわけだ…………www
——ちょ、わ、笑うなし……ww
いやカノさんだって笑ってんじゃん……ん、んんんんんwww
テニスラケットってwwおまwwwやめちくりwwww
それでゾンビと戦うのかっ、——スマッシュ! とか言ってテニスボールをゾンビの頭に撃ち込むんですかっ……!? んんんんんッ……ww(悶絶)
表情筋が……耐えろ、私……ダメだ……笑うな……堪えるんだ……ンンンンン……www
ふと、チラリと南雲さんやマユリちゃんの方を見てみれば、二人はそろって——なん、だと……?! といった表情でリコちゃんのことを見ていた。…………んんんww
『“…………ぶ、ふふふふふはははははテニスラケットッwwwwおおおおwww”』
さらにはマナハスが追い討ちをかけるように、わざわざそんな念話を飛ばしてくる。
見ればマナハスは、さっきまで読んでいた“魔導書”で顔を隠すと、小刻みに体を震わせていた。
コイツ……! さっきから自分は発言せずに本読んでたから目立たないと思って、この……!
そのくせ、そのままじゃ吹き出しそうだからって、わさわざ私に念話を飛ばしてきやがったな……!
私は俯いて帽子で顔を隠し、いかにも——どうしようか思い悩んでいますよ、という風を取り繕い、笑いで体が震えるのをなんとか耐えていた。
……つーかよー、そもそもなんでテニスラケットが武器の候補の中にあるわけぇ?
そこにあるってことは、武器としてちゃんと使えるからってことなんだろうなぁ?
リコちゃんもさぁ、なんでわざわざそんなのを選ぶわけぇ……?
いきなりこんな……人のこと窮地に立たせてさぁ、そういうの良くないと思う……んんっww
くそっ、自分で言っててなんかもう笑いそうになるっ……!
……あー、もーいいわ、もー分かった。
別に、新しく他の選べるし——なーんて思ってたけど、やっぱりそんなことはさせねぇ!
リコちゃんにはそのテニスラケットで戦ってもらう!
確かにテニス部員が使う武器なんて、ラケットしかあるめぇよ!
大丈夫! たぶん使いこなしてきたら、分身したり打球を分裂させたり五感を奪ったりとか出来るようになるはずだっ!
——どこの超次元テニスなのよ……。
……いつの日か、私に言わせてくれよな……。「デカすぎんだろ……」ってさ。
——……ちょっと、それは……く、ふ……ww
私はようやく表情を引き締めることに成功したので、顔を上げるとリコちゃんの方を向いた。
「……なるほど、それがあなたの覚悟の証なんだね、リコ……。それなら、もう私からは何も言わない。その使い慣れた武器で、存分に腕を振るうといい。大丈夫、それも武器の候補にあったんだから、立派な武器だよ。ちゃんと戦えるはず……! あなたのテニス殺法、しかと見届けさせてもらうよ、リコ……!」
「……なっ、……ふ、ふんっ、やってやろうじゃないの!」
『“いや使い慣れた武器てwwテニス殺法とはwwwてか本人もやる気wwww”』
「……それじゃ、次はスキルをインストールして……あ、その前に防具も作っておきましょうか。——安全性を高めるためにも、今から作っておいた方がいいですよね」
リコちゃん、なんとなくだけれど、きっとあなたなら、このパーティーにも食らいついていけると思う。
さて、それじゃコスも先に作っとこうね。
それぞれのデザインは……まあ、なんとなくモチーフは浮かんでるからね。そう時間はかからないさ。
……んで、おい、聖女、こら。お前はいつまで笑ってんだよ……!




