第121話 癒しの聖女(物理含む)のお時間です
謎の襲撃者は逃亡した。
私はもう一度、周囲を見渡して、さらにはマップも表示して異常が見当たらないことを確認すると、刀を鞘に収めた。
それから、天井の穴に飛び込む。
ヒュウ、と空中を落下して、ダンッ——と大きな音を立てて私は着地した。
むろん、この程度の落下で足が痺れることすらなく、私は着地で沈んだ体をすぐに起こす。
さて……ええっと、とりあえず、まずはどうするか。
——今すぐに、「守護君」をここに設置して起動するべきでしょうね。ああでも、まずは天井の穴を塞がないとかしら? とはいえ、どうやって塞いだものかしらね。
うーん……魔法でどうにか出来ないだろうか?
——……まあ、真奈羽に聞いてみましょう。
うん。
ああ、カノさん、周囲の警戒お願いね。……てかアイツって、マップに映ってた?
——もちろん分かってるわ。……いいえ、映っていなかったわね。ここに来るまではもちろん、目の前にいる時にもマップは反応してなかったわ。
……まあ、アイツについて考えるのは後だ。
ああ、それとさ、マップを見ながらでいいから、スキルについても調べておいてよ。今、必要なスキルをね。
——まあ、すでにいくつかピックアップしてるけど。
すぐにインストールする必要があるね。まあ、「守護君」の設置が先なんだけど。……これって、穴が空いてる建物でもいけるのかね?
——……どうだろう、厳しいかも……。
……聖女様〜!
私はマナハスの元へ行くと、縋るような眼差しで尋ねてみる。
「マナハス……あの天井をさ、魔法で直したりとか、出来ないかな〜……?」
「…………いや、やってみないと、分んねぇけど……」
「だよねぇ無理だよねぇ……って、——え? 今、なんて……?」
「いや、まあ、だから、試してみないと何とも言えないけど」
「……マジ、出来んの?」
「まあ、その可能性はある、かな」
「マジかよ……魔法スゲェ……?」
「いや、てかさ、今、まずやることって、天井の修理でいいのか……?」
「そうだね。それから、『守護君』——つまりはシールド装置の設置かな。それが急務だね。それが出来たら、少なくとも、また突然に変なのがこの中に入ってくることはないから」
「ああ、なるほど……んじゃ早速、天井直せるか試してみるわ。——あ、それとカガミン、アンタ、その、怪我は大丈夫……?」
「ああ、平気だよ。HP削られただけで、体は無傷だから。……やっぱ、このジョブで正解だったかもね」
「そう、それならよかった。怪我したならちゃんと言えよ。回復魔法使ってやるから」
「えっ、マジ? やっぱそういう系の魔法もあったんだ?」
「ああ。……そうだな、とりあえず先にアンタに試してみていい? 今もまだちょっとHP減ってるじゃん」
「減ってるけど……これも回復できるの? そんなら嬉しいね。アイテムの節約になるし」
「まず気にするのそこかよ……んじゃ、天井の前にまずそっちを試すぜ?」
「うん。……ん、天井の前に……?」
「いや、どうも、HP回復させる魔法と、壊れた物を直す魔法っておんなじっぽいんだよね」
「え、マジ?」
「怪我を治すのは別っぽいんだけど」
「ふーん……なんとなく、分かるような分からないような」
「んじゃ、いくぞ」
「あ、はい、どーぞ」
すると、マナハスは左手に本を取り出した。
これは——『魔法使い』ジョブの専用アイテムである「魔導書」的なヤツか。
マナハスが左手に魔導書、右手に杖を持って集中する。
すると魔導書のページが勝手に捲られていき、いくつかの部分でしばらく止まると、再び動き出していく。
それが止まると、今度は杖の先に反応があり、そこから淡く緑色に輝く光の球が発生した。
そして、その光の球に照らされた私——のHPは、確かに、徐々に回復していくのであった。
さらにマナハスは、その光を今度は床に散らばる天井の破片に向けた。
すると、光を浴びた破片が光に集まるように動き出す。しかも、そうして集まりながら周りの破片と合体していき、どんどんと大きな塊に直っていった。
そうして、あらかたの破片を集め終わった時には、けっこう原型を取り戻して、「天井の一部」と言えるまでに修復された物体が完成していた。
いや……マジかよ、直ってんじゃん。
ま、魔法……しゅごい……いや、マジで、しゅごすぎぃ……!?
いや、てかさ、コレ……?
「お、やっぱり出来たな。……おおぉ、直ってるし。いや、自分でやってみたけど、マジかこれ、スゲーな」
「マナハス……」
「おい見ろよ、ちゃんと直ってるぞ。どうよこれ?」
「いや、すごい。マジで凄い。いや、本当に凄いと思う……」
「だよな? ——あー、そうだな、んじゃ、次はこれを、いったん上まで持ち上げないとダメかなー……?」
「凄い、けど、けどさ……」
「ん? 何だよ」
「いや、これ……アレは?」
「アレ?」
「……呪文の詠唱は? 中二ワードは? 唱えてないけど……?!」
「なんだ、そのことかよ……。ふっ、詠唱な、別に必要無いみたいだわ。そういうの唱える系じゃなくて、普通に頭の中で色々と構築する系だったわ、これ。中二詠唱は要らない魔法なんだよ」
「……でも、唱えながらでも出来るよね?」
「いや必要ないって言ってんだろ。なんでわざわざ無駄にそんなん唱えないといけないんだよ」
「うぅぅんんん……! だったらせめて、魔法の名前はちゃんと考えようね!」
「それは別にいいけど……? 変な名前じゃなけりゃな。——んじゃ、これ、いったん上まで持ち上げないとなんだけど」
「出来そう……?」
「まあ、普通に念力で届きそうではあるな」
「先に自分が上に上がって、それから引き上げた方が良さそうじゃない?」
「そうだね、そうするか」
「上に上がるのは、自分で出来る……?」
「うーん……出来なくはないかもだが」
「私が抱えて跳んでもいいけど」
「さっきやったみたいにか? ……いや、自分でやってみるわ」
「そう。それなら私は先に上がって待ってるから」
「おう。……気をつけろよ」
私がまた天井の穴の下に来たところで、藤川さんが私の元へとやって来た。
「あの、火神さん……」
「藤川さん。怪我は無い? 大丈夫?」
「わ、私は大丈夫です……」
「そう、それならよかった」
「あの、か、火神さんの方こそ、大丈夫ですか……?」
「うん、私は平気。だから心配しないで大丈夫だからね」
「……本当に、平気なんですか……?」
「うん、私はね。でも、この場所——というか、今の状況に関しては結構ヤバいね。とりあえず、サッサと例の装置を設置しないといけないんだけど、その前に、まずは天井の穴を塞げるか試してみるから……その間は、藤川さんと越前さんにここを任せていい? 私たちも天井を塞いだらすくに戻るけどね」
「え、あ、えと……」
「お願いして、いいかな……?」
「あ、はい……分かりました」
「うん、それじゃ、頼むね。——ああ、そうだ、例の装置は私が設置しちゃうから、渡してもらっていい?」
「あ、はい、どうぞ……」
ウィンドウを操作して、装置を私のアイテム欄に転送する。
それが終わり次第すぐに、私は再び体育館の屋根の上まで飛び上がった。
刀を抜いて周囲を警戒していると、マナハスが下から上がってきた。
マナハスは修復した屋根(の一部)の上に乗って、屋根ごと念力で浮かせて上までやってきた。
そうして屋根(の一部)を浮かせたまま、その屋根(の一部)から降りて体育館の屋根の上まで移動すると、浮かせていた屋根(の一部)を縦にすることで穴を通すと、屋根の上に屋根(の一部)を置いて、それからようやく集中を解いて息を吐いたのだった。
——いや屋根屋根うるさいわね。
だって、しょうがないじゃない?
——まあ……そうだけど。
「さあて、それじゃこれは……こうかな? いや、こっちか?」
そんなことを言いながら、マナハスは屋根を適切な向きに配置する。
それから、さっき使った回復魔法を再び発動させる。
すると、屋根の一部は周囲の屋根と繋がるように動いていき、ほとんど完璧に元通りに直ってしまった。
「うん、なんとかなったな」
「……魔法の力って、スゲー」
私は改めて魔法の凄さを実感しつつも、屋根も直ったのでサッサと体育館の中に戻る……前に、先にコイツをやっておこう——。
それから、私たちは体育館の屋根の上から降りると、普通に入り口から中に戻る。
入り口には鍵が掛かっていたが、通信を使って藤川さん経由で中野くんを呼び出して中から開けてもらった。
私たちが屋根に登ってからのことを軽く二人に確認して、それから内部の広間へ繋がる扉の前へ。
さて、突然の乱入によって予定が狂ったけど……いや、むしろこの流れを利用できるか?
そうだ、混乱を利用してやるか……もはや私の得意技になりつつあるな、これ。
ともかく、当初の予定を完遂しよう。
体育館を、掌握だ。